今回は状況説明の回となります。
オリ主は直接は登場しません。
【ライブハウス・ステージ裏】
……小豆沢こはね・白石杏・東雲彰人・青柳冬弥の4人がVivid BAD SQUADとして道を新たにしてから、初めての大舞台となった「STAY GOLD」。
しかし、その結果はあまりにも悲惨なものという他なかった。
周囲の熱に完全に気圧されてしまったこはねがボーカルの調子を崩してしまい、それをフォローしようとした杏と、いつも通りの歌唱を続けた彰人と冬弥が完全にバラバラになってしまったのだ。
おかげであれほど盛り上がっていた会場の雰囲気は最悪、それまでの盛り上がりはぶち壊しになってしまっていた。
……誰がどう見ても、ビビバスの敗北は決定的なものだった。
バックステージに戻った4人は、各々が自らの歌を反省する。
その中でもこはねは、特に沈んだ様子だった。無理もないだろう、今回のステージを完膚なきまでに粉々にしたのは、他でもない自分自身だからだ。
「──ごめんね、みんな」
それだけ言うと、こはねは「飲み物を買ってくる」と言い残し何処かへと走り去ってしまう。その背中を、杏は見届けることしかできなかった。
やがて杏は、自らのステージ上での行いを後悔する。
「私のせいだ……。私が、こはねのことをリードしなくちゃいけなかったのに……。私、こはねの相棒なのに……
それは、杏からすれば当たり前の発言だったのかもしれない。
だがその杏の発言で、彰人は「何か」を掴んだ。
「……
「え? どうって……。だって、こはねは相棒だから、自信をもって歌えるようにリードして、私が──」
「……そうかよ」
もういい、と言わんばかりに彰人は杏の発言をぶった切る。彰人はようやく、かねてから抱いていた違和感の正体に気が付いたのだ。
そして、杏にある決定的な一言を投げかける。
「──ずっと、お前とこはねのコンビの様子には違和感を抱いてたんだ。ようやくその理由が分かったぜ。お前、まだこはねのことを相棒って思えてないんじゃねーのか?」
彰人の口から発せられたその言葉は、雷に打たれたかのような衝撃をもって杏を襲った。
「な……! そんなわけ……」
「じゃあ、なんで『守る』なんて言葉が出てくるんだよ。もし本当に相棒って思ってるんだったら、『守る』なんて普通言わねえだろ」
「おい、彰人……!」
火が付き始めた彰人を、冷静だった冬弥がなだめる。
だが、彰人は止まらなかった。
「昨日の練習で、お前が言ってた『リードする』って言葉……オレはあれを、『相棒としてこはねを助ける』って意味だと思ってた。けど、実際には『守る』って意味で使ってたわけだ。だとしたら──」
「彰人、それ以上は──」
しかし冬弥の静止もかなわず、彰人は杏に最後のトドメを刺してしまった。
「──お前は、こはねのことを『相棒』って思えてなかったってことなんじゃねえのか?」
「それは……っ!?」
「オレは、『守る』ってのは自分より下のヤツに使う言葉だって思ってるけどな。つまりお前にとってこはねは『相棒』じゃなくて『守るべき相手』……
「あ……」
彰人が放った、「こはねは下の存在」という言葉。
その言葉で、杏はようやく自らの本当の間違いを自覚した。
「そんな……っ。じゃあ、私、最初に組んだ時からずっと……」
思い出されるのは、まだこはねと杏が「Vivids」として活動を始めたばかりの時の記憶。初めてストリートライブに出た夜の苦い思い出。
あの時から杏にとって、こはねは「相棒」などではなかった。
あの時からずっと──自分はこはねを「守るべき相手」としか見ていなかったのだと、初めて認識させられた。
「じゃあ、私、こはねを相棒だなんて思えてなかったってこと……? 私は、こはねになんて言えばいいの……? 自信持ってなんて言って、守らなくちゃって勝手に決めつけて……。こはねに、謝らないと……。ちゃんと、ごめんって言わないと……!」
ライブハウスの外へと駆け出す杏。
その道中で、フードを被ったうえでサングラスをかけた怪しげな男とすれ違ったのだが──こはねを探すのに必死だった杏が気付くことはなかった。
【ライブハウス前】
その頃こはねは、ライブハウス前で1人自分の歌を反省していた。
もっとも、反省という名の自己嫌悪だったが。
「はあ……」
(──今回のライブが失敗したのは、堂々と人前で歌えない私のせいだ。堂々と歌えるようになったって思いこんでたんだ……。杏ちゃんたちと一緒なら大丈夫だって思って……みんなについていけなくなって、全部台無しにしちゃったんだ。何かあっても、杏ちゃんがリードしてくれるって安心しすぎてたから、こんなことになったんだ。……私、今まで杏ちゃんに頼りすぎてたのかも)
元々思考が後ろ向きなこはねは、自己嫌悪を止めることができない。そこに、杏が駆けつけてくる。
イベントは、もう終わりに近づいていた。
「こはね!」
「あ、杏ちゃん……」
「こはね、さっきのこと……私やっぱりちゃんと謝りたくて。その、リードするなんて言って、私……」
「……謝らないで、杏ちゃん。さっき言ったけど、悪いのは私だから。私があの時、みんなについていけたから、こんな事には……」
「違うよ、そうじゃなくて! 私の方が、本当はこはねのこと──」
そこまで言って、杏の言葉が詰まる。
……もし、これを言ってこはねが自分を見放したら?
そんな恐怖が、杏の脳内を駆け巡る。その恐怖が、杏に次の言葉を紡ぐことを許さなかった。
「本当は……こはねのこと……」
「……私、次からはもっと頑張るね。……もうすぐイベントも終わるし、戻らないと」
「……こはね」
終ぞ、杏は自分の心の内を言いだすことができなかった。
苦しい笑顔を浮かべながら会場に戻っていくこはねを追いかける。その足取りはひたすらに重い。ライブハウスに戻ると、ほぼすべてのグループは歌唱を終えていた。もはや大勢は比べるまでもなくEVERの一強だ。
だが、様子がおかしいことに杏は気付く。
すでに全出場者が歌い終わっていてもいい時間なのだが、いつまで経ってもMCが結果を発表しないのだ。というより、そもそもMCが会場から姿を消している。恐らく何か主催者と話し合っているのだろうが──。
この状況が気になった杏が彰人に現状を聞くと、「突然MCがいなくなって、この状態のままもうすでに3分は過ぎている」という。
(何か、トラブルでもあったのかな)
MCがいないという事態から真っ先に推測できるのは、進行上のトラブルだ。
しかし、それにしては裏側が騒がしくない。今杏たちがいる場所は割とバックステージに近い場所なのだが、別にスタッフが忙しく駆けまわる足音もしなければ、誰かの大声が聞こえてくるというわけでもない。
ただ、単純に司会進行役が一向に姿を見せないのだ。
「もういいだろー?」
「結果発表はまだかー!?」
一向に戻ってくる様子のないMCに、しびれをきらしたライブハウスの観客たちからブーイングが上がり始める。
(……!?)
──そんな観客たちを瞬く間に黙らせたのは、突如スピーカーから聞こえてきた男の声だった。
たった一言。されどその一言は、この場のすべての人間がいまだかつて感じたことのないほどの重みと迫力をもって観客たちに襲いかかった。
有無を言わせぬその重圧に、たちまち会場は静まり返る。誰が発したのか全く分からないその声に、会場はいっせいに声の主を探し始めた。
やがて完全に会場が静まり返った頃、ついにMCが戻ってくる。
「待たせたな皆! さあ、お待ちかねの結果発表……と行きたいとこだが、ななな、なんと! 今日は! とびっきりの!
「ゲスト?」
「なんで今更?」
「どーせEVERは越えらんねーんだ。さっさと結果発表しろー!」
観客からは再びブーイングが飛ぶ。
だが、MCは更に話を続けた。まるで、とんでもない存在がやってきたかのように。
「この場の全員、ぶったまげると思うぜ? なんせ俺が一番驚いてるからな!」
MCはそこで一瞬言葉を区切ると、その男の二つ名を大声でライブハウス中に広めた。
「聞いて驚け! あの『ストリートの新たな伝説』が──このステージに来てくれたぞ!」
「『ストリートの新たな伝説』?」
「……! おい、まさかそれって……!?」
──「ストリートの新たな伝説」。
その二つ名を聞いたストリート関係者の一部に、動揺が走る。それはかつて、彗星の如くビビッドストリートに現れ、瞬く間にその名を轟かせ、人気絶頂中突如姿を消した幻の存在だった。
分かっているのは「黒いフードのパーカーを着ている」ことと、「中学生くらいの背格好」ということに加え、「常軌を逸した歌の実力を持っている」ということ。
そして何より……「彼が出てきたイベントは、
かつて彼の歌を聞いた者たちは、口を揃えてこう語った。
「あの少年こそが、
そしてその名を冠することを許された人間など……このビビッドストリートには
「さあ皆、刮目しろ! この『STAY GOLD』の最後を飾るのは──」
ゲストの正体に感づいた一部の観客たちは、今にも爆発しそうだった。
一瞬の沈黙ののち、ついにMCが、その火薬庫に火をつける。
「──舞い戻ってきた伝説、『Night』だぁッ!!」
「うおおおおおーーーっ!!」
「はぁぁぁぁっ!?」
MCがその名を読み上げた瞬間、一瞬にして会場はこれまでにないほどの熱気を取り戻した。
歓喜の声を上げる者、驚愕のあまり叫ぶことしかできない者、困惑を隠せない者、この盛り上がりについていけない者……。
そしてそれは、杏たちも同じだった。
「『Night』!?」
「『Night』!? ──今、Nightって言ったのか!?」
MCの宣言を聞いた瞬間、杏は開いた口が塞がらなくなり、彰人は驚きのあまり目を見開いた。しかし「Night」というシンガーを知らないこはねと冬弥は、ただキョトンとするほかなかった。
何が起きているのか知りたいこはねは、どうやら知っているらしい2人にNightとは何者かを問いかける。
「杏ちゃん、彰人くん、知ってるの?」
「ああ。オレが中学生の時にここら辺で歌ってたやつだ。何回かアイツと一緒のイベントに参加したこともある。……けどな、アイツは本当にヤべえ。今のオレたちとは次元が違う。オレの知ってる限り……RAD WEEKENDに一番近いヤツだ」
「『RAD WEEKEND』に……!?」
「あぁ。しかもオレたちみたいにユニットでじゃねえ、アイツは、
彰人の語った、「『RAD WEEKEND』に最も近い存在」というその言葉。それだけでも、今MCがゲストとして紹介したシンガーの実力がどれだけ凄まじいかを物語るにはあまりにも十分すぎた。
まもなく、杏もぽつぽつと口を開く。
「……1度だけ、見た事あるよ。確か、3年くらい前だったかな? 私が中学生くらいの時にいきなり現れて、半年くらいでいなくなったんだ。でも、彰人の言うとおり。『Night』の歌は、ハッキリ言って
「おい、お前ら! アイツの歌を、徹底的に耳に焼き付けるぞ!」
ふと冬弥が横を見ると、彰人はこれまでになく真面目な顔でステージを凝視していた。杏もまた、さっきまでの沈痛な様子はどこへやら、真剣な顔つきで「Night」の登場を待っているようだった。たとえテスト前に追い込まれた状況でも、こんな真面目な顔はしないだろうと言えるほどに。
──あの彰人と杏にそこまでさせる人物だ、只者ではない。それを察したこはねと冬弥は未だライトの付かないステージに目を戻し、静かにそのシンガーの登場を待った。
ゲーム内で夏夜が星4として初登場するとしたらこのイベントでだと思います。
ちなみにですが、オリ主はステージに上がると性格が変わるタイプのキャラです。
どんな風に変わるのかは次回をお楽しみに。
パラレルの次案を選ぶとしたら、どれにします?
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