ウマ娘×鋼の錬金術師 作:パラケル
視線の先に立つ少女を、エドワードは黙って眺めた。
栗色の髪を高く結い上げ、陽を浴びてきらめく馬の耳と尻尾。
人間離れしているはずなのに、外見はどう見ても「人間」そのものだった。
「ねぇねぇ、君達観光? それとも何かの撮影?」
少女――トウカイテイオーはにかっと笑い、距離を詰めてきた。
「え、えっと……僕らは――」
アルフォンスが慌てて答えかける。
「それにしてもすごいね!本物の鎧? カッコいいじゃん!」
「あ、ありがとう……」
テイオーの言葉にアルフォンスは戸惑いながらも答える。
(人間の骨格で、どうやってこんな踏み込みが可能なんだ?)
地面に残された深い足跡が、エドワードの胸をざわつかせた。
「ねぇ……大丈夫? 顔、怖いよ」
テイオーが不安げに覗き込む。
エドワードは息を詰め、わずかに視線を逸らした。
「……お前の“速さ”。ただの鍛錬じゃねぇな」
テイオーは一瞬、目を瞬かせると無邪気に笑った。
「うん!ボクは“ウマ娘”だからね」
川の流れが静かに響く。
「「ウマ……娘?」」
エドワードとアルフォンスの声が重なる。
「え、もしかして初めて見た?」
テイオーは目を丸くする。
「馬と娘……? 錬金術で錬成したキメラか!?」
思わず声を荒げるエドの声音には困惑が混じっていた。
「ち、違うよ!最初からこうなの! 生まれつき!」
「生まれつき!? おいアル、聞いたか!?」
「う、うん……」
「ご、ごめんね。僕達ちょっと遠くから来たばかりで……この辺や君達のこと全然知らないんだ」
アルフォンスが慌ててテイオーに言い、場を和らげようとする。
「遠くから……って、どこから?」
テイオーが小首を傾げる。
「まぁ、どこからって言われると……説明は面倒だな」
エドワードは肩をすくめ、曖昧に言葉を濁した。
「ふーん……」
テイオーはじっと二人を見つめたかと思うと、不意に笑みを弾けさせた。
「よしっ!それならボクが案内してあげる!任せてよ!」
エドワードの瞳に警戒と困惑がないまぜになる。
ホムンクルスの類かとも思ったが、彼女の目はあまりにも澄んでいる。
嘘も虚飾もない――ただ純粋に信じて疑っていない。
「テイオーさん。知らない方に勢いよく話しかけすぎですわよ?」
澄んだ声が風に乗って届いた。
三人が振り返ると、そこに立っていたのは一人の少女。
風を受けて紫の長髪が優雅に揺れ、整った所作と落ち着いた瞳が彼女の気品を際立たせている。
「マックイーン!」
テイオーがぱっと手を振った。
「ここにいましたのね。まったく……迷子になったのかと思いましたわ」
マックイーンはため息をつき、テイオーの横に並ぶ。
「この方たちは?」
「旅をしてるんだって。遠くから来たらしいよ」
「初めまして。メジロマックイーンと申しますわ」
彼女の洗練された所作と落ち着いた瞳は、育ちと気質を物語っていた。
「俺はエドワード・エルリック。こっちは弟のアルフォンスだ」
「初めまして」
軽く自己紹介を交わすと、マックイーンは優雅に微笑んだ。
「……まったく、あなたは少し落ち着きなさいな」
「えー? だってお祭りだよ? テンション上がるに決まってるじゃん!」
そのやり取りに、エドワードのなかで警戒心は少しずつ消えていった。
一方、アルフォンスは胸の奥に温かいものを感じていた。
(……こうやって笑って、友達とやり取りできる。二人が眩しいな)
エドワードは腕を組み、じろりとマックイーンを見る。
「なぁ、お前も“ウマ娘”か?」
「ええ。そうですわ」
マックイーンは落ち着いた声で答える。
「ね、ねっ! 二人ともせっかくだし学園に来てよ!」
テイオーが勢いよく提案する。
「感謝祭?」
「はい。私たちが日頃支えていただいている方々へ感謝を示す催しですの」
マックイーンが補足するように説明する。
テイオーはくるりと振り返り、二人に向かって手を振った。
「そうだ、せっかくだし一緒に行こうよ!」
「おい、ちょっと待て! 案内って言っても俺ら――」
「いいからいいから!」
軽やかに駆け出すテイオー。
蹄鉄の打つリズムが弾み、耳と尻尾が楽しげに揺れる。
「……兄さん、行ってみようよ」
アルフォンスが小声で囁く。
エドワードはしばし黙考し、やがて小さく息を吐いた。
「おーい! こっちこっち!」
テイオーが蹄音を響かせながら振り返る。
エドワードは眉をひそめつつも、彼女の無邪気な笑みを前に強く突っぱねることができなかった。
「仕方ねぇ。どうせ情報もねぇし足がかりは必要だ」
「兄さん、ちゃんと彼女達にお礼言おうね」
アルフォンスが苦笑を浮かべる。
テイオーとマックイーンに続き、二人は広々とした街道を歩き出す。
やがて、視界に巨大な建物が現れた。
白亜の校舎、陽光を浴びて煌めく煉瓦の門には――
《日本ウマ娘中央トレーニングセンター学園》
と刻まれていた。
「ここが……学園?」
エドワードは思わず息を呑む。
「はい。私達ウマ娘が日々、研鑽を積み、夢を追いかける場所ですの」
マックイーンが誇らしげに言う。
「夢を……」
エドワードの胸の奥で、あの廃屋に残された言葉がよみがえる。
『夢は魂を縛る器』
その瞬間、彼の背筋に冷たいものが走った。
「……兄さん?」
アルフォンスが兄の様子を怪訝そうに見る。
「いや、なんでもねぇ」
エドワードは慌てて首を振る。
だが二人の心の奥には、同じ不安が芽生えていた。
「ようこそ、トレセン学園へ!」
テイオーの弾む声に導かれ、二人は門をくぐった。