星の夜が紡ぐ歌は   作:もりいぬ

27 / 43

今回は「いつか、背中合わせのリリックを」に対応したストーリーです。
そして、オリ主が初めて本格的に原作のイベストに絡む展開でもあります。

多少強引な展開がありますが、そこはお許しください。




秘めた熱さよ、今この胸に蘇れ

【宮益坂】

 

 宮益坂女子学園における体育祭が終わってから、1週間後のこと。

 時刻は夕暮れ時、季節は冬の足音が聞こえ始める11月。俺は「STAY GOLD」に出演するという冬弥たち「Vivid BAD SQUAD」、通称「ビビバス」を見物すべく、ストリート時代に良く着ていたパーカーに袖を通し、ビビッドストリートに向かっていた。

 

 

 ──「STAY(ステイ) GOLD(ゴールド)」。

 

 ビビッドストリートの実力派ストリートユニットが集結し、雌雄を決する対戦形式イベント。ビビッドストリートに集まるシンガーたちにとっては、登竜門と言える一大イベントでもある。

 勘違いしないように説明しておくが、対戦と言ってもそんなに物騒なものじゃない。ただ全力で歌って、その勝敗を観客に決めてもらう。それだけだ。まあ結局、突き詰めていけば普通のライブとやるべきことは変わらない。

 

 だが、ストリートのライブバトルというものは勝敗が読めないことが多い。その原因は単純、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だ。

 

 当然だろ、と思うかもしれない。しかし、()()()()()()()()()()()()()()()なのだ。

 ……というのも、ストリートライブというのは基本的に観客との距離が極めて近い。バンドやらミュージカルやらでも観客との距離が近くなることはあるかもしれないが、ストリートほど近くはない。だからこそ、観客から感じられる熱というものはステージに立つシンガーたちに多大な影響を与えてしまう。

 

 先ほど「観客のボルテージで勝負が決まりかねない」と言ったのには、そういう理屈がある。どんなに実力派と呼ばれるグループでも、観客を沸かせるのに失敗してしまえばあっけなく負けてしまう。そういう世界なのだ。

 観客からいかに熱を引き出し、ボルテージを引き上げていくか。それこそが、ストリートという分野における音楽の厳しさであり、醍醐味であるといえよう。

 

 

 そして、かつての俺がストリートで歌っていた理由もそこにある。

 ストリートで歌っていた頃──中学生時代の俺はこういう対戦形式のイベントで感じられる熱が大好きで、時間を見つけては狂ったように対戦形式のイベントに出ていた。そうしてイベントへの参加を繰り返しているうち、いつしか俺は「ストリートの新たな伝説」なる()()()()()異名を付けられたらしい。

 

 だが、俺からしてみれば頭の上に特大のクエスチョンマークが点灯するほどに謎だ。俺はただ、思い切り歌うのが好きで歌っていただけなのだから。もっとも、中学生時代に謙さんにこの話をしたら「そういうヤツほど知らない間に大成してるもんだぞ」と言われてしまったが。

 そんなことを考えているうちに、俺は宮益坂である人物と遭遇した。

 

「あれ、夏夜君?」

「雫か。あの日以来だな」

 

 あの日。それは、雫が「MORE MORE JUMP!」というアイドルグループで活動すると聞いた日以来だ。一応聞いてみたが、今日は迷子ではないらしい。

 そういえば、あれからグループ活動は上手く行っているんだろうか。

 

「どうだ? あれからアイドルとしては上手くやってるか?」

「……正直、上手くいってないわ。あ、愛莉ちゃんたちとの仲が悪いんじゃないのよ。ただ……」

「ただ?」

「……どこの事務所も、私たちを受け入れてくれないのよ。自分たちではどうしようもないんだけれど……」

 

 その発言に、俺は疑問を抱く。

 雫が受け入れられないことなんて、あるものなのか。ユニット内での仲が最悪だったとはいえ、雫は「Cheerful*Days」の元センターだ。その知名度は疑う余地もないだろう。

 

「どういうことだ? 雫ほどの人気アイドルなら、むしろ引く手あまたじゃないのか」

「ううん。むしろ()()()()()()()()()、なの。私たちって4人のグループなんだけど、みのりちゃんを除けば3人とも、アイドルの経験があるのよね」

「──()()()()?」

 

 その発言に、俺は僅かに目を細める。

 そういえば、雫が新しいアイドルグループの一員になったとは聞いたが……「誰と組むのか」は聞いたことがなかった気がする。

 ちょうどいい機会だから、確認しておくとしよう。

 

「3人、か。そのうち1人は雫として、あと2人は誰か聞いていいか?」

「……? ええ。遥ちゃんと愛莉ちゃんよ」

「はるかちゃんと、あいりちゃん?」

 

 俺はしばし熟考する。どうにも、ひどく聞き覚えのある響きだったからだ。

 やがて俺は、その2人の正体に行きつく。

 

「それってもしかして、元『ASRUN』の桐谷遥か? それに、『あいり』って……まさか、『QT』の桃井愛莉?」

「ええ、そうよ」

「──」

 

 雫の肯定の返事を聞いた俺は、絶句せざるを得なかった。

 いや、これは仕方ないだろう。なんせ、集まった面子があまりにもビッグネーム過ぎる。

 

 まず桐谷遥というアイドルの人気の凄まじさは、ネットの反応を見れば火を見るよりも明らかだ。さらに言えば絶頂期の時点で「国民的アイドル」と言っても過言ではないほどの人気を擁していたらしいし、今でもその人気は衰えていない。まさしくスーパーアイドルだ。

 

 次に桃井愛莉は、主に子供たちと茶の間からの人気の層が厚いバラエティアイドルと聞いたことがある。咲希が昔「ハッピーエブリデイ(桃井愛莉の演じるキャラ名だ)すごーい!」みたいな感じで目を輝かせながらテレビを食い入るように見ていたのを今でもよく覚えている。

 

 そして雫は言わずもがな「Cheerful*Days」の元センターだったし、そのミステリアスな雰囲気と清楚なイメージでファンを魅了してきた。比較対象が桐谷遥だと相手が悪すぎるが、雫もまた絶大な人気を博すアイドルであることは疑う余地もない。

 

「──そりゃまた、すごいメンバーが集まってるな」

 

 総じて言おう。あまりにもドリームチーム過ぎる。

 しかしだからこそ、何故ダメなのかを察するのは容易かった。

 

「……そういうことか。分かったぞ。()()()()()()()()()ってことか」

「……ええ。私たち──特に遥ちゃんは、大手の事務所にいたから。だから、私たちを受け入れた事務所がもし『引き抜き』だと思われたら、元居た事務所から圧力をかけられるんじゃないかって、業界で噂になってるらしいの……」

「な……」

 

 ……返す言葉が見つからない。

 ASRUNの桐谷遥については、あの後こっちでも調べてみた。すると、まぁ情報が出るわ出るわ……。その全てが、桐谷遥というアイドルの人気を物語っていた。

 

 でも、確かにそうだ。

 元「ASRUN」の絶対的エースに加えて「QT」でもトップクラスの知名度を誇っていたメンバー、そしてさらには「Cheerful*Days」の元センター。こんなアイドルファンが見れば卒倒してしまいそうなメンバーが一挙に集ってユニットを組みましたとあれば、何かの引き抜きや仕掛けがあったのではないかと疑われるのは当然だ。

 そしてそんなドリームユニットを結成するきっかけになったのは、雫が前に言っていた「みのりちゃん」という少女らしい。しかもさっきの発言を聞くに、アイドル経験なしの素人ときた。

 

 そんな4人を大手事務所が受け入れるかと言われたら──否だろう。

 ハッキリ言ってしまえば、本当にバッサリ切り捨てるのであれば……。

 

 

 ……大手事務所は「みのりちゃん」、つまり()()()()()()()()なのだ。

 

 

 なんなら「桐谷遥、桃井愛莉、日野森雫の3人『だけ』なら受け入れる」と言った事務所もあるんじゃないだろうか。というか、大手なら基本そう言うだろう。ただでさえ1人だけでも圧倒的な話題性を有する大人気アイドル、それが3人。あまりにも逃がすには惜しすぎる魚だ。どこの事務所だって、喉から手が出るほど欲しい逸材に違いない。

 

 だがそこに素人という異物が入ってしまえば、それだけで偶像(アイドル)としての価値は一気に下がってしまう。かといって新人を快く受け入れてくれるような規模の事務所だと、大手からの圧力がかかる可能性が高い。

 そうなれば──行く末は目に見えている。

 

 

 簡単に言おう、八方塞がりだ。

 しかし「みのりちゃん」の存在がなければ、桐谷さんがアイドルの道に舞い戻ることはなかっただろう。桃井愛莉の事情は分からないが、その「みのりちゃん」がいなければ雫は再起できなかったのもまた事実。

 自分の未来に希望が持てなくなりつつあるのか、雫は重い顔をしている。

 

(ダメだ。()()()()()()()()()()()()()()()()。そんな顔は──見たくない)

 

 なんとかならないか。俺は頭を巡らせた末に──ある1つの「妙案」を閃いた。

 文明の利器が発展した、現代ならではの冴えたやり方。これなら、問題を解決できる可能性は大いにある。

 

(! ……これなら)

「雫!」

「わ……。どうしたの? 急に」

()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「……えっ?」

「難しい話になるし、あくまで素人の意見だが……。今の時代なら、事務所に所属せずフリーでやるって選択肢もあるんじゃないか? それこそ、動画サイトを使うとか」

「うーん……」

 

 我ながら妙案だと思ったが、雫の反応は芳しくない。

 その理由は考えなくともわかる。今時事務所に入らずフリーで行くなど、自分から茨の道を歩きに行くのと同じだからだ。

 でも、考える余地は残されているはず。

 

「あまり現実的ではないような気がするのだけれど──」

「だからまあ、究極の手段みたいなものだ。もちろん、そうならないのが一番だけどな。ま、1人のファンの意見として耳に入れておいてくれないか?」

「ええ……。ありがとう。一度、愛莉ちゃんたちと話し合ってみるわね」

「分かった。提案した以上、もしそうなったら責任は取る。いつでも力になってやる」

 

 どうやら、雫の方で話題にしてくれるらしい。

 もしそうなったら、俺は全力で雫たちに力を貸そう。これでも俺も動画投稿者の端くれなのだ。──出来ることはある。きっと。そう思い、去っていく雫を見送った。

 

(……あ、道迷ってねーかな)

 

 志歩に連絡し、一応雫を見かけた場所の位置情報を送っておく。さすがにここから道に迷う可能性は無いと思いたいが、何かあった時の保険をかけておいて損はない。

 そこで腕時計を確認した俺は、一瞬硬直してしまった。

 

(やべっ、もう開演まで20分切ってるじゃないか……)

 

 雫との話に時間を使い過ぎた。

 僅かな焦りとともに、俺はビビッドストリートにある「STAY GOLD」の会場へと駆けこむのだった。

 

 

 

【ライブハウス】

 

「さあ、もうすぐ『STAY GOLD』のスタートだ! 全員、盛り上がる準備はできてるな!?」

「「「オオオオ────ッ!!!!」」」

 

 開始3分前。俺はどうにか、「STAY GOLD」の会場へと滑り込んだ。流石に人が多すぎるため、端っこの方になったが。

 本当はもうちょい前で見たかった、ってのは否定しない。だが、端っこなら端っこなりにやれることはある。それは、「ライブハウスの端まで盛り上がっているかを確かめる」こと。かつてストリートで本気で歌い、本気で皆の歌に耳を傾けたことがあるからこそ、その大切さがわかる。

 

 ──ライブハウスの隅から隅まで余さず熱狂させるのは、至難の業だ。だからこそ、終始ライブハウスの文字通り「すべて」を熱狂の渦に飲み込んだという「RAD WEEKEND」の──謙さんたちのヤバさが引き立つ。今の俺には到底できない所業だろう。

 俺はRAD WEEKENDには参加していないし見たこともないから知らないが、謙さんと杏から聞いた当時の熱狂ぶりでだいたい想像はつく。

 

 

 

 というか、()()()()()()()()

 

 というのも俺自身、ストリートで歌っていた頃に「RAD WEEKEND」がどういうイベントか気になって聞き込み調査をしたことがあるのだ。そしてそのイベントについて聞くと誰もが「伝説の夜だった」と口を揃えて言うのだが……そこで1つ、謎にぶち当たる結果となった。

 どういうわけか、()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。そんなにすさまじいイベントだったのなら、誰か1人くらい当時の映像を残していてもおかしくはないはずなのだが。撮影禁止だったのか、あるいは熱狂のあまり誰もカメラを回す余裕がなかったのか……。

 

 いずれにせよ、皆が「伝説」と語るその夜に何があったかを知るのは、杏や彰人のように直接参加した人間だけということになる。──もっとも、()()()()()()()()()()()()()()()()()()「伝説の夜」なのかもしれないが。

 そこまで考えたところで、俺は意識を今日参加するユニットの一覧に戻した。

 

(ふむ……今日の注目ユニットは──やっぱりVivid BAD SQUADか)

 

 今回の「STAY GOLD」にはやはりいろんなユニットが集っているが、優勝の有力候補争いは「EVER」派と「Vivid BAD SQUAD」派で割れているようだ。そして優勝候補の一角であるEVERは、かつて「Night」としてこのストリートで歌っていた俺とも何回か対決したことがある実力派グループである。

 

 俺が見た感じだとライブの経験値としてはEVERの方が圧倒的に上だが……話題性と勢いで考えればVivid BAD SQUADの方が上だろう。最近いろんなイベントに参加して、めきめきと実力をつけていることだしな。

 しかし、まだ経験値としては素人であろう小豆沢こはねが唯一の懸念材料だ。とはいえ、他3人が経験豊富な実力派シンガーなわけだしフォローは出来るはず。

 

(……だが、そんなものは問題じゃない。決めるのは、()()()()()()()()ここでは、歌がすべてなんだから

 

 そうしてイベントは始まり、数組後に優勝候補、EVERの歌唱が始まる。

 やはり、EVERの武器は強烈なパワーとインパクトを重視した力強い歌唱だ。歌いだしたその数秒だけで、会場の雰囲気をガラリと変える。

 

(相変わらず……魅せてくれる)

 

 フロアの熱もなかなかだ。周囲の盛り上がりに触発されるようにして、かつてストリートで歌っていた時と同じ熱が沸き上がってくるのをひしひしと感じる。

 まもなくEVERの歌唱が終わり、リーダーがマイクを持った。

 

「──みんな、最高の歓声、ありがとな! 俺たちは優勝候補なんて言われてるが……後に続く奴らだって、()()()()()()()()()()()()()()()()()()? 期待してるぜ!」

 

 EVERのリーダー(名前は忘れた)が、後続に発破をかける。昔から思っていたが、EVERは本当に発破をかけるのが上手い。

 基本的にこういうイベントというのは、相手へのリスペクトが重視される。リスペクトを失えば歌唱という名の殴り合いになるからだ。そしてEVERは、その中でも「雰囲気を作る」のに長けている。今しがた行った発破もその一環だ。

 それは()()()()()()()()()()でもあり、同時に()()()()()()のだから。

 

 そのまま続けて何組かのグループがステージ上でフロアを湧かせるが、端の方までは熱が伝わってこない。やはり今までのグループの歌唱に気圧されたか、あれ以上の熱気は生み出せていない。

 そんな中、ついにその時がやってくる。

 

「お次は、Vivid BAD SQUAD! 高校生4人で結成された期待の新星だ!」

(さあ、お前たちの実力を見せてくれ)

 

 そして、ビビバスの4人がステージに立つ。

 全員が出揃った時、周囲の観客は相当の盛り上がりを見せていた。

 

(──お、顔出し時点での熱気はEVERにも引けを取っていないな)

 

 どうやら謙さんの娘である杏や、「BAD DOGS」時代の経験ゆえに実力派として認められている彰人・冬弥のコンビがいるおかげで、期待値は相当高いようだ。

 杏のMCから、ビビバスのパフォーマンスは始まる。 

 

「みんな、今日は来てくれてありがとう! Vivid BAD SQUADだよ!」

「全員、声出す準備はできてるよな?」

「それじゃあ、いくぞ」

 

 熱気は十分、掴みも上々だ。

 会場の端の端まで届くにはまだ少し足りないが、このままいけば十分優勝を狙えるだけのパワーはある。

 

「「「「♪ ────! ────!!」」」」

「Vivid BAD SQUAD、だったか。いいな、このグループ!」

「これで高校生とか、レベル高すぎるでしょ……!」

「ああ。あの男子2人の声がよく響いてる」

「杏ちゃんもすげえな! さすがKENの娘だ!」

 

 うん。俺から見てもなかなか好調な歌いだしだ。会場の雰囲気を十分掴めている。あとは、この熱をどこまで高められるかだ。

 

(歌いだしはなかなかだな。だが、ここからだぞ?)

「私たちの歌、届いてるみたいだね! でも、まだまだここからだから! もっと盛り上げてくよ!!」

 

 杏のコールに呼応し、EVERに匹敵する盛り上がりを見せる会場。

 4人が響かせる歌を燃料にして、会場はさらにボルテージを上げていく。

 

(……ん?)

 

 何かがおかしいと思ったのは、その直後だ。

 突然、全体のバランスが乱れた。恐らく、4人のうち誰かの声量が落ちたのだろう。しかし、観客はそれに気づいていない。今ならまだ立て直せる範疇だ。だが、どうも気になる。

 

(ちょっと、あれをやるか)

 

 ──俺は自分の感覚を集中させ、意識を研ぎ澄ます。周囲の雑音をシャットアウトし、ステージ上の4人から聞こえてくる音を、声を聴き分ける。

 そうすれば、バランスが崩れた原因はすぐに分かった。

 

(……こはねだ。今のこはねは、()()()()()()()()()()()()。まったく周りの音が聴こえなくなってるぞ、あれは)

 

 緊張からか、こはねの声量が不安定になっていたのだ。

 今のこはねは3人のペースに支配されてしまい、完全に孤立してしまっている。他の3人は安定しているのに、そこだけ異空間か何かのように音が歪んでしまっている。

 俺からしてみれば、経験不足が露呈しただけのことだ。だが、このままでは良からぬことが起こる。

 

(まずいな。このままじゃ、会場がしらけちまう)

 

 程なくして、その予感は現実のものとなってしまった。

 こはねが崩れたのをきっかけに、杏の歌唱のバランスもおかしくなり始めた。彰人と冬弥は安定しているが、ここまで崩れてしまえば……立て直すのは容易ではない。

 というか、不可能だ。曲のサビに差し掛かってからというもの崩壊が止まらないこはねとそれを必死にフォローする杏、そして自分たちだけでもちゃんと繋げようとする彰人と冬弥。

 

 今や歌唱は完全に二分されてしまった。そして観客は、その崩れを察知して白け始めている。もはや会場のボルテージは修復不可能だ。

 

「……」

 

 

 

 その時俺の中で──()()()()()()()()()()

 

 

 

(見てらんないな)

 

 ステージ上の惨状を見ていられなくなった俺は観客席を抜け出し、こっそりとライブハウスを去る──ことはせず、裏側に向かう。

 

 このイベント、つまり「STAY GOLD」の主催者であるここのオーナーにはストリート時代に何度もお世話になったため、結構仲がいい。俺がストリートで活動していた時、とても良くしてもらっていた人だ。

 そして俺がかつて「Night」としてこのストリートで歌っていたことを、謙さん以外に知っている数少ない人物でもある。もっとも、なんで俺がストリートからいなくなったかは話していないので3年ぶりの再会になるわけだが。

 

「オーナー!」

「え……? その声、夏夜君!? 夏夜君だよな!?」

「はい。お久しぶりです」

「おおっ、会えてうれしいよ! 3年くらい見なかったんじゃないか!?」

 

 オーナーはすぐに俺のことが分かったようで、喜色を露わにしながら声を掛けてきた。しかし、今は感動の再会をしている場合ではない。

 

「……すみません、一刻を争います。ライブの参加者枠、空いてますか?」

「え? ──あぁ、空いてるよ。ちょうど今日、出場予定の『SPADA』が出れなくなってね……。それがどうかしたのかい?」

「なら……1曲で良いです。俺をねじ込んでください。()()()()()()()

 

 俺がそう言うと、オーナーの目が見開かれた。

 

「……! まさか、歌ってくれるのかい!? 『Night』として!?」

「2、3年くらいここでは歌ってませんけど、まだ歌える自信はあります。──多少衰えてはいるでしょうけど、俺でよければ」

 

 無茶を言っているつもりはあったが、オーナーの返事はほぼ即答だった。

 

「分かった! 知っての通り、本来飛び入り参加はできないんだが……他でもない君の頼みだ、オーナーの権限で許可しよう! MCの方からは、俺が話を通しとくよ。その代わり出番は一番最後になるし、勝負にはかかわらないゲストってことになるけど、いいかな?」

「ええ。どんな条件であれ、今までと同じようにやるだけです」

 

 今の俺の前には、ストリートイベントのトリを飾るには地獄のような状況が整っている。完全アウェーな環境に加えて白けた会場、さらにはシンガーとして2~3年ほどのブランク。

 

 

 だが……()()()()()()()()()()

 

 

 逆境になればなるほど、燃えるというものだろう。それに今の俺がどこまで通じるのか確かめるには、実にちょうどいい条件じゃないか。

 自分の瞳に炎が灯ったのが、ハッキリと分かった。

 

「……君のその目を見るのは、久しぶりだな。曲はどうするんだ?」

「なら──この曲を」

 

 俺はスマホの画面を表示する。

 

 

 ──「チルドレンレコード」

 

 

 BPM210という超高速から放たれるIAのパワフルな歌唱が特徴の曲であり、曲全体の雰囲気がストリートと抜群の相性を見せてくれる。俺がかつて得意とし、イベントに参加するたびに必ず歌っていた曲の1つだ。

 するとオーナーが、こんなことを言いだした。

 

「いいのかい? もう1曲くらい歌ってくれても俺的には構わないぞ」

「逆にいいんですか? 俺、飛び入り参加なのに」

「君の歌をまた聞けると思えば安い安い。それに君ほどの実力があるなら、1曲くらい追加しても誰も文句は言わないだろうさ」

「じゃあ、お言葉に甘えて──先にこっちの曲、歌わせてもらいます」

 

 俺的にはこの冷え切った空気をぶち壊せればそれでも満足なのだが……主催者の許可が下りたのだ。もう開き直って久しぶりに暴れるとしよう。

 俺はもう1つの曲を提示した。

 

「はいよ。じゃ、準備よろしく!」

 

 オーナーとの会話が終わるのとほぼ同時に、ビビバスの歌唱は終わったらしい。

 ……やはりというべきか、会場の雰囲気は冷え切っている。

 

 だが、そうでなくちゃ面白くない。逆境に至れば至るほど、俺の心は燃えるというもの。

 かつての俺がやっていたように、フードがずり落ちないよう目深にかぶる。最初は身バレしないようせめてもの抵抗として着ていたこのフード付きのパーカーも、いつしか俺がストリートで歌う時の必需品になっていた。今日これを着ていてよかったと、改めて感じる。

 しかし、あの時の俺とは1つ違う点がある。

 

(謙さんからあの日貰ったサングラス……)

 

 ──これを使うべきは、きっと今だろう。

 かつての「Night」としての俺は、()()()()()()()()()()()のだから。

 

(だが、新たな夜を創り出すことはできる)

 

 俺は自分の歌で、いつかの俺を超えていく。

 その決意とともに、俺は「伝説」から受け継いだサングラスをかける。

 

 ──準備は、整った。

 

 

 

「さあ、思う存分楽しもうか……!」

 

 

 

 





星乃夏夜について⑤
基本的に一度顔と名前が一致した相手は、何の要求もない限り下の名前で呼ぶ。
天馬兄妹や日野森姉妹など、友人に同じ苗字が多すぎた結果自然とそうなってしまった。

パラレルの次案を選ぶとしたら、どれにします?

  • 約束された気絶のみのり(みのり)
  • 夏夜と愛莉、ドラマへの挑戦(愛莉)
  • 桐谷夏夜、伝説の兄妹オンステージ(遥)
  • 星灯らぬ夜、眠りを知らず(完全新規)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。