星の夜が紡ぐ歌は   作:もりいぬ

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メインストーリーのレオニ編は今話で解決です。
また、今話ではオリ主の世界の「不思議な性質」がまた1つ明らかになります。



動き出した時間

 

【星乃家】

 

 ……穂波と俺が数年ぶりの喧嘩(?)をした数日後。俺──星乃夏夜こと「三日月夜」は、ある楽曲を投稿した。

 

 ──「ウミユリ海底譚」。作ってきり、アップロードしていなかった楽曲の1つだ。

 

 ……ウミユリという生物は、幼体の時は海の中を自由に揺蕩う存在だ。だが、成体になると岩や海底にくっついて離れない。傍から見れば不自由なまま、そこで一生を過ごすのだ。それがまるで、俺には人間の一生みたいに思えた。子供の時は無邪気に遊んだり、騒いだりできる。

 でも大人になって「社会」というものを知ってしまった子供は……子供に戻れぬままそこから動くことはできず、ずっと「社会」という名の大岩に接着して動けなくなってしまう。

 

(だが……どんな生き物にもイレギュラーはいるもんなんだ。調べてみたら、たまーに大人になっても漂流してるタイプはいるらしいからな)

 

 この楽曲が、動けなくなったまま息苦しい日々を過ごす大人たちに響く楽曲であれば。子供たちに、未来へのメッセージとして伝わるのであれば。

 ……そして、大人と子供の境界で苦しむ人たちに、「君はもっと自由に生きていい」と伝えられたなら。

 

 それ以上の喜びはない。

 

(そしてこれは……俺から穂波へのメッセージでもある。今は誰よりも、この曲を穂波に聞いてほしい)

 

 一歌に頼めば、穂波に聞かせてくれるだろうか。

 そう思いながら、俺はいつになく明るい雰囲気で家に帰ってきた一歌を出迎えたのだった。

 

 

 結果的に、俺の叱咤激励(一方的だったが)は上手く行ったらしい。穂波は一歌たちに自分の本当の気持ちを打ち明け……そして和解したんだそうだ。良かった良かった。これで……また「いつも通り」だな。ついでに、クラスメイトとも打ち解けたらしい。やっぱり、穂波に必要だったのは一歩を踏み出す勇気だったんだな。

 

 そして……本格的に志歩の指導の下バンド活動をすることを決めた一歌たちは、今後「Leo/need」というバンド名で活動をするんだそうだ。「レオニード」……。なるほど、恐らく名前の由来は「しし座流星群」だ。そしてバンド名には、「need」という綴りがある。つまり、「必要」という意味。

 

 なるほど。「Leo/need」には、「4人みんなが必要」というわけだ。ちなみに一歌曰く、真ん中の斜め線は流れ星とのこと。

 これを書いたのは咲希だな。間違いない。

 

「『Leo/need』か……。いい名前じゃないか」

「本当に!? よかった……」

「ああ。これで分かっただろ? 離れた絆は、もう一度手繰り寄せればいい。皆が諦めない限り……何度だってやり直せるんだ」

「うん。……ありがとう、お兄ちゃん」

「……どういたしまして」

 

 ついでに……俺の妹は、もう1つすさまじいニュースを持ってきた。

 

「それでね、お兄ちゃん……。私、()()()()()()()()()()んだ」

「!?」

 

 あまりにも唐突なカミングアウトに、俺は思わず振り向く。

 まさか一歌も曲を書き始めたのか。いや、これから4人でバンド活動をやっていくんだから不思議な事じゃないんだが……。

 

 ──残念ながら、俺は少し前にあった「一歌のノート落書き事件」のショックが抜けきっていないのである。曲を文字通り1から全部作ってる俺からすれば……咲希から写メで送られてきたあの詩は衝撃的だった。なんせその時飲んでいたりんごジュースをまとめて噴き出してしまったからな。

 

 その後家に帰ってくるなり一歌が俺の部屋に突撃してきて「見た!?」なんてすごい剣幕で言うから、正直に「見た」と答えたら「あぁぁぁぁ……」とその場で崩れ落ちた後、何故か怒られた。もっとも、好物の焼きそばパンを奢ったらあっさり許してくれたのだが……。俺の妹、チョロすぎやしないか?

 それはそうと、一歌から手渡された歌詞を見てみる。題名は決まっていないみたいだし、1番の歌詞しかまだないようだが……。

 

(なるほど……。心に響くいい歌詞だ。何というか、希望に満ちている)

「悪くないな。曲名は決めてないのか?」

「あ……それはまだなんだ。でも、お兄ちゃんには一度見てほしくて」

「そうか。そうだよな……これからバンドとして頑張ってくって決めたんだもんな。よし! 俺は兄として、全力でお前を応援してるぞ」

「ありがとう……! 私、頑張るね!」

 

 さて、ここからは恒例の自作自演タイムだ。

 

「あ、そうだ一歌。今日出た三日月夜の新曲、チェックしたか?」

「え、新曲出たの!? ちょっと待って、今チェックするから……! えっと……あった。『ウミユリ海底譚』?」

「ちょっと聞いてみたが、すごく心にしみる曲だった。何がとは言わないが……そうだな、穂波とかに聴かせてやるといいかもしれないな」

「そうなんだ……。うん、明日皆で聴いてみるね」

「ああ。ドラムとかもふんだんに使われてたし、バンドの曲の参考にもなると思うぞ?」

 

 ……ドラムやギター、ベースを使った楽曲はいまや俺の大得意な分類だ。小さい頃からギターに触ってきたし、バンドにも造詣があるからそれが活かされてるのかもしれない。

 いつか一歌たちが有名になった暁には、三日月夜として「Leo/need」に楽曲を提供してみるのも面白いかもしれないな。

 

 そんなことを思いながら、いつも通りの談笑をする俺たち2人なのだった。

 

 

 

【星空のセカイ】

 

 一歌たちが仲直りしたことを知った俺は、教室のセカイを訪れるべく星空のセカイを訪れた。

 ……が、すぐに面白い変化があることに気づく。

 

「……? なんで()()がここにいる?」

「あら? 私は最初からいたわよ?」

 

 そう、ついこの間まで影も形もなかったはずのルカがいたのだ。

 明らかにこのセカイのルカは今まで影も形もなかったはずなのだが……本人はあくまで「最初からいた」と言い張っている。それに口調といい、雰囲気といいどことなくあの教室のセカイのルカに通ずるものがある。

 しかし……何だって急に?

 

「あ、夏夜君。来たんだね」

「ミク……どうしてルカが急に? 何か知ってるか?」

「うん。ルカが来たのは……きっと、夏夜君と繋がったセカイに、何かの変化があったからだと思うんだ」

「変化? ……ってことはつまり」

「うん。もう一度あの青い扉の先に行けば、何かわかるかもしれないね」

「なるほど……。百聞は一見に如かずだな」

 

 俺にとっては、何の前触れもなくルカが突然やってきたという事実だけでもまあまあ衝撃的だったんだが……。もっと衝撃的な事があった。

 それは、俺がセカイへの扉を開けようとログハウスに入った時のことである。

 

「……何か広くないか?」

 

 そう、どういうわけか前見た時より明らかにログハウスの中が広いのだ。あまりこのログハウスの中を詳しく見たことがないことを加味しても、どう考えても広いのが一目でわかるほどに。

 原因を探るべく辺りを見回すと……その理由は簡単に見つかった。

 

「『演奏してください』と言わんばかりに楽器があるな……」

 

 ギターにベース、ドラムにキーボード。バンドの演奏に必要な道具一式が、どういうわけか揃っていた。

 確か数日前にログハウスの中に入った時には存在しなかったので、間違いなくこの数日の間にポンと現れたのだろう。ルカの存在もそうだが……本当にこのセカイという場所は謎だらけだ。

 

「行くか。行ってみなきゃ何もわからん」

 

 俺は扉を開け、教室のセカイに通ずる扉の先へ足を踏み入れた。

 

 

【教室のセカイ】

 

 扉を開け、視界が白い光に包まれた後、俺が立っていたのはやはりあの時の屋上だった。しかし、今日はミクもルカも出迎えてくれなかった。

 

(教室にいるのか?)

 

 階段を降り、教室へ向かう。不思議と、前来た時よりも校舎から見た景色は美しく見えた。やがて歩を進めていくと、教室の1つからギターの音色が聞こえてくる。

 どうやら、ここにいたみたいだ。俺は一応ノックをすると、教室のドアを開く。

 

「ミク、いるか?」

「あ、いらっしゃい夏夜。また来たんだね」

「ああ。こっちのセカイに少し変わったことが起きたんでな」

「変わったこと?」

「どういうわけか、いつの間にか俺のセカイにバンドで使う楽器一式があったんだよ」

「うーん……」

 

 教室の世界のミクはしばし考える様子を見せた後、何かを閃いたような顔をした。

 

「あ。ひょっとしたら、一歌たちの想いが関係してるのかも」

「一歌たちの?」

「うん。一歌たちの想いから、新しい歌が生まれたからね」

(想い? ……そういや、『Untitled』はどうなったんだ?)

 

 スマホの音楽ファイルを開く。

 するとそこには、これまであった「Untitled」の代わりに「needLe」という新しい曲が追加されていた。

 

(……そうか。これが一歌たちの想いから生まれた歌ってやつなんだな)

 

 ならば聞いてみよう。そう思ったのだが、曲を再生できない。

 当然だ。セカイに入るには、曲を再生しなければならない。再生されている音楽をさらに再生することなどできないのだ。

 

「これ……現在進行形で再生されてるんだが、聴けないのか?」

「えーっと、確か……。そうだ、君のスマホからなら、『リプレイモード』って機能を使えば聴けるはずだよ」

「『リプレイモード』? ……あった、これか」

 

 そう言われて端末の画面を見てみると、「needLe」の再生画面の端っこに、確かに「Replay」という一語があった。どうやら、これが「リプレイモード」とやららしい。試しにそれを押してみると、一歌たちの想いから生まれた新しい歌が、再生され始める。

 そして聴こえてきたそれは……他でもない、一歌たちの声だった。

 

 取り戻したい ヒーローみたいに

 苦笑い バイバイはもういいよ

 泣くときは 教えてよ、絶対

 

(……すれ違い。そして、4人の間にあった出来事。それが、しみじみと伝わる。これが……『想いから生まれる歌』か)

 

 ギターの主旋律と一歌の力強いボーカルから放たれる歌声は、爽やかな感じを出しながらもどこか悲しさを感じさせる。だが、それすら糧にして進むという意思も感じられる。それに、さっきの「泣くときは教えてよ」という歌詞。

 ……それが、一歌たちの優しさを、想いを表しているようで。決して綺麗事などじゃなく、心からの想いを詰め込んだものだと思えた。

 

 どうだっていい存在じゃない

 簡単に愛は終わらないよ

 離れ離れも 揺れる思いも

 (答えを聴かせて)

 もう一度奏でていこう

 何だって歌うよ キミが笑うなら

 ──すれ違う前のセカイまで

 

(そうか。これが一歌たちの想い。……見つけたんだな)

 

 最後のギターの音が終わった時、俺は今までにないほどの感銘を受けていた。

 

「どう? いい歌でしょ?」

「ああ……。そうか……。これを、あいつらがな……」

「これからもあの子たちは、新しい曲を作っていくわ。私たちは、それを支えるためにここにいるんだもの」

「ルカ……」

 

 曲を聴いているうちに、このセカイのルカが近くに来ていたらしい。どうやら、人の気配に気づかないほどに聴き入っていたようだ。

 セカイというのは、本当に不思議な場所だ。想いの持ち主によって、セカイの在り方も、そこから生まれる歌もいかなる形に姿を変えられるというのだから。

 俺は近くに置かれていたギターを手に持つ。一歌のギターと同じ型式のそれは、不思議と何年も使っていたかのように手に馴染んだ。

 

「なぁ、少しギターを弾きたくなった。合わせてくれないか」

「いいよ。一歌のお兄ちゃんのギター、聴いてみたいしね」

「ええ。ベースでよければ合わせるわ」

「ボーカルはミクが頼む。今日は演奏したい気分なんだ」

「任せて」

「よし、カウント……ワン、ツー、スリー、フォー!」

 

 セカイに2つのギター、そして1つのベースの音色が響き渡る。

 やがて1曲を合わせ終わり、俺は再び曲の韻に浸っていた。

 

「やっぱいいもんだな、誰かと合わせるってのは」

「うん。でも、想像以上だったよ」

「ええ。一歌がどうしてギターを弾こうと思ったのか、分かる気がするわ」

「2人とも、今日はありがとう。楽しかった」

「こっちも楽しかったよ。ありがとう」

「いつでもいらっしゃい。また、一緒に演奏しましょう?」

「ああ。必ずだ」

 

 俺を見送るミクとルカに手を振り返す。

 そして俺は一歌たちの想いの歌──「needLe」を停止し、元のセカイへと帰っていった。

 

 

【星空のセカイ】

 

 曲を止めたことでいつも通りログハウスの中に戻ってきた俺は、ルカがベースを弾いているところに遭遇した。

 

「ルカ、ベース弾けるのか?」

「ええ。ここにある楽器は一通り弾けるけど……。一番得意なのはベースね。これが一番手に馴染むのよ」

「なるほど……」

 

 やはり、俺のセカイのルカは教室のセカイのルカに似ている。

 立ち振る舞いといい、得意楽器といい。現れた時期も踏まえて考えると、もしかしたら教室のセカイの影響を多分に受けているのかもしれない。

 

「それと、ミクたちも()()()()()()()()()()()()()()わよ?」

「本当か?」

「私は嘘をつかないわ」

「なら、また今度演奏したい曲がある。付き合ってくれるか?」

「もちろん。ミクたちと一緒に演奏なんて、楽しそうだもの」

「ああ、楽しみにしててくれ」

 

 外に出ると、ミクが何処からか持ってきた天体望遠鏡で天体観測をしていた。

 天体望遠鏡なんて、前までなかったはずだ。あれもまた、一歌たちの想いが形を成したものなのだろうか。

 

「あ、おかえり夏夜君」

「ただいま……でいいのか。このセカイって、星は見えるのか?」

「うん。夏夜君も覗いてみるといいよ」

 

 ミクに言われるがまま望遠鏡をのぞくと……確かに、現実で見るような星々がよく見える。

 というかここは現実的には「異世界」の部類のはずなのだが、現実とほとんど変わりないように見える。正直ミクたちがいなければ、俺はここが現実だと思えてくるくらいには。

 

「確かに、よく見えるな。ここは空気も澄んでいるし、そのせいかもしれない」

「そうなの?」

「ああ。にしても……本当に綺麗だな」

「それが夏夜君の想いってことだよ。きっと、この空みたいに広くて大きいんだろうね」

「そう、なのかもしれないな」

 

 ミクと少し語らい、セカイを後にする。まもなく自室に戻ってきた俺はベッドの上に寝ころび、あることを考えていた。

 

──教室のセカイ以外のセカイにつながっているであろう4つの扉は、いったい誰のセカイなんだろうか。

 

(……ま、いずれわかるか。そんな気がする)

 

 まるで根拠のないただの予感。あるいは、希望的観測。

 だが、今はそれを信じてみようと思った。   

 

 





作品の展開上、「ウミユリ海底譚」をオリ主が製作した楽曲とさせていただいております。

基本的に歌詞および曲名はなるべくぼかしていますが、展開上大事だと思った場合や、入れる必要性があると判断した場合は曲名や歌詞を入れています。

パラレルの次案を選ぶとしたら、どれにします?

  • 約束された気絶のみのり(みのり)
  • 夏夜と愛莉、ドラマへの挑戦(愛莉)
  • 桐谷夏夜、伝説の兄妹オンステージ(遥)
  • 星灯らぬ夜、眠りを知らず(完全新規)
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