何とも濃密な一日を過ごした。
「そっちはどうだった?」
「1つ1つは難しくありませんが、やっぱり仕事量が多いです。ご主人様の方はどうでしたか?」
「今日はデカいカマキリに追われた」
「カマ、キリ? ……聞き慣れない単語ですが、凶悪な魔物に追いかけられたのですか。無事で本当に良かったです」
なにはともあれ、依頼を複数達成した事によって、それなりの報酬を得た。
とはいえ、それはあくまでも昨日の報酬と比較しての話だ。
客観的に見ると、中々に実入りは少ない。
依頼の報酬以外にも、討伐した魔物の買い取りなども冒険者ギルドは行っている。
部位によって価格は異なっているが、比較的高値で取引される物もある。
それは魔石。
魔物からしか出てこない、魔力の塊。
第2の心臓と呼ばれており、ソレを打ち砕く事によって魔物は大幅な弱体化を食らう、という話もある。
尤も、魔石は報酬が美味しい為、壊すよりも回収した方が良い。
主な使用用途は、エネルギーの代替。
迷宮都市内に存在する街の明かりや街灯。噴水や、料理を行う際に使用する炎。こういったインフラは、エネルギーの消費が馬鹿にならない。
魔石はエネルギーの代替品となる為、高値で取引されているのだ。
首狩り兎程度の魔石は余り高くない。今日、出会った巨大なカマキリを討伐する事が出来れば、もっと質の高い魔石を手に入れる事が出来たかもしれない。
(そもそもの話にはなるが、迷宮を攻略している最中に魔石の存在に気付く事が出来ていれば……いや、今更か)
迷宮攻略時は、かなりの数の魔物を討伐していた。
おまけに、静か平原の魔物達とは比べ物にならない程の強敵。
もし倒した魔物の魔石を全て換金したら、一体どれだけの金額を得る事が出来たのだろうか? 考えても仕方がないが、考えずにはいられない。
「あ、そうだ。ご主人様。話は少々変わるのですが、宜しいでしょうか?」
「うん? どうかしたのか?」
手を上げるシス。
彼女はなんて事もないように、こう言った。
「私達、恐らくは監視されています」
「……うん?」
一瞬、何を言っているのか分からなかった。
「あれ? もしかして、聞こえませんでしたか? 分かりました、もっと大きな声で言いますね。わ! た! し! た! ち! は!」
「お姉ちゃん。近所迷惑になるから止めよう。後、ご主人様は多分聞き返した訳じゃないと思うよ」
安宿であるが故に、壁は薄い。
隣にも利用者がいる。
後で文句を言われてはかなわないと、サードがシスの頭を強めに叩く。
「それで、監視されてるってどういう意味なんだ?」
「言葉の通り。最初は気のせいかな? と思ったけど、依頼が終わるまでの間、ずっと誰かの視線を感じていた。多分、通行人とか、客とか、遠くから眺めてたと思う。恐らく、1人だけじゃない」
「マジかよ」
説明をメイドルが引き継ぎ、淡々とした口調で説明。
本人の声音に焦った様子はないが、その内容はとんでもない。
「……って事は、俺達が依頼を受けていた時も、監視の目があったって事なのか?」
『それに関しては問題ない。此方の方で対処しておいた。一応説明しておくが、殺してはいない。攪乱しただけだ』
徹の疑問に答えてくれたのは『梟』。
ボイスチェンジャーによって、声質は低めに設定されているが、心なしか誇らしげに聞こえた。
「つまり、俺達全員をマークしてるって訳か。……でも、どうしてだ? 俺達、監視されるような事は……」
その瞬間、脳内に流れる醜態の数々。
4日という極めて短い期間ではあるものの、思い当たる節が多すぎた。
「……不味いな。一体、どれが原因で俺達は監視されてるんだ?」
「原因はどうあれ、向こうは未だ監視という手段を取っているだけです。ですが、コレから先、監視以上の何かが発生してしまう可能性も否めません」
シスは取り乱す事なく、冷静にいう。
「お前の言ってることは正しい。でも、どうするんだ? 原因が分からない以上、迂闊に行動する事は出来ない」
「いや、違うよ。ご主人様。寧ろ、その逆だよ」
サードは首を横に振り、徹の言葉を否定する。
「お姉ちゃんの言う通り監視から、それ以上の何かに変わる可能性は高い。でも、現状は監視に留めているという事は、私達がボロを出してない証拠だよ。……まあ、今日なにかしら取り返しの付かない事をしてしまい、明日向こうが本格的に動き出す、って可能性も決してゼロじゃ無いんだけど。……そうなった時は諦めようね。ご主人様」
徹の肩に手をポンと置き、諦観の笑みを浮かべるサード。
思わずズッコケそうになった。
「要は現状維持。向こうが監視という体裁を保っている間は、此方からは何のアクションも起こさない。寧ろ、向こうに気取られないように、変に意識した行動は控えて普段通りに過ごす。……恐らくは、そんな所だと思う」
青色の髪を指先に絡めつつ、分かり易く説明してくれるメイドル。
話には参加していたもののよく分かって居ないイーナは、既にベッドの中ですやすやと眠っている。
安らかな寝顔に癒される。
「ま、そんな所か。でも、スキルを発動する際は、なるべく人に見られないように気を付けておいた方が良いな」
徹の場合、呼び出したりする際は目の前にアイテムが出現する為、注意が必要だ。
「そうですね。私達の方も、スキルはなるべく行使しないように心掛けておきます。何が原因で、大変な事態に陥るか分かりませんから」
分けたグループを元に戻すか? という話もあったが、向こうに勘付かれる可能性がある為、却下になった。
暫くの間は、手分けして依頼をこなす日々が続くだろう。
「気晴らしにガチャでも引くか」
「え? 引くの? ご主人様? 多分、碌な物しか当たらないのに?」
「んな訳があるか! 俺は類稀なる幸運を持つ、いわばラッキーボーイだぞ! 単発で最高レアを引く程度、造作でも無いわ!」
早速、徹はガチャを引く。
果たして出てきたのは。
・東雲のパンツ
お気に入りの品であった為、失くしてしまった東雲はかなりショックを受けている。
履くもよし、頭部に身に付けるもよし。
衣服にも防具にもなる優れもの。
「いや、本人に返してやれよ!」
現れたのは一枚のパンツ。
黒を基調とした、レースがあしらわれており、大人びたデザインが特徴的だ。
ふと、視線を感じた。
冷たい視線を。
「うん。まあ、別に良いんじゃない? ご主人様にとっては、碌な物じゃ無かったみたいだし。寧ろ、大当たりって言っても良いと思うよ。良かったじゃん、ラッキーボーイ」
「止めて! そんな、罵倒するようなニュアンスで、俺をそんな風に呼ばないで! 俺はもっと祝福されるような感じで呼ばれたかったのに!」
「ご主人様。その、ご主人様がどのような趣味を持っていたとしても、私は誠心誠意仕えるつもりではありますが、出来れば私達の目の届かない所でして欲しいかな、と思っておりまして」
「なんの趣味だよ! 被るのか!? もしかして、お前は俺がこのパンツを被るとでも思ってるのか!? 何もしないよ! 人様のパンツ、好き勝手する趣味なんて俺にはないよ!」
「これ、とてもエッチ。ご主人様はこういう下着が好きなの?」
「そんな訳……ない、訳でもありません、けど……!」
ハズレを通り越して、最悪に近い。
徹の絶叫が室内に響き渡り「うるせぇぞ!」と文句を言われるまで、徹の言い訳は続くのだった。