誤字報告してくださった方、ありがとうございました。この場を借りてお礼申し上げます。
また、このたび初の★10評価をいただきました。同時に★9という高評価もいただけたことを嬉しく思います。
今回はオリ主大暴れ回です。
改めて言いますが、ステージ上のオリ主は普段とは別人レベルで人が変わっています。
【ライブハウス・ステージ裏】
観客のどよめきが聞こえてくるその傍らで、俺は瞳を閉じ、自分の心を研ぎ澄ませ、思考から雑念を取り払っていく。
ライブの前、必ずやっていた自己流のチューニングだ。今の自分の最高を、過去の自分の歌を、俺という身体の隅から隅までインプットしていく。
すべては、俺という最大の敵を超えていくために。
(……ああ、これだ。この感覚だ)
そうしていくうちに、頭の中がスーッとクリアになっていく。
自分の身体が、「歌う」というただ1つのことに最適化されていくのをハッキリ感じる。ストリートを去ったあの日以来、一度も感じることのなかった感覚だ。
この3年間まともに身体を最適化したことなんてなかったから、感じることがなかったのは当たり前ではあるが。
(あぁ、何もかもが懐かしい。……ステージに上がる前に感じるこのプレッシャー。ライブハウスの独特の熱気。自分の心が滾って、今にも歌いたくてたまらなくなるこの感覚──!!)
俺は今から、3年ぶりにステージに立つ。
そして盛り上がりを失ったこの会場を、たった1人の歌でひっくり返す。
簡単なことではないだろう。シンガーとしてのブランクは決して短くない。むしろ3年は歌っていないのだ、まともに歌えと言われて歌える奴の方が少ないに違いない。
だが、それがなんだ。それくらい出来なくては、こうしてステージに立った意味がない。
最後の瞬間まで、思考をクリアにしていく。
そしてついに、ステージに上がる時がやってきた。
(身体の奥底から、激しい熱を感じる……)
──時は来た。
俺はマイクを力強く掴むと、ライトのない暗闇のステージに上がる。
さあ、勝負はもう始まっている。俺が極限まで楽しむか、観客のボルテージがそれ以上に俺を押し流すかの、2つに1つだ。
「よう」
ステージに射し込む1つのスポットライトの光が、俺の身体を照らす。
ライブハウス中のすべての視線が、俺へと集中した。
(……いいな。いい注目だ)
やはり、ステージに立つその瞬間の高揚は最高だ。それでこそ会場を揺らす価値がある。俺の魂を燃やす価値がある。
「俺のことを知らない奴もいるだろうから……手短に言わせてもらおう」
だが、この場で長い挨拶はいらない。皆が望んでいるのは長ったらしい演説ではなく、心を震わせる圧倒的な歌なのだから。
「Nightだ。それ以外の言葉は必要ない。聞けばわかるはずだからな。……さぁ、俺の歌を聞いていけ」
俺は歌唱の構えに入った。それと同時に、観客の期待の目線が集まるのを感じる。
──温いな。足りなさすぎる。そんなんじゃ、どんなに心を燃やしても俺の魂は昂ぶらない。
「ミュージック、スタート」
俺の開始宣言と同時に、激しいながらも重低音のリズムが存分に生かされた旋律が響く。
(──ああ、これだ。俺は歌いだしのこの瞬間が──最高に好きなものなんだ……!)
「♪ ───! ───!!」
俺の声を聞いたフロア中が、一瞬にして沸き上がるのを肌で感じる。
──だが、まだまだ足りない。俺の中の熱は、こんなものじゃ収まりそうにない。そもそも、俺はまだこのライブを楽しんですらいない。熱量を喰うには、まだまだ足りなさすぎる。
(もっとだ、もっと、もっと!)
「♪ ───ッ!! ───!!」
俺の中で迸る熱を、一気に解き放つ。たちどころに会場は燃えるような熱気を取り戻していくのが分かった。
──ああ、実にいいじゃないか。観客と熱を共有するこの感覚は、まるで中毒のように俺の身体を駆け巡る。そしてその駆け巡った感覚を熱量に変えて解き放つことで、俺はさらに一段階上へと会場を盛り上げていく。
ストリートライブバトルというのはグループ同士の戦いであると同時に、パフォーマーと観客の殴り合いでもある。だがその殴り合いを楽しみ、押し切ってこそ、俺たちシンガーという存在は、自分の歌をさらに1つ上の次元へと押し上げることができる。そうやって何度も何度も殴り合い続けることで、ライブの熱気は高められていくのだ。
やがて曲が終わる最後のボイスとともに、俺は右手に持ったマイクを天に掲げる。それと同時に、凄まじい熱量の声援が送られた。
「うぉぉぉ! ヤベーーー!!」
「久々に聞いたけど、全く衰えてねえ……。やっぱNightはすげえ!!!」
「俺も熱くなってきちまったぜーー!!」
普通の奴らから見れば、もうフロアの熱気は上々なんてものではないだろう。現に観客たちは、EVERの時なんて比じゃないほどの興奮を俺にぶつけてきている。
だが、俺から言わせればまだだ。こいつらはまだ熱くなれるはず。まだ、俺の身体を滾らせる熱は収まりそうにないのだから。
「どうだ? これで俺という人間が分かっただろ。けど……まだだ。まだ熱くなってくぞ。──ついてこいよ?」
「「「おおおおーっ!!」」」
その熱気を保ったまま、間髪入れずに2曲目へと突入する。俺が昔からお得意とする、連続歌唱による畳みかけのラッシュだ。
シンプルなイントロのすぐ後に、強烈なビートのドラムが耳を打つ。一度聴いたら病みつきになると言われるこの曲は、ストリートライブで必ずと言っていいほど歌っていた得意中の得意曲だ。
俺の復活を告げる、このタイミングで歌うにはうってつけだろう。
(さあ、最後までフルスロットルで行くぞ)
……既にフロアのボルテージは最高潮に達しているのだろう。それを肌で感じた時、俺は思うのだ。
やはり、ライブの熱気以上に興奮をもたらすものを俺は知らない。
同時に俺は、思い出した。
俺は、ストリートで歌う時感じる、この一瞬の狂おしいまでの熱が──どうしようもなく好きだったのだ。それこそ、自らの人格を豹変させてしまうほどに。この劇毒にも似た強烈な感情は、3年という歳月で簡単に消せるようなものではなかった。
ただ好きで、純粋に楽しくて。だからこそ、俺はこのストリートで歌っていたのだと。
あふれ出す熱情のままにサビを歌い切り、少しの時間の間奏……休憩に入る。だがその時間すらも、今の俺には惜しい。
俺の熱も、観客の熱も、ライブハウスの空気までもが──すでに限界まで盛り上がって爆発しそうなほどに燃えている。身体の奥底から伝わってくる激しい興奮と、ひたすらに昂ぶることを止められない狂熱で、頭の中が焼き切れそうになるのを感じる。
自分自身の中を暴走機関車の如く駆け巡る熱が、マグマの如く沸き立つ自らの血潮が、観客からひしひしと伝わる熱情が、冗談抜きで自分の心すら焼き切ってしまいそうだ。
「いいじゃねえかお前ら! ここまで来たんだ、最後まで燃え尽きてくれるなよ!!」
必殺のコールをかませば、フロア全体からすさまじい歓声が聞こえる。
とどろく歓声は幾重もの波のように押し寄せ、まるで俺という存在を押し流さんというばかりだ。
(いいぜ。……その波、弾き返してやるよ!!)
──お前らが波のように押し寄せる声援で俺を押し流そうっていうのなら、俺は最後のサビに、今にも炸裂せんとばかりに煮えたぎっている魂のすべてを込めてぶつけるまでだ。
さらにギアを上げた俺の歌唱に、観客もさらにボルテージを高めていく。そのぶつかり合いが、俺の歌をさらに上へと連れていく。もはや歌以外のことを考える理由はどこにもない。ただ自分の思うがまま、この一瞬を楽しみたいがために己の心を歌う。
俺の中のアクセルは終始フルスロットルを維持し、ブレーキを踏む気配はない。だが、ブレーキを踏まなければいけない瞬間は必ず来てしまう。ライブにリピート機能はない、始まりがあれば必ず終わりが来るのだから。
「♪ ────ッ!! ────!!」
……終わってしまう。この究極に楽しい時間が、終わってしまう。だがそれを惜しむくらいなら、最後の一搾りまで楽しんだ人間の勝ちだ。
だからこそ、
「──感情性の、メビウスの先へ!!」
最後のフレーズとともに、ステージが暗転する。瞬間、会場が爆発した。
そこに実体はないはずなのに、爆音ともいえる歓声が巨大な波となって押し寄せ、俺の身体を倒さんとばかりに幾度も幾度も迫りくる。
ライトが一斉に点灯し、視界にフロア全体が映し出される。焼け焦げたような喉に、震えの止まらないこの身体。冬だというのに、この身体は発火しそうなほどにまで熱く、汗ばんでいる。もう限界を超えているのだと、ハッキリと理解できた。
それでも俺は気合いだけで堪え、再び右手を天に掲げる。
「──お前ら! サイッコーだったぜ!!」
「「「うおおおおお!!!!」」」
俺の発言に、フロアが至上の沸き立ちを見せる。
「最高だー! Nightー!!」
「すげえ……! 何がすげえのか分からないくらいすげえ!!」
「お前がNo.1だー!!!」
……言ってくれる。「伝説の夜」は、こんなものじゃないだろうに。
だが、目的は果たした。俺ももう、今日はこれ以上持ちそうにない。
「悪りぃが、俺はあくまでゲストだからイベントの順位には関われない。だけどな、俺はいつか──
最後の台詞を放ち、ステージから退場する。
精一杯強がりはしたが、実際はもう歩くので精一杯だった。久方ぶりに感情をむき出しにした身体は、これ以上なく乾ききっている。
そうしてステージを下りた俺を、オーナーが待ってくれていた。俺は近くにあった椅子に座りこむと、オーナーから受け取ったスポーツドリンクを一気に飲み下す。
よく冷えた液体が、灼ける様に熱い喉を通っていく。あのステージの熱は、本当に今の自分を焼き尽くさんと言わんばかりだった。正直、あれ以上歌って無事でいられた自信がない。
観客は「衰えてない」と言ってたが……全盛期の俺を誰よりもよく分かっている俺自身から言わせてみれば、やっぱり腕が落ちている。中学生時代の俺なら、あのくらいの熱は軽く押しのけられただろうに。
「──お疲れ様、夏夜君」
「はい。……燃え尽きるって、こういうことを言うんですね」
「ああ。最高のステージだったよ」
「ありがとう……ございます」
俺はそこでようやくサングラスを外し、フードを取った。全身が強烈に汗ばんでいる。季節はとっくに冬だというのに、パーカーを着る必要性も感じないほど、俺の身体の火照りは止まらなった。久々にあれだけのフルパワーで歌ったんだからそりゃそうなるだろ、といえばそうだが。
冗談抜きで、体温が4度近く上がった感覚がする。実際はそこまで上がってないんだろうが……。
すると、オーナーがふいに俺に質問をしてきた。
「そういや、最後に『いつかここに帰ってくる』って言ってたが、あれは……?」
「言葉通りの意味です」
今日のステージで、俺は確信した。
あそこは、間違いなく俺の居場所だったのだ。そしてその居場所をただ見るのではなく、俺は、やはり
「今は無理ですけど、俺はいつか、絶対ストリートに戻ってきます。自分の力がどこまで通用するのか、知りたくなりました。それに今日ここで歌ってみて、自分の原点を思い出せました。──やっぱり歌うのって、例えようがないくらい楽しいですから」
「そうか……。俺はいつでも待ってるからな。いつか君主催のイベントを開くなら、ここを好きに使ってくれていい」
相変わらずオーナーからの信頼が凄まじい。
けど、今の俺にそれをやる資格はないだろう。せめて、昔の俺を超えないとダメだ。そうでなければ、たとえ他の奴らを認めたとしても俺自身が認めることができない。
「……買い被りすぎですよ。そんなことやっていいのは謙さんたちだけです」
「ははっ、言えてるな。だが、君なら
「──ならいつか、見たいですね。謙さんと同じ、
そんなことを話しながら、俺はバックステージを後にする。
ライブの熱はまだ冷めない。「STAY GOLD」が終了したどさくさに紛れて、俺は静かに会場を後にした。それでも、身体はまだ火照っている。吹き抜ける風が異様に冷たく感じる。しかし、この火照りは悪くない感覚だ。身体中の疲労感も、今はただ心地よい。
(目的云々を抜きにしても、純粋に楽しかった。欲張ってもいいなら……あいつら、俺の歌から何か掴んでほしいんだがな)
現在時刻は午後9時に迫ろうとしている。先行き不透明な希望と自分の中で再び燃え上がり始めた熱を胸にしまい込むと、俺は宮益坂を通り抜け、家へと帰っていった。
……だが、今日の俺は一歌に何も言わずビビッドストリートに行っていたことを失念していた。
その結果、家に帰り着いた瞬間出待ちしていた一歌に「どこ行ったか分かんないから心配したんだよ!?」と泣きつかれてしまうという本日最大の試練が訪れるまで、あと5分である。
夏夜は基本どんなライブでも確実に才能をフルに発揮して歌えますが、今の夏夜はフルパワーでも全盛期のせいぜい5〜6割程度しか力を出せません。
ブランクという名のデバフがあまりにも大きすぎるのです。
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