とりあえず上げられるものはどんどん上げていきます。
このあたりからご都合主義と取れるシーンが増えていきますのでご注意ください。
進級、入学、そして再会
【神山高校】
「今年も司と同じクラスか」
「ああ。まさか2年連続で夏夜と同じクラスとはな!」
2年生に進級した俺と司は、またしても同じクラスになった。違う点は、初期配置が隣同士じゃないことくらいだ。まあ、用があるときはどちらからともなく話しかけるから特に問題はないんだが。他のクラスメイト達は友人と同じクラスになれた奴となれなかった奴のテンションの差が極めて分かりやすい。──もっとも、このクラスの大半からはそんなことよりも「変人と同じクラスになってしまった」という心情がありありと見て取れるのだが。
それはそうと、今日は新入生の入学式だ。今神山高校の2年生は、式典の準備だか何だかで駆り出されている。しかも2年生の中でも俺と司を含めた数人は入学式の後、新入生に校内案内をする役を任されるんだそうだ。司はめちゃめちゃに張り切っているが、正直俺は乗り気ではない。だがそれよりも、入学早々司のハイパーボイスを喰らって新入生が驚かないかが心配だ。
やがて入学式は恙なく行われ、俺たちの出番がやってきた。新入生は数人のグループに分けられ、俺たちと同じ案内役を任された同級生に連れられて体育館を出ていく。さて、俺もやるべきことくらいはやらなきゃな。
「2班はここだー!! 2班の新入生は集まってくれー!!!」
(おい……)
案の定、司が大爆音で近くの新入生を震え上がらせていた。もうこの時点で新入生からは「おかしい人」認定されてしまったことだろう。さすが、人間スピーカーは伊達じゃない。いや、もう人間防犯ブザーの方がしっくりくるか。だが、声を上げないと誰が俺の担当する班員か分からないのも確かだ。俺は息を吸い、そしてなるべく聞こえる声で言い放つ。
「5班の新入生はこっちだ! 俺のところに来てくれ!」
「あ、5班はここでーす!」
すると、向こうが来るのではなく向こうから俺を呼ぶ返事が聞こえてきた。
なるほど、俺が来いと。でもまあ、呼び出せるということはもうみんな集まっているのだろう。どうやら今年はいいリーダーシップを持つ新入生がいるようだ。そうして声の聞こえた方に向かうと、なんといたのは見慣れた顔だった。
「あれ、杏ちゃん?」
「あー! うちによく来てた常連さん!」
そう。「WEEKEND GARAGE」の看板娘、白石杏がそこにいたのだ。
成程、彼女なら新入生をまとめ上げるカリスマ性は十分ある。向こうも俺を覚えていてくれたようで、少し嬉しくなった。
「そう言えば名乗ったことはなかったな。星乃夏夜だ。よろしく。あー、白石さん」
「知り合いなんですから、杏でいいですよ! 今日はよろしくお願いします、夏夜先輩!」
杏は快活な笑顔で答える。その笑顔は俺がかつて見た彼女のままだった。
すると杏の近くにもう1人、見知った顔があるのを見つける。別人かと思うほどに変わっているが、間違いない。俺はその人物に近づき、声を掛けた。
「瑞希……だよな?」
「え、夏夜先輩!?」
「やっぱり。久しぶりだな」
「うわー、夏夜先輩神高だったんだ! 先輩が卒業した後、ボク寂しかったんだよー?」
「悪かったって。こっちにもいろいろあったんだよ」
「ま、そうだよね。でさ、ボクのこの格好、似合ってる?」
瑞希は中学生時代より伸ばしたピンクの髪を可愛げなリボンでポニーテールにまとめ、服装も女子生徒の制服。ついでに、胸元には学校指定のリボンがついている。
……そういや杏は何故かリボンじゃなくてネクタイだった。もしかして? と一瞬思ったが、さすがにここで聞くのはいただけない。だから、俺は思ったままのことを言う。
「ああ。見違えたぞ」
「やったー! ありがと、先輩」
「分かった分かった。ほら、時間もないから案内するぞー」
「はーい」
杏と瑞希を筆頭に、複数人の生徒を引率して校内を一周する。屋上に来た時、突如瑞希が走り出した。
「あ、おい瑞希! 悪い皆、ちょっと待っててくれ」
「じゃあその間私が皆のことを見ておきますね」
「杏……。分かった。頼む」
残された新入生たちを杏に任せ、瑞希の下へと向かう。瑞希はフェンスに背中を預け、風を感じていた。淡いピンクのポニーテールが、屋上を吹き抜ける風になびく。
「風が気持ちいい~」
「おい瑞希、勝手にどっか行くな。さすがにやっていいことと悪いことがあるだろ」
「ゴメンゴメン。でも、こうしないと2人で話せないと思ってさ」
「……そうまでして話したいことか?」
「うん。なるべく聞かれたくないからね」
「はぁ……。3分間だけな。なんだ?」
瑞希から少し重い話の予感を感じ取った俺は、3分間だけ話す時間を取ることにした。それを聞いた瑞希が口を開く。
「ありがと、夏夜先輩」
「──何のことだ?」
「あの時先輩に会えなかったら、今のボクはなかったかもしれないから。……ずっと、ありがとうって言いたくてさ」
「……そうか」
「ねぇ、またここで話しても……いいかな?」
その言葉に込められた意味を、分からない俺ではない。だから、俺の答えはただ1つだ。
「ああ。ま、今度は瑞希が待ってる側だろうけどな」
「アハハ、確かに! ボクたち意外と相性がいいのかも」
「あ? ……まあ、否定はできないな」
「でしょ~? あー、すっきりした。じゃ、戻ろっか」
「はいはい……。ま、元気そうで何よりだ」
俺の発言に、一切気持ちの混じり気はない。
……例え瑞希がどんな秘密を抱えていようと、瑞希は瑞希だ。その生き方を誰も否定することはできないし、どう生きようが瑞希の自由だ。今の瑞希は、前見た時よりずっと自由に見える。その姿は、さしずめ気まぐれ猫だ。
恐らく、これが本来の瑞希なんだろう。どうやら俺は、瑞希に「本音を曝け出せる相手」として認められているようだ。その事実に少し表情を綻ばせながら、俺は杏たちの下へと戻るのだった。
【星空のセカイ】
激動の一日を終え、今俺はセカイに来ていた。
そうしてすぐ、俺はセカイに見慣れぬ建物があったことに気づく。俺は初めてこのセカイに来てからというもの、時折このセカイにやってきていた。この場所はいい。俺の想いから生まれたというこの場所は、空を見上げればいつでも一面に満天の星空が広がっている。景色を見てリラックスするにはもってこいなのだ。だがそれだけではない。24時間365日静かであるこのセカイは作業をするのにうってつけの場所でもある。
だから最近はよくこのセカイで作業をしていたのだが、何故か今日になって見慣れない建物が出現していたのだ。
「IA、いるかー?」
「お呼びでしょうか、マスター」
俺が声を上げてから僅か3秒で、IAは俺のすぐそばに現れた。気配すら感じられなかったが、もう慣れたので驚きはない。
そんな彼女は、「誠実」と「従順」が実体をもって動き出したかのような性格をしている。このセカイに来てからというもの、IAにはお世話になりっぱなしだ。立ち振る舞いといい口調と言い、まるで俺の秘書みたいな立ち位置についている。
ちなみにこのセカイにはONEとGUMIもいるのだが……GUMIはともかく、ONEは案内役には向いていない。なんせ、自由奔放の化身たる存在だ。一応呼べば来てくれるのだが、すぐに来ることもあれば忘れた頃に突然現れることもあるうえ、いつの間にかふらりといなくなってしまう。
「あの建物は何だ?」
「あの建物は、他のセカイとマスターがつながる場所です」
「他のセカイと!?」
驚きのあまり、柄にもなく大声を上げてしまった。
いや、驚くだろ。セカイを持っているのは1人だけじゃなかったのか。しかも、俺は他人のセカイに入り込めるらしい。
「はい。ある条件を満たせば、他のセカイとこのセカイを繋ぐ扉が開きます」
「条件……?」
「……申し訳ありませんが、その条件までは分かりません。ですが、私が確認した限りでは既に1つの扉が開かれています」
「なるほど、大体わかった」
他のセカイ、か。面白いことを聞いたな。しかも、既に1つのセカイには自由に出入りできるときた。
そう言われると、試してみたくなるのが人の性。早速俺はその建物(やや大きめのログハウスだった)に入る。中には手入れの行き届いた調理器具一式に加え、机1つといくつかのベッド。そして、5つの扉があった。右から青、緑、赤、黄、そして紫。どうやらこれが、「5つのセカイに繋がる扉」らしい。
俺はまず紫の扉から順々に調べていくことにした──が、紫色の扉の取っ手に手の先がふれた瞬間、俺は本能的に一歩下がった。
……というのもこの扉、
気を取り直した俺は、続けて黄色の扉を試してみる。この扉からは、不思議と明るい雰囲気を感じる。扉の色が黄色だからだろうか。しかし、この扉は開かなかった。つまり、IAの言う「条件」を満たしていないということだ。
……扉の取っ手を握った瞬間に司の声が聞こえたような気がしたのは、いつのまにか俺の頭があのショーバカに侵食されておかしくなったからだと思いたい。
そして赤の扉。扉越しに伝わってくる感情は、溢れんばかりの「情熱」だろうか。ストリートで歌っていたときの俺に近いものを感じる。取っ手を掴むと、パワフルな熱気のようなものが伝わってくる。だが、この扉も固く閉ざされ、開きそうにない。
扉越しに伝わってきた熱気の中に、何となくストリートライブの──ビビッドストリートの雰囲気を感じた。
ならば、と次に手を掛けたのは黄緑色の扉。そこからは、黄色の扉と似た明るい雰囲気が伝わってきていた。しかし、少しだけ違う。強いて言えば、この扉から感じられるのは「未来への希望」といったところか。これならいける……そう思ったが、この扉も開くことはなかった。
取っ手を握った時にふと懐かしい感覚がしたが、あれは誰のものだっただろうか……?
そうして4つの扉を見てきて、ここで俺は初めて扉の窓のところに4つのライトみたいなものがついていることに気づいた。しかもよく見ると、5つの扉全てに4つのライト、つまり合計20個のライトがある。これが一体何を意味するのか、今の俺には分からなかった。
そして俺は、最後の扉となる青い扉の前に立つ。これ以外の扉が開かなかったということはつまり、これがIAの言っていた「他のセカイにつながっている扉」なのだろう。
……この扉からは、不思議と優しい雰囲気が伝わってくる。だが、その優しさはどこか悲しげだ。さらに言えば、この雰囲気はどこか俺がよく知る人間に似ていた。意を決し取っ手を握ると、これまでとは違う手ごたえがあった。そのまま取っ手を捻ると、カチャリ、と音がする。
──開いた。
「……行くしかないか」
そして俺は、星空のセカイとは違う「別のセカイ」へと踏み出した。
【???のセカイ】
扉の向こう、光の先は俺のセカイの外ではなく、どこかの学校の屋上だった。どうやら、青の扉の先のセカイはこのセカイ全体が校舎になっているらしい。
なるほど、前にミクから「セカイは持ち主の想いのカタチによって姿を変える」とは聞いていたが……ここまで変わるとは。空を見上げると、星空のセカイほどではないが美しい星空が広がっている。
「あれ? いらっしゃい」
目線を元に戻すと、そこにはミクが立っていた。だが、俺のセカイのミクとは姿が全然違う。
まず髪はどちらかというと深緑色に近いし、先端は真紅のメッシュ? が入っている。ツインテールはツンツンしてるし、服装は制服を思わせるようなデザインだ。その雰囲気は俺のよく知るある少女になんとなく似ていて、俺は少し安心感を覚えた。
「このセカイのミク……か?」
「うん。そうだよ」
「……セカイによってミクの姿も変わるんだな」
「ふふっ。セカイの数だけ、私はいるんだよ」
セカイの数だけミクがいる……か。つまり、ミクはセカイの持ち主とやらの影響を特に強く受ける存在なのだろう。納得はできる。「世界一有名なボーカロイドは?」と聞かれたらまず大半の人が「初音ミク」と答えるだろうし、「一番曲を作られたボーカロイドは?」と聞かれても、まあ「初音ミク」一択だろう。それだけ多くの人々の「想い」を背負っていると解釈すれば、セカイの数だけミクがいると考えても納得がいく。
そうして俺が勝手に1人で納得していると、ミクが話しかけてくる。
「キミは……。このセカイの持ち主にとって、大切な人みたいだね」
「……どういうことだ?」
「え、言葉通りの意味だよ?」
「そ、そうなのか」
一瞬ミクの発言を飲み込めなかったが、どうやらミクの話によれば、このセカイは俺にとって重要な人物の想いで生まれたようだ。
……誰かは追々考えるとしよう。
「ところで……勝手に来て聞くのもなんだが、俺がここにいて問題はないのか?」
「うん。キミは少し特別だからね。いつでもここに来て問題ないよ」
「特別?」
「うん。あまりないことなんだけど……持ってる想いが特別強い人は、その想いがほかのセカイと共鳴して、セカイがつながることがあるんだ。でも、想いが強いからって必ずセカイが繋がるわけじゃない。さっきも言ったけど、そもそも別のセカイを持っている人が近くにいることなんてめったにないから、キミは特別ってこと」
「そういうことだったんだな」
ミクの説明を真に受けるとすれば、俺の想いの力は俺のセカイと他の誰かのセカイを繋げてしまうほどに強かったらしい。喜ぶべきか、驚くべきか……。ほんの少しだけ複雑な感情になる。
しかしそこで俺の頭の中に、ある疑問が頭に浮かぶ。
「そういや……どう帰ればいいんだ?」
「『Untitled』がもう1つあるはずだよ」
「えっと……あった」
俺のセカイの歌、「Connecting the World」の下に、もう1つ「Untitled」が増えている。どうやら、これがこのセカイの歌らしい。まだセカイの持ち主が「本当の想い」とやらに気づいていないから、「Untitled」のままなんだろう。ミク曰く、これを止めれば星空のセカイに戻れるんだそうだ。
「邪魔したな」
「ううん。またおいでよ」
「機会があれば、な」
曲を止めると同時に、眩い光と三角形の粒子が俺を包み込む。再び目を開けると、俺は星空のセカイのログハウスの中に帰ってきていた。帰ってきた俺を、IAが出迎えてくれる。
「お帰りなさいませ、マスター」
「ああ。しかし、本当に別のセカイと繋がっているなんてな」
「それが、マスターの想いの力です」
(想いっていうのは、そんなこともできるんだな……)
自分の想いの強大さに感心しつつ、今日のところは帰ろうとIAに挨拶をする。だが、そこで気になることが1つできた。
「IA、俺は他人のセカイに入れるみたいだけど、逆に別のセカイを持っている人がこのセカイに入ることはできるのか?」
「基本、不可能です。ですが、マスターの許可があれば入れます。曲はマスターのものしかないので、マスターと一緒にいないと入れませんが」
「分かった。ありがとう」
「お役に立てて、何よりです」
IAに手を振り、曲を停止する。IAはそんな俺に丁寧なお辞儀をし、俺を見送った。
──────
セカイの創造主である夏夜が帰った後の星空のセカイで、焚き火を中心にミクとIAが話していた。2人はどこからか持ってきたお肉を焚き火で炙りつつ、それを食事にしている。
「1人の想いがセカイを創るだけじゃなくて、他のセカイともつながっちゃうなんてね」
「それだけ私たちのマスターが特別だということだと思います」
「まあ、そうだね。夏夜君は最初から、自分の想いに気が付いていたし」
「私たちにできるのは、マスターがいつでもここに来られるようにすることでしょう」
「それしかないかもね。まだリンとかも見つかってないし」
「あれ? ところで、GUMIは?」
「GUMIなら──」
「呼んだ?」
「あ、いた」
ミクが周囲をきょろきょろと確認すると、いつの間にかミディアムヘアーの明るい黄緑色の髪をした少女──GUMIが現れていた。いつの間にかその手には串焼き肉が握られており、もっきゅもっきゅと頬張っている。
GUMIは口の中の肉を飲みこむと、ようやく口を開いた。
「わたし、最初からいたんだけど……?」
「あれ、そうなの? 気付かなかった……」
「だって、喋ってなかったし……。それにさっきまでお肉食べることに夢中だったもん」
「意外と食い気ありますよね、GUMIさん……」
「あー! また私抜きで面白そうなことしてるー!!」
語らう3人の下にダッシュでやってきたのは、グラデーションのかかった金髪が目を引く癖毛の少女。
「ONE。貴方がいないのが悪いと思うのですが」
「うっ……。ゴメンナサイ」
「あはは、やっぱりONEはIAに弱いね」
「いつも通り、賑やかだね。夏夜くんも来てくれたし、あとはリンちゃんたちが来るのを待つだけ……かな」
今は4人しかいないセカイだが、人(?)の少なさとは裏腹に、意外とにぎやかなのだった。
(星乃夏夜について①)
りんごジュースが好きだが、果汁100%のもの以外は飲まないという変なこだわりがある。
そのため、星乃家の冷蔵庫には常にりんご果汁100%のジュースがストックされている。
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