弾切れ。
銃火器という武器は強力ではあるものの、異世界においては避けて通れない課題だ。無論、スキルか何かで代用する事が出来れば特に問題はないが、徹達はそう言ったスキルを持っていない。
そもそも、こう言った問題は初めてではない。
かつてイーナの使用していた、強力な武器である光線銃スターラインVer2.4。あれもエネルギーが切れてしまい、使えなくなった。
解決策としては、代替品を見つける事。
もしくは、使えなくなった原因を取り除くしかない訳だが、この世界は剣と魔法のファンタジーな世界。
銃とは無縁の世界だ。
弾丸が無くなってしまったなら、新しく作ったり、買えば良いじゃない、という発想にはならない。
「い、一応……だ、弾丸は多めに、持って来たん……です、けど。依頼主や皆さんに、良い所を見せるんだー、って張り切り過ぎたら……こんな状態に……なりました」
『梟』は自身の愛銃である狙撃銃を見せてくれる。
無骨で物々しい。人を殺す為に作り出された武器。持ち主である『梟』が大切に扱っている為なのか、全体的に奇麗だ。
仮に狙撃銃の代わりを徹が持っていたとしても、恐らく『梟』は受け取らない。彼女は自身の狙撃銃を大切にしているから。
唯一の解決策は弾丸を手に入れる事。
残念ながら、徹は弾丸を持っていない。
しかし、持ってはいなくても、幸いにも手に入れる手段は持っている。
「どうにかする事は難しいかもしれない。でも、俺なら可能だ。このラッキーボーイ、渡辺 徹の手に掛かれば、君の悩みなんてあっという間に払拭出来る筈だ」
「さ、流石は……依頼主。……お、お願いします!」
前髪を手で搔き上げながら、キメポーズ。
『梟』は尊敬するような眼差しで、徹を見つめる。
実に気分が良い。
「さあ! 刮目せよ! そして、俺の運の良さに震えろ!」
尚、当たらなかった時の事は考えていない。
勝負に望むというのに、何故敗北した時の事を考えなければいけないというのか? 何時だって、想像するのは勝利した自分の姿。
徹はガチャを引く。
それから数分後。
「……して……どう、して……」
爆死という名の現在を背負う、哀れな男は部屋の隅で転がっていた。
目から涙が流れ、水たまりを作らん勢いだ。
『梟』はどうして良いのか分からず、オロオロとしている。
最初の一回目はログインボーナス。
結果は、
・マイホーム
誰もが一度は夢見てしまう、自分だけの家。
夢のマイホーム。
家の中には家具が一通り揃っている。
庭に、風呂に、ピアノまで。
愛しいお嫁さんと一緒に、ここで幸せな家庭を築きましょう!
可もなく不可もなく、という結果だ。
そもそも、今の今まで彼女すら居た事がなかったというのに、嫁と暮らす家など貰っても全く嬉しくない。
嫌がらせか! と叫びたくなった。
なにはともあれ、ハズレ。
徹の目当ての品ではない。
ログインボーナスは終了。
普段であれば、ここでガチャは終了する所だった。
しかし、ガチャを引く者にとっての頼もしい味方。「ミッション」が存在している。ミッションを意識して達成した事はないが、いつの間にか達成している事が多い。
それ狙いで「ミッション」を確認してみると。
・ガチャを50回引こう。
・ログインを30日、行おう。
の2つが達成されていた。
達成報酬として得たのは、コイン5枚。
10連に比べればやや見劣りしてしまうが、貴重なコインだ。そして、ガチャを引く回数が多くなるという事は、目当ての品が手に入る確率も高くなるという事。
徹はまだ、終わってなどいない。
「二回目!」
・漢字ドリル
小学一年生向けの漢字ドリル。
例文の途中が穴抜けになっており、そこに適切な漢字を書く。小学一年生から六年生まで販売されている。
「ハズレ! 次、三回目!」
・リアル脱出ゲーム(販売禁止)
フルダイブ用のゲームソフト。
内容は、迷宮からの脱出。罠や化け物が配置されている。痛みや感触などを極めてリアルに再現しており、リアル過ぎる為に怪我人が続出。
販売が禁止されてしまい、現存しているソフトは極めてレア。
「そもそもゲーム機本体を持ってないわ! ハズレ! 次、4回目!」
・成功者のいろはーこれで君も成功者になれる!
自己啓発本。
レビュー評価は脅威の星1.5。
「評価低すぎるだろ! 絶対、古本屋の100円コーナーに売られてる奴じゃねぇか! ハズレ! 次、5回目! 頼む、何か良いの来てくれ! この調子で終わったら、俺の精神がもたねぇよ!」
・香川のうどん
香川県の名物。
コシがあり、とても美味しい。
「グァァァァァ!? また、ハズレだァァァァァ!」
まごう事なきハズレ。
物理的なダメージなど受けていないにも関わらず、徹の体は吹き飛ばされ、建物の壁に体を強く打ち付けられる。
もしかすると、自分は悪い夢でも見ているのではないだろうか? ガチャを引いた回数は5回。にも関わらず、目当ての品は出ていない。それどころか、個人的に良いと思える品だって出てきていない。
引き当てたのは、全て微妙なものばかり。
香川のうどんは何に使えば良い? コシが凄いから、ロープの代わりになれますよ、とでもいうつもりなのか? 自己啓発本はどう使えば良い? レビュー評価1.5とか、薪の代用品にしかならないだろ。漢字ドリルも意味無いし、ゲーム機本体のないゲームソフトなんて、パンのないサンドイッチと変わらない。
唯一使えそうなのはマイホームだが、何だか腹が立ってくる。
「俺は無力だ! 幸運が欲しいのに、自分の手で掴み取る事が出来ない! 誰か、誰か俺を助けてくれ! この、永遠に抜け出せない地獄の螺旋から、俺を助けてくれ!」
床に膝をつき、その場で打ちひしがれる徹。
救いの神など存在していない。
そう思っていた。
しかし、確かに存在していた。しかも、すぐ傍に。
「あ、あの……その……えっと、良ければ、わ、私がァ! ……ひ、引きましょうか? 依頼主の代わりに」
「……良い、のか? お前に、そんな宿命を背負わせても」
悪くない提案だ。
以前、サードが徹の代わりにガチャを引いた際は、徹よりも良い結果を出した。
『梟』もサードと同じように、良い結果をもたらしてくれる可能性は低くない。
(だが……! 例えそうだったとしても! いや、そうだとしたら、相対的に俺の運は低いという事が証明されてしまう! だけど……もしも『梟』が引いた際、微妙な結果だったとしたら? ……ッ、俺は一体、何を考えているんだ! そんな事を、考えるべきじゃないんだ! 今は、何かしらの結果を残さないと!)
葛藤は一瞬。
徹は全てを『梟』に託す。
「頼む。『梟』。俺は、お前に全てを託す」
「あ、は、はい! が、頑張ります! あ、後、私は『梟』って呼ばれてます、けど。本当の名前、は……パレット、と言うので、今度からは、そう呼んで頂けると、嬉しい……です! はい」
『梟』改めパレットはガチャを引く。
良いのが当たって欲しいという気持ちと、悪い結果であって欲しいという気持ち。二つが胸中の中で反発し合いながら、徹はガチャの結果を見届ける。
果たして、結果は……!
・カードバトラー玲
「え?」
一体、誰が発した声だったのだろうか?
説明文はない。
しかし、目の前に現れるソレ。
それが意味するのは、つまり。
「うわぁぁぁぁぁ!? ユニットだぁぁぁぁぁ!」
嬉しさと悔しさ。そして、自分の運は割と悪いのかもしれない、という事実に気付きかけて、徹はその場で気絶。
対する、パレットはというと。
「よぉ! 俺の名前は玲! 情熱 玲、って言うんだ! ここが一体どんな場所なのか知らないけど、俺と一緒にカードゲームしないか! 今、初めてあったばかりだけど、きっと俺達は友達になれると思うんだ!」
太陽と形容してもよい、邪気のない澄んだ笑顔。
ソレを向けられた瞬間に、パレットは発狂した。
「ギャァァァァァ!? よ、陽キャだァァァァァ! こ、怖いィィィィィ! わ、私に近寄らないでェェェェェ!」
玲から急いで距離を取ろうとして、足を躓く。
そのまま体を強く打ち付け、そのまま気絶。
残ったのは、召喚されたばかりのカードバトラー玲。
基、情熱 玲ただ1人だけだった。
「……へ? これ、どういう事?」
なにがなんなのか分からない。
目が点になり、ただただ困惑するのだった。