ガチャ×異世界=混沌   作:ロドリゲウス666

15 / 35
笑顔の裏の本音

 

 

 

21日目。 

 

 倉庫に収納されていた銭湯を出す。

 これが、迷宮攻略における徹達の拠点。

 

 魔物達に襲撃されるかもしれない、というリスクは存在しているが、それでも暖かいお風呂や寝床を諦めることは出来ない。

 今日もまた、徹達は湯船に浸かって疲れた体を癒す。

 

「えー、という訳で状況は少し不味いです。黒いインクの魔物。コイツの出現によって、迷宮攻略の難易度が上がった。それに加えてバカでかいワーム。一応、俺が持っている最大火力でダメージは与えたが、逃走出来たってことは良くて重傷どまり。最悪の想定では、軽傷と思っている。そして、奴は上層へと逃げた。迷宮から脱出する為には、上層へ進み続ける事が必須なので、俺達は奴と必然的にかち合う事になってしまう。なんだ! このクソゲ―はよぉ!」

 

 思わず湯船に拳を叩きつけてしまう。パシャッ! と、水飛沫があがる。

 運が悪い、というレベルではない。

 

 只でさえワームの出現によって、徹たちは全滅しかけたのだ。

 それに加えて、新たな魔物の出現。

 当然ながら、ワームと死闘を繰り広げた階層以外にも出現しており、何度か交戦した。

 

 今まで戦ってきた魔物の中でもかなり強い。

 シス達の装備が新調されていなければ、苦戦は必至だったかもしれない。

 

 おまけに、パワードスーツに閉じ込められてしまった徹を助けた為、イーナの装備していたスターラインはとうとう燃料切れを起こしてしまった。

 

 今まで頼りにしていた武器は使えない。

 

 一応、殺戮マシーン・デストロイの残骸から遠距離武器を入手する事も可能だ。しかし、スターラインの破壊力に比べれば、聊か見劣りしてしまう。

 

 徹達が現在いる場所は、かなりの下層。

 ワームが下層にやって来る可能性も否めなかった為、出来る事なら更に下へと潜りたかったが、黒いインクの魔物が邪魔で難しかった。

 

「あのー、質問宜しいでしょうか?」

 

 徹が浸かっている湯船の、隣の湯船に浸かっていたシスが手を上げる。

 橙色の髪は水分を吸い、ペタリと貼り付いている。

 

 普段の快活とした彼女とは異なり、何処かしおらしく清楚に感じてしまう。

 

「ん? なんだ?」

 

「件のワームが下層に来ていない現状は気にしなくても問題ないと思うのですが、もしもここにワームが現れた際、私達は一網打尽になりませんか?」

 

「ああ、それに関しては大丈夫だ。奴は地面の微細な振動で、標的の位置を見極める。この銭湯は動く事がなければ、歩くこともないから振動なんて発したりしないし、俺達が銭湯内をドタドタと走り回ったとしても、安心と信頼の日本建築だから何も問題はない」

 

「成程。にほんけんちく、なるものは良く分かりませんが、大丈夫ということですね」

 

「でもさー、振動とか関係なくあのデカい魔物に食べられちゃう可能性もあるよね?」

 

 シスの隣で湯船に浸かっていたサードが、恐ろしい事をさらっという。

 悪戯好きな笑顔はそのままに、ツーサイドアップに結ばれていた髪を下ろしている。まごう事なきストレートヘアー。

 

 髪を下ろす事によって印象が変わるというが、変わりすぎはしないだろうか? メスガキみたいな容姿から、良い所のお嬢様へとジョブチェンジ。

 

 徹の好みとしては、ストレートヘアーの方が好きだったりする。

 

「仮にそうなったとしても仕方がないんじゃない? 今の私達には何も出来ないんだし、考えても無駄」

 

「…………!」

 

 サードの意見に対して、無情な返答をするメイドルと、話の内容を余り理解する事が出来ず、比較的広めの湯船で楽しく泳いでいるイーナ。

 

 水も滴るいい男、なんて言葉があるが、2人には水も滴るいい女なんて言葉が相応しい。髪が濡れてもなお、2人の美しさ、可愛らしさが色褪せることはなく、更に際立っているように感じられる。

 

 後、イーナに関しては湯船で泳いではいけませんよ、と注意すべきなのかもしれないが泳いでいる姿がとても可愛らしく許してしまう。

 

「……まあ、姉さんの言う通りですね。現状においては、考えても仕方がありません」

 

「皆色々と言いたい事はあるけどさ、1つ俺から聞いても良い?」

 

「んー? どうかしたのー? ご主人様?」

 

 手を上げる徹。

 サードはニヤニヤと笑いながら、徹に問いかける。

 徹がなにを言いたいかなんて、分かってる癖に。

 

「どうしたも! こうしたも! ないだろ! どうして! 俺は! 女湯に! 浸かっているんだよ! 普通は! 男湯に! 入るべきだろうがァ!」

 

 経緯をザックリと説明すると、徹が男湯に入ろうとした際、突如としてシス達が乱入。そのまま拘束されてしまい、半ば無理矢理女湯に入れさせられた。

 

「横暴だ! 俺はお前たちの主だというのに! なんなんだ!? これは下剋上だとでもいうのか!? 男性であるにも関わらず、女湯に入らせることによって、社会的な抹殺を狙っている!? 俺は出るぞ! 今すぐ出るぞ! こんな残虐非道な行為、到底許せる訳がないだろうが!」

 

 浸かっていた湯船から立ち上がり、女湯から出ようとする徹。

 勿論、隠すべき場所は隠している。

 が、

 

「駄目ですよ! ご主人様! まだちゃんと湯船に浸かってないじゃないですか! もう少し、ちゃんと浸かってから出て下さい!」

 

「モガ―ッ!?」

 

 徹が立ち上がると同時に、シスも立ち上がる。

 彼女の裸も露わになるが気にする暇はない。何故なら、彼女に両肩を掴まれて、頭ごと湯船に浸かることになってしまったのだから。

 

「良いですか? ご主人様。お風呂は心の洗濯といっても過言ではありません。私の知り合いであるメルシーちゃんはお風呂が大好きな子でしたが、業務が忙し過ぎてお風呂に入る事が出来なかった結果、蛮族のように心が荒んでしまった事があります。ですから! ご主人様もお風呂を、ただ体を洗う場ではなく、自分自身を癒す為の場として浸かって欲しいんです! 分かりましたか?」

 

「モガッ! モゴッ! ガボッ……ゲボッ……ゴボッ、ゴボボボボボ」

 

 シスの話を聞いている暇はない。

 何故なら、現在進行形で徹は溺れているのだから。

 しかも、メイドによる無意識の犯行。

 

 このままでは火曜サスペンスの被害者の仲間入りを果たしてしまう。

 

「お姉ちゃん! シスお姉ちゃん! ご主人様溺れてるから! ちょっ、溺れてるって言ってるでしょうが! 話を聞け! この、馬鹿姉!」

 

 必死に肩を叩き、体を揺らし、耳元で叫ぶも、シスの耳には届かない。

 サードはシスにパンチを食らわせる事によって、徹を救助するのだった。

 

 

 

「あー、酷い目にあった」

 

 徹はコーヒー牛乳を飲みながら、一息つく。

 危うく、殺される所だった。

 当の本人から謝罪はされたが、金輪際女湯に入る事はないだろう。

 

 命の危機に晒されてしまうからだ。

 コーヒー牛乳を飲み干すが、まだ喉が渇く。

 結局、徹はその後も無理矢理湯船に浸かる事になってしまい、体中の水分が抜けてしまっている状態だ。

 

 また、自動販売機からコーヒー牛乳を入手しようとした時。

 後ろから強く抱きしめられる。

 一瞬、誰だ? と思った。

 

 視界の端にちらつく、緑色の髪。

 

「もしかして、サードなのか? お前、また俺を揶揄うつも……」

 

「ごめんなさい」

 

 普段のふざけた態度とは違う。

 真剣そのものな声音。

 

「本当にごめんなさい。私、そんなつもりじゃ無かったの。只、皆で一緒にお風呂に入りたかっただけなの」

 

「……ず、ずいぶんとしおらしいな」

 

 なんと言えば良いのか分からず、思わず変な事を言ってしまう。

 不味い。悪手だ。

 人と話している際、偶に起こってしまう現象だ。場合によっては、冷たい眼差しを向けられる事もある。

 

「そうだよ。私、あんな風に振舞ってるけど、実はとっても臆病なの」

 

 ここで徹は気付く。

 抱き付いているサードの腕が、小刻みに震えている事に。

 

「とても恐いの。私が死んじゃうかもしれない、っていうのもそうだったけど、お姉ちゃん達が。皆が死んじゃうのが、なによりも恐い」

 

「…………」

 

「本当なら、こんな事を考えるべきじゃない、って分かってる。只の不安で片付ける事も出来る。……でも、私達はアレに出会った。一歩間違えたら、全員死んじゃうかもしれない、理不尽な化け物」

 

 だからこそ、サードは求めたのだろう。

 皆との思い出を。

 それは、親の愛を欲しがる子供の様に。

 

 彼女にとって思い出というのは、大切なものなのだろう。

 例え、自分が明日死んでしまうとしても。

 徹は後ろを振り向く。

 

 そこには、目の端から大粒の涙を流す、年相応の少女がいた。

 誰かが手を差し伸べなければ、きっと彼女は泣き続けるだろう。メイドルでも良かった。シスでも良かった。イーナでも良かった。

 

 でも、ここに居るのは徹だけ。

 だから、徹は緑色の瞳から溢れ出る涙を拭う。

 

「お前の期待を裏切るようで悪いが、安心しろ、なんて無責任な事は言えないし、言いたくない。だけど、1つだけ、確実に断言できることがある。明日もきっと、楽しい日になる。馬鹿な事ではしゃぎ合って、下らない事で笑い合って、気付けば眠ってしまうような。そんな日になるよ。だから、泣くな。サード。泣く必要なんて、笑って大丈夫なんだよ」

 

 徹の言葉を聞き、サードは笑みを浮かべた。

 

 

 

 口ではそう言いながらも、根拠なんてものはない。

 だからこそ、大丈夫にしなければならない。

 

「頼むぜ。危機的な状況を変えてくれる切っ掛けってものが存在しているなら、それは正しくお前なんだから」

 

 徹は携帯電話へ。

 否、その中に組みこまれているであろう『ガチャ』に対して語りかける。

 

 大して意味は無いのかもしれない。

 それでも、言葉にする。

 言葉にして、改めて実感して、噛みしめなければいけない。

 

 今、自分達がどこに立っているのか。

 昨日の分と、今日の分も含めて2枚。

 心許ない枚数。

 

 それでも、何か良い物が当たってくれるという確信があった。

 

「頼むぜ。相棒」

 

 徹はガチャを引く。

 

 

・増殖するこけし。

 

 振動を与える事によって増える。

 与えすぎると大変な事になるので要注意。

 

 

・走る! 鉄の処女

 

 良さげな血を持っている奴がいたら走ります。取り込んで串刺しにします。

 音もなく相手の背後に回り込んで、ガバッ! と取り込みます。

 

 

 出現するのは、何の変哲もない見た目をしたこけしと、タイヤと腕が追加されている鉄の少女。

 徹は目元に掌を当てて、天井を仰ぐ。

 

(悪い。サード。やっぱり無理かもしれねぇ)

 

 ガチャを引く際の調子が良いというのは、パチンコ並に信用度が低いことを改めて実感するのだった。

 




イイハナシダッタノニナー。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。