ウマ娘×鋼の錬金術師   作:パラケル

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第十話

トレセン学園の一角、旧理科準備室。

その中に、三人の影があった。

エドワード、アルフォンス。

そして、タキオン。

 

机の上には、虹色に輝く欠片。

淡く脈動する光が、三人の顔を照らしていた。

 

「……綺麗なものだ」

 

タキオンが指先で光を反射させる。

その目は科学者というより、もはや狩人のそれだった。

 

「だが、構造は単純じゃない。分光分析では“夢想波”に似た反応が出ている。

 けれど、熱量変換はゼロ。――つまり、エネルギー源は不明」

 

「夢想波?」

 

エドワードが眉をひそめる。

 

「ウマ娘の“夢”を数値化した仮想エネルギーだよ。

 目標への執念や勝利欲求が一定閾値を超えると、

 それが現象化して“力”になる……という私の考えている理論さ」

 

タキオンはさらりと言ってのけた。

 

 

エドワードは短く息を吐く。

 

「なるほどな。つまり“感情を燃料にするエネルギー”ってわけか」

 

「その表現、悪くないね」

 

タキオンはにやりと笑った。

 

「で、君たちの世界では、こういうものを何て呼ぶんだい?」

 

「“賢者の石”だ」

 

エドワードの言葉に、タキオンの瞳が鋭く光った。

 

「ほう……賢者の石。あの伝説の石かい?」

 

「その通りだよ」

 

アルフォンスが静かに答える。

 

「ただ‥‥‥‥僕たちの世界では、“命”を圧縮して作る禁忌の結晶なんです」

 

タキオンの手が止まった。

無言のまま欠片を見つめる。

彼女の科学的好奇心が、一瞬だけ“倫理”に押し止められたようだった。

 

「命を……燃料に?」

 

「そう。だけど、この欠片は少し違う」

 

エドワードは手を伸ばし、石の光を透かして見た。

 

「魂の代わりに、“夢や想い”を代償にしてる」

 

「簡単に言うと――ウマ娘が抱く“走りたい”“勝ちたい”って気持ちを削って、

 力に変えてるんだ」

 

タキオンの指が震えた。

それを隠すように笑う。

 

「夢や想いを……ある意味、最も“ウマ娘的”なエネルギー源だ」

 

「だが同時に、危険でもある」

 

エドワードが低く告げた。

 

「想いを削る。それは心の根を奪われるのと同じだ」

 

沈黙が落ちる。

虹色の光が、三人の影をゆらりと歪ませた。

 

「……夢を燃やして幻を錬る。名はまだわからないが、

 これがこの世界の“賢者の石”なのは間違いねぇ」

 

タキオンは顎に指を当て、興味と警戒が混じった声で呟いた。

 

「夢幻の石……いい名だ」

 

「でも、この構造……何者かが“意図的にしている」

 

「だろうな」

 

エドワードが即答する。

 

「何かを作ろうとしてる――」

 

タキオンの笑みが消える。

 

「……夢や想いを材料に、か。科学でもそれは神の領域だよ」

 

エドワードが短く笑った。

 

「神様はろくなもんじゃねぇよ。俺達はもう痛いほど知ってる」

 

その言葉に、タキオンの目がわずかに揺れた。

 

 

トレセン学園・生徒会室。

重厚な扉の内側は、いつになく空気が重く澱んでいた。

机上には分厚い被害報告書が山のように積み上げられている。

 

「水道系統の一部が凍結? だが、この気候でそのような現象はあり得ん」

 

ルドルフは低く呟き、眉間に深い皺を刻む。

ページをめくる指先が、一瞬止まった。

 

「エントランスホールでも破壊痕が見つかっています」

 

「ただの悪戯ではありません」

 

エアグルーヴの報告に、室内の空気がさらに張りつめる。

ルドルフは腕を組み、静かに考え込んだ。

 

そのとき――扉が開き、エドワードとアルフォンスが入室する。

 

「……ちょっと話がある」

 

エドワードの声は低く、真剣そのものだった。

 

「虹色の欠片についてのことです」

 

ルドルフが目線を上げる。

その瞳に宿るのは、警戒と冷静の混ざった光。

 

「生徒達の間で噂になっている“虹色の欠片”――あれは見つけ次第、処分してくれ」

 

エドワードの言葉に、部屋の空気が一瞬止まった。

 

「どういうことだ!」

エアグルーヴが立ち上がる。

 

エドワードはまっすぐルドルフを見据えた。

 

「『ウマ娘は別世界の名と魂を受け継ぐ存在』――そう言ったな」

 

「その“魂”を、誰かが利用しようとしてる」

 

ルドルフの表情がわずかに動く。

エドワードは一歩前に出て、机上の報告書を指で軽く叩いた。

 

「俺の世界にも“似たようなもの”がある。――“賢者の石”だ」

 

その名を聞き、ルドルフとエアグルーヴの視線が鋭くなる。

 

「賢者の石は、命――“魂”を圧縮して作られる禁忌の結晶。

 奇跡を起こす代わりに、数えきれない犠牲を生む」

 

アルフォンスが補足するように言葉を続けた。

 

「でも、この世界で見つかった欠片は……違います。

 命の代わりに、“夢”や“想い”を糧にしている」

 

「夢や想い……?」

 

ルドルフが小さく反芻する。

 

エドワードは腕を組み、短く息を吐いた。

 

「“走りたい”とか、“勝ちたい”とか――ウマ娘たちが抱える純粋な感情。

 それを抽出して、力に変換している」

 

「感情の錬成……理屈の上ではあり得ます」

 

アルフォンスが説明を付け加える。

 

「魂を削る代わりに、“夢”を削って奇跡を起こす。

 あの欠片は……“魂の模倣体”です」

 

ルドルフが低く問う。

 

「その結晶には、名があるのか?」

 

エドワードはほんのわずかに間を置いて、苦い顔をした。

 

「いや、正式な名称はわからねぇ。

 だが――便宜上、こう呼ぶ。“夢幻の石”ってな」

 

「夢幻の石……」

ルドルフがその名を静かに繰り返す。

 

エドワードは目を細めた。

 

「“夢”を燃やして、“幻”を錬る石だ」

 

重い沈黙。

その名が落ちた瞬間、室内の空気が変わった。

 

ルドルフはゆっくり立ち上がり、深く息を吸い込む。

 

「……わかった。夢を喰らう石など、この学園に存在させるわけにはいかない」

 

その声音には怒りが宿っていた。

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