ウマ娘×鋼の錬金術師   作:パラケル

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第九話

「走るとは、ウマ娘とは――ふぅン」

 

薄暗い旧理科準備室、ブルーライトの冷たい光が滲む。

 

「タキオンさん……何をそんなに?」

 

背後から覗き込むカフェに、タキオンは口角を釣り上げる。

 

「ほら、見たまえよカフェ。どうやら私以外にも物好きがいたらしい」

 

 

タイトル:第37稿『ウマ娘存在論考察』

【ウマソウルと扉の関係性について 著者:Alchemia】

 

『ウマ娘の脳波は“走る”瞬間、通常の枠組みを逸脱する。

まるで魂の記憶が外部の理へと接続するかのように。

蹄音は、世界を繋ぐ扉の鍵である』

 

 

朝、トレセン学園の教室。

 

「転入生を紹介する」

 

先生の言葉にざわつく教室内。

そして扉が開き白衣を羽織り、頭には研究用ゴーグル。

華奢な体に似合わぬ分厚いファイルとタブレットPCを抱えたアルケミアが教室に足を踏み入れる。

 

「趣味は何だろ?」

 

「好きな食べ物気になるね」

 

周囲のウマ娘達が小声で話す。

ざわつく教室内を静めるように、先生が声を上げる。

 

「アルケミアです、今日からよろしくお願いします」

 

簡潔な自己紹介をしたアルケミアは空いている席に腰を下ろした。

 

HRが終わりざわめく教室。

アルケミアは周囲の視線を一切気にすることなく、一言だけ呟いた。

 

「観察対象は全てデータベースに加えますので」

 

彼女の一言に周囲のウマ娘達は少し後ろめたい気持ちになりつつ、同時に興味を持っていた。

 

 

昼、食堂の片隅。

椅子に腰掛けたアルケミアは、無造作に広げたファイルとタブレットを指先でなぞる。

 

「……やぁ」

 

不意に声がかかる。

顔を上げると、紅茶を片手にタキオンが立っていた。

どこか愉快そうな笑み。

 

アルケミアは淡々と視線を返すだけ。

 

「君の論文を読んだよ、私と同類の匂いがするねぇ……」

 

「……データは現場から取るのよ」

 

アルケミアの声は冷たく、確実に距離を作る。

 

「なるほど、君は走りを楽しむためじゃなく、切り分けるために観察してるのか」

 

タキオンの目が細められ、次の瞬間、嬉しそうに笑った。

 

「私は走りを楽しむために研究する。でも君は研究のために走りを解体している」

 

アルケミアの手が止まる。

タブレットを閉じたその手はわずかに震えていた。

 

「意味なんて要らない。ただ、“なぜ走るのか”を知りたい」

 

「私達ウマ娘が走りやウマソウルというものに縛られる理由を」

 

タキオンは軽く紅茶を回し、ニヤリと笑う。

 

「逆さからの観察か……面白いねぇ」

 

二人の視線が交差する。

周囲のざわめきが消え、食堂に緊張が張り詰めた。

 

ジャングルポケット、ダンツフレーム、カフェの三人は遠巻きに成り行きを見守る。

 

「なんかあの二人、似てるな」

 

「確かに。研究のことになると周りが見えなくなるタイプだよね」

 

カフェはコーヒーを口に含み、ぽつりと漏らす。

 

「タキオンさんは夢を語ります、普段はあんなですが」

 

「でもあの人は……怖いくらい“解剖的”」

 

その声には寒気が混じていった。

 

 

一方、校舎裏。

 

「兄さん、これ……」

 

アルフォンスが指さした先、壁の下部に奇怪な円が刻まれていた。

円環の縁は錆びた血のように黒ずみ、歪な文様が組み込まれている。

 

「……錬成陣?」

 

エドワードはしゃがみ込み、指先で線をなぞる。

 

「でもアメストリス式とは違う。文字の組み合わせも、構造も……どこか無理やり繋げたみたいだ」

 

校舎裏の壁だけではない。

廊下の柱、練習場の土、さらにはプールの床にも同じ紋様が残されているのを見つけていた。

 

「まるで――学園全体を一つの錬成陣にしてるみたいだ」

 

アルフォンスの声が低く震える。

 

「誰がこんなものを……」

 

錬成陣の“構築式”の意図が見えない。

 

嫌な予感がエドワードの背筋を這った。

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