星の夜が紡ぐ歌は   作:もりいぬ

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1章のエピローグ的な回となります。
ここでは描写されていませんが、きちんとニーゴのメインストーリーも消化されています。



一段落

 

【神山高校】

 

 

「夏夜……。ほんっっっとうに、すまなかったっ!!!」

 

 

 司と事実上の絶交をし、冬弥と語らってから2日ほど経ったのだが……俺は朝早くから、いきなり司に謝られていた。

 朝来て顔を合わせた途端、俺の方に飛んできてこれだ。あまりの急展開に、正直頭が追い付かない。

 

「……おい、まず何について謝ってるのかを説明しろ」

「あ、ああ……。そうだったな……」

「……それを飛ばして何の許しを請うつもりだったんだ」

 

 早速ツッコミどころの嵐である。ブレないな……。

 

「オレは自分がスターになりたかった理由を……オレの原点を忘れていた……! 夏夜に言われたとおり、オレは咲希に……笑顔でいてほしかっただけだったんだ……!」

「やっと気づいたか。そんな大事なこと、忘れてんじゃねーよ」

「ああ。なぜ忘れていたんだろうな……。オレがスターになろうと思ったのは……小さい頃見たショーに……最高の笑顔をもらったからだった……」

「……」

「夏夜は、覚えていたんだな……オレの夢を」

 

 そりゃ、小学校から中学校にかけてあれほどしつこく言われたら嫌でも覚える。とはいえ、それを口に出すほど野暮ではない。

 

「あぁ。お前に聞かされてから、ずっとな」

「──礼を言わせてくれ。ありがとう」

「礼を言われるようなことは何もしてない。お前は『気付けた』。それで十分だろ」

「ああ……!」

 

 どうやら、司は自分の原点を思い出せたらしい。俺には謝罪より、そっちの事実がある方がいい。

 それはそうと、本人的にあの時のことは水に流してもいいのだろうか。

 

「それで? 絶交は撤回……ってことでいいのか?」

「む……? いいのか?」

「なんでお前が聞くんだ。先に言いだしたのは司なんだから、お前が決めてくれればいい」

「なら、頼むっ! もう一度オレの……友になってくれ!!」

「ハッ……。もちろん」

 

 司といつかぶりに交わした、友情の握手。それを、今ここでもう一度交わす。司曰く、俺と喧嘩した後の司は冷静になってから、自分の原点を思い出したらしい。類たちショーキャストとも和解出来たらしく、司たちは「ワンダーランズ×ショウタイム」を再結成して一からやり直すそうだ。

 

(ま、これで名実ともに一件落着……といったところか)

「ところでだ、夏夜」

「どうした?」

「1つ聞きたいのだが……。お前があの時言っていたことはどこまでが本音なんだ?」

「ああ、あれか? 実はあれ、途中から全部演技だったんだ。なかなか迫真だったろ?」

「な、な……」

 

 あの屋上の茶番をネタバレする。とはいえ、俺自身途中から演技とブチ切れがあいまいになっていたのでどこまでが演技で、どこからが本気だったのか覚えていないのだが。しかし、向こうにとっては「俺が演技をしていた」というだけで十分な衝撃だったらしい。それを聞いた司は驚きのあまり開いた口が塞がらないようだった。

 まもなく再起動した司が口を動かそうとするのを見た俺は次に起こる出来事を予測し、すぐさま耳を塞いだ。

 

 

「なにぃーーーーーーっ!!!??」

 

 

 が、司のそれは耳を塞いでもなお余裕で貫通するほどの威力があった。俺が今までに聞いた司の爆音の中でも最高記録を更新したに違いない。冗談抜きで鼓膜が死ぬところだった。

 ──この日、体感120デシベルどころか150デシベルは上回るであろう凄まじい爆音(大声)が、午前8時過ぎの神山高校付近一帯に響き渡ったのだった。

 

 

 

 司が類たちと和解した。俺にとっては、それだけでも喜ばしいことだった。

 しかし、嬉しいニュースはそれだけではなかった。うっかり弁当を持ってき忘れてしまった(母さんにメッセージで言われて初めて気づいた)ため、購買に行った時のことである。俺は偶然、冬弥に出くわした。その表情はあの日見た憂いのある表情ではなく、むしろ今まで以上に生き生きとしているように見える。

 冬弥は俺の姿を見つけると、こちらに歩み寄ってきた。

 

「夏夜先輩!」

「冬弥か。どうだ? あれから答えは見つかったか?」

「はい。また彰人と一緒に、ストリートで歌うことにしました」

「そうか」

 

 答えは出たらしい。俺にとっても、冬弥にとっても納得のいく答えが出てよかった。

 

「ありがとうございます、夏夜先輩。先輩がいなかったら、俺は……」

「冬弥が考えて出した結論だ。俺は何もしてない」

「それでも、お礼を言わせてください。……本当に、ありがとうございます」

 

 今日は随分と俺を言われる日だな、と思いながら冬弥の礼を受け取る。そこに、オレンジ髪の青年──東雲彰人が戻ってきた。

 

「冬弥、どうした……って、夏夜センパイ」

「彰人。どうやら、冬弥とはまた一緒にやっていくみたいだな」

「はい。……その、あざっす、いろいろと」

 

 彰人とは少し前になんやかんやあって以来、ある程度通常モードで話せるようになっている。

 どうやら初対面の際に抱いた違和感は、彰人が「余所行きモード」で話していたことに起因していたようだ。

 もしかしたら、今の彰人たちとはまあまあ熱い勝負ができるかもしれないな。

 

「ああ。それと……お前らとは、一度勝負がしてみたくなった」

「……! 先輩相手でも手加減はしません。負けませんよ」

「言っとくが、俺はかなり手ごわいぞ?」

「へぇ……。面白いっすね。だったらその時は……オレたちの本気を見せてやりますよ」

「楽しみにしてるぞ」

 

 彰人は俺に対し、挑戦的な笑みを浮かべる。俺はそれに「いつでも待つ」という意味を込めて不敵な笑みを浮かべ返し、冬弥たちと別れる。次々ともたらされる吉報に、俺の心は浮きたっていた。購買で買った焼きそばパンは、いつもよりもうんとおいしく思えた。

 

 

 

 

 ──「有卦に入る」、ということわざがある。

 幸運に恵まれ、いいことが何度も続くという意味だ。今日の俺は、まさにその「有卦に入る」というやつらしい。帰り道、俺はいつになく上機嫌の雫と出くわした。

 出くわした……のだが、やはりというべきか家とは全く逆方向に進んでいる。キョロキョロ辺りを見回しているのを見るに、どうやらまた迷子らしい。

 

「雫」

「あ、夏夜君! 久しぶりね~」

「ああ。久しぶり。……で、また迷子か?」

「そうじゃないのよ。ちょっと知らない道に行ったら、帰れなくなっちゃって……あら?」

「はぁ……人はそれを迷子というんだよ。ほら、こっちだ」

「いつもごめんなさいね……?」

「だから、謝るなって。雫がこうなのは昔からなんだし、気にすんな」

 

 そう言いながら、雫を本来帰るべきルートに引っ張っていく。

 雫は見慣れた道なら一応迷わないのだが……少しでも見慣れない道に出るとダメだ。なぜかそのまま戻ってこなくなる。というか、志歩曰く「学校の中でもたまに迷子になっている」らしい。しかも散歩が好きなせいでそんなことが日常茶飯事なのである。

 俺たちはもう慣れてしまったから「ああ、またか」の一言で済むが、他人からしてみればタチが悪いという問題ではないだろう。事実、「迷路に挑ませてはいけない人物ランキング」ぶっちぎり1位が雫なのは俺と司と志歩の間の共通認識だ。冗談抜きで一生出てこられなくなる未来しか見えない。

 だがいつも通り雫を(物理的に)捕まえて家へと送り届ける道すがら、俺は雫から衝撃的な報告を聞くことになる。

 

「ねぇ、夏夜君。私、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()の!

「……!?」

 

 俺の足が止まる。手を引いて歩いていた関係上、俺が急に止まったことで雫がもろにぶつかってしまうが……そんなことを考える余裕など今の俺にはない。

 ──今、雫はなんと言った? 「新しいグループで活動する」?

 

「……ど、どういうことだ!?」

「どういうことって言われても……。そのままの意味よ?」

「いや、それは分かるんだが……! というか、『Cheerful*Days』はどうするんだよ!?」

 

 なんとか言葉を噛み砕き、雫に一番重要であろう部分の質問をぶつける。その瞬間、それまで笑顔だった雫の表情が曇った。

 

「……()()()()

「は? 辞め……た?」

「えぇ。……実は私、他のみんなからよく思われてなかったのよ。『見栄えだけでセンターになった』とか、『モデルになった方がいいんじゃない?』なんて言われて……。だから脱退したの」

「……何だよ、それ」

 

 時間が、止まった気がした。そこにあったのは、ただ純粋に残酷な事実。

 俺の中で、静かな怒りが燃えているのがはっきりわかった。それは、雫の努力を誰よりも分かっているからこそ。しかし、顔も名前も知らない連中に怒りを抱いたところでどうにもならないのもまた事実。

 

(これが……『芸能界の闇』ってものなのかもな)

 

 少し前に、ネット上でこう語った人がいる。「今の芸能界は戦争と言っていい」、と。

 多種多様なタレント、芸人、モデルに俳優……それが日々生まれては、消えていく。基本的にテレビは見ない俺だが、雫が「Cheerful*Days」のセンターとして必死に頑張っていることは知っていた。時折雫に頼まれてダンスの練習にも付き合ったことがあるし、たまに姉の頑張りを志歩から聞くこともあった。

 

 しかし……その人は「アイドルのそれは別格だ」とも言っていた。アイドルというのは、いわば水商売だ。売り出せるときに徹底的に売り出さなければ、埋もれるだけ。そしてグループで活動するアイドルというのは一見するとメンバー内の仲がよさげに見えるが……実際はそうでもないことだってあるのだと。

 雫は……「それ」に飲み込まれてしまったのだろう。

 

(……しかし、雫はさっきこうも言っていたな。『新しいアイドルグループで活動する』って。どういうことだ……? 『引き抜き』とやらでもあったのか?)

「あ、心配しないで。後悔はしてないわ。それに、私にはもっと大切な仲間ができたもの」

「……それが雫の選択ってなら、俺は納得する」

「ありがとう、夏夜君」

 

 どうやら円満に「卒業」したわけではないようだが……別にそれを引きずっているわけではなさそうだし、本人的にはそれでよかったのかもしれない。

 

「ひとまず……事情は分かった。けど、その『新しいアイドルグループ』って、なんだ?」

「『MORE MORE JUMP!』って名前のグループよ。まだどうやって活動するかは決めてないけど……。きっとうまくいく気がしてるの」

「そうか……。頑張れよ。何かあったら、いつでも俺を頼ってくれ」

 

 首肯する雫。

 その「MORE MORE JUMP!」というアイドルグループのことを聞くと、なんでも「みのりちゃん」というアイドル志望の少女が中心となって結成されたアイドルグループなんだそうだ。所属する事務所は、これから決めるらしい。頑張ってほしいものだ。

 雫を家路に送り届け、いつも通り志歩に雫配達完了の連絡を送る。やはり志歩は律儀に返事をしてくる。今日は「いつもいつもお姉ちゃんがすみません……」という内容だった。意外かもしれないが、志歩は毎回律儀に返事をするのみならず、わざわざ返事の内容を変えるのだ。まあ志歩のことだし、「定型文では気持ちが伝わらない」と思っているのかもしれないな。

 

(『MORE MORE JUMP!』……か。面白そうだ)

 

 一歌たちはよりを戻しバンドを結成、司たちはユニットとして再出発。冬弥はストリートで歌い続けることを決め、雫は心機一転……新たなアイドルグループのメンバーになった。

 

(何というか、みんな……。前に進んでるんだな。俺も後れを取るわけにはいかない。そろそろ『作曲家・三日月夜』としての活動範囲を広げようか)

 

 早速俺は家に帰り、自室のパソコンを起動する。ある程度身に着けたネット技術がこんなところで役に立つとは、思わなかった。

 ささっとトゥイッターの個人アカウントを立ち上げ、ボカロPである「三日月夜」としてのメールアドレスや注意事項を書き込んでいく。一歌にバレる可能性も高まったが……その時はその時だ。別に隠すことでもないし。

 

(よし……まあこれでいいか。今日はこの辺にして、しばらくしたら1曲投稿しよう)

 

 

 

 

 

 

 三日月夜<公式>

 @Crescent_MKDK

 

 こんにちは。初めましての方は初めまして。

 主にボーカロイド楽曲を投稿しております、三日月夜(三日月P)の公式アカウントです。

 注:「歌ってみた」、「踊ってみた」系動画はいくらでも使っていただいて構いませんが、商業目的の場合許可なくしての楽曲の使用の一切を禁じます。

 また、楽曲の無断転載は禁止です。

【連絡は下記のメールにお願いします】 

 公式メールアドレス→Crescent.mkdk.jp@pmail.com

 

 

 





というわけで、1章は完結となります。
以降はイベントストーリーが主軸となりますが、オリ主が絡むイベントと絡まないイベントがあるので、絡まないイベントがある分は時系列が一気に飛びます。

パラレルの次案を選ぶとしたら、どれにします?

  • 約束された気絶のみのり(みのり)
  • 夏夜と愛莉、ドラマへの挑戦(愛莉)
  • 桐谷夏夜、伝説の兄妹オンステージ(遥)
  • 星灯らぬ夜、眠りを知らず(完全新規)
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