神山高校文化祭の後編です。原作成分かなり多めとなります。
ですが瑞希と類はオリ主の中学生時代に直結する関係上、外せませんでした。
【神山高校・屋上】
年に一度の神高祭も佳境を迎えた夕暮れ時、まだ祭りの騒ぎが残る神山高校。
その屋上に、類は1人佇んでいた。スマホからは類の持つセカイである「ワンダーランドのセカイ」のKAITOが顔を出しており、文化祭の様子に興味を示している。
「わぁ……! 本当に、屋上からだと文化祭の様子がよく見えるね。ありがとう、類くん」
「フフ、どういたしまして。これくらいなら、お安い御用さ」
「でも、良かったのかい? 類君も何か、クラスですることがあったじゃ……」
「いや、特にないよ」
類はKAITOの言葉に対し頭を掻き、少し残念そうな顔をする。
「個人的に、こういうイベントは大好きなんだけどね。どうやら僕の提案は、クラスのみんなにはちょっと過激みたいなんだ。こういったものには、やはり相性が大事だね。……そう考えると、僕はいつも片思いをしているようだ」
「そうか……」
どこか遠くを眺め、黄昏れる類。その様子に、KAITOは少し悲しげな表情を浮かべる。しかし類はそんなKAITOに対し、静かに笑いかける。
「フフ、そんな顔をしないでほしいな。今はもう、僕の想いに応えてくれる人がいるんだ」
「それは……司くん達のことかい?」
「もちろん」
「良かった、キミ達がそういう風に笑ってくれると、僕たちも嬉しいよ」
「フフ、いつもありがとう、カイトさん。だけど……昔はこんな風になるなんて、思いもしなかったよ。僕は、このままずっと一人でショーをすると思ってた。──観客さえ笑ってくれるなら、誰かに理解される必要もないと、本気でそう考えていたんだよ。……僕のやりたいショーは、ひとりではできないのにね」
──「ショーは、1人ではできない」。それは、司たちと出会った類が何よりも、誰よりも痛感していることだった。
その時、誰かが階段を上ってくる足音が聞こえる。それにいち早く気付いたのは、KAITOだった。
「……おや? 足音だ。誰かが来るみたいだよ」
「あれは……」
やってきたのは、瑞希だった。こういうイベントにおいて昔から疎まれてきた経験のある瑞希の表情は、どこか寂しげなものだった。
そして類は、そんな顔をする瑞希を放っておくことができなかった。
「あぁ……。僕の仲間だよ」
「仲間?」
「
「ああ、もちろんだよ。それじゃあ僕はこれで、またね、類くん」
「また、次のショーで。カイトさん」
KAITOはスマホの中、ワンダーランドのセカイへと帰っていった。帰っていったことを確認した類は、瑞希に声を掛けようとする。
しかしそれよりも早く、瑞希は類に気づいた。
「あれ、そこにいるの……類?」
「やあ。屋上で会うなんて、あの時以来だね。瑞希」
「……なんで類がここにいるの?」
「瑞希こそ。まさか文化祭に来ているとは思わなかったよ」
「そりゃ、俺が呼んだからな」
突如2人の話に乱入してきた男の声に、類と瑞希は同時に振り返る。
見るとそこには、瑞希をこの神山高校文化祭に呼び寄せた張本人である星乃夏夜がいた。何の前触れもなく屋上に現れた夏夜の姿に、瑞希が驚愕の表情を、類は疑問の表情を浮かべる。
「え、夏夜先輩!? なんでここに……?」
「なんでって……そりゃ、瑞希を見かけたからとしか言えないな」
「知り合いかい?」
「ああ。中学校時代に屋上で会ったことがあってな。それからはまぁ、腐れ縁だ」
「ちょっとー? 先輩ボクの扱い酷くなーい?」
「気心知れた相手だからこそできることだ、それくらい察せられるだろ」
笑顔を浮かべながら親しげに話す瑞希の姿を目にした類は、ようやくその表情を綻ばせた。
「フフ、まさか夏夜君も瑞希の知り合いだとはね」
「……類もなのか?」
「ああ。『心の友』とでも言おうか」
共通の友人がまさかの知り合いだったことに驚く瑞希、類、夏夜の3人。やがて最初に口を開いたのは、瑞希だった。
「夏夜先輩は僕を追いかけてきたとして……。なんで類はここにいるの? まだ、質問の答え聞いてないんだけど?」
「なんでって言われても……大した理由はないさ」
類は目線をまたどこか遠くへとやると、ただ一言だけ語った。
「
その言葉に、瑞希は2年前のことを思い出す。
類と初めて屋上で出会った時も、そんなことを言っていたからだ。
「どうしたんだい? 狐につままれたような顔をして」
「……別にー? 初めて会った時と同じセリフ言ってるな~って思っただけ」
「おや、そうだったかな?」
「初めて会った時?」
ここで夏夜が、割り込む形で疑問を呈する。唯一話についていけない故に、その疑問を持つのは当然だった。
類はふむ、といった様子で顎に手を当てると、静かに語りだした。
「そうだね。──少し、昔の話をしようか」
(回想・2年前)
──神山高校からそう遠くない場所に立つ、ある中学校。
中学2年生の瑞希は、1人屋上で佇んでいた。文化祭の喧騒から外れ、屋上にいたのだ。
瑞希は、クラスの異端者だった。クラスに行くだけで注目を浴び、噂の種にされ、クラスメイトは瑞希を異端視して近寄ろうとすらしない。そしてそれは、文化祭という一大イベントでも一緒だった。
……そんな瑞希にとってクラスという場所は居心地がよいかと言われたら、まず間違いなく否だった。だからこそ、当時の瑞希はクラスにいる時間より屋上にいる時間の方が長く、心も荒み切っていた。
しかし、それはこの文化祭の日を機に変わっていくこととなる。自分以外誰も来ないと思っていた屋上の扉が、突如として開かれたのだ。
「……誰?」
瑞希の声をよそに入ってきたのは、ボサボサした紫髪の、長身の男子生徒だった。水色のメッシュが特徴的で、どこか気だるげな雰囲気を放っている。
恐らく瑞希より年上……3年生の生徒であることは察しがついた。自分の学年で、こんなへんちきりんな恰好をしている生徒は見たことがない。
やがてその来訪者は瑞希を視界に捉えると、いきなり訳の分からないことを言いだした。
「おや、こんな辺鄙な場所に、他にも観客が来ているとはね」
「観客? ……ていうか、ボクが先にここにいたんだけど。あとから来といて、何なわけ?」
「ああ、そうだったんだね。──これは失礼。名乗り遅れてしまったね、僕は神代類」
「神代? ああ、あのよく噂になってる3年の……」
「知ってもらえているなんて光栄だね。君は?」
「さあね」
瑞希は類の自己紹介に、そっけない返事を返す。自己紹介など、する気にならなかった。しかし類はその態度を意にも介さず、自分のペースで話を続けた。
「そうか……。仕方ないね。まあ、これも何かの縁だから、よろしく。2年生の暁山瑞希君」
「なんで知ってるのにわざわざ聞いてきたわけ?」
「それはもちろん、君自身の口から聞きたかったからだよ」
「……変な奴」
……苛立ちと呆れを隠そうとすることもなく鋭い言葉を浴びせる瑞希に対し、無遠慮に語る類。その笑顔が、今の瑞希にとっては少し癪だった。
「それで、先輩は屋上に何しに来たの?」
「僕かい? ──
「へぇ、文化祭の日にわざわざ? ここから見えるのなんて……なんもないよ。せいぜい、みんなのバカ騒ぎくらいでしょ」
今の瑞希の目には、文化祭で盛り上がる生徒たちの喧騒も「ただのバカ騒ぎ」として映っていなかった。
類はその発言に同意を示すと……同時に、瑞希の発言に対する己の意見を語った。
「そうだね。……でも、それがいいんだよ。ほら、みんな楽しそうだろう? それぞれが、それぞれの作ったショーを楽しんでいる」
「……よくわかんないけど、楽しそうだって思うならあっちに行けばいいんじゃないの?」
「そうだねえ。……そうできたら、いいんだけどね」
ため息を吐くようにそう語ると、類は少し悲しげな表情を浮かべた。
そして類の表情の変化を見た瑞希は少しの間何かを考え……やがて大きなため息をついた。
「……変な奴なのは、お互い様かもね」
これが、類と瑞希のファーストコンタクトだった。
そして、文化祭から数日後の屋上。類と瑞希は、また会うことになる。
「あ、またいる」
「やあ瑞希くん。遅いじゃないか、もう3時間目だよ?」
「いや、だからなんでいつも待ってんの? ボク達何も約束してないでしょ」
当時の類からしてみれば「待ち合わせもなしに瑞希が来ている」だけだったのだが、瑞希はどうやらそれを「類が自分を待っている」と認識したらしい。
しかし、瑞希が来ないかと内心で期待していたのもまた事実。だからこそ、類はシンプルに答えた。
「うん。今、戯曲を読んでいてね」
「またボクの質問に答えてないし……」
「いやいや、今日は答えているよ。この戯曲は、『ある人物をひたすら待ち続ける話』なんだ。だから君を待っていれば、登場人物の心情に少しでも近づけるんじゃないかって思ったんだよ」
「へー。その戯曲って、面白いの?」
「ずばり、人によるね」
──「人による」。
そのあまりにもありきたりな感想に、瑞希は思わず呆れてしまった。
「……そんなの、どんな話だってそうでしょ」
「いや、この戯曲は特にそうなんだよ。この戯曲には、分かりやすい結末がなくてね。だから結末の解釈は、観客に委ねられるんだ」
「ふーん。そういう話は、嫌いじゃないけど……」
そこからしばらく会話は途切れる。
まもなく口を開いたのは、類が読んでいる戯曲に興味を持った瑞希だった。
「先輩ってさ、そういうのも読むんだね。どっちかっていうと、面白いショーをやりたいんじゃないの?」
「そうだよ。だからこういうのを読むんだ。面白いショーを作るためにね」
「面白いショーのためにいろいろなものを、ね……。じゃあ、ここに来るのも、そういうこと?」
「え?」
瑞希が投げかけた刺々しい質問に、類は気の抜けた声を上げる。
よもや、そんなことを聞かれるとは考えていなかったのだろう。困惑する類に対し、瑞希は自分の質問の意味を伝えた。
「だって、ボクみたいなのと話しても面白くなんてないでしょ。それなのに、面白いショーを作るためのいいネタになるのかなって思って」
「……うん、そうだね。確かに、君はいいネタになっているよ。──でも僕にとっては、
「……あっそ」
相変わらずそっけない返し方しかできない瑞希に対し、類は静かに笑みを浮かべた。
「フフ。思うに、僕はこんな感じでなんでもショーを中心に考えてしまうところがいけないのかもしれないね」
「とか言っておいて、直す気なんてないんでしょ?」
「もちろんさ。直す気なんてないし、これから先も直らないだろうねえ」
「
「……ひとり。そうだねえ……」
瑞希の発言に、それまで飄々としていた類の空気が一変する。顎に手を当て、真面目に何かを考えている仕草だ。
やがて頭の中を整理し終わったのか、類はこう言った。
「孤独は──
「……え?」
今度は瑞希が困惑する番だった。一方の類はいつもの飄々とした表情に戻ると、静かに語る。
「孤独は、僕にいろんなものをくれたよ。たくさんのショーを見る時間に、様々なアイディアを考える時間……。それに、屋上にいる孤独な仲間も、ね」
「孤独なのに仲間って……。矛盾してるでしょ、それ」
「フフ、確かにね」
相も変わらず、瑞希の類に対する印象は「変人」という点で変わっていない。しかしこうして会話を通じたことで、瑞希の類に対する心象に確かな変化が生じていた。
だからこそ、次に瑞希の口から語られたのは本心からの言葉だった。
「……そのうち、
「さあ、どうだろうねぇ。それは神のみぞ知る、だよ」
「神様ねー……。どっかにいるのかな?」
「さて、一体どうだろうね。……ああ、それなら──4時間目の終わりまで、一緒に待ってみるのはどうだい?」
「あはは、じゃ、そうしよっか。どうせボク達、ヒマだしね~」
何をすることもないまま時間は過ぎ、雲はいつも通り青空を流れていく。
そして授業終わりのチャイムが鳴り、また次の授業の始まりを告げるチャイムが鳴っても、2人は屋上で類の言う「神様」を待っているのだった。
──瑞希が「夜の名を冠する作曲家」と出会う、数週間前の話である。
────────
(Side:夏夜)
「……と、こんなことがあったんだよ」
「……なるほど。そんなことが」
類と瑞希の口から一連の話を聞き終えた俺は、2つの意味で驚いていた。
1つは、瑞希と類の「孤独を抱えていた」という共通点が2人をつないだということ。そしてもう1つは──。
「瑞希は、俺に会う前に類と会ってたんだな。てことは、
「どうやら、そうみたいだね。もっとも、僕たちはここで初めて出会ったのだけれど」
類もまた、驚いたような顔をしている。
そりゃそうだ。高校で初対面だと思ってたら、まさか同じ学校だったとは。というか俺も3年生の後半からは屋上にいる時間がそれなりにあったのに、1回も会わなかったどころかすれ違うことすらなかったってどんな確率だ?
すると、瑞希が類に対して語り掛ける。
「類には──ちゃんと仲間ができたんだね。あの司って人とか。あと、一緒にいた女の子とかさ」
瑞希はそう零すと、猫のように背伸びしながら言葉を重ねる。
「……あーあ、類に先越されるなんてなぁ~。絶対ボクの方がコミュ力高いのに~」
「おい、俺は仲間じゃないのかよ」
「夏夜先輩は特別だって!」
「む……そうか……?」
「そうだよ。だってボクは……先輩のおかげで、ここにいるんだからさ」
「フフ、そうかい」
「……?」
俺には瑞希の呟きが聞こえなかったが、類には聞こえたらしい。
類は静かに微笑むと、瑞希に語り掛けた。
「でも、瑞希にもいるんじゃないかい? 新しい仲間が、さ」
「え? ……なんで、そう思うの?」
「演出家としての勘、かな」
「……あはは、なにそれ。ボクにはそんなの……」
そこまで言って、瑞希の言葉が詰まる。どうやら瑞希にも、それらしい心当たりはあるらしい。かくいう俺にも、それに思い当たる節が1つあった。
──瑞希が思い浮かべたのは恐らく、「25時、ナイトコードで」で一緒に活動するメンバー達だ。
「……仲間、っていうとちょっとしっくりこないけど。でも、そんな感じの人たちに出会うことはできたかも」
「おや、勘をたまには信じてみるものだね」
「だから、なのかな。いやなこともあるけど、今は……ここから見える景色も、そんなに嫌じゃないよ」
「そりゃ、よかったな」
「うん。……先輩のおかげかな」
……そこで俺の名前が出るのはよく分からないが、どうやらサークル仲間のおかげで瑞希にも多少変化は生まれているらしい。いい傾向と思いたいな。
「どうやら僕らはお互い、いい人間に出会えたようだね」
「とはいえ、せっかくの文化祭なのにこんな場所で油売ってるところとか、昔と全然変わってないんだけどね~」
「別に、それでもいいんじゃないか? 俺も類も、もちろん瑞希も、今この瞬間を咎める権利は誰にもない」
「……そうだね」
俺たちは屋上から、夕暮れに染まる校庭を見下ろす。するとそこで、瑞希があることに気づいた。
「……ん、何か校庭に人が集まってきてない?」
「ああ、そろそろ後夜祭の時間だな。全学年が校庭に集まって、歌ったり踊ったり……まあ要は、出し物を出し合いながらバカ騒ぎするんだ」
「バカ騒ぎって……。でも、高校だとそういうのもあるんだね」
「確かに中学校には前夜祭みたいなものはあったけど、後夜祭はなかったからな……」
すると、再び階段から足音が聞こえてくる。それも、1人か2人ではない。数人単位だ。
「……ん? 足音が聞こえるね。誰かこっちに来るみたいだ」
「しかもこの音の大きさ、結構な人数だぞ。何だって屋上に……」
俺がすべての言葉を言い切るより早く、屋上の扉が開かれた。
「あ、いた! 瑞希、探したよ~! スマホ鳴らしたのに全然出ないんだもん」
「杏?」
「おお! やっと見つけたぞ、類! む、夏夜も一緒だったのか!」
「はぁ……。コイツと一緒に探すの、ホント恥ずかしかった……」
「おやおや、探されているとは思わなかったよ」
「これって、一体……?」
「暁山、見つかってよかった」
扉の向こうに立っていたのは、杏、司、寧々、そして彰人に冬弥。なんと、神山高校に在籍する俺の知り合いフルメンバーだった。
「冬弥に彰人も。何かあったのか?」
「実は夏夜センパイと別れたあと、すぐ司センパイに会えたんす。それで、暁山も司センパイを探してたらしいんで、『オレ達が見つけたからもう探さなくていい』って暁山に伝えようと思ったんすけど、オレ達は暁山の連絡先知らなかったんで、どうしたもんかと思って……」
「あ、そういや教えてなかったね。ボクもうっかりしちゃってた」
「で、そこに偶然私が通りがかったから、一緒に探してたってわけ! というか、瑞希って彰人と冬弥とも知り合いだったんだね! 全然知らなかった」
「まぁ、今日知り合ったばかりだからな……」
……そういえば瑞希の人当たりの良さのせいで忘れていたが、瑞希と彰人たちってまともに顔合わせしたのこれが初めてだったな。
だってこいつ普段学校に来ないし。来たら来たで大体屋上で俺と顔合わせするし。
「ボク的には、杏と弟くんたちふたりが知り合いってのもびっくりだけどね! それはともかく……みんな、わざわざありがとね」
まさか、こんな大人数で瑞希たちを探していたとは。今更ながら、司か誰かにでもどこにいるか伝えておくべきだったか、と思う。
やがて杏が、本題らしき話題を切り出した。
「あ、それでね瑞希! ……よかったら、瑞希も一緒に後夜祭行かない?」
「後夜祭? でも、杏はこはねちゃんと一緒に……」
「問題ないだろ。後夜祭に参加するのは神高生だけのはずだ。こはねも、もう帰ったんじゃないか?」
「うん。こはね宮女だし。……ていうか瑞希ってば、こはねが来たから気使っていなくなったでしょ?」
「あ、バレたー?」
……どうやら、俺が瑞希を見つけるより先にこはね達と一緒に行動していたようだな。で、気まずくなって杏達から離れて単独行動していたと。やっぱりあそこで俺が瑞希を見つけたのは正解だったかもしれないな。1人でうろついてたら他の生徒から指差されそうだし。
しかし、後夜祭のバカ騒ぎの中なら瑞希が交ざっても誰も気付くことはないだろう。
「誘っといたくせにひとりで回らせちゃったし、後夜祭はいっしょに行けたらいいなって思ったんだけど……どうかな?」
「杏……」
「ま、杏にお前を誘うよう手を回したのは俺だけどな。杏、あとで約束通りラムレーズンアイス奢るわ」
これは少し前に決めてたからな。
──「瑞希を文化祭に呼んでくれ、瑞希が来たら報酬で好物のラムレーズンアイス奢り」ってな。
「やった、まいどありー!」
「って、先輩の仕業かーい!」
「悪い悪い。でもまあ、なんだかんだ言って楽しかっただろ? 後夜祭くらいは、思い切り楽しんでいいと思うぞ」
「……うん。杏、ありがと。それじゃ、一緒に行こっか!」
俺の後押しもあって、瑞希は後夜祭に行くことを決めた。
それを聞いて、杏の表情が柔らかくなる。しかし、ここで予期せぬ援護射撃が入った。
「類も一緒に後夜祭に行くぞ! 観客は多ければ多い方がいい!」
「はて……観客?」
「ふふ……実は、後夜祭のライブは飛び入り参加できるらしいからな。ならば! オレが出ないわけにはいくまい!」
「……飛び入り参加OKなのか」
ああ、このバカなら飛び入り参加OKって言われたら無条件に出るだろうな。というか、やらないっていう選択肢すらないだろう。
同時にその司の発言で、瑞希が何かに気づいたようだった。
「あ、それで演劇の後どっか行ってたってこと?」
「ああ! 飛び入りするためには、いろいろと準備をする必要があったからな!」
「飛び入りするためになんか準備が必要なのか……?」
「ああ。冬弥や彰人も歌えるそうだからな。オレのバックコーラスに任命させてもらったぞ!」
「……言っとくが、こいつらお前より歌えるからな」
「な、なんだとぅ!?」
これは事実だと思っている。司は声の通りはともかく、技術面で言えば彰人や冬弥にかなり後れを取っているからな。ミュージカルとストリートではベクトルが違いすぎるから一概には言えないが、単純な歌の実力なら間違いなく彰人たちの勝ちだろう。
……てか冷静に考えたら、司は俺が歌上手いこと知ってるな。てことは俺も下手すると司のバックコーラスにされるところだったのか。
(屋上に逃げてて正解だったかもな……)
「飛び入り参加OK、か。じゃあ、そろそろ僕の新作装置のお披露目をしようかな」
「どうせまたロクな事考えてないんでしょ……」
さっきまでそれぞれが夕日を眺めていただけなのに、あっという間にワイワイガヤガヤと騒がしくなった屋上。
……時刻はすでに黄昏時、夕暮れに照らされた今の屋上には、「神山高校の屋上」ならではの友情の輪が広がっていた。
「あ、そうだった! はい、瑞希」
「……これ?」
「瑞希の分のクラスTシャツだよ! もう人も少ないし、すぐ着替えられるからね」
杏が取り出したのは、文化祭特有の変Tだった。ちなみに、今この場にいる生徒たちは司と瑞希以外全員変T着用である。
瑞希は杏が取り出した変Tを見て、目を見開いていた。
「あ……!」
「にしても、お前のところのTシャツ……絶妙にダセえな」
「はあ? ちょっと彰人、失礼じゃない?」
「……ん~、まあ確かにボクのセンスとも違うかも~?」
「え、瑞希まで!?」
実際俺から見ても、杏のクラスTシャツは浮いているように見える。でもまあ今日は祭りだし、それくらいぶっ飛んだ格好でも誰も文句は言わないだろう。
……かつては孤独があり、疎外感があり、自分だけの「世界」があった屋上。だが、今の屋上に孤独はない。
初冬の夕暮れらしからぬ爽やかな風が、屋上を吹き抜けていく。ふと俺が瑞希の方を見ると、喧騒に包まれて、瑞希の表情は静かな笑みを浮かべていた。
(なんだか、不思議な感じだな。ずっと屋上から皆を見てたボクが、こうしていろんな人と繋がって──)
「よーし、それじゃあここにいるみんなで、後夜祭に行くぞ! 全員、オレに続けー!!」
「相変わらずうるさ……」
「フフ、それなら今から装置の準備をすればライブに間に合うかな?」
ふと、瑞希の表情が綻ぶ。他の面々が司に続いて屋上の入口へ向かっていく中、俺だけがそれを見ていた。
(──こうやって、みんなと騒ぐのも……悪くないなって思えるなんて)
「……ふふっ」
「瑞希!」
屋上のドアの方へ歩みを進めつつ、瑞希の方を振り返る。
「夏夜先輩、どうしたの?」
「
「……! そうだね」
「瑞希ー? 早く行こ?」
「行こうか。早く行かないと、また司がうるさいぞ」
「──うんっ! 今行く!」
そして俺たちは、みんなでワイワイと校庭へ駆けていく。
そこにいる仲間には誰1人として悲しげな表情を浮かべる者はなく、皆──思い思いの笑顔を浮かべていた。
大変申し訳ありませんが、原作における次のイベントとなる「聖なる夜に、この歌声を」は飛ばします。
次回は「セカイのハッピーニューイヤー!」に対応するストーリーとなります。
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