14日目。
2度目の挑戦。
「それじゃあ、打ち合わせ通りに頼むぞ」
「はい。わかりました。ですが……」
「わざわざご主人様が行かなくても。私達が行けば良いじゃん」
「敵の攻撃が凄まじい分、死んじゃうかもしれない」
「!」
作戦内容に関して文句が出る事はなかった。
しかし、一点。
徹が危険な目に遭う事が前提、ということに対して4人は納得していなかった。
「いや、どちらにしたって誰かがやらなければいけない事だろ? それに、さっきも話をした通り俺じゃないと無理だ」
そう。4人が持つスキルでは、巨大な魔物を倒す事は出来ない。
だからこそ、徹が行くのだ。
「それに、俺の方は確かに危険かもしれないが、お前らの方だって危険だ。……いや、案外場合によってはそっちの方が遥かに危険だったり?」
「え!? なにそれ!? 聞いて無いんだけど! ご主人様、今から私と変わってよ!」
「……お前、俺の話を聞いてたか?」
徹達がいるのは、巨大な魔物が鎮座する階層の下の階層。
そして、目の前には上層へと続く階段がある。
「よし。それじゃあ行くぞ。皆。全員、1人も欠けることなくアイツに勝とうぜ」
巨大な魔物は機能と同じ様に、階層の中心地点に鎮座していた。
顔を覆う無数の眼球は、絶えずギョロギョロと動き続け、何か不審な物が無いかを探している。
或いは、昨日挑んだ徹達の姿を探しているのかもしれない。
シス達が動く。
大きな音を鳴らし、大きな声を上げ、スキルを行使して魔物の注意を引く。
彼女達の役目は陽動だ。
分かり易く、あからさま。
しかし、昨日の戦いを通して巨大な魔物の性質を理解している。奴は基本的に、視界に入った対象を放っておくことが出来ない。
それは魔物としての性分なのか、或いは奴自身の個性なのか。
今は、そんな事どうでも良い。
陽動であるシス達に向けて、攻撃を仕掛ける魔物。
放たれるレーザービームは直撃した対象を、3度焼き尽くす程の破壊力を持つ。が、それはあくまでも、直撃したらの話。
メイドの筈の3人は、レーザービームをヒラリヒラリと躱していく。
距離がかなり遠い事。
そして、レーザービームを連発するにしても、数秒程間隔を空けている。
だからこそ、回避する事は可能。
激しい運動を苦手とするイーナは、メイドルに抱えられており、抱えられているという事実に目を白黒させている上に、飛び交うレーザービームに顔を青くしている。
魔物はシス達に気を取られている。
隙を突き、数少ない遮蔽物に身を隠す徹。
「さて。ここからが本番だ。気合いを入れろよ。渡辺 徹」
携帯電話を操作して、倉庫から1つのアイテムを出す。
時間にして、僅か数秒。
徹の前に現れたのは、モグラを模した巨大な兵器。
岩盤掘削用兵器「メカモグラ」
今回の作戦において、重要な役割を担うアイテムの1つ。
かなり巨大で、兵器という名に偽りはない。
試運転は済ませている。
急いでコックピットに乗り込む。
巨大なメカモグラの出現によって、巨大な魔物も徹の存在に気付き始めている。
(ここから先は、時間との勝負だ!)
本来、兵器という物は複雑な操作が求められる。しかし、メカモグラの操作方法はゲームのコントローラーだった。
「色々とツッコみたい所はあるが、行くぞ! メカモグラ!」
徹が叫ぶと同時に、メカモグラは動き出す。
四つのタイヤがギャリギャリ! と音を鳴らす。
まるで、徹の声にメカモグラ自身が応えているかのようだった。
目の前に立ち塞がる遮蔽物をぶち壊し、メカモグラは発進する。
速度は異常。
日本の警察が発見すれば、サイレンを鳴らしながら追いかけて来る程の速さ。
しかし、徹は止まらない。
止められない。
現れたメカモグラ。優先順位を、シスからメカモグラに変更した巨大な魔物は、レーザービームを惜しげもなく放つ。
全てを回避することは不可能。
小刻みに、左右へ避ける事によって、何とか致命傷は回避する。
激しい運転に、思わず気持ち悪くなってしまうが、それでも進み続ける。
どんどん魔物との距離を詰めていく。
そして、魔物が持つ6本の腕が届く範囲まで到達。
攻撃手段はレーザービーム1つに限定されなくなった。
今まで畳まれていた6本の腕がパキパキと音を立てながら、伸びる。その姿は、さながら幼虫から成虫へと羽化していく昆虫のようで、酷く悍ましい。
「こっからが正念場って、普通に考えてもヤバすぎるだろ!」
恐い。恐い。恐い。
死ぬのは恐いし、ビームが命中するのは恐いし、大きな腕に押し潰されるのは恐い。
(けど、それでも届くなら――俺は手を伸ばす!)
恐怖心は、思い切り叫ぶ事によって払拭。
ここまで到達するまでに、何度もレーザービームの攻撃を食らっている。メカモグラはボロボロ。
それでも尚、稼働し続けているのは優秀な兵器である証拠。
降り注ぐレーザービームに、大きな6本の腕も追加。
「だけど! 正直にいえば、レーザービームオンリーの方が個人的には面倒だったぜ! なにせ、6本の腕は予備動作が分かりやすい!」
おまけに、レーザービームが自身の腕に命中してしまう事を嫌ってなのか、ビームの数も減っている。
もう少し、後もう少しだけもって欲しい。メカモグラ。
迫りくる一本の腕。
掌を思い切り叩きつける。
辛うじて、回避する事は出来た。
しかし、叩きつける際に発生した衝撃波。
地面が脈打ち、まるで水面のように揺れ動く。
メカモグラが吹き飛ばされる。
ボールの様に何度も跳ねる。
辛うじて、元の体勢に戻る事が出来たのは奇跡に近い。
「……そろそろ潮時か」
徹はメカモグラを優しく撫でる。
「ありがとう。俺を、ここまで連れて来てくれて」
徹は握っていたコントローラーのボタンを2つ押す。
1つは、緊急脱出装置。
コックピットの蓋が開き、徹の座っていた運転席がジェットを噴出する。そのまま、稼働し続けるメカモグラから離れていく。
2つめは、自爆ボタン。
盛大に爆発する事によって、巨大な魔物に一矢報いる。
稼働し続けたメカモグラ。多数のレーザービームに晒されようと、強力無比な攻撃を食らおうと、進み続ける。
そして、自爆。眩い光を放つと同時に、巨大な魔物も巻き込んで爆発する。
魔物は至近距離でメカモグラの爆発を食らった。
大ダメージだろう。
だが、魔物はまだ倒れていない。
寧ろ血走った目で、脱出した徹を睨みつけている。
無数の眼球が、淡い光を帯びる。
数秒後には、無数のレーザービームを浴びて徹は死んでしまうだろう。
しかし、徹の表情に恐怖は無い。
否。内心では、ガクブルに震えていたが、徹は仲間を信じていた。
だからこそ、表面上は平静を装う事が出来る。
「頼むぜ。イーナ」
無数のレーザービームが放たれるその瞬間、巨大な魔物の眼球が撃ち抜かれる。
声なき悲鳴を上げ、悶絶する魔物。
レーザービームを放つ事は出来ない。
メカモグラを自爆した理由は、魔物に一矢報いるだけではない。合図の役割もあった。仲間であるイーナに攻撃を仕掛けて欲しい、という。
遠くに目をやれば、シス達は発生した魔物達と戦っている。
役割は陽動と、此方の邪魔をして来るであろう他の魔物の排除。
しかし、イーナだけは違う。
彼女の役目は、ここぞという時に巨大な魔物に攻撃を仕掛ける事によって、大きな隙を生み出すこと。
彼女の正確無比な精度と、光線銃スターラインVer2.4の破壊力をもってすればいけると確信していた。
だからこそ、シス達にはイーナを守って貰っていた。
彼女も作戦の要になる為だ。
もしかすると、撃ち抜かれた眼球は再生するのかもしれない。しかし、再生にかかる時間は一体何秒? 数十秒? 数秒? それとも、コンマ数秒?
なんだって良い。
既に徹は射程距離に入れる事ができた。
「さあ。出て来い!」
アイテムを出す事が出来る範囲に。
そして、巨大な魔物を巻き込む事が出来るギリギリのラインに。
以前、徹は初めて銭湯を出す際に、周囲の空間を削ってしまった事があった。
結果として落石が発生し、命の危機に晒されてしまうはめになったが、正にアレこそが巨大な魔物を倒す為の切り札となった。
アイテムを出す際、巨大過ぎるアイテムは十分なスペースを確保する事が出来なかった場合、半ば無理矢理スペースを確保する為に空間を削り取る性質がある。
それに加えて、アイテムを出す際は位置を任意で変更する事も可能。
この2つを利用する事によって、意図的に空間を削り取るという裏技が可能になった。
勿論、欠点は存在している。
空間を削り取るとはいったが、対象は生物ではなく物。
壁や木といった物に限定される。
だからこそ、空間を削り取って巨大な魔物を倒すというのは本来であれば実現しなかった。だが、徹達が挑む相手の下半身は天井に埋まっている。
或いは、下半身などは存在しておらず天井と繋がる事によって生きているのかもしれない。
何方にしても、空間を削り取るという方法は有効。
そして、ソレを実行に移す事が出来るのはスキル『ガチャ』を所持している徹以外にいない。だからこそ、徹は巨大な魔物に近づかなければいけなかった。
現れたのは銭湯。
しかし、徹の目の前などではなく、かなり上。
アイテムを出す有効範囲ギリギリ。
丁度、天井にめり込んでしまう程の高さだ。
だが銭湯が天井にめり込んでしまう事はなく、十分なスペースを確保する為に空間が削り取られてしまう。
天井の一部がごっそりと消え去る。
上半身が天井と繋がっていた魔物は、地面に落ちる。
大きく音を立てて。
砂埃が激しく舞う。
自分の身に何が起こったのかも分からず、錯乱気味に無数の眼球からレーザービームを放つ。しかし、誰にも命中しない。
伸ばした6本の腕も届かない。
降って来た銭湯に押しつぶされる形で、巨大な魔物は事切れるのだった。
犠牲となった、メカモグラに黙祷。