ストックが続く限り上げていきます。
ひとまず原作のメインストーリーにあたる箇所が終了するまでは上げる予定です。
【星乃家】
志歩と話し、その真意を確かめた次の日のこと。
珍しく、志歩から電話が来た。
『どうした?』
『あの、改めて昨日のことでお礼が言いたくて』
『気にするな。俺がやりたくてやったことだ』
『……そうですね。昔から夏夜さんはそういう人でしたね』
『おい、どういう意味だ』
『安心してください。悪い意味ではありませんので』
『それならいいが……』
『夏夜さん。改めて、ありがとうございました』
『……あぁ。解決したら、教えてくれよ』
『はい』
3分にも満たない、簡潔なやり取り。しかし俺にとっては、それで十分だった。
(……ま、結果的には上手くいったか)
どうやら、もう志歩は大丈夫そうだ。
あとは志歩がどう動くかだが……あの2人ならきっとどんな無理無茶無謀でも乗り越える。俺はそう信じてる。
【通学路】
次の日。どこを見ても変わらない、いつも通りの通学路。
だが、今日は珍しく1人ではなく2人だ。通学途中に司と遭遇、超弩級の大声でこちらに挨拶してくる司を華麗にスルー……しようと思ったが、そんなことをやってしまえば「待て待て待てぇぃ!!」みたいな感じで10デシベルほど余計にうるさくなるのが目に見えている。結果的に俺に残された選択肢は、諦めて司と登校することだけだった。
しかし今日の司との会話は、実に意外性のある内容だった。
「なぁ夏夜」
「なんだ?」
「聞いて驚け、オレはとうとうアルバイトを始めることにした!」
「ホー、そりゃまたいきなりだな。どこでだ?」
本当にいきなりすぎる。今までバイトの「バ」の字すらなかった司がバイトとは。
「フェニックスワンダーランドだ。オレはここから、偉大なるスターとしての一歩を踏み出す!!」
「そりゃいい。けど、だからと言ってこんな朝っぱらから大声で話していいわけじゃないからな」
「ぐっ……。気を付けよう」
「どうだか……。よし、今日登校してる間にあと3回大声出したら、お前の机の上に虫のオモチャを置いてやろう」
「む、虫だと!? ──や、やめろ! それだけはやめてくれっ!!」
いつもの通り歩く防犯ブザーに釘を刺しつつ、神高の校門をくぐる。司はもうこの時点で変人としての称号を不動のものにしているのだが……本人に気付く素振りはない。一度そのことを話したら「なぜだ!?」と大声で驚かれた。「いや、そういうとこだよ」というツッコミを全力で抑えた俺は偉いはずだ。
俺はどっちかというと変人扱いというより、変人に絡まれる被害者、あるいは変人とまともに会話できるレア枠みたいな立ち位置らしい。絡まれるというより自分から絡んでいる回数もそこそこあるが、少なくとも俺が変人とかいう噂は聞かない。時たま実技系の授業をサボって曲作りに熱中していることはあるが。
でも屋上には基本瑞希しか来ないから、楽でいい。瑞希は俺が「三日月夜」であることを知ってるし、なんやかんやで良好な関係を築けている。
……だが、今日の屋上は何かが決定的に違った。放課後、ふと屋上に行きたくなった俺が屋上に続くドアを開けると、そこには紫色の髪に水色のメッシュが入った、見慣れぬ男子生徒がいたのだ。
その男子生徒はドアの開いた音に反応してか、こちらの方を振り向くと、面白そうなものを見つけたと言わんばかりの顔でこちらに語りかけてくる。
「おや、こんなところに来る
「……それを言ったらお前も物好きの部類だと思うが?」
「フフ、まあそうだね。僕はたしかに、その『物好き』の部類だよ」
その返しを見て、俺は目の前にいるこの長身のメッシュ生徒が司に負けず劣らずの変人であることを確信した。
……瑞希といい、屋上に来たがる人間は癖が強い傾向でもあるんだろうか。ともかく、ここに人がいる以上作業はできない。そう判断し、立ち去ろうとしたその時だった。
「まあ待ちたまえ。ここであったのも何かの縁だし、少しお話していかないかい?」
「……何の話をするっていうんだ?」
「それじゃあ挨拶代わりに、僕自慢のショーをご覧に入れよう」
「話を聞け。というか、お前何言って──」
俺がそう言い終わるよりも早く、何処からともなく現れたいくつもの小型のロボットが、男子生徒の周りを回りだす。さらに言えば何処からともなく飛んできたドローンが、派手でこそないがロボットたちの動きを確かに引き立てる演出を行っていた。
……純粋に凄い。俺はそう思った。この男のショーには、間違いなく見る者を魅了する「魅力」がある。すべてが終わった時、俺はいつの間にか拍手を送っていたことに気づいた。
「フフ、どうだったかな? 楽しんでもらえたら光栄だ」
「……ああ。正直凄かったよ。思わず拍手を送りたくなるくらいには。それが素直な感想だ」
「それはそれは、また随分と高評価みたいだねぇ」
そして一連の動向を見て、確信した。
こいつは、天才だ。そして、司とは別ベクトルの変人。同時に、俺と同類の人間だ。こんな場所で即席のショーを開催しようと考えて、かつそれを実行するという時点で普通ではないが、それ以上に目の前の男からは俺と似たような雰囲気を感じる。
「何というか、お前からは俺に近いものを感じるな」
「おや? それはどういう意味かな?」
「
「……! どうやら、君とは面白い話が出来そうだね」
ビンゴ。
この男、やはりクリエイター体質だ。俺の話を聞いた男は怪しげ、されど共犯者を見つけたかのごとく愉し気な笑みを浮かべる。予想通り、俺とこの男は同類だったようだ。
「星乃夏夜、2年A組だ」
「僕は
「神代類──あー、類でいいか? いずれにしろ、これからよろしく」
「ああ。こちらこそ、夏夜くん」
これから始まるであろう友情の握手を交わす。瑞希がかつて言っていた「屋上のフレンドシップ」のリストに、俺の中でまた1人名前が追加された。
……それにしても、さっきから類からは俺の幼馴染と似たものを感じる。絶対に気のせいではないだろう。
「なんか、俺の幼馴染と気が合いそうだな」
「へえ、幼馴染がいるのかい?」
「ああ。スターになるって言って聞かない、ショーバカだ」
「スター、か……。それは、是非一度会ってみたいね」
「会えるだろ。類みたいなやつをあのショーバカ野郎が逃がすわけがない」
実際そうだ。仮に司が一緒にショーをするとなれば、それはまさしく類みたいな人物だろう。普段こそ変人奇人の類である司だが、ショーのことになれば、司は誰よりも本気になる。それこそ、本物のスターにも負けず劣らずの光を放つくらいには。もっとも……今ではその「スターになる」という目的だけが独り歩きしている可能性があるのだが。だってあいつ「スターになる!」とは言ってるけど、なんでスターになるのかって質問には答えられなかったし。
兎にも角にも……俺にとっては新たな、そして有益な出会いがあった瞬間だった。
それから瞬く間に時は過ぎ、数日後の休日。
俺は、最寄りの音楽ショップにやってきていた。何のことはない、作曲のインスピレーションを得るためだ。他の人が作った楽曲から影響を受けることは、結構よくあることである。そこで俺は、珍しい人物と出会った。
「あら……? 夏夜君!」
「その声……雫か?」
「ええ! ホント久しぶりね」
「ああ。元気そうでよかった」
そう。音楽ショップに雫がやってきていたのだ。これには俺も二重の意味で驚いていた。
なんせこの幼馴染、スマホが碌に使えない。操作を限りなく簡単にしてもなおダメだ。メッセージアプリで連絡を取ろうにも、何言いたいのか分からなくなることがザラにあるので会話が成立しない。
とどめに「散歩が好きなくせして1人で外に出歩くとほぼ確定で迷子になる」という傍迷惑な性質を持っている。志歩から雫迷子の連絡を受けて雫を回収し、家へと送り届けたのは1回や2回ではない。そんな雫が、見た感じ1人でここにやってきたのだ。驚くのも無理はない……ないよな?
そういえば、今の雫は「クールでミステリアスな美人アイドル」として売り出しているらしい。志歩からその話を聞いた時、普段のイメージとあまりに違い過ぎてフリーズしてしまったのは恥ずかしい話だ。志歩がその時のことを忘れていることを願いたいが、まあ志歩のことだし忘れてはくれないだろう。
「ところで……雫は何でここに?」
「……あら? そういえば、どうしてここにいるのかしら? 家の近くを散歩してたはずなのに……」
「お前結局迷子かよ……っ!」
……前言撤回。雫はどこまでも平常運転だった。
つまり、いつも通り迷子になり
しばらくして、ようやく雫は自分が迷子であることを理解したようだった。急におろおろし始める雫に対し、俺は手を差し出す。
「やれやれ……。ほら、帰るぞ」
「ええ……。ごめんなさいね」
「……気にすんな。もういつものことだろ? こうなってる度に謝られちゃ、キリがない」
雫と手を繋ぎ、雑踏の中を抜けていく。現役人気アイドルと手をつないで歩くのはどうなんだという話ではあるが、こればっかりは超法規的措置が許されないとダメだ。
というのもこの幼馴染、ワープか何かでも会得しているらしく、手を繋ぐかして物理的に所在を確認できるようにしておかないといつの間にか忽然と消えていることがある。そうなれば、また迷子からの回収に時間を費やさなければならなくなってしまう。僅か10秒目を離しただけでも視界から消滅していることがあるのだ、常に手を繋いでいないと油断ならない。
雫がいた音楽ショップから日野森家までは、おおよそ徒歩で20分前後。僅か徒歩20分の距離で迷子になるのもそれはそれで意味が分からないが、そこはとっくの昔に諦めている。もう雫のそれは人知を超えた何かだと思うしかない。
雫と帰る最中、世間話をかわす。アイドルの仕事はどうだとか、学校生活は楽しいかとか。
ちなみに雫と話す時、間違っても志歩の話題に触れてはならない。志歩に関連するワードを離したら最後、スイッチが入ってしまった雫はもう誰にも止められない。数十分どころか下手すると数時間単位で話し続ける。一度、4時間近く延々と妹がどれだけ可愛いかを熱弁されたことがあるくらいだ。
……ハッキリ言って、志歩の良さを俺に熱く語られても困る。確かに俺にも妹がいるけども。妹のことは好きだけれども。
それはそうと、俺は雫のわずかな表情の変化を見逃さなかった。
(……アイドルの話をした瞬間、雫の表情が曇ったな。何かあるのか?)
だが、ここで俺が何かをして解決できるとは思えない。アイドルのことに関しては専門外なのだ。歌はストリートの経験があるからある程度歌えるだろうし、ダンスに関しても人並み以上にはできる自信がある。そもそも雫がまだアイドル駆け出しの時、ダンスの特訓に付き合ったのは俺だ。人並み以上に踊れずして、(仮)とはいえアイドルの師匠は名乗れない。
ただ、もしアイドルをやれと言われたらいの一番に「無理です」と答える。理由は簡単、
――俺は昔から、どういうわけか動きながら歌うということができない。別に不器用ではないはずなのだが、なぜかどう足掻いても両立できなかったのだ。例えば「踊りながら歌え」と言われても、歌かダンスかのどっちかに集中してしまいもう片方が完全に疎かになる。
それじゃ本末転倒というものだろう。アイドルはどっちもできないと意味がないのだから。バンドはギリギリ行けるだろうが、演奏技術を存分に披露しながら熱唱できるか、と聞かれると途端に自信がなくなる。
「ほら、着いたぞ」
「ありがとう、夏夜君。戻ってこれてよかったわ~」
「そう思うなら少しは迷子癖を直す努力をしてくれ……」
本来家の近くで別れるつもりだったが、結局心配だったので雫を家まで送り届け、自分の家に入っていくのを見届けてから家路につく。
……音楽ショップでやるべき本来の目的を完全に忘れてしまったが、正直もうどうでもいいかもしれない。なんだかんだ、雫との会話で新しい曲の着想を得ることはできた。
(さて……久しぶりに曲作りのペース上げるか)
なんだか創作意欲がわいてきた。
雫との何気ない会話が、意外と俺にとって刺激になったのかもしれない。足取り軽く、俺は家に帰るのだった。
星乃夏夜について②
星乃夏夜の顔立ちは一歌にそっくり。本気で変装した場合、司ですら見分けがつかなくなるくらいには似ている。
でもちゃんと男なので身長でバレる。
逆を言えば、身長以外にバレる要素はない。
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