強そう(小並感)。
7日目。
普段の地面の固い感触とは違う。
柔らかい感触。
徹はゆっくりと目を覚ます。
眼前に飛び込んで来るのは、見知らぬ美少女が1人。
彼女は誰?
「お目覚めになりましたか? ご主人様? 急に倒れてしまった時は心配しましたが……どうやら大丈夫なようですね。安心しました」
腕を伸ばし、髪を撫でて来る。
本当に誰だ?
美人に頭を撫でて貰えた嬉しさよりも先に、恐怖を抱いてしまう。
「……えっと、貴方はどこの何方様でしょうか?」
「あ、私とした事がうっかりしていました。初めまして。私の名前はシス。シス・ランタンと言います。ランタン家の次女であり、ご主人様にお仕えするメイドの内の1人です」
太陽のように眩しい笑顔を向けて来る、シスと名乗る少女。
だんだんと思い出して来る。
昨日。徹はミッション報酬として手に入れたコインを使い、彼女を――基、美少女メイド三姉妹を引き当てたのだ。
(というか、明らかにアイテムじゃないよな? 人……もしかして、ガチャから出て来るラインナップって、アイテムと人で分かれている?)
ゲームでもよくある方式だ。
「と言うか、どうして膝枕してくれているのでしょうか?」
――膝枕。
そう。今現在、徹はシスの膝を枕にして眠っていた。
出来れば止めて欲しい。
徹は2日前からお風呂に入っていない。幾ら清潔であるように心掛けていても、限度という物がある。
おまけに、シス達が身に纏う衣服はメイド服。上等な生地を使用しており、汚れてしまっては申し訳がたたない。
「ご安心下さい。ご主人様。なにも、ずっと私が膝枕をしてる訳ではありません。三姉妹でそれぞれ、時間を決めて順番にご主人様に膝枕をしているんです」
全然安心できない。
1人だけでも不味いのに、三姉妹全員で交代制。ヤバイ。不味い。恥ずかしい、というレベルではない。
「あの、もう止めても大丈夫です。というか、俺、今までお風呂に入っていなくて、体も汚いので……あの、本当に……」
「はい。今のご主人様は汚いかもしれません」
よし、死のう。
汚い上に臭い。美少女の口から、直接そのような事を言われたのだ。
死んで償わないといけない。
徐に立ち上がり、壁に頭を打ち付けて死ぬとする。
「な、何をしてるんですか!? ご主人様!? ちょっ、姉さん! サード! 早く、早く止めないと!」
「死んじゃ駄目」
「離せェェェェェ! 俺は不潔なんだ! 楽にさせてくれェェェェ!」
ポニーテールに結ばれた、青髪のメイドと、ツーサイドアップに結ばれた、緑髪のメイドの2人に両腕を掴まれてしまう。
今までまともな食事を取っていないのが災いした。
まともに身動きが取れない。
「だ、大丈夫だよ。ご主人様。確かに、ご主人様から変な匂いとかするけど、全然私達なら我慢できるから……」
「うん。死ぬわ」
頭を打ち付ける事が出来ないなら、舌を噛み切って死ぬのみ。
「サード! 貴方は、どうしてそんな事を言うの! 幾ら本当の事とはいえ、言って良い事と悪い事があるでしょ!」
「お姉ちゃん! お姉ちゃんも言ってる! ご主人様の傷口を、抉っちゃってるから!」
2人だけでは止められないと判断し、シスも参戦。
必死になって、徹の自殺を止める。
「俺を死なせてくれェェェェェ!」
美少女に臭いと言われた。
汚いと言われた。
もう、生きている意味なんてない。
徹は心の底から絶叫するのだった。
「結局、三人って一体なんなんですか?」
3人の尽力もあり、徹は自殺する事を止めた。
しかし、心は死んでいる。
臭い。汚い。
脳裏を過るのは、小学生時代のトラウマ。
隣の席の女子が落とした消しゴムを拾った際、嫌そうに顔を顰めた上に、舌打ちされながら「……汚な」と呟き受け取った苦すぎる思い出。
以降、彼女と関わる事は無かったが、彼女は今も元気にしているのだろうか?
「ご主人様の疑問は尤もだと思います。ですが、私達はご主人様に仕えるべきメイド。敬語など不要です。普段の口調で話して下さい」
「え? いや、それはちょっと……」
断ろうとしたが、シスは悲しそうに目を伏せる。
卑怯だ。
これでは断る事は出来ない。
「分かったよ。普段の口調で話せば良いんだろ? 分かったから、そんな顔をするのは止めてくれ」
「ありがとうございます。話を戻しますが、ご主人様が聞きたい事は恐らく、私達はなんなのか? という事ですよね?」
徹は頷く。
ガチャからアイテムが出て来るのはまだ良い。
訳の分からない品が出て来る事も、100歩譲ってもまだ良い。
だが、人間が出て来るというのはどういう事なのか?
アイテムだけではなく、人間までもが出て来てしまうとなれば、自身が持つスキル「ガチャ」の評価を改めなければいけないかもしれない。
(……いや、そうでも無いか。ガチャから出て来る物って、大半がガラクタだし)
脳裏を過ったのはガチャを引いた際に出て来た成果の数々。
要る物よりも、要らない物が多いというのはどう言う事なのだろうか?
「最初に言うと私達三姉妹は人間です。人族、と言い換えても良いかもしれません」
「って事は、元々多数の種族が生きている世界に住んでいた、って事なのか?」
徹の質問に対して、シスは頷く。
若干、予想していた事ではあったが、如何やらシス達も異世界の住人らしい。彼女達の身なりから予測するに、恐らくはここと同じファンタジー世界の住人。
「ですが、何故私達がここに召喚されたのか? その、具体的な理由まで分かりません。……いえ、覚えていないと言った方が良いと思います」
「私達には召喚される前。直前の記憶がない」
青髪の少女が水晶のように澄んだ瞳で、虚空を見つめつつ言う。
シスから、姉さんと呼ばれていた少女だ。
名前は……。
「そう言えば、自己紹介がまだだった。私の名前はメイドル。三人の中で、一番のお姉さん。宜しく」
「お姉ちゃんの言う通り。気が付いたら、ここに居たって感じだよ。けれど、私達が何をするべきなのか? とか、与えられた力をどの様に扱えばいいのか、とかは何となく理解する事が出来るんだよね」
メイドルからバトンタッチされるように、補足説明を行うのはニコニコと笑うツーサイドアップの少女。
三姉妹の中で一番幼く、悪戯好きな笑みを浮かべている。
「確か、君はサードって名前だったよな?」
「そうだよ。三姉妹の三女。サードちゃんでーす! 宜しくお願いしますね。ご主人様」
「こら! ご主人様に対して、そんな失礼な態度を取るんじゃありません!」
サードの軽すぎる態度に、シスの拳骨が炸裂。
その場で悶絶してしまう。
「具体的に説明して貰う事って可能か?」
「はい。私達のすべき事は、ご主人様のメイドとして誠心誠意お仕えする事。そして、与えられた力と言うのは……恐らく、ご主人様が持っている魔道具で見る事が出来ます」
魔道具? と首を傾げてしまうが、恐らくは携帯電話の事だ。
促されるがままに、徹はアプリを開く。
「あ、新しい項目が増えてる」
項目の名はユニット。
デフォルメされたイラストと、美少女メイド三姉妹という名前。
取り敢えず、タップしてみる。
・メイドル・ランタン。
スキル『ドジっ娘』『呼出:ウィンドワンド』『作成:オムライス』
・シス・ランタン
スキル『ドジっ娘』『呼出:水の珠』『作成:カレーライス』
・サード・ランタン
スキル『ドジっ娘』『呼出:ヒートクック』『作成:ハンバーグ』
三人の持つスキルがズラリと並ぶ。
(あれ? 俺が召喚された時に聞いた話だと、スキルは原則1人1つまでって話だったんだけど……)
それも気になるが、それよりも気になる物があった。
「あのさ。『ドジっ娘』ってスキルを三人とも持ってるけど、これってどういうスキルなんだ? 何というか、字面からヤバそうな雰囲気が漂ってくるんだけど」
「ああ。それはですね……」
説明しようと、此方に近づいてくるシス。
何も無い場所で、突然すっ転んだ。
「ヘブッ!」
「お姉ちゃん!? 大丈……ヘブッ!」
「2人共、だいじょう……ヘブッ!」
倒れたシスに駆け寄ろうとしたサードも、勢いよく転ぶ。
2人を助けようとしたメイドルも勢いよく転ぶ。
何となく、スキルの詳細が見えてきた。
同時に1つのユニットであるにも関わらず、3人現れた理由も。
「……こんな感じです」
「ゴミスキルじゃねぇかァァァァァ!」
徹は思わず叫んでしまった。