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【数日後・WEEKEND GARAGE】
「謙さん。……俺、また歌ったんです。正直、自分でもびっくりするほどの熱でした」
「そうか。……嬉しいこともあるもんだな」
俺が「Night」として実に3年ぶりにステージに立ったあの「STAY GOLD」から2日が経った日の夕暮れ時、俺はWEEKEND GARAGEを訪れていた。
どうやら謙さんはあのステージにNight……俺が立ったという話を聞いてたらしく、俺がステージにもう一度立ったという話を聞いても、そんなに驚いていなかった。たぶん、杏から聞いていたんだろう。それでなくとも、ここに来る客が話していたのを小耳に挟んでいた可能性もある。
だが、その顔は分かりやすく綻んでいた。珍しいものが見れたな。
ちなみに俺は今日からここ、「WEEKEND GARAGE」でちょくちょくバイトをすることになった。話自体は杏たちと冬弥たちがグループを組んだ時からしていたが、皆にはサプライズということで黙ってもらっている。謙さんはこういう時、意外とノリがいい。
さっき謙さんから「杏たちが今日は自主練でいないから、今日から入れるか?」という連絡が来たため、このサプライズを実行に移したわけだ。
「謙さーん、パンケーキとコーヒー2つです」
「おう」
仕事は単純なもので、杏のやっていたのと同じだ。ただし今の時間はそんな客が来ない時間帯なので、案外仕事は楽だったりする。実質的に仕事は日没後から始まるのだ。
そしてついに、ターゲットが帰宅してくる。
「ただいまー! ……って、なんで夏夜先輩エプロン着てるの!?」
うん、あまりにも期待通りの反応をどうもありがとう。
「バイトだが、なにかしたか?」
「バイト!? お父さん、いつの間に雇ったの!?」
「3か月くらい前から雇ってたぞ」
謙さんの発言に、杏はぎょっとした目をしながら俺と謙さんを交互に見た。
「嘘!? 私1回も見たことないのに!?」
「ま、今日が初仕事だからな」
「……それ、働いてるって言わないよね?」
謙さんと俺と杏の間でちょっとしたコントみたいになってきたところで、俺が話をぶった切った。
「……で、『STAY GOLD』から何かヒントはつかめたのか?」
「うん。こはねと本当の意味で『相棒』になれた気がする」
「良かったじゃないか。そういや、こないだの『STAY GOLD』……Night出てたな」
「なんで知ってるの?」
どうやら杏は、俺があの場所にいたことに気づいていなかったらしい。ステージ裏ですれ違った時も気付く素振りなかったし、それだけあの失敗が尾を引いていたに違いない。
まあ、ステージ側から見れば俺が目立たない場所に立っていたのもあるだろうけど。
「そりゃもちろん、見に行ってたからな。あんなの見せられたら、嫌でも記憶に残るだろ」
「え!? 全然気づかなかったんだけど……」
「それだけあの失敗の後、動揺してたってことなんじゃないのか?」
「う……。反論できない……」
痛いところを突かれて黙る杏。それから少し遅れて、ドアのベルが鳴る。
入ってきたのは、見慣れた髪色の2人。今回のターゲットその2と3が同時にご来店だ。
「謙さん、いつものお願いする……っす……」
「……夏夜先輩?」
「な、なんでここにいるんすか……?」
「バイトだが」
「……マジで言ってます? いつの間に……?」
杏と彰人の反応が似たり寄ったりすぎて、俺は思わず吹き出すところだった。
「嘘だと思うなら謙さんに聞いてみろ。何なら3か月前から採用されてるぞ」
「ま、今まで働いたことはなかったみたいだけどねー」
「……それ雇われたって言えるんすかね?」
「彰人、お前杏と同じこと言ってるぞ。──まぁ、杏たちを驚かせようと思ったからな。それ以上でもそれ以下でもない」
杏と同じようなド正論ツッコミをかます彰人と、もうすでに適応したらしい杏をよそに冬弥は入り口付近でフリーズしていた。
杏が顔の前で手を振りまくり、どうにか再起動させようとしている。
「冬弥? おーい、冬弥ー?」
「はっ……。すまん、驚きで思考が停止していた」
「そんなことあるのかよ……」
「冬弥に実際に起きてるんだから、あるんだろ。で、注文は?」
まもなく再起動した彰人と冬弥から注文(いつもの)を取り、謙さんがそれを手際よく用意する。
しばらく3人は雑談していたが、やがて話は数日前の「STAY GOLD」の話に移った。
「──もう一度見て分かった。……Nightは『RAD WEEKEND』に届くだけの実力を持ってる」
「ああ。あの迫力は普通じゃなかった。音に押しつぶされるような──そんな感覚がした」
「Nightのパフォーマンスを見た時、私、あの夜で感じたのと似た感覚がしたんだ。私たちは、あれを超えなきゃいけないんだね……」
杏たちがそんなことを話してる傍らで、俺は謙さんと小声で会話していた。
「あいつらに、お前の正体言わなくていいのか?」
「いいんです。見えない目標……って、面白いと思いません?」
謙さんはビビッドストリートの中でも数少ない、「Night=俺」だと知っている人物だ。ついでに言えば、俺がどうしてストリートから去ったのか知っている唯一の人物でもある。
ちなみにステージに立った時付けていたサングラスは謙さんからの貰い物なのだが……なんとこのサングラス、謙さんが「RAD WEEKEND」の時につけていたサングラスと同じ代物らしい。そんなことをカフェラテを飲んでいる最中にさらっと言われたので、俺は危うく口に含んでいたカフェラテを謙さんの顔面に吹き付けるところだった。
……「伝説の夜」を作り上げたシンガーのつけていたサングラス。渋谷のストリートで歌う者たちにとっては、洒落にならない貴重品だ。そんなものを貰っていいのかと勿論問いかけたが、謙さんは「いいんだ」と言ったきり何も教えてはくれなかった。「本人がいいと言っていたからいいだろう」と自分自身を無理やり納得させたのはここだけの話だ。
「見えない目標って言えば、それこそ『RAD WEEKEND』だってそうでしょう? 人の記憶の中にはあっても、見える形には残ってない。目標っていうのは、いつだってそんなものですよ」
「ま、言えてるな」
――あいつらが目標とする「RAD WEEKEND」は、まさしく
杏や彰人はその伝説の夜を目撃したから知っているが、こはねと冬弥は人伝にしか聞いたことがない。俺も後者だ。映像が何一つ残っていないのだから、伝聞からどんなイベントだったかを想像するしかない。
だが……この「当時のことを知らない」というのはいつかちょっとした課題になりそうだ。そう考えると、俺自身のことを謎のままで終わらせるのもよくない気がするな。
「でも、そうですね……。ヒントくらいはそれとなくあげてもいいかもしれません」
「昔から思ってたが、お前……案外ノリいいタイプか?」
「謙さんこそ、ちゃんと乗ってくれるじゃないですか」
「ハハハ、その通りだな……ほら、あいつらの注文の品だ」
謙さんと2人、密かに笑い合う。
まもなく注文の品が完成したため、俺は彰人たちのいるテーブルに注文の品を持っていった。
「はい、パンケーキとコーヒーのご注文毎度あり」
「あざっす」
「ありがとうございます」
「なんだか、随分と様になってますね……ちょっと悔しい」
杏がジトーっとした視線をこちらに向ける。
どうやら、接客する俺の姿が様になっているとのことだ。そういえば一歌もファーストフード店でバイトしてるし、案外俺たち兄妹には接客の才能もあったりするのかもしれないな。
……そりゃないか。
「分かった分かった。そういや、さっきNightの話をしてなかったか?」
「はい。俺たちが超えるべき相手ですから」
「……参考程度に聞くが、杏たちはあいつの歌に何を感じたんだ?」
これは結構聞いてみたかった。俺自身による自己評価だけでは、評価が偏ってしまうからな。
「えーと、そうそう。あの夜の熱気に近いものを感じました。聴いてるだけで、こっちの心まで燃え上がってくるみたいで」
「ああ。それに……観客たちの盛り上がりも尋常じゃなかったっす。正直、なんで1人だけであそこまでのライブができるのか分からねえ」
「正直に言うなら……実力が違い過ぎました。今の俺達では、どうやってもNightに勝てなかったと思います」
「……悔しいが、冬弥の言うとおりだな。今のオレ達じゃRAD WEEKENDどころか、Nightすら超えられねえ」
ふむ、どうやら杏たちの目から見ても俺の歌唱は響くものだったらしい。しかし、目標は高く持たねばならない。今のまま甘んじるのは、俺自身の心が許してくれそうにないしな。
しかしここで、彰人が気になることを言いだした。
「それにあのNightは、
「えっ? どういうこと?」
杏が疑問を呈する。
かくいう俺も疑問だ。あの時の歌は、今の俺の全力だったはずだ。なのに、なぜ「手加減されている」と思ったのだろうか。
気が付くと、俺は疑問を口にしていた。
「どうして、そう思ったんだ?」
「──実は杏たちには喋ったんすけど……。オレは一度だけ、アイツと一緒のイベントに出たことがあるんです。でも……その時のアイツの歌はあんなもんじゃなかった。それこそ本当に、1人でRAD WEEKENDを超えていくんじゃないかってくらいの熱を持ってました」
「そんなになのか……」
彰人の口から語られた事実に、杏と冬弥が絶句している。一方で俺は、彰人の説明でどういうことか納得できた。
確かに全盛期の俺を知っているのであれば、俺の歌が衰えていることには気付いても不思議はない。ましてや、それがストリート経験豊富な彰人ならば気付けないはずもないだろう。俺自身、自分の歌が弱体化していることにはすぐに気づいたしな。
「でも、会場は盛り上がってたと思うけど?」
「そうだ。……だからこそ、ヤベえんだ」
「……そういうことか」
それを聞いた俺は、誰よりも早く彰人が何を言いたいか得心がいった。
「どういうことですか? 夏夜先輩」
「よく考えてみろ。Nightの歌は、あれで100%じゃなかったってことだ。つまり、全力なんて出さずとも会場をあれだけ沸かせられるだけの力がある。それが、100%の全力で今のお前たちに挑んできたとしたら?」
……実際には今の俺にあれ以上は出しようがないのだが、彰人の言いたいことをかいつまんで言うとこういうことになる。
程なくして、俺と彰人が何を言いたいのか察したらしい杏と冬弥の表情が苦虫をかみつぶしたかのようなものに変わった。
「……どうしようもないよ、そんなの」
「ああ。今のオレ達に出来ることはねぇ。あっという間にぶっ潰されて終わっちまう」
3人の表情は、どうしようもなく高い壁にぶつかったように沈んでいる。だが、ビビバスがここで終わるはずはない。終わってはいけない。
そうなれば、俺のやることは1つだろう。
「──けど、それは問題じゃないだろ?勝てないのなら、勝てるようにするしかない。今のお前たちが出来るのは、ただひたすらに練習を積み重ねることだ。違うか?」
「……そうだね、夏夜先輩の言う通り。こはねも彰人も冬弥も、もちろん私も。ひたすら練習あるのみ!」
「ああ。俺たちは、ここで止まるわけにはいかない」
「だな。……それに、アイツは『いつか絶対戻ってくる』って言った。今日のオレ達のステージだって見てたはずだ。次に会うときには──オレ達のステージはあんなもんじゃねえってとこを見せてやる」
(どうやら、彰人の闘争心にも火が付いたみたいだな)
どうやら俺という存在は、彰人たちの心に火をつけるには十分だったらしい。あのライブの爆発するような熱気から、掴めたものはあったようだ。
俺自身、あのライブで自分の失ったものを確かめることができた。彰人の言うとおり、あれは俺の全盛期には程遠い。だからと言って、諦めるつもりはない。失ったものを取り戻し、俺はいつか必ずステージに舞い戻る。
「時間なんで、上がります」
「おう。お疲れさん」
バイトを終え、家に帰る。
そしていつものように動画サイトから曲のインスピレーションを得るべくネットを漁っていると、ふと気になるチャンネルが目に留まった。
「『MORE MORE JUMP! 公式チャンネル』……?」
どうやらまだテスト動画しか投稿していないようだが、チャンネル概要欄には「フリーアイドル、MORE MORE JUMP! の公式チャンネルです。1人でも多くの人に希望を届けられるような動画を出せるように、メンバー一同頑張ります!」とあった。
(……フリーで活動することを決めたのか。なら、雫に頼まれたその時は……力を貸してやらなきゃな)
ちなみにだが……雫とメッセージのやり取りは基本していない。というか、(雫の方が)できない。
やり取りをするなら相当な覚悟を決めないとダメだ。
まず、返信スピードがアホみたいに遅い。10文字の文章を打ち込むのに下手すると1分近くかかる。なんなら打ってる最中にフリック入力に切り替わったり、どういうわけか音声認識モードに入ってしまってややこしいことになる。
それだけならまだいいんだが、雫の場合は機械音痴を併発しているせいでそもそもの文章が完全崩壊してしまう。誤字脱字はデフォルトで、平仮名とカタカナが混じるのも茶飯事。というかそれでも解読できるだけマシな方だ。
完全に未知の言語(英語と日本語と記号がごちゃごちゃになった文)で送られてきた文章を見たときは、つい反射で「なんて?」と返したレベルだ。なぜ見た時に気づかないんだろうか……。
ちなみにその文の内容については、直後に雫のスマホを借りたらしい志歩から「『今日ね、しぃちゃんと一緒にお買い物に行ったの!』って言いたかったみたいです……」という文章が送られてきてそこで初めて理解した。
散々機械音痴と言い続けてきたが……ここまで来るともう正直機械音痴ってレベルじゃない気がしてきたな。
そんなことを続けられると俺の頭がパンクしそうになったので、メッセージアプリでの連絡はほぼしなくなったわけだ。やり取りをするときは基本電話か、直接話している。
まあ、冷静に考えればそもそもただ「スマホを使って電話に出る」時点でだいぶ怪しいのに、「メッセージでのやり取り」などまともにできるわけがなかったというだけの話なのだが。
(あとで雫に電話かけとくか。いや、志歩に伝言を頼むか……?)
そんなことを考えていると、雫ではなく司からメッセージが来た。
『夏夜! そろそろ神高祭の時期が近付いてきたぞ!』
(そういえば、もうそんなシーズンだったな)
この数か月の間にいろいろありすぎて、行事のことが完全に頭から抜け落ちていた。
司は逆に、そういう行事のことは完璧に覚えている。自分が目立てる機会を逃さないのはさすがスター脳というべきか。
『あー、そういやそうだった……。出し物の案とか何も考えてないわ』
『案ずるな。すでにオレが最高の出し物を用意してあるからな!』
『……不安しかないんだが?』
『何故だ!?』
『どうせまた何かのショーだろ。先に言っとく、俺は手伝わんぞ』
『な、なんだとーっ!?』
半ば強引に司との会話を打ち切る。
こういう行事で司が持ってきた出し物に巻き込まれると碌なことにならない。それは幼馴染だからこそよく知っている。大抵は逃げきれずに巻き込まれるのがオチだが。
しかしそれと同時に、俺の頭の中にはある人物の顔が浮かんでいた。
(神高祭か。瑞希は来るんだろうか……? どうせなら、文化祭ぐらい楽しんでほしいんだがな……)
こういうときは、保険を掛けておくに限る。
俺は、ある人物に電話を取り始めるのだった。
「もしもし? ああそうだ。──少し、頼まれてくれるか? そうだな……。報酬は、
(星乃夏夜の★4キャラ想像コーナー)
【灼熱を飲み干して】 星乃夏夜
レアリティ:★★★★
スキル:「伝説」から継いだもの
特訓前イラスト:ステージ終了後、バックステージにある椅子に座りこむ夏夜の図。サングラスとフードは外しており、右手には飲みかけのスポーツドリンクが握られている。
※特訓後イラストについてはご想像にお任せします。
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