ウマ娘×鋼の錬金術師 作:パラケル
「走るとは、ウマ娘とは――ふぅン」
薄暗い旧理科準備室、ブルーライトの冷たい光が滲む。
「タキオンさん……何をそんなに?」
背後から覗き込むカフェに、タキオンは口角を釣り上げる。
「ほら、見たまえよカフェ。どうやら私以外にも物好きがいたらしい」
タイトル:第37稿『ウマ娘存在論考察』
【ウマソウルと扉の関係性について 著者:Alchemia】
『ウマ娘の脳波は“走る”瞬間、通常の枠組みを逸脱する。
まるで魂の記憶が外部の理へと接続するかのように。
蹄音は、世界を繋ぐ扉の鍵である』
朝、トレセン学園の教室。
「転入生を紹介する」
先生の言葉にざわつく教室内。
そして扉が開き白衣を羽織り、頭には研究用ゴーグル。
華奢な体に似合わぬ分厚いファイルとタブレットPCを抱えたアルケミアが教室に足を踏み入れる。
「趣味は何だろ?」
「好きな食べ物気になるね」
周囲のウマ娘達が小声で話す。
ざわつく教室内を静めるように、先生が声を上げる。
「アルケミアです、今日からよろしくお願いします」
簡潔な自己紹介をしたアルケミアは空いている席に腰を下ろした。
HRが終わりざわめく教室。
アルケミアは周囲の視線を一切気にすることなく、一言だけ呟いた。
「観察対象は全てデータベースに加えますので」
彼女の一言に周囲のウマ娘達は少し後ろめたい気持ちになりつつ、同時に興味を持っていた。
昼、食堂の片隅。
椅子に腰掛けたアルケミアは、無造作に広げたファイルとタブレットを指先でなぞる。
「……やぁ」
不意に声がかかる。
顔を上げると、紅茶を片手にタキオンが立っていた。
どこか愉快そうな笑み。
アルケミアは淡々と視線を返すだけ。
「君の論文を読んだよ、私と同類の匂いがするねぇ……」
「……データは現場から取るのよ」
アルケミアの声は冷たく、確実に距離を作る。
「なるほど、君は走りを楽しむためじゃなく、切り分けるために観察してるのか」
タキオンの目が細められ、次の瞬間、嬉しそうに笑った。
「私は走りを楽しむために研究する。でも君は研究のために走りを解体している」
アルケミアの手が止まる。
タブレットを閉じたその手はわずかに震えていた。
「意味なんて要らない。ただ、“なぜ走るのか”を知りたい」
「私達ウマ娘が走りやウマソウルというものに縛られる理由を」
タキオンは軽く紅茶を回し、ニヤリと笑う。
「逆さからの観察か……面白いねぇ」
二人の視線が交差する。
周囲のざわめきが消え、食堂に緊張が張り詰めた。
ジャングルポケット、ダンツフレーム、カフェの三人は遠巻きに成り行きを見守る。
「なんかあの二人、似てるな」
「確かに。研究のことになると周りが見えなくなるタイプだよね」
カフェはコーヒーを口に含み、ぽつりと漏らす。
「タキオンさんは夢を語ります、普段はあんなですが」
「でもあの人は……怖いくらい“解剖的”」
その声には寒気が混じていった。
一方、校舎裏。
「兄さん、これ……」
アルフォンスが指さした先、壁の下部に奇怪な円が刻まれていた。
円環の縁は錆びた血のように黒ずみ、歪な文様が組み込まれている。
「……錬成陣?」
エドワードはしゃがみ込み、指先で線をなぞる。
「でもアメストリス式とは違う。文字の組み合わせも、構造も……どこか無理やり繋げたみたいだ」
校舎裏の壁だけではない。
廊下の柱、練習場の土、さらにはプールの床にも同じ紋様が残されているのを見つけていた。
「まるで――学園全体を一つの錬成陣にしてるみたいだ」
アルフォンスの声が低く震える。
「誰がこんなものを……」
錬成陣の“構築式”の意図が見えない。
嫌な予感がエドワードの背筋を這った。