ガチャ×異世界=混沌   作:ロドリゲウス666

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メイドの名案

 

 

 

32日目。

 

「うーん、やっぱり不安だ」

 

「まだそんな事を言ってるんですか? ご主人様。既に、相手方は到着してるんですから、私達が遅刻するのは失礼にあたりますよ」

 

 昨日、シスは提案を行った。

 800万ガレアという大金を、一瞬で返済する方法を。

 違法じゃ無ければ、裏技でもない。

 

 ある意味、当初考えていたコツコツ働くという手段と同じ方法だ。

 以前、売る事の出来なかったアイテム「コイン」の売買。

 徹がガチャにて引き当てた、凡そ使い道のない物と思われていたが、その実「コイン」は100%混じり気のない金によって構成されている。

 

 この世界においても金の価値は凄まじい。

 ましてや「コイン」の重量は数十kg。金額に換算すれば、莫大な量となる。しかし、高価過ぎるが故に、普通の店では買い取って貰えないというデメリットも存在していた。

 

 だが、シスには繋がりがあった。

 否、正確にいうならシスを始めとするメイド三姉妹達に。

 彼女達は今の今まで、迷宮都市内での依頼をこなしていた。依頼をこなしながら、迷宮都市の住人達と親睦を深めていたとしても珍しい事ではない。

 

 そして、その迷宮都市の住人の中に「コイン」を買いたいという人物が現れた。なんとも凄い偶然があったものだ。

 

「まあ、その人とは偶然出会った訳じゃありませんが。私達が受注した依頼の依頼主だったんですよ。確かこう、部屋がバァッ! と血で汚れちゃっていたので、それを私達が掃除していくという依頼でした」

 

「うん。ちょっと待て」

 

 普通の掃除の依頼かと思いきや、普通では無かった。

 思わず話を止める。

 

「え? なに? そんなスプラッター過ぎる場所を掃除したの? 大丈夫だったの? 依頼を達成し終わった後、お前は用済みだとか言われて殺されなかった? 或いは、得体のしれない化け物とか現れなかった?」

 

「心配しすぎですよ。ご主人様。私達はメイドなんですから、ちゃんと真面目に仕事はこなしたに決まっているじゃないですか」

 

「そこら辺は全然心配していないよ? お前らってとても優秀だから。でも、コレから取引する相手に対する信用度がガクッって下がったんだよ。他に、何かないの? その人の、人となりを知る事が出来るエピソードとか」

 

 そもそも、どうしてヤバそうな依頼が冒険者ギルドに存在していたのか?

 考えれば考える程、不安に苛まれる。

 

「他には、掃除していると定期的に胸や尻を触ろうとしてきたり、こんな場所よりももっと稼げる場所があるから、俺に付いてきなよ。ゲッヘッヘッヘと笑いながら勧誘されたり、私達が高級な品を持っているってうっかり口を滑らせてしまった際、目の色が変わってしまった事ですかね?」

 

「……んなもん相手に、よく取引持ちかけたな。胡散臭いとかそういうレベルじゃ無くて、そもそも取引が成功出来るかも怪しいだろ」

 

 話を聞く限り、信用出来る部分がない。

 徹は顔を合わせた事はないが、どういう人物なのかなんとなく想像がつく。

 行きたくない。

 引き返した方が懸命かもしれない。

 

「安心して下さい。確かに、態度は宜しくありませんでしたが、此方だって様々な業務に携わってきたメイドです。こういった面倒事はさりげなく回避しつつ、仕事をこなす事は造作でもありません」

 

「違う。そうじゃない」

 

「後、うっかりを口を滑らせてしまったメイドル姉さんに関しては、もう二度とあんな事を言わないように、と叱っておいたので大丈夫です」

 

「しかも、口を滑らせたのはメイドルかよ! 一体、どういう話の流れでうっかり口を滑らせる事態になるんだよ!」

 

 不安だ。とても不安だ。

 シスから話を聞いても尚、何一つ安心できる要素が存在していない、って辺りが不安に拍車をかける。

 

「因みに、サードの人物評によると自分よりも下の相手に対して、自分を良く見せようとしたり強く見せようとしたりするが、自分よりも明確に上である相手に対してはこびへつらう事によって難を逃れようとする小物、らしいですよ」

 

「ですよ、じゃねぇ! 話を聞く限り、俺達相手には強気にでるじゃねぇか! なんなら、取るに足らない存在だと見なされて、アイテムだけ強奪されるって可能性もあり得るじゃねえか! コレを聞いて、俺にどうしろって言うんだよ!」

 

 昨日、シスに任せて今現在。

 取引までこぎつけたのは良いものの、取引相手の説明を聞く限り、取引が成功する確率はかなり低いように思える。

 

 シスに全てを任せたのは間違いだっただろうか?

 或いは、彼女の持つスキル『ドジっ娘』が別の形で発動されたのだろうか?

 どちらにしても、徹達に逃げ道はない。

 

 800万ガレアを入手できなければ、長い時間をかけて金を稼がなければいけなくなる。そんなのは、まっぴらごめんだ。

 

「……色々と言いたい事はあるが、早速取引場所に向かうか」

 

 徹達が今居る場所は、迷宮都市において尤も治安の悪い区画だ。

 昨日も、徹が訪れた場所。

 パレットの隠れ家があった場所だ。

 

 周囲に立ち並ぶ建物は、廃材などを積み上げて作られた、廃墟同然の建物。おまけに、薄暗い暗闇に目を向ければ、怪しく爛々と光輝く瞳が此方をジッと見つめてくる。

 しかし、誰も徹達に襲い掛かって来るものはいない。

 手を出したらヤバイ奴だと思われているのだろう。

 

「一応、向こうが出して来た要求について、もう一度だけ確認しておくか?」

 

「はい。そうですね!」

 

 徹からの提案に対して、シスは快活とした声で返答。

 シスの尽力によって「コイン」の取引を行う事が出来た。しかし、無償でやってくれるという訳ではない。

 

 向こうは取引に際して、幾つか要求して来た。

 1つ目は取引場所の指定。

 今、徹達が辿り着いた場所だ。

 

 2つ目は身元がバレないように、対策しておく事。

 取引は万全を期して行われる。しかし、何処で誰が見ているのか分からない。見られたとしても、正体がバレないように保険を打っておく。

 

 尚、徹達は頭部に紙袋を被る事によって、自分達の正体を隠している。本当にこれで良いのだろうか? という不安がない訳ではないが、現状徹達にはお金がないし、手頃な仮面なども存在していない。

 

 泣く泣く紙袋を代用品として使用する。

 そして、3つ目。

 これが一番重要だ。

 

 シスを含め、取引場所に来て良いのは4人まで。

 つまりは人数制限だ。

 取引を結んだシスは当然として、彼女の主である徹も何故か行く事になった。残りの2人に関しては、誰が行くべきなのか大いに揉めてしまったが……。

 

「本当に来て良かったのか? 玲君。俺の直感が正しければ、碌な事にはならないと思うよ。なにせ、こんな場所を取引場所として指定してくる奴だからな」

 

 徹の隣にいるのは、緊張でカチカチになっている玲。

 装いは昨日と変わっていない筈なのに、妙に角ばって見えてしまう。

 表情にも余裕が見えず、自分を取り巻く現状を理解する事で一杯一杯という風に見える。

 

「……分かってる。兄ちゃん。多分、兄ちゃんがコレからやろうとしている事は、とっても危険な事なのかもしれない。でもさ、兄ちゃん。原因を辿るなら、俺なんだ。俺がこんな事をしなければ、皆に迷惑をかける必要も無かった。だから、俺は行かなくちゃいけないんだ。自分のやった事の責任を取る為に」

 

 恐らくは怖いのだろう。

 それでも、手をギュッと強く握り締める事によって、必死に耐え続けている。

 だから徹は何も言わない。

 頭を優しく撫でて、エールを送るだけだ。

 

『彼の選出に関しては、私としても異論はない。だが、どうして最後の1人が私なんだ? 他にも、適任者がいると思うが?』

 

 頭の中に響いてくる音。

 パレットの声だ。

 

 直接会った時は女の子らしい声だったが、ここでは相も変わらずボイスチェンジャーを使用している。

 性別の判別が付かない低い声だ。

 

「適任者っていうなら、俺は除くべきだと思うぜ。なにせ、お前らは3つもスキルを持っているのに、こっちは1つしかスキルを持ってないんだから。……で、お前を選んだ理由は至極単純。周囲への警戒だ。シスの話を聞く限り、安心出来る要素が微塵もない。もしもの事態が発生した時、1人だけ姿が見えないっていうのは大きなアドバンテージにもなる」

 

『成程。私がすべき事は、普段と変わらない、という事か。分かった。周囲への警戒に努め、何かあれば私が動こう』

 

「宜しく頼む。……話は変わるけど、お前って直接顔を合わさなければちゃんと話す事が出来るんだな」

 

『グギッ……ま、まあ、そう……だな。昔は通信機越しだったとしても、全然駄目だったんだが滅茶苦茶努力して、なんとかまともに話せるようになったんだ。……正直、死んだ方がマシなんじゃないか? って、何度考えたかも分からんが』

 

 どうやら藪蛇だったらしい。

 明らかに声のトーンが落ちている。

 パレットにとっては、思い出すのも嫌な出来事なのかもしれない。

 これ以上触れるのは止めよう。

 

「そ、そうか。取り敢えず、宜しく頼む」

 

 パレットとの通話を終える。

 

「ご主人様。到着しましたよ」

 

「兄ちゃん。心ここに有らず、って感じだけど気を付けろよ。転んだりしたら洒落にならねえんだから」

 

「ああ、ありがとう」

 

 そして、とうとう徹達は目的地へと到着した。

 今まで見てきた光景とは、やや趣きが違う。立ち並ぶ建物の数は少なく、その代わりを露出した荒地が補っている。

 

 点々と、点在している荒地。

 視界に広がる光景は、建物が荒地を侵食しているのではなく、荒地が残った建物達を食い荒らしている風に思えた。

 

 いずれは、ここら一帯に存在している全てが荒地へと変わり果てるのではないか? そのような不安を想起させる。

 取引相手はいた。

 

 沢山の部下を引き連れて。

 ニヤニヤと、嫌らしい笑みを浮かべながら。

 

「どうもこんばんは。シスさんと、その主人とお仲間方の皆さん。本日は、互いに実りのある取引を行いましょう」

 

「はい。宜しくお願い致します」

 

 シスが前に出て、取引を行う。

 徹はその背後に立ち、ぼんやりと取引の行方を眺めていた。

 此方は4人に対して向こうの数は圧倒的に多かった。多分、50人は下らないだろう。

 

(……あれ? こいつら、裏切る気満々じゃね?)

 

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