連続投稿です。
本日だけで4話投稿していますが、まだストックがあるので時間を見つけ次第投下します。
【神山高校】
いつもと変わらぬ登下校の風景。今日も今日とて学校に通う俺の今日の非日常は、司からもたらされた吉報によって始まった。
「聞いてくれ夏夜! 咲希が退院できることになったんだ!!」
「ホントか!? ……そうかぁ、やっとか」
「ああ。咲希を支えてくれたことに、兄として感謝するぞ!」
「それは一歌に言ってくれ。咲希を一番心配してたのは一歌だしな」
嘘は何一つ言ってない。俺がやったのは、せいぜい数か月に1回お見舞いに行って、1度咲希に発破をかけたくらいだからな。一歌は1か月に2~3回は確実に行ってただろうし、下手すればもっと行っている。咲希が一歌の話を一番楽しそうに聞いていたのを、俺は知っている。
……ただ、咲希が戻ってきたところで拭えない不安材料があるのも事実だ。そしてそれは司も同じなようで、珍しく(司にしては)小声で話しかけてくる。
「それでだな、夏夜。……咲希は、穂波や志歩ともう一度バンドがしたいと言っていた」
「そう、なのか」
「ああ。だが今の咲希たちはその……あれだろう?」
「そこまで言われれば皆まで言わなくてもわかる。でもまあ、心配はいらないと思うぞ」
「む……。そうか?」
「そうだ。ああ見えて一歌は筋が通ってる。目の前に可能性が残ってる限り、あいつは
「お、おお。夏夜が言うからには、そうなんだろうな。話を聞いてくれて感謝するぞ!」
「だから声がデカいんだよ……」
こんな朝の一幕。あの後聞いた話だと、咲希はもうすぐ退院できそうなことを皆には黙っているつもりなんだそうだ。サプライズ、らしい。
まったく、咲希らしいというかなんというか……。
(問題は、咲希が今の一歌たちの現状を見て何を思うかだよな)
咲希が入院した後、穂波と志歩はほとんどお見舞いに行っていない。来ていたのはもっぱら一歌と俺、そして司たち家族だけだった。
志歩は口では「行く時間がない」と言っていたが、実際には「気まずい」のだろう。何せ、自分から望んで一歌たちと距離を取ったんだ。昔から一匹狼気質みたいなところはあると思っていたが、それが最悪の形で出てしまったとでもいうべきか。志歩は、やはり自ら距離を取った相手と鉢合わせてしまうのがどうしても気まずくなってしまうと分かっているのかもしれない。まあ、友情を何よりも大事にする咲希が気にするか否かは別問題として。
しかし……穂波に関しては謎だらけだ。距離を取られるようになった時期は一歌の話から大体わかったのだが──その原因が分からない。一度心当たりを志歩に聞いてみようと思ったが、「穂波の話はしないでください」とすごい剣幕で言われたのでそれ以来穂波のことには触れていない。どうやら穂波は、志歩の琴線に触れる何かをしてしまったようだ。それに穂波本人から聞こうとしても、穂波はきっと話さない。穂波は昔から、自分のウィークポイントについては口を噤むのだ。
だが、それでも確実に言えることが1つある。それは、中学生時代から穂波は別人のようになってしまったということだ。穂波が中学生の時に何回か会話したことがあるのだが、俺の顔色を常に窺い、常に俺の事情を優先してしまうあまり、自分の意見をまったく口に出そうとしなくなった。
今思えば、あの時からもう一歌たちはバラバラになってしまっていたのだろう。
昔から優しすぎるまでに優しい穂波のことだ。もし自分の意見で、協調性の輪が崩れたらどうしようと穂波は気にしてしまうのかもしれない。とはいえ、今の穂波はその傾向が極端すぎる。他人から見れば「気遣いの鬼」なのかもしれないが、昔の穂波を知る俺から見れば異常という他ない。
……場合によっては、一度咲希みたいに発破をかけなくちゃならないだろう。それも、穂波に一番効く方法で。
(まあ、あくまでそれは最終手段だな。俺もなるべく、そんな手段は使いたくない)
季節は春真っ盛り。今日も今日とて授業を耳にはさみつつ、俺はボカロP「三日月夜」として新曲づくりに精を出すのだった。
【星乃家】
そうして迎えた、4月の上旬。新学期が始まって少しして。ある日の昼下がり、一歌が息を切らしながら家に帰ってきた。
「お帰り……どうした、不審者から逃げてきたとでも言わんばかりの荒い呼吸して」
「はぁ……はぁ……た、ただいま」
「新学期早々穏やかじゃないな。何かあったか?」
「お、お兄ちゃん! 聞いて! 今日学校で、その」
「はぁ……。とりあえず、一旦落ち着いて深呼吸しろ。俺は逃げないから」
一歌がこれほどまでに取り乱すことだ、何があったかはなんとなく予想がつくが──肝心の一歌がテンパっているせいで、内容がいまひとつ入ってこない。ひとまずテンパっている一歌をどうにかなだめ、話の本筋に入ろうとする。
「……で、何があった?」
「うん。咲希がね、帰ってきたんだ。私と同じクラス!」
「お、今日だったのか」
「え、知ってたの?」
「知ってたも何も、少し前に司がメチャメチャハイテンションで言ってきたからな。その様子だと、サプライズは成功したってところか」
「もう、お兄ちゃんってば……。知ってたら教えてくれてもいいのに」
「教えたらサプライズじゃないだろうに。それに珍しく司が『黙っててくれ』って言ってきたから、断れなかったんだよ」
どうやら咲希の復学は今日だったらしい。青春、取り戻せると良いな。
まあまずはそれ以前に、目の前の問題をどうにかしないとならないが。咲希が帰ってきた以上、その問題から目を背けることはもうできっこないのだから。
「それで? 穂波と志歩と話はついたのか?」
「それは……その……」
一歌のどもりから、俺はまったく進展がなかったことを悟る。
──案の定、といったところか。すぐによりを戻さないところから考えるに、未だに穂波は罪悪感か何かを抱いてるのだろう。志歩は……もう意固地になってるだけだな。あの性格から考えて、今更自分から「よりを戻したい」だなんて言い出せそうにないだろうし。切り崩すには、まず志歩からか。
「俺が前に言ったこと、忘れてないよな?」
「前に言ったこと?」
「新幹線の中で言ったろ。もう2年も前の話だけどな」
「あ、うん。覚えてるよ。『大切なのは、繋がりを取り戻すチャンスを逃さないこと』……だよね?」
「そうだ。一歌と咲希次第で、結末は変えられる」
「そっか。そうだよね。うん、私頑張ってみる」
「その意気だ、応援してるぞ」
【ライブハウス】
そうして、一歌から咲希の復学を聞かされてから数日後。俺は、とあるライブハウスを訪れていた。俺は時々、このライブハウスでギターかベースの演奏をしている。スタジオミュージシャンとかそんな大層なものではなく、一種の気分転換に近いものだ。
たまーに演奏専門でヘルプに入ることもあるが……今日の目的はそれではない。俺はそこら辺にいるであろう店長を見つけると、声を掛ける。このライブハウスの店長と俺は割と親しい。だからこそ、店長が俺を見つけた時の反応はかなり軽いものになっている。
「あ、店長」
「おや、夏夜君。久しぶりじゃないか。やってくのかい?」
「いえ、今日は別件で。──志歩、います?」
「ああ、志歩ちゃんね。ちょっと待ってな……志歩ちゃーん! お客さんだぞー!」
まもなく、店長に呼ばれた志歩が顔を出す。志歩は俺の顔を見て驚きの表情を隠せていなかった。
「え、夏夜さん!? なんでここに……」
「志歩と話がしたくてな。店長ー、志歩借ります」
「はいよー」
「え、ちょっと……」
「志歩ちゃん、今日は上がっていいから。夏夜君と話してきな」
「……店長」
「ありがとうございます。ほら、早く行くぞ」
俺は未だに何が起こっているのかよく分かっていないらしい志歩を連れ、近くの公園に向かう。
すでに時刻は午後5時過ぎ、公園には夕日が差し込んでいた。やがて志歩は、不機嫌そうに口を開く。
「それで、何の用ですか? 私見ての通りバイト中だったんですけど」
「一歌たちのことで話があってな」
俺はそれだけ語り、志歩の目を真っすぐと見据えた。
(Side:志歩)
「一歌たちのことで話があってな」
私はその言葉を聞き、一瞬ヒュッと息を呑む。その声色は、これ以上なく「真面目な話」をするときの声だ。そして夏夜さんの目線は、私を捉えて離さない。
「……なんです?」
結局私は、一歌たちにやるような冷ややかな声しか出せなかった。
「お前は、一歌たちのことをどう思ってる?」
「……幼馴染です。それ以上でもそれ以下でもありません」
私の答えに、夏夜さんの目が細められる。今の夏夜さんの視線はまるで、日野森志歩という人間を見極めているようだった。私の心の奥底まで、残さず掴み取ろうとするような鋭さがある。
声が出せないまま長い沈黙が流れて、しばらくして。夏夜さんが溜息をついたと思うと、私に言葉を投げかけた。
「もう、背負わなくていいんじゃないか?」
「えっ」
……夏夜さんの言っていることは、わかる。
中学生の私は、一歌たちと自分から距離を取った。1人でいる時間が好きだという自覚はある。だからクラスメイトから疎まれても、除け者にされても何とも思わなかった。いつもと変わらず、ベースに集中できればよかったから。
でも私は、それに一歌たちが巻き込まれるのが耐えられなかった。だから離れた。自分から「話しかけないで」と、わざわざ嫌われるような格好までして。そうして一歌や穂波たちが悪く言われなくなるんだったら、それでよかった。
この事はお姉ちゃんにも、家族にも話すことはしなかったけど、唯一夏夜さんだけには教えていた。というか、
「……どういうことですか?」
「言葉通りだ。自分だけが重荷を背負ったところまではよかった。だがその重荷を背負っていても、お前はまだ
「……っ!」
悔しいけど、その通りだ。私は結局、一歌たちと一緒にいることを諦めることができなかった。1人になって初めて、私にとって幼馴染たちがどれだけ大きな存在だったかを知った。もし、きっぱりと諦められたらどんなに楽だったことだろう。
そうして一匹狼になった私は、やがてクラスでも居場所をなくして、「ある人」と屋上で出会って、夏夜さんに自分の行いを打ち明けて。気づいた時には、もう私たち4人の関係は戻れないところまで来ていた。それでも、「いつかはまた4人で一緒に」という淡い希望を捨てきれなかったのも、また事実。
その動揺を突くように、夏夜さんは言葉を続ける。
「図星、だな。おおかた、まだ『自分と一緒にいたら悪く言われるから』なんて思ってるんだろう? 本当は、また一緒にいたいんじゃないのか?」
「そんなこと──」
「あるな。ないんなら、さっきの言葉の時点で『違う』って言い切ればいいだけの話だ。でも、そうしなかった。お前の時間は、一歌たちから離れた時点で止まったきりなんだよ。だったらその止まった時間、もうそろそろ動かしてもいいんじゃないか?」
完全に逃げ道を塞がれたと気づいた時には、もうすでに手遅れだった。私は、ただ黙って頷くしかなかった。
昔からそうだ。私は、夏夜さんに勝てた試しがない。私が何かを悩んでいるときに必ずこうして私の心の内を的確に言い当ててくる。……まあ、これに関しては私だけじゃなくて他のみんなにも言えることだけど。
「やっと認めたな。そう、『また4人で一緒にいたい』。それが志歩の本音。数年間心の奥底に必死に封じ込めていた、な」
「……だったら、どうするんです? まさか、さっさと一歌たちとよりを戻せって言うんですか?」
「いや? 俺はそれを強制する気はない」
「……は?」
思わずマヌケな声が出る。
てっきり「仲直りしろ」なんて言われるのかと思ったら、この人は全く正反対のことを言い出したのだ。軽く説教されるのも覚悟していたのに、夏夜さんの発言は想像の斜め上を行った。この人は私の本音を引き出しておいて、なんてことを言い出すんだろうか。
「お前はいつも通りいればいい。お前を導くのは……咲希だ」
「咲希が……?」
「ああ。咲希が復学したことは知ってるだろう?」
「まぁ……はい」
いつも通り一匹狼としての日常を過ごそうと思ったら、唐突に戻ってきた咲希。その時の情景は、今も脳裏に焼き付いている。その後に何も分からないまま連れてこられた「セカイ」というわけの分からない場所であった不思議な体験も、全部だ。あのセカイという場所で4人で演奏した時、一瞬だけ、「もう一度元に戻れるかも」と思った。でも……出来なかった。
私がいままで一歌たちにやってきたことを思い出して、心の中に恐れが生まれた。だからバイトを理由にして……半ば逃げるようにセカイから立ち去ったんだ。
「咲希はどんなことがあっても……お前との繋がりを諦めない。ひとつも残さず、すべてを取り戻そうとする。そしてそこには、お前と穂波もいる」
「私と穂波も……?」
「そうだ。そしてそこに一歌がいるのなら尚更のことだ。一歌も咲希も、そう簡単にお前たちを諦めるような人間じゃない。あいつらの芯の強さは、他でもない──志歩、お前が一番よく知ってるんじゃないか?」
「──っ!」
その時、私の脳裏にある記憶がよみがえった。
その記憶の中で、私は一歌に「志歩は一本筋が通ってる」って言われた。でも私から言わせてみれば本当に一本筋が通ってるのは私じゃない、一歌だ。昔から自分のことなんて顧みないで、常に自分が信じた通りに行動して。
……そんな一歌を変えてしまったのは、私たちなんだ。
「『一歌は変わった』。そう思ってる顔だな?」
「えっ……!?」
「心配すんな。一歌はそう簡単には折れやしない。俺の妹は、その程度のことで簡単に挫折するような奴じゃない。一歌は友達のためならなんだってやれる……いや、やり遂げる奴だ」
私の思っていることをいとも簡単に言い当てた夏夜さんは私の方を向き、僅かに笑みを浮かべる。いつしかその目から鋭い視線はなくなって、何処か安心できるものに変わっている。
「だから……今は志歩のやりたいようにやればいい。どんなに拒絶したって、無理を通そうとしたって、あの2人は何度でも絶対に立ち上がってくる。断言する。そして俺の言う通り立ち上がってきたその時は、潔く過去を水に流してしまえばいい。もっとも一歌のことだから俺を巻き込むだろうし……巻き込まれたら俺は確実に一歌の味方に付くけどな」
「……まぁ、そうでしょうね」
もう何も言い返せなかった。夏夜さんの提案は、正直言って誰も思いつかなかっただろう解決策だ。一歌と咲希は絶対に諦めない、という全幅の信頼を置いているからこそ出せる選択肢。そしてそれを聞いた私の心には、不思議とあの2人を信じてみようという気持ちが沸き上がっていた。
いつもそうだ。夏夜さんの言葉には、不思議と「信じてみよう」と思わせる力がある。私に対してだけじゃなく、一歌も、咲希も、穂波だってそうだろう。夏夜さんに言われると、不思議と「信じてみよう」と思える。
「そうですね……。私は私らしく、一歌と咲希に向き合ってみます」
「それでいい。むしろ、そっちの方が志歩らしくて安心できる」
「……何ですか、それ」
「ちょっとした独り言だ、気にするな」
ハハハ、と夏夜さんが笑う。それにつられて私も笑みをこぼす。
……ああ、やっぱり私はこの人には敵わない。改めてそう思った。
「……いい顔になったな」
「え?」
「今の志歩の顔。何か憑き物が落ちたような、いい顔をしている」
「そう、なんでしょうか?」
「ああ。俺が言うんだから間違いはない!」
「……司さんみたいになってますよ」
「な……!? そりゃ心外だ……!」
穏やかな笑みから一転し、苦汁を舐めたかのような表情をする夏夜さん。さすがに司さんと同類扱いされるのは堪えたみたいだ。
……そういえば、初めて夏夜さんから一本取った気がする。その事実に少し気分がよくなった。でも、憑き物が落ちたというのは嘘ではないだろう。現に私の心は、今までにないくらい迷いがなくなっているのだから。
「はぁ……。ま、時間を取らせて悪かったな」
「いいんです。夏夜さんのおかげで、大切な事を思い出せました」
「そうか。お詫びと言っては何だが……ラーメン、食べに行くか?」
「いいんですか!?」
「お、おう……。やっぱラーメンには飛びつくんだな」
せっかく自分の好物をタダで食べられるのだから、飛びつかない理由はない。そして私は夏夜さんとともにラーメンを堪能し、家に帰った。家に帰った私を、先に帰っていたお姉ちゃんが出迎える。
「お帰り、しぃちゃ~ん!」
「ちょっ、家だからって急にくっついてこないで……!」
……日野森雫。「Cheerful*Days」というアイドルユニットのセンターで、私のお姉ちゃん。ファンからの人気もトップクラスで、贔屓目なしでも皆の目を引き付けるほどの美人だ。それは妹である私の目線から見ても間違いない。そんなお姉ちゃんは事務所の方針で、「クールでミステリアスな美人アイドル」として売り出している。
しかし私からしてみれば違和感しかない肩書きだ。というのもその正体は超がつくほどの妹好き、言っちゃえばシスコンだ。司さんと咲希のところもそんな感じだけど、正直お姉ちゃんのそれは度が過ぎていると思う。あまりにも距離感が近い、近すぎる。隙さえあれば私にくっつこうとするし、下手すれば私のことを私以上に知っている。
日常生活においても、「クールでミステリアス」なんて印象とは程遠い。散歩が好きなのにしょっちゅう凄まじい方向音痴を発揮して道に迷い、スマホの地図を開こうとすればすぐに画面がぐるぐる回ったり何もしてないのに動かなくなったりという機械音痴っぷりを遺憾なく見せつけ、その度に私や夏夜さんがお姉ちゃんを探し回って回収するのがお約束の流れとなっている。
私が夏夜さんにお姉ちゃんのアイドルイメージを語った時、イメージの乖離ぶりに数分間夏夜さんがフリーズしていたのは今でも忘れられない。
正直に言えば、一歌と夏夜さんの関係性が羨ましい。あの2人の距離感はとても絶妙だ。近すぎるわけでもないけど、だからといって不仲じゃない。むしろ仲良しだ。お互い、手を伸ばせばいつでも届く距離感を保っている。私が望む理想の距離感だ。
……ここだけの話、1日でいいからうちのお姉ちゃんと取り換えてほしいと思ったのは1回や2回じゃない。
「そんなぁ……。最近しぃちゃんとぜんぜんお話しできてないのに……」
「はぁ……。そもそも、話すようなことがないでしょ」
お姉ちゃんが引っ付き、私が必死に引きはがす。これが日野森家の日常。お姉ちゃんはアイドル絡みになるとどこまでもストイックで真剣だから、そこは尊敬できるのに。
すると、不意にお姉ちゃんの力が弱くなる。不思議に思って私がお姉ちゃんのほうを見ると、お姉ちゃんはどこか嬉しそうな顔をしていた。
「あら? ……今のしぃちゃん、何かいいことがあったって顔よ?」
「え? なんで分かったの」
「うふふ、お姉ちゃんは何でもわかるのよ~」
……どうやら、私の変化は夏夜さんだけじゃなくてお姉ちゃんにも気付かれるくらいにはわかりやすかったようだ。
「しぃちゃん、なんだか見違えたわ。まるで、昔一歌ちゃんたちと一緒にいた時のしぃちゃんみたい」
「……そう見える?」
「ええ。お姉ちゃん嬉しいわ~!」
そう言いながらお姉ちゃんはまたべったりくっついてくる。どうにかこうにかお姉ちゃんを引きはがすと、私は自分の部屋で1人、今日起こったことを思いだす。今日は、いろいろあり過ぎた。でも、夏夜さんとの会話を通して、私の心の中で覚悟が決まったのは間違いない。
もう一度、一歌たちと一緒にいたい。その「想い」は、もう変わらない。
(ありがとうございます……夏夜さん)
──大切な想いに気付かせてくれた夏夜さんに感謝し、私は押し寄せてきた眠気に身を任せるのだった。
『──ふふっ。志歩は本当の想いに気付いたみたいだね。でも何か考えがあるみたいだし、私が邪魔しちゃいけないかな』
淡く光ったスマホには、終ぞ気付かぬまま。
改めて読み返してみると、昔の自分の文章力の低さが露呈していることに気付かされますね。
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