星の夜が紡ぐ歌は   作:もりいぬ

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元々前の話と地続きだったのですが、長すぎたので2話に分けました。
時系列が少しガタガタになっていますが、あまり深く考えないでください。



思い出は皆の中に

 

【星乃家】

 

「体育祭……か」

「うん。うちの学校はもうすぐなんだ」

 

 司たちのハロウィンショーと前後して、宮益坂女子学園の体育祭が近づいていた。その体育祭を成功させるべく、体育祭実行委員というものに咲希と……桐谷?という人が立候補したんだそうだ。

 咲希にとってはやりたくてしょうがなかったことだろう。なんせ、そういうビッグイベントに参加するのがずっと夢だったもんな。

 

(……小学校6年、だったか。最後に咲希が学校行事に参加したの。中学に入ってからすぐ、体調崩しちまったし)

「お兄ちゃん? どうかしたの?」

「ああ、いや。咲希も青春を楽しんでんだな……って思ってな」

「みたいだね。そういえば、桐谷さんも咲希と同じみたい」

「同じ?」

「最後に学校行事に参加したの、小学校5年生くらいの時なんだって。だから、咲希に似てるなって思ったんだ」

 

 そういや、一歌のクラスに桐谷って女子が転入してきたとは聞いたな。だが、その桐谷さんとやらも重たい過去持ちなのだろうか? 

 

「その桐谷さん、って子も病弱だったのか?」

「あ、ううん。アイドルやってたんだよ。『ASRUN(アスラン)』ってグループで。ASRUNの桐谷遥。聞いたことない?」

「ASRUNの桐谷遥? ……聞いたことないな」

「お兄ちゃん、テレビとかあんま見ないもんね……。うちの学校に転入してきたときは、すごく話題になったんだよ」

 

 前にも言ったかもしれないが、俺はアイドルのことについてはからっきしだ。せいぜい雫が所属していたユニットの名前と、あと数人のアイドルの名前を知っているくらいである。

 

 だが一歌の言い分から考えるに、その桐谷遥というアイドルは相当有名人らしい。スマホで調べてみると、「きり」と打ち込んだ時点で検索候補に「桐谷遥」という人物が出てきた。さらに言えば、サジェストには「桐谷遥 引退」というワードがあった。気になったので詳しく調べてみると、どうやら数か月前に突如引退したらしい。そのことがきっかけでネット上では未だに活発な議論が行われていた。さらにはなぜ引退したのかも、その後の動向も一切不明とのことだ。

 

 そうして検索候補をさらに探っていくと、雫の「Cheerful*Days」脱退についてもニュースにされていた。有名になることというのは、こうして人の目を否応なしに引き付けてしまうということでもある。

 エゴサというものを進めていく中で、俺はそれを実感せずにはいられなかった。

 

(……有名になるってのは、必ずしも幸せな事じゃないからな)

「一歌。その桐谷さんって子を、まだ『アイドル』としてしか見てないとかないよな?」

「ううん。桐谷さんは桐谷さんだから。アイドルとかそういうの関係なく、仲良くしてるよ」

「ならいいんだ。その桐谷さんって子も、アイドルの前に1人の女の子なんだからな。ゆめゆめ、忘れるなよ」

「うん」

 

 自分を見てもらえないというのは、どうしようもなく辛いことだ。

 これはあくまで俺の持論だが、誰にも本当の自分というものを観測されなくなってしまえば、いつしか自分ですら自分という人間が分からなくなっていく。そしてやがては、()()()()()()()()()()()()()()のだ。

 そういう意味では、明らかに「本来の性格」と「アイドルとしてのイメージ」が乖離していたであろう雫はよく自分を保てていたと思う。もしかしたら、本来の日野森雫をよく理解している俺たちの存在が大きかったのかもしれない。

 

 でも、同時にこんなことも考えてしまった。

 

 

 

 

 

 

本当に自分を「無」にしてしまった人間がいるのなら──果たして、その人間は「()()()()()()()」といえるのだろうか。

 

 

 

 

 

 

(しまった、今考えることじゃなかったか)

 

 ……閑話休題(それはそれとして)

 なんと今年の体育祭は、一般参観NGらしい。このことについて司と話し合うと、「直接見に行きたかったんだがな……」と電話越しにも明らかに落胆しているのが見え見えだった。もっとも司は新しいショーの練習があるらしいのでどっちにしろ行けないのだが。まあ1日とはいえ女子高に平気な顔して男が入りまくったら問題が起こるのは不可避だろうし、あとで一歌からどんなものか教えてもらえばいいからあまり問題はないな。

 

 ついでにあの後司は類とのわだかまりも解けたそうで、「ワンダーランズ×ショータイム」最初の挑戦となるハロウィンショーの初演は大成功に終わったそうだ。

 

(やっぱり。司も類も俺から言わせれば似た者同士……。分かり合えるものなんだ)

 

 それはそれとして、先の一件の謝罪が無かったのでやっぱり司は多めに爆破してもらうことにしよう。

 

 

 

【フェニックスワンダーランド】

 

 数日後、俺はハロウィンショーの千秋楽を終えた司に感想を伝えるべく、夕暮れ時のフェニランを歩いていた。ちなみに俺も今回のショーはしっかり見ており、終日大盛況だった。すると、ちょうど司が出てくるのが見えた。ショーの後片付けを終えたらしい。

 

「よう、司」

「夏夜か。お前のおかげで、ハロウィンショーは大成功だったぞ!」

「俺は何もしていない。今回のショーの成功は、お前たちの努力の賜物だ」

「類を説得してくれたのは夏夜だったと聞いているが?」

「……俺は直接話したわけじゃないんだが」

「む? そうか。だが、寧々から聞いたぞ。団員の話を聞いてくれたことを、座長として感謝する!」

「分かった分かった。ま、礼は受け取っとく」

 

 そういえばあの話をした翌日、学校ですれ違った寧々からもう一度「ありがと」と礼を言われた。どうやら寧々はあの後勇気を出して類に自分の考えを伝えることができたらしい。

 

 ついでに、司への爆破(いつもの30%増量)はその日のうちに滞りなく行われていた。昼休みの間ずっと「おい、なんだか今日はいつもより激しくないか!?」やら「ちょっと待てぇぇえい!!」といった大音量が爆音と教師の怒声を掻き消すほどに聞こえまくっていたが、もう俺は環境音として楽しんでいた。周りの生徒たちも「今日はなんか派手だなー」とか呑気に言ってる奴いたし。

 

 というか、爆破の音量にも勝る司の声とは何なんだろうか。こないだ司を唆して声量を計測したら「飛行機のジェットエンジンレベル」なんて結果が出ていたし。本当にどこからそんな声が出ているのだろうか。

 

 まあそんな感じで司も類も遠慮がなくなった結果、類の仕掛けがてんこ盛りのハロウィンショーが完成した、というわけだ。

 突然ステージが暗転したかと思えば、ステージの壁の一番上に司がいた時はどういう演出だと思ったが……。よもやステージ全体を「奈落」と思わせるための演出だったとは。まったく、ワンダーランズ×ショータイムが誇る天才演出家はとんでもない演出をしてくれる。

 

「だが、さすがに疲れたな……」

「お疲れさん。アイスくらいなら奢るが、何味がいい?」

「なら、バニラを頼む!」

「はいよ」

 

 近くのアイスクリーム屋でバニラアイスを2つ購入し、1つを司に手渡す。

 

「ところで、聞いてくれるか?」

「どうした?」

「オレたちのショーが、ショーコンテストで3位に入ったらしい!」

「お、3位か。あのステージの規模でそれだけの票が集まったとなれば、大躍進なんじゃないか? もちろん、司たちのステージに投票させてもらったぞ」

「おおそうか! 改めて礼を言うぞ!」

 

 ──「フェニックス☆ショーコンテスト」

 フェニックスワンダーランドを運営する「鳳グループ」が企画したコンテストらしい。確か、「フェニックスワンダーランドの全てのショーユニットを対象としたコンテストで、決められた3回の期間でショーを行い、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()」というものだったはずだ。

 

 恐らく3回なのは、平等性を期してだろう。1回で決めてしまっては、客の好みやステージの規模だけで1位が確定してしまう可能性があるからな。さらに言えば、優勝したユニットはフェニックスワンダーランドの「宣伝大使」としてテレビCMに起用されるんだそうだ。スターを目指す司にとっては千載一遇の機会に違いない。「こんな困難、大いに結構!」とか素面で言ってそうだし。

 ちなみに司曰くこのフェニランにステージは10個近くあるらしく、その全てに個別のショーユニットがあるんだそうだ。中でも一番大きなステージは円の中心に建つ「フェニックスステージ」であり、設備も人員もワンダーステージとは比べ物にならないほどだという。このコンテストでも、現在2位のステージに大差をつけて首位だ。

 

「ま、頑張れよ。俺はお前たちが優勝するって信じてるからさ」

「ああ。見ていろ夏夜! オレたちは必ず優勝し、スターへの道を掴んで見せる!!」

「はいはい……」

 

 ──チャンスはあと2回。果たして、司たちはどんな結末を迎えるのか。

 なんだかこれ自体が1つの物語として成立しそうだなと思いつつ、俺は司とともにフェニランを後にした。

 

 

 

【数日後・星乃家】

 

 司たちのハロウィンショーの少し後、宮女の体育祭が実施された。

 ……いつも思うのだが、宮女はスケジュール過密すぎやしないだろうか。なんせ、文化祭(今年はスケジュールの都合上平日実施だったらしい)が開催されて1ヶ月も経たないうちにすぐさま体育祭だぞ。準備大変過ぎないか? うちの高校も五十歩百歩ではあるが。

 

 だが、今年の体育祭はいつもとは毛色が違ったらしい。咲希を含む1年生の体育祭実行委員がメチャメチャに張り切ったらしく、なんでも「笑顔溢れる体育祭」を目指したんだそうだ。

 そのためか、選手宣誓はよくある堅苦しいものではなく「正々堂々と戦い、笑顔いーっぱいの楽しい体育祭にする」というものだったらしい。個人的には、堅苦しい挨拶よりユニークでいいと思う。というか、体育祭は「祭り」なのだからそれくらいはっちゃけても許されるだろう。

 

 そして一歌の話によると、どうやら競技自体にも細かく、そして様々な工夫がなされていたという。例えば、玉入れの玉はカラフルに彩られ、中にはハムスターやウサギなど、小動物の絵が描かれていたものもあったそうだ。練習だと普通の玉だったから、びっくりしたらしい。

 

(……それ、志歩は大丈夫だったのか? 色がついた玉ならまだしもウサギとかが描かれた玉とか投げれないだろ。あいつ小動物とかマスコットとか大好き人間なんだぞ?)

 

 志歩は一見するとクールそうだが、実は()()()()()()()()()()()()()()()()使()()()()()()()()()()()()なのだ。というか、フェニーくんグッズが部屋の一部分をまるまる占領している。本人はそれをひた隠しにしているので絶対に学校に持っていこうとはしないが。俺から言わせてみればもう完全にコレクターの領域なのだが、本人は頑なに認めようとしない。

 なお志歩自身はうまく隠せていると思っているのだが、一歌をはじめとした幼馴染にはすでにバレているし、それでなくとも他でもない()()()()()()()()周囲の人間に自分の趣味嗜好をバラされまくっていることは知る由もないだろう。

 

 

 さて、脱線した話を戻すとして──2年生の棒取り合戦では雫に誰も近づけなかったという。

 ……無理もないな。正直、雫の立ち振る舞いはあまりにも「完成されすぎている」。常にオーラみたいなものを出しているうえに、本人に隠す気がまるでないせいで周りが自然と萎縮してしまうのだ。

 

 ただし、その代わりに「天然×方向音痴×機械音痴」というもうどうしようもないほど酷い合体事故を起こしているのだが。

 雫はあれだ、生まれつきのビジュアルにステータスのほとんどを持っていかれたのかもしれない。決して成績は悪くないが。

 

 そうして最終的に、学年別対抗リレーで一歌たち1年生が2年生を下したことで1年生が総合優勝という結果で体育祭は幕を下ろしたんだそうだ。そして今回の体育祭を通して、桐谷ってクラスメイトとの関係も深まったという。文字通り、「皆が楽しむ体育祭」は見事達成されたようだ。で、今しがた打ち上げを終えて帰ってきたところらしい。

 

「──って感じで、疲れたけど……それ以上にすごく楽しかったんだ」

「よかった。『笑顔溢れる体育祭』ってのは嘘じゃなかったみたいだな」 

「うん。正直──終わっちゃうのが残念なくらい」

(咲希も楽しめたみたいだし。いい思い出になってよかったな、一歌)

 

 ──実は夕食前に、咲希から「今から打ち上げ! 体育祭すっごく楽しかったよ~!」という内容のメッセージが送られてきた。

 そこに添付されていた写真には、やや恥ずかしがりながらピースサインをする一歌、片手でスマホを持ちながら満面の笑みを浮かべる咲希、やや困り顔をしながらも笑みを隠しきれていない青い髪の少女、そしてよく分からんポーズをしているピンク髪の少女が写っていた。

 俺の記憶が正しければ、青髪の少女が確か桐谷遥だったはずだ。隣のこのピンク髪の女の子は知らないが……絶対に何処かで見たことがあるな。

 

(……ま、一歌が楽しそうにしてるんだ。兄として、これ以上嬉しいことはないな)

「体育祭で疲れてるんだろ? 今日はよく休め。休息も、バンドの実力向上につながるぞ」

「うん。おやすみ、お兄ちゃん」

 

 ま、今の俺にできるのは成り行きを見守ることだけだ。もしあいつらが立ち止まることがあったら……その時は背中を押してやればいい。

 

 





星乃夏夜について④
1曲の製作にかける時間は短くて2週間、長くても最長で2カ月ちょっと(昔はもう少しかかっていた)。
早過ぎる。

パラレルの次案を選ぶとしたら、どれにします?

  • 約束された気絶のみのり(みのり)
  • 夏夜と愛莉、ドラマへの挑戦(愛莉)
  • 桐谷夏夜、伝説の兄妹オンステージ(遥)
  • 星灯らぬ夜、眠りを知らず(完全新規)
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