このたびプロジェクトセカイが5周年を迎えたということで、自分でもいつ書いたかわからないほど前に書いた小説をここに投下しようと思います。
書いたのが昔過ぎるので現在明らかになっている設定と全く違う部分があるかもしれませんが、笑って許してください。
それでは、本編をどうぞ。
夜空の原点
【星乃家】
「くぁ~あぁ……」
見慣れた景色に、差し込む朝日。1人の少年は眠い目をこすりながら、寝起きらしい足取りでリビングへと向かう。
今しがた大あくびをかました彼の名前は
「おはよう、夏夜。今日は早いのね」
「おはよ……んぅ、ねむい……」
「顔洗ってこーい。起きられるぞ?」
「うん……そうする……」
父親に催促され、夏夜が顔を洗いに洗面所に行った少し後。別の部屋から、1人の少女が現れる。
「おはよう、おかあさん」
「一歌、おはよう。今日はお兄ちゃんの方が早かったね」
「むう……」
彼女はこの家の長女、
そこへ、顔を洗いに行っていた夏夜が帰ってくる。
「いちか、おはよ」
「おはよう、おにいちゃん」
「はい、朝ごはんにしましょ。席について」
「「はーい」」
2人は仲良く隣の席に着く。この兄妹は傍から見ても仲が良く、いつも一緒だ。その光景を、両親は微笑ましく思った。
「「いただきます」」
かくして、星乃家に生まれた2人は今日も仲良く過ごす。そんな、幼少期の一幕。
やがて場面は飛び、夏夜は小学3年生に、一歌は2年生になった。一歌は
されど、星乃兄妹の関係はあまり変わっていない。相変わらず2人はとびきり仲の良い兄妹だ。強いて変わったことを挙げれば、夏夜が音楽にふれはじめ、それに影響されるかのように一歌がバーチャルシンガーの楽曲にのめりこみ始めたことだろう。
「一歌、またミクの曲?」
「ううん。ミクじゃなくて、GUMIが歌ってるんだ」
「そっか」
そういって、再びボカロ鑑賞に戻る一歌。それを見た夏夜は、静かに扉を閉めた。そして自分の部屋に戻り、7歳の誕生日に買ってもらったギターを手に取り弾き始める。
「……今度の誕生日にあれを演奏したら、喜ぶかな」
そうつぶやきながら、動画サイトで一歌が聞いていた曲を検索、フレーズを耳コピで一節一節覚えていく。
そして誕生日にサプライズで拙いながらも弾いたその曲は子供らしくたどたどしいものだったが、一歌だけでなく幼馴染にもとても喜ばれた。サプライズ演奏は大成功に終わり、夏夜は顔を綻ばせるのだった。
やがて更に時は過ぎ、あっという間に夏夜は小学6年生、一歌は5年生になった。
このころから一歌の幼馴染の1人である咲希の容態が悪くなることが多くなった。両親が咲希につきっきりになってしまい、必然的に1人になる司。それを見かねた夏夜は司と一緒に行動することが増えた。そんなある日、夏夜は司からの相談を受けることになる。
「なぁ、夏夜」
「なに?」
「オレは……咲希に何をしてやれるだろうか」
「……なんで急にそんなこと聞くの? 司っぽくないじゃん」
小学校高学年に入ったあたりから、司は「オレはスターになる!」と声高らかに宣言するようになった。傍から見ればそれは変人に当たる行動だったが、夏夜はその夢を素直に応援していた。
だからこそ、今のような態度を取るのは
「いや……。咲希は今も必死に病気とたたかってる。けど、元気なオレは咲希に何をしてやれるんだって思ってな……」
「うーん……。祈る、しかないんじゃないか?」
「なに?」
「俺たちは子供だし、子供にできることなんて少ないと思う。だからできるのは、咲希が少しでも早く元気になるよう祈ること。それだけなんじゃないかな?」
まだ小学6年生であったが、夏夜は他の小学生と比べ少し達観した、あるいはどこかズレた考えを持っていた。
それはやや異端とも呼べるものだったが、夏夜をよく知っている司は全く気にしなかった。
「む……。そうか、そうかもな」
「そうだ、なやむなんてスターらしくない。司は司のまま、咲希の中のスターでいればいい」
「そうだな! なやむなんてオレらしくなかった! 感謝するぞ! ハーハッハッハ!!」
突如としてハイテンションが復活した司の大声に、夏夜が一瞬ビクッとする。
「うわ、急に大声出すなよ。びっくりするだろ」
「あ……すまん」
「でも、そっちの方が司らしいや。さ、帰ろ帰ろ」
「ああ!」
そうして、司と夏夜は帰っていく。心は一つ、咲希の回復を祈りながら。
──────
そのまま時は進み、夏夜たちは中学生になった。
一度は退院した咲希だったが、体調はその後回復どころか悪化してしまい、再び長期入院をしてしまった。そして夏夜は司や雫と別々の学校に進学したことから関係も薄くなり、一歌の幼馴染との関係も薄れていた。そして中学3年になるころにはすでに一歌たち4人の関係にも亀裂が入っていたのだが……夏夜がそれを知るのはまだ先の話である。
その一方で、夏夜には新たな楽しみができた。歌だ。休みの日になると「ビビッドストリート」と言われる場所に出向き、心のままに歌うことで思いっきりストレス発散をするのである。夏夜が歌うと、そこにはこぞって人が集まる。
「────っ! ────!!」
「おお……今日もすげえ!!」
「もっとだ! もっと聞かせてくれー!!」
ここでは人柄は関係ない。ただ、歌がすべてを決める場所。心のままの激情を歌い、ひたすらに己の熱を高める。その感覚が、夏夜には心地よかった。
ビビッドストリートで歌う時、夏夜は年齢を悟られないようフードを目深に被り、「Night」と名乗っている。そして一通り歌い終わると、ある店に行く。それがルーティーンになっていた。
「いらっしゃい」
「謙さん。エスプレッソ、1つお願いします」
「おう。ちょっと待ってな」
──
夏夜行きつけのカフェ、「WEEKEND GARAGE」の店主だ。
その正体は、かつて「RAD WEEKEND」という伝説のイベントを開催し、一躍その名を馳せた元ストリートミュージシャンである。夏夜はこの時点でその伝説に届きうるかもしれない存在──
ふと夏夜が、カフェの内部を見回す。
「あれ、杏さんは」
「ああ。アイツなら、近くのライブハウスにイベント見に行ったぞ」
この日、謙の娘にしてカフェの看板娘である
「謙さん」
「なんだ?」
「俺──ストリートで歌うの、やめようと思います」
謙の手が止まる。
何か話があるのかと思って耳を傾けてみれば、予想のはるか先を行く言葉が飛び出てきた。実は謙自身、夏夜の歌を聴き、目の前にいるこの少年──「Night」こと夏夜は、いずれは自分たちを超え得る存在だと思っていたのだ。それほどまでの才能が、彼にはあった。
そんな彼が、突然歌うのをやめると言い出した。驚くのも無理はないだろう。だが、謙のかける言葉は決まっていた。
「本気なんだな?」
「ええ。他にやりたいことが出来たので」
「そうか。ま、それがお前の選択なら……俺は止めない」
やりたいことができたとだけ語ると、無言でエスプレッソを飲む夏夜。
すると、目の前に1つのパンケーキが置かれた。程よくシロップのかかったそれは、ほんのり甘い匂いを放っている。見るからに美味そうだった。
──違和感があるとすれば、夏夜には
「これ、頼んでませんけど」
「俺なりの餞別だ。サービスだから、遠慮なく食べていけ」
「……そういうことなら、遠慮なく」
自分の正体を知っているのは、謙と一部の知り合いだけでいい。そう思った夏夜は、誰にも名前を明らかにすることなくストリートを去ることにした。
かくして餞別代わりのパンケーキを食べ終え、席を立つ夏夜。そしてカフェを後にしようとするその時、謙が夏夜を呼び止めた。
「夏夜。持っていきな」
「え? これ……?」
「見たとおり、サングラスだ。お前にやる」
「……ありがとうございます」
夏夜はサングラスをポケットにしまい、今度こそ店を後にしようとする。その直前、夏夜は振り返った。
「謙さん!」
「ん?」
「……また来ます」
「おう」
そして、夏夜はWEEKEND GARAGEを後にする。それと同時に、この日をもってしてある1人のストリートミュージシャンが、姿を消した。
夜の名を冠するその男は、「ストリートの新たな伝説」とまで言われていたミュージシャンだった。失踪の理由は不明。しばらくは様々な噂が囁かれたが、その真相を知っているのは、白石謙1人だけなのだった。
そして来たる中学3年の夏、夏夜の人生最大の転機が訪れる。
ボカロ好きの妹に内緒で夜なべしてこっそり作ったボーカロイド曲を動画投稿サイトにあげたところ、凄まじいまでの人気になったのだ。
その人気は動画投稿サイトを飛び出し、トレンドの1位に輝くほど。俗に言う、「大バズり」というものだった。
「……おいおい、嘘だろ」
だが、これに一番驚いたのは他でもない夏夜自身だった。
確かに夏夜は自分がやりたくて曲を作り、それをアップしたのだが、まさかここまでバズるとは思わなかったのだ。
というのもその曲は、ネットで見つけたある1枚の絵に着想を得て作ってみた楽曲だった。その絵の書き手は、「えななん」。名も顔も知らない人だが、一応そのアカウントのフォロワーになっておいた。ついでにその絵をサムネイルに使っていいか聞いたところ……快く許可してもらえたのだった。というか、むしろ「ぜひ使ってください!」と向こうから猛烈な勢いで売り込んできたというのはここだけの話だ。
(この曲に関しては俺のアイデアじゃない気がするんだが……まあいいか)
かわりに後でこの絵の作者にお礼を言っておこう、夏夜はそう思うのだった。
その後、夏夜はアカウント名を「三日月夜」として活動を始める。
夏夜が生まれもった音楽の非凡な才覚は、革新的な曲を次々と世に送り出すことで発揮された。半年もすれば、夏夜こと三日月夜は新曲の全てが1週間以内に100万再生を突破するという驚異の楽曲投稿者として名を馳せることになる。
当然その話題は学校でも出るわけで……。
「ねえねえ、今回の三日月夜の楽曲聞いた?」
「聞いた聞いた。マジ凄かったよね!」
「うん。もう何度も聞いてるもん」
「わかる! なんか、妙に癖になるっていうか。そういうの?」
(全部聞こえてんぞー。ってか、なんかくすぐったいな……)
その話題を小耳にはさんだ夏夜は、内心で複雑な感情を抱く。
もともと自己満足で始めた曲作りだったが、今ではコメントで「ホントカッコいい」だったり「神曲!!」とか「もう本当に素晴らしいと思う」というコメントが相次いでいた。この間投稿した楽曲にも、「何処からこんな語彙が出てくるんだろう?」とか、「妙に癖になる曲」だったり、「中毒性ヤバい。これはいつまでも残すべき」など、好意的なコメントが大多数だ。そんな意見を見てきて、自分の曲をもっと聞いてほしい。夏夜はそう思うようになっていた。いつしか夏夜にとって曲作りは、「ただの趣味」から「趣味兼、
そうなると、授業をほっぽり出してでも曲を作りたいと考えてしまうわけで……。
「うっし、今日も曲作りますか」
授業をさぼって屋上に行き、スマホのファイルを開く。ファイルには普通の人からしてみれば痛いポエムか何かと勘違いするような文章を書いたメモがいくつも入っている。今までに投稿した楽曲はこのメモ帳の文章を歌詞に起こし、編曲したものだ。故に、まだまだ曲のネタは大量にある。だが、突っ走りすぎた自覚は夏夜にもあった。
なお、成績に関しては割と問題がない。あまり授業を受けていないにもかかわらず、どういうわけか成績は一切落ちないのだ。そのためか、教師側もあまりとやかくは言ってこない。
もっともこの時教師側が問題にしていたのはそもそも学校に来ようとしないとある別の生徒であり、時々授業に出てこない
夏夜は曲を打ち込みながら、誰もいない屋上で1人呟く。
「……投稿ペースを少し遅くするべきかもな。ネタが持たないかもしれないし」
「何を遅くするの?」
「だから楽曲の投稿ペースを遅く……ん?」
自分以外誰もいないはずの屋上に、もう1人分の声が聞こえる。
夏夜が声のした方向を振り向くと、1人の生徒が立っていた。男とも女ともとれる、中性的な出で立ちだった。薄桃色の髪色が目を引く。しかしそんな印象的な背格好をしているのにもかかわらず、夏夜はその生徒のことを知らなかった。
会ったことがないのだろうと勝手に結論を出し、努めて冷静に話しかける。
「……あんた誰だ?」
「ボクのこと知らないの?」
「知らない。そもそも会ったこともないだろ?」
冷静と冷徹を履き違えたか、と夏夜は一瞬思ったが、どうやら向こうはそのような反応は慣れっこのようだった。
一方でその生徒は「知らない、会ったこともない」という返答に驚いたようで、少しだけ目が見開かれる。しかしその表情の変化は一瞬で、すぐにまた元の無表情に戻った。すると、その生徒が自己紹介をしてくる。
「……まぁそうだね。ボクは
「星乃夏夜、3年生だ。ま、よろしくな」
「え、先輩なの? 今授業中だよ?」
「それはお互い様だろ」
──なんだこいつは。
この時、夏夜は率直にそう思った。自分のことを棚に上げて授業に戻れとは失礼な、とも思った。だが授業中に屋上にいるということは、何か理由があるのだろう。そう思ったからこそ、余計な詮索はしなかった。誰だって詮索されたくないことの1つか2つはある。それは夏夜自身が、身をもって分かっていることだった。
しかしこの後、瑞希の口から放たれた一言により、夏夜はこの暁山瑞希という人物に興味を持った。
「……」
「先輩は、聞かないんだね。ボクのこと」
「聞いて何になる? 聞かれたくないことの1つか2つあるだろ」
「……そっか」
「それともなんだ? 誰かに聞いてほしいのか? なら……ここでお互いの一番の秘密を1つずつ喋ってくか?」
夏夜の口から発せられた思わぬ提案に、瑞希は目を点にする。
一方的に秘密を暴露させるのではなく、お互いがお互いの秘密を握るということを提案してくるとは夢にも思わなかったからだ。
そして夏夜の選択は……問答無用だった。
「何も言わないってことは、それでいいってことだな。じゃあ、俺からだ」
「えっ、ちょっ……」
有無を言わせることなく、夏夜は瑞希の手にスマホを押し付けた。
「俺の秘密は、これだ」
「? ……スマホ? これのどこが秘密なわけ?」
「中のメモ帳を見ればわかる。そのメモ帳をもとに曲を作ってるんだ」
「曲? 見てもいい?」
「差し出してるんだから、好きにすればいい」
瑞希はおずおずと夏夜のスマホを掴むと、画面をスクロールし始める。まもなく、瑞希の手が止まった。
というのも、最近サイトで有名になっている曲と同じ名前のファイルがあったのだ。しかもファイルを開くと、中の文章の内容と歌詞がほとんど一致している。まさかと思いファイルが作られた日付を見ると──楽曲が投稿されるよりずっと前の日付だった。そしてさらに、「曲を作っている」という夏夜本人の発言。
もはや、状況証拠は十分すぎるほどに揃っている。
「これって……」
「ああ、俺の曲のネタだな」
「俺の曲? ……ってことは、先輩があの『三日月夜』!?」
夏夜は興奮気味になった瑞希の声を聞き、瑞希の方を向く。
見ると、瑞希の夏夜を見る目がこれまでのどこか影を感じる昏い瞳から一転し、キラキラと輝いたものになっていた。夏夜の目には、瑞希の瞳に「尊敬」の2文字が浮かんでいるように見えた。心なしか、今までにないほど声も弾んでいる。
その様子を見て、多分これが本来の「暁山瑞希」という人間なのだろう、と夏夜は推測した。
「ガチの有名人じゃん……! あ、握手! お願いしてもいい!?」
「好きにしろ」
「うわー……。ボク、三日月夜の大ファンなんだよ!」
「ほう、そりゃ嬉しい限り」
そっけない態度ではあるが、大ファンと言われて悪い気はしていなかった。
「こんな身近にいたなんて……。世界は狭いね」
「秘密、だからな? もし誰かにばらしたら、俺は二度と曲を作らない」
「もちろん。ってか、こんなの言えるわけないでしょ?」
それまでの鋭くクールな調子はどこへやら、瑞希は完全にハイテンションになっていた。──恐らく、先の条件も忘れているだろうと夏夜に思わせるくらいには。
だが、夏夜は約束を違えることを許さない。
「さて、俺の秘密を見たんだ。今度はお前の秘密を話してもらうぞ」
「……ボクの?」
「そりゃそうだろ。俺だけ話すとか不公平極まりない」
「すぅ──……うん。ボクはね──」
さっきまでのハイテンションとはさらに切り替わり、低く悲しげな声色で、静かに語る瑞希。そうして、夏夜は瑞希の秘密を知った。すべてを話し終えた瑞希は何かに絶望し、諦めたかのような顔をする。
確かに、普通の人なら瑞希の秘密を理解するのは難しいだろう。だが、その時の夏夜はそれがどうしたといった顔で何事もなかったかのようにこう言ったのだ。
「──
「……え?」
「別に悪いことじゃないだろ。やりたい事っつーのはさ、誰にも貶す資格はないんだよ。もしそれで罪悪感を感じるなら、そんなものどっかに捨てちまえ。やりたいと思ったんなら、誰に何と言われようと最後までやり通せばいい。俺みたいにな。それに、『好きこそものの上手なれ』って言うだろ?ま、ちょっと違うかもしれんが」
「うん……。そうだね」
「もしお前の考えを理解できないって人がいても、それは気にすることでもなんでもない。自分のやりたいことは、自分が全力で貫き通してこそ意味があるんだ。それでも、もしお前がそれを受け入れられないって言うなら……」
夏夜はそこで一度言葉を切ると、覚悟を秘めた口調で瑞希に宣言した。
「約束する。俺は変わらない。どんなことがあろうと、
「……!」
夏夜の宣言を聞いた瑞希の目には、涙が浮かんでいた。それは決して悲しみの涙ではない。ようやく、自分を理解してくれる人に出会えた喜びから流す、歓喜の涙だった。そんな瑞希に、夏夜はハンカチを渡す。瑞希はそのハンカチで涙を拭きとると、ハンカチを夏夜に返す。授業終わりのチャイムが校内に響く。
「……たまには話を聞いてやる。会えればだけどな」
「うん」
「じゃあな。これからも、『三日月夜』の曲をよろしく頼む」
そう言い残し、夏夜は屋上を立ち去った。残された瑞希は、1人呟く。
「──ありがと、夏夜先輩」
瑞希の中で、何かが変わった瞬間だった。
この日から星乃夏夜という人間は、暁山瑞希にとってたった1人の「先輩」となったのだ。
それからまた月日が流れた。あれから三日月夜としての活躍はますます広がった。
更新頻度こそ3か月に1曲のペースに落ちついているが、今最も勢いがある楽曲投稿者としてネットニュースに名前が載るなど、ますます有名になっている。時折妹にして大のボカロ好きである一歌が夏夜に三日月夜の曲の素晴らしさを熱弁(またの名を布教)しているが、まさかそれを聞いているのが三日月夜本人だとは夢にも思わないだろう。
一歌の熱弁を聞き届けた夏夜は今日も新たな曲を作るべく自分の部屋に行こうとした。そして──。
──────
「……んぁ?」
俺、星乃夏夜はそこで目を覚ました。
(……随分と具体性のある夢だったな。明晰夢ってやつか? まあ、なんでもいいか)
今は中学3年生の2月。俺は神山高校への進学が決まった。聞いた話だと司も神山高校らしい。司は確かにうるさいが、別に悪いやつではない。中学校は違ったが、変わらず友人として仲良くしている。そういえば、咲希は元気だろうか。久しぶりにお見舞いに行くのも悪くない。
さあ、一日を始めよう。
そう思い、俺は今日も目を覚ました。
プロローグは前編と後編に分かれる形になっています。
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