ウマ娘×鋼の錬金術師   作:パラケル

1 / 13
プロローグ

「……で? 呼び出しておいて黙りかよ、大佐」

 

金色の三つ編みを揺らし、赤いコートを羽織った小柄な少年――エドワード・エルリックは机越しに座る男を睨みつけた。

腕を組み、苛立ちを隠そうともしない。

 

「兄さん、落ち着いて……」

 

巨大な鎧の身体に魂を宿した弟、アルフォンス・エルリックが宥めるように声を掛ける。

だが、この部屋を覆う重苦しい空気を和らげるには足りなかった。

 

男――ロイ・マスタングは黙したまま、背後の壁に貼られた地図へ視線を向けていた。

窓から射し込む陽光がその顔を半ば影に沈めている。

 

「黙ってりゃ済む話じゃねぇだろ」

 

エドワードの声が響く。

張り詰めた沈黙の中、時計の針だけが規則正しい音を刻んでいた。

 

ようやくマスタングが口を開いた。

 

「頼みがある、鋼の」

 

「……頼みねぇ」

 

エドワードは眉を跳ね上げる。

 

「大佐が殊勝なこと言うなんて、どうせ碌でもねぇ話だろ」

 

皮肉を飛ばすエドを無視し、マスタングは低い声で続けた。

 

「“ケーオス・ハーヴェル”――元国家錬金術師だ」

 

机上に置かれた一枚の登録証。

写真に映るのは切れ長の瞳、冷たい笑みを浮かべる青年。

だがその眼差しの奥には狂気の色が潜んでいた。

 

「二つ名は“混沌の錬金術師”。魂の錬成に執着し、軍部が禁忌としていた研究に踏み込んだ」

 

マスタングの声には、珍しく重みがあった。

 

「奴は資格剥奪が決まる前に研究資料を持ち出し、姿を消した。噂では……賢者の石にすら手を伸ばしていたらしい」

 

「…賢者の石だと?」

 

エドワードとアルフォンスの瞳が揺れる。

彼らは賢者の石に関する研究書を解読し、その真実と代償を知っている。

だからこそ、その名が持つ危うさを理解していた。

 

「奴の隠れ家が廃村にある。調査してこい」

 

「結局、厄介ごとは俺達の仕事ってわけかよ」

 

エドワードが吐き捨てると、マスタングは静かに言った。

 

「これは命令じゃない。頼みだ」

 

エドワードは一瞬、言葉を失った。

マスタングが「頼む」と口にするときは、背後に何らかの深刻な危機がある証拠だった。

 

「分かったよ。どうせ放っといてもロクなことにならねえだろ」

 

こうして二人は、ケーオスの研究所とされる施設へ向かうことになった。

 

 

夜明け前の荒野を軍用車が走る。

赤黒い空を背景に、うっすらと朝の光が差し始めていた。

 

「ちくしょう……せっかくリゼンブールに帰ろうと思ってたのにな」

 

エドワードが窓の外を睨みながらぼやく。

 

「最終列車、乗り損ねちゃったね」

 

アルフォンスが静かに返した。

 

車はやがて停車し、運転手に軽く礼をして二人は降り立つ。

そこに広がるのは荒廃した村。

崩れた屋根、折れた柱、雑草に覆われた石畳。

風が通るたびに乾いた葉が舞い上がる。

 

「こんな山奥に隠れてやがったのか。怪しすぎんだろ」

 

「油断しないで兄さん。大佐の言い方、ただ事じゃなかったよ」

 

「わかってるよ。あの野郎の“警告”は、だいたいろくでもねぇことの前触れだ」

 

村の奥には、ひときわ目立つ朽ちた屋敷があった。

壁の漆喰は剥がれ落ち、屋根は崩れ、扉は錆びついている。

エドワードは深く息を吐き、扉を押し開けた。

 

内部は外観以上に不気味だった。

蜘蛛の巣が垂れ下がり、壁には赤茶けた染み。

机や床に散乱する紙束、埃をかぶった錬金術の器具。

まるで住人が突然姿を消したかのようだ。

 

「やっぱ、ろくでもねぇ研究に手を出してやがったな」

 

エドワードは散乱した書類をめくる。

賢者の石に関する断片的な研究、奇怪な錬成陣の図。

そこに書かれた奇妙な走り書きに目を留めた。

 

『夢は魂を縛る器、蹄音は神々の鼓動なり』

『蹄鉄は夢を媒介する鍵、錬成陣に嵌めよ』

『賢者の石とは魂の結晶』

『夢そのものが代価となる、等価交換は不要』

 

「……ッ、ありえねぇ。禁忌どころの話じゃねぇぞ!」

 

エドワードの声が鋭く響く。

アルフォンスも横から覗き込み、息を呑んだ。

 

「それに等価交換はいらない……? 錬金術をなめてんのか!」

 

さらに視線を走らせたエドワードの目に、奇妙な言葉が映る。

 

『“彼女達”こそが理想の素材――蹄音の巫女』

 

「誰だ、それ……」

 

その瞬間、足元の床板が淡く光り始めた。

歪んだ蹄鉄のような錬成陣が浮かび上がり、白光を放つ。

空気が震え、耳鳴りが世界を切り裂いた。

 

「兄さんっ! 罠だ!!」

 

アルフォンスの叫びも虚しく、光と音が反転し、景色が裏返った。

轟音とともに世界は白に呑み込まれる。

 

光が収まったとき、二人は冷たい舗装の上に立っていた。

見上げれば鋼とガラスの塔が林立し、巨大なスクリーンが街を染めている。

人々の服装も、装飾も、すべてが見慣れない。

 

「兄さん……ここ、アメストリスじゃないよね」

 

「どう見てもそうだろ……」

 

その時――。

 

「すみませーん!」

 

人混みをかき分け、駆け抜ける一人の少女。

腰から伸びる尻尾、頭に揺れる馬の耳。

石畳に蹄跡を残し、まるで馬そのものが駆け抜けたかのようだった。

 

エドワードは息を呑む。

 

「……馬の耳と、尻尾?」

 

少女は群衆の中に消え、蹄音だけが残響のように響いた。

アルフォンスが思わず呟く。

 

「兄さん……今の、キメラ……?」

 

「いや……あんなの見たことねぇ」

 

エドワードは目を細めた。

 

 

一方その頃――。

 

「早くおいでよ、マックイーン!」

 

茶髪のポニーテールの少女、トウカイテイオーが弾む声を上げる。

腰の尻尾が楽しげに揺れていた。

 

「テイオーさん、落ち着いてください。感謝祭は逃げませんわ」

 

気品漂う少女、メジロマックイーンが呆れたように返す。

 

「でもさ! 屋台はすぐ売り切れるんだよ!」

 

「やっぱ最初はスイーツかな? あ、いやカイチョーの模擬レース!?」

 

「もう……テイオーさんったら」

 

弾む声と笑い声が街に響く。

その背後で、一瞬だけ淡い光が揺らめいた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。