十字路の恋   作:エタロリ

2 / 6
第1話 幼馴染十字会

 俺の好きな人は、左隣に住んでる”左榎(さえの)優花”さん。

 

 陽姉より長い黒髪のストレートヘアで、必ず右側の前髪を耳の上にかけるか、ヘアピンで止めている。

 なんの影響か分からないが、本人はクールキャラを演じている。

 

 幼馴染の俺達からしたらクールぶってる子犬系にしか見えない。

 なぜなら、小さい頃は陽姉や俺、悟、下の階に住んでる明のいづれかの傍に寄ってきては、見ない尻尾をブンブン振っていた。

 

 そもそも俺達自体がよく一緒にいるから、実際は誰に尻尾を振っていたか分からないんだけど。

 

 

 左隣の玄関が開く。

 「朝から廊下が騒がしいと思ったら、もう集まってたのね」

 

 玄関の陰から優花が顔を出す。

 

 「おはよう、優花。まだ時間あるしゆっくりでいいぞ。明もまだだし」

 「直央兄さんも、でしょう?」

 

 「お、おう」

 「まぁいいわ、着替えてくるから待ってなさい」

 

 「おう、ゆっくりでいいぞ」

 

 ゆっくりと玄関が閉まる。

 

 「相変わらずね、優ちゃんは」

 「だな、俺らの事なんて一切目に入ってない」

 

 「ですね、ずっと真央先輩の方見てました」

 「目を見て話すのはいいことだろ?」

 

 「「「「はぁ……」」」」

 その場にいた俺以外の4人が同時にため息をついた。

 

 「まーくん鈍感すぎ」

 「真央は鈍感だからな」

 「真央先輩は鈍感ですね」

 「真央にいの鈍感」

 

 「え? え? どういうこと?」

 

 困惑していると後方の階段から駆け上がってくる音が聞こえる。

 

 振り返ると、丁度階段を駆け上がってきた明が立っていた。

 

 「おはようさん、幼馴染十字会の諸君」

 「おはよう、あっきー」

 「「おーっす、明」」

 「明先輩おはようございます」

 「下月先輩、お、おはようございます」

 

 詩央だけ顔を赤く染めている。

 実はここだけの話、俺の妹詩央は明に好意を寄せている。

 ゲーム好きに染まった俺達幼馴染十字会のメンバーは、小学生の頃からお互いの家に集まってゲームをしていた。

 

 その中でも、うちの兄貴と明は特にゲームが上手い。

 大人気格闘ゲーム”スマッシュブレイク”、略してスマブレは兄貴と明の二大巨頭である。

 

 明は他にもふよふよ等のパズルゲームも得意で、同じくパズルが好きな詩央はよく教えてもらったり、時には対戦したりしているようだ。

 

 「おや、まだ直央さんと左榎さんが来てないのか」

 「兄貴は知らん、優花は今準備中」

 

 「まーくん、しーちゃん、私が上がって起こしてきてもいい? このままだと起きてこない気がするし」

 「うん、陽歌ちゃんならいいよ」

 「兄貴がいつもごめんな、陽姉」

 

 「いいのいいの、私が好きでやってる事だし。それじゃあお邪魔しま〜す」

 陽姉が俺の家に入って行った。

 「なーくーん! もう朝だよ起きてー」

 

 「おい真央。なんで陽姉を行かせるんだ」

 悟が俺の両肩を掴む。

 

 「だっていつもそうだし、てか知ってるだろ」

 「そうだとしても、もう少し俺に協力してくれよ」

 

 「協力って言っても、気持ちは知られてるんだからさ」

 「だとしても陽姉は直央にいの事好きなんだから、お前が協力してくれなきゃ!」

 

 「この後学校なんだし協力なんて無理だろ。俺は俺で振り向かせるのに必死なんだから」

 その時、後ろから耳元で囁く声が聞こえた。

 

 「誰が誰を振り向かせるって?」

 「うおっ!、びっくりした。普通に声掛けてくれよ」

 振り向くとそこには優花がクスクスと笑っていた。

 

 あまりの不意打ちに心臓をバクバクさせた。

 

 ち、巷で噂のAMSRってこういう感じなのか?!

 急にこんな事されたら、落ちちゃうって!

 いや既に落ちてるけども!

 電話とはまた違った刺激が癖になりそう。

 

 「それで真央君は誰を振り向かせたいの? 協力してあげるわ」

 優花は腕を組んで、こちらを睨みつけてくる。

 

 「だ、大丈夫。俺自身が頑張らないと、コイツみたいにフラれる事になるから」

 そう言いながら、俺は親指で後ろに居る悟を指差す。

 

 「どう意味だコラ!」

 「ちょっ、やめろって」

 悟に構われていると、俺の家の玄関が開いた。

 

 「おう、おめーら待たせたな」

 「ようやく起きたか兄貴」

 「直央にい、おはよ」

 「おはようございます、直央先輩」

 「直央さん、おはようございます」

 「直央兄さんおはようございます」

 「…………」

 悟は兄貴に挨拶せず、外を眺めていた。

 ライバル視している所以だろう。

 

 「陽姉、ありがとう」

 「ううん、なーくんは朝弱いから誰か起こしてあげないと」

 

 「直央にいは朝が弱いんじゃなくて、遅くまでゲームやってて起きないだけだから」

 「そうさ、昨日の夜俺と直央さんは夜遅くまで一緒にゲームをしていたのだ!」

 明は眼鏡を人差し指でクイッと上げると、ドヤ顔で威張った。

 

 「兄貴は寝過ごしそうだったのに、明はよく起きられたな」

 明が腰に手を当て、フフンと鼻高々にしていると空腹の音が聞こえた。

 

 「……明、朝ごはんは?」

 「俺が起きたのは10分前だ!」

 

 なぜ威張る……。

 

 すると俺の後ろから手が伸びてきた。

 「あ、あの下月先輩。良かったらこれ食べてください。行儀悪いかもしれませんが」

 詩央が伸ばした手にはホットドッグが握られていた。

 

 いつの間に……。

 

 「ほう、これは美味しそうだ」

 明が詩央から受け取ったホットドッグをパクッと一口。

 「この焼き加減、味付け……詩央ちゃんが焼いてくれたのやつか」

 「おぉ、よくわかるな」

 

 「もちろんわかるぞ、真央はいつもソーセージにマスタードかけるし、なんなら少し焦がすからな。だが、詩央ちゃんのは焦げはなく味付けは塩コショウ、シャキシャキの一枚葉のキャベツに包まれている。見た目だけで既に詩央ちゃんの手作りだとわかるさ……うむ、ごちそうさま」

 「お、お粗末さまです」

 

 詩央はホットドッグを包んでいたビニールを受け取ると、家の中に駆け込む。

 その後ろ姿はなんだか嬉しそうだった。

 

 「さて、そろそろ時間だし、詩央が出てきたら行こうか」

 

 

 

 俺達はそれぞれ別の学校に通っている。

 俺と優花は北、悟と陽姉、兄貴は東、明は西、詩央と瞳ちゃんは南と綺麗に分かれた。

 

 去年は陽姉と兄貴だけが高校だったから、中学校の前まで2人が付き添ってくれていたが、今年から妹達を見送る形になると思ったんだが……。

 

 「わざわざ中学校通り過ぎて、こんな大通りまで来なくて良かったんだぞ?」

 「まだ言ってるの?真央にいは、こっちの方から来る友達も居るし、瞳も居るから大丈夫だよ」

 

 「そうですよ真央先輩、せっかく途中まで皆さん一緒なんですから、中学校通り過ぎても分かれるまで居ますよ」

 「まぁ2人がそれでいいならいいが」

 

 「それを言ったら俺は本来こっち来るのは少し遠回りなんだぞ」

 俺の前を歩く明が首だけをこっち向ける。

 

 「それでも着いて来てるのは明だぞ」

 「うぐ……痛いところ突いてくるな十塚真央」

 

 「まぁ俺だってお前ら幼馴染と一緒に居る方が良いって事だ」

 「なら、なんで誰も行ってない高校に?」

 

 「プライベートと学業は別だからだ。俺には真央の高校も悟の高校もレベルが高すぎる」

 「それはお前がバカなだけでは」

 

 「なんだと!?」

 

 そうこうしてるうちに、大通りに辿り着いた。

 

 「じゃあ俺はバスの時間が近いからもう行くわ」

 明が俺達に手を一振上げると、そのまま左に曲がり駆け出して行った。

 

 「おう、じゃあな」

 

 「さて、俺達も電車の時間が近付いている、急ぐぞ陽歌、悟」

 「はーい」

 「……ちっ、またな真央」

 「おう、またな」

 

 兄貴、陽姉、悟は信号を渡って右へ。

 

 「それじゃあ私達も行くわよ、真央君」

 「あ、あぁ。じゃあ詩央と瞳ちゃんも戻る時気を付けて」

 

 「はい、行ってらっしゃい真央先輩、優花先輩」

 「じゃあねぇ、真央にい、優花ちゃん」

 

 詩央と瞳ちゃんは俺達に手を振ると来た道を戻って行った。

 

 残った俺達はまっすぐのため、信号で待っていた。

 

 

 

 この信号が俺達幼馴染十字会の分かれる場所であり、集まる場所であり、お互いが出会う場所だ。

 

 俺達の十字型の恋路は始まったばかりである。




 今日のろじ裏

 私、左榎優花の朝は決まっている。

 朝は詩央ちゃんに協力してもらって作った、真央君起床アラームで目を覚ます。
『おーい、朝だぞー起きないと遅刻するぞー。おーい、朝だ』

 アラームを止め、洗面台で顔を洗う。
 「よし!」

 次に朝食を用意し、何も音が聞こえない静かな自室で食べる。
 そうすると食べ終わった頃、必ず小さなチャイムの音が聞こえた。

 この音はうちのチャイムではなく、隣の十塚真央君の家のチャイムだ。

 急いで玄関に向かい、耳を当てて聞き耳を立てる。

『おはようございます、真央先輩』
『おーっす』
 隣のチャイムを鳴らしたのはやはり右川兄妹だった。

 私は寝室に戻り制服を用意する、ただしまだ着替えない。
 あえて寝巻きのまま皆の前に顔を出すことで、真央君と少しでも会話する。

 しばらく玄関で聞き耳を立てていると、隣の玄関が開く音が聞こえた。

 意を決して、玄関のドアノブに手を掛けた瞬間、すぐ目の前にある階段を駆け下りてくる音が聞こえる。
 「陽歌ちゃんかな?」

 私は立ち上がりドアスコープを覗くと、丁度目の前を大きな山が揺れながら通り過ぎていくのが見えた。

 「あの胸はやっぱり陽歌ちゃんね」
 私は視線を落とし、無駄に大きく育った自分の胸を持ち上げる。

 中学一年生の頃、たまたま聞いてしまった真央君の好み。
 それは陽歌ちゃんのようにスタイルがよく、胸が大きい人。

 小学生の頃から真央君の事が好きな私は、これを機に私は豆乳を飲み始めた。
 さらに豆乳以外の方法も同時に試した結果、想像以上に効果が出てしまい、陽歌ちゃんのEカップを余裕で突破して現在Iカップ。

 大きすぎて逆に嫌われないか心配になった私は、男装でも使われる胸板を使って貧乳に見えるようにしている。

 私はこの胸を使わずに彼を振り向かせたいから、私は今日も彼の前に立つの―――!

 私は玄関をゆっくりと開け、胸が見えないように頭だけを出す。
 「朝から廊下が騒がしいと思ったら、もう集まってたのね」
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。