ウマ娘×鋼の錬金術師 作:パラケル
「……兄さん」
アルフォンスの低い声に、エドワードは歩みを止めた。
雑踏の中、視界をかすめていった少女の背に、金色の瞳が鋭く細められる。
耳。
尻尾。
そして――蹄を思わせる足取り。
「…ただの人間じゃねぇな」
少女は人波へと消え、周囲の誰一人として不思議がる様子はない。
まるでそれが“日常”であるかのように。
遠くから太鼓と笛が風に乗って響く。
祭囃子。
賑やかさが、かえって現実感を薄れさせていた。
「兄さん、この街……すごく綺麗だよ」
アルフォンスの声には素直な驚きが混じっていた。
黒い石畳の通りを走る小型車。
人々の手には光る板――無線機とも違う、不思議な道具。
画面に夢中になりながら歩く姿がそこかしこに見られる。
「無線機か? いや……違ぇな。光を媒介にした情報装置……? でも動力痕が見当たらねぇ」
エドワードは思わず装置を目で追う。
錬金術師としての癖――物質の構造を読み解こうとするが、そこには理解不能な仕組みが詰まっているように見えた。
「全員が当然みてぇに使ってやがる……」
エドワードは眉をひそめた。
「兄さん、あの人達……耳も尻尾もないよ」
アルフォンスが指差す先では、普通の親子が歩いていた。
エドワードは思わず目を凝らす。
確かに、耳も尻尾もない。
だがそのすぐ隣には、先ほどすれ違ったような“耳付き”の女性が、自然に談笑して歩いていた。
「一緒に暮らしてるってのか。あのキメラみたいな連中と普通の人間が」
アメストリスではありえない光景。
だが、この世界では違う。
人間と同じ生活をし、同じ笑みを浮かべ、当たり前のように受け入れられていた。
カフェのテラス席では若者達が紅茶を片手に談笑している。
街に軍の影はなく、平和そのもの。
「兄さん、僕達すごく目立ってる気がする……」
鎧姿のアルフォンスと真紅のコートを着たエドワード。
平和な街では彼らこそ異質だった。
「まぁな」
エドワードは口元を吊り上げる。
「赤いコートと全身鎧なんざ、怪しく見えるに決まってる」
案の定、通行人は好奇の視線を向ける。
「映画の撮影かな?」
「すごいコスプレだな」
と囁く声。
子供がアルフォンスを指差し、「ママ! あのロボット、しゃべった!」と歓声を上げる。
「ロボットってなんだよ……」
やがて二人は川沿いへ出た。
喧噪が遠のき、風と水音だけが耳に残る。
「……やっと落ち着いたな」
ベンチに腰を下ろしたエドワードは汗をぬぐい、アルフォンスは隣で川面を眺める。
「平和だね……笑ってる人ばかりだ」
「兄さん、もしアメストリスが戦争のない国だったら、こんなふうに……」
その言葉に、エドワードは沈黙で返す。
廃村で見つけたあの紙片――
『夢は魂を縛る器』
『蹄鉄は夢を媒介する鍵』
歪んだ文言が、じわじわと胸の奥を侵食していく。
「ケーオスの野郎……こんな世界で何を企んでやがる」
二人の心に同じ影が落ちる。
カッ、カッ――。
蹄鉄を叩くような音が、静かな川沿いに響いた。
エドワードの全神経が一瞬で尖る。
振り返った先に、陽光を浴びて駆けてくる少女。
栗色の髪をポニーテールに結び、リボンを跳ねさせながら。
耳と尻尾を揺らし、風を切って走る姿はまるで光そのもの。
「よしっ! 今日もいい走り!」
弾む声が河川敷を満たす。
その無邪気さに、エドワードもアルフォンスも言葉を失った。
やがて少女は速度を落とし、二人の前に立ち止まる。
頬に汗を光らせ、眩しい笑みを向けた。
「――あれ? お兄さん達見ない顔だね! もしかして、何かの撮影!?」
真っ直ぐで屈託のない声。
その一言が、二人の運命を大きく動かしていく――。