2章最終話です。
かなり駄文化が進行しているので、読むに堪えない可能性があります。ご注意ください。
【星空のセカイ】
「夏夜君、ハッピーニューイヤー。まだ大晦日だけどね」
「ミク。……そうだな。新年おめでとう」
瑞希とのちょっとした外出を終え、家に帰った直後。
俺は久しぶりに、星空のセカイを訪れていた。まだ新年を迎えてはいないが、新年は一歌たち4人と過ごすことになりそうなので、ちょっと早めの挨拶だ。
ちなみに、うちの両親は3日前から年越し温泉旅行に行っているせいでいない。ついてくるかとは聞かれたが、俺も一歌も行かないって答えたしな。
ミクへの挨拶回りを済ませたら、次はIAだ。IAはいつも通り、呼べばすぐにやってきた。本当にできる秘書みたいな奴だな。正直一番お世話になってるし、ありがたいけど。
「どうかしましたか、マスター?」
「ああ。ちょっと早いけど……IA、新年おめでとう」
「はい。今年……来年? もよろしくお願いします」
「ああ。頼りにしてるぞ」
やはりIAの性格はここでも発揮されるようで、大晦日なのに新年の挨拶というこの出来事に困惑しているようだった。
──さて、ここまではいつも通り。だが、今のセカイには変化があった。俺は少し前にこのセカイに訪れた「新顔」のもとに向かう。
「レン、MEIKOさん。ちょっと早いけど、新年おめでとうございます」
「ああ! 来年もまたよろしくな」
「ええ。こっちこそ、新年おめでとう」
それがこの2人。
どのセカイの影響を受けているのかイマイチよく分からないのだが……何やらIA曰く、「赤の扉の鍵が開いていました」とのことなので恐らくその先のセカイに所縁があるのだろう。
まだ赤の扉の先に足を踏み入れたことが無いので向こう側のセカイがどういうセカイなのかは分からないが、前にあの赤の扉に立った時にストリートライブで感じた熱に近い迫力を感じたのと何か関係があるのかもしれない。
俺のセカイに現れたMEIKOは、コーヒーを淹れるのが上手い。あと料理ができるし、ドラムとキーボードが得意。大人の女性の余裕を持ち合わせる、結構多芸な人だ。
ちなみにいつの間にかログハウスの一部がカフェのカウンター席みたいに大改造されていたのだが、MEIKOとレン、あとは珍しく悪ノリしたミクと、なんだか面白そうということで飛びついてきたONEの仕業だという。
……別に文句を言うつもりはないが、せめて俺になんか一言言って欲しかった。
レンは歌うのが好きで、1人で歌っているのをよく見かける。俺も何回かデュエットしたことがあるが、なかなかに楽しかった。時折俺とライブバトルみたいな形式で歌唱力勝負をすることもあったが……俺を超えるのはまだまだ足りないな。ついでに言えば、俺にとっては「歌うために生まれたバーチャル・シンガーでも、完璧な歌は歌えない」という気付きを得た瞬間でもあった。
挨拶もほどほどに、俺はルカのもとに向かう。珍しく、GUMIも一緒にいた。
「あら夏夜。1日早いけど、新年おめでとう」
「ルカとGUMIも、新年おめでとう。少し早いけど」
「うん……。新年おめでとう。またいい1年になるといいね」
このセカイのルカは、やはり楽器全般が好きらしい。俺が来るたび、だいたい何かしらの楽器をいじっている。今日はベースだった。ちなみにGUMIは何も持たずボーカルに専念するのが一番好きとのことだ。
俺のセカイにある楽器はチューニングが不要らしく、持った人が一番弾きやすいチューニングに勝手になっているのだという。やはり謎の多い場所だ、セカイっていうのは。
なんとなしにギターを持ち、2人に提案する。
「そうだ……1曲弾いていってもいいか? ルカがベース、GUMIがボーカルで。俺がギターをやるからさ」
「私は大歓迎よ」
「……歌って良いの?」
「ああ。少し時間があるしな」
ギターを手に取り、曲を弾き始める。何の曲か、とかそういうのはない。ただ、弾きたい曲を弾く。それだけだった。
だが、不思議とその時間が心地よい。やがて曲を弾き終えた時、俺は良い満足感を覚えていた。
「ありがとな」
「いいのよ。また一緒に弾きたいわ」
「夏夜くんがいいなら、いつでも待ってるね」
年末年始は楽曲の投稿をしないと決めているし、作曲活動もお休みだ。しかし数日前に一歌が「そろそろ新曲来ないかなぁ……」と嘆いていたのを聞いて複雑な気持ちになっている。
自分で言うのもなんだが、三日月夜ロスが来るのが早過ぎやしないか。前に曲投稿したのまだ1ヵ月前なんだぞ。いくらなんでも気が早過ぎるだろ。嬉しいけども。
ともかく、これで年明け前にやることはやり終えた。
(次に会うのは、年が明けてからだな)
俺はそう思いながら、いつも満天の星空が広がる俺のセカイを後にした。
【星乃家】
「わぁ、久しぶりのいっちゃんの部屋だー!」
セカイから帰ってきて、廊下を歩いていると、一歌の部屋から咲希の声が聞こえてくる。見ると、ドアが開いている。反応を聞くに、ちょうど今しがた来たようだ。
「昔とあんまり変わってないね。あ、でもミクちゃんのCDはずっとあるんだね」
「うん。昔からお小遣い貯めて買ってたし、私にとっては宝物だから」
(ずっとあるどころか、現在進行形で増え続けてるんだよな……)
一歌のミク好きは本当に重度だ。なんせ、ベッドのすぐそばに大量のミクのCDがある。しかも今なお増え続けており、その合計枚数は余裕で50を超える。
でも意外なことに、ミクのポスターとかそういうのはない。なんなら集めている気配すらない。前に一歌に「集めないのか?」と聞いてみたのだが、本人曰くミクのCDの方が優先度が高いらしい。
思えば俺がボカロ曲を作ろうと思ったのも、はじめは一歌のボカロ好きに触発されたことによる気まぐれだった。そんな時に「えななん」さんの描いた絵と出会って、絵をモチーフにした曲を作って、やっぱり気まぐれにネット上に上げてみた。ただそれだけのことだった。
それがいつしか、「もっと多くの人に俺の曲を聴いてほしい」って想いに変わった。……ボカロ好きの一歌と、俺が始まりの曲を作るきっかけとなった「えななん」さん。この2人がいなきゃ、「ボカロP・三日月夜」は誕生しなかったかもしれない。
邪魔しちゃ悪いか。そう思って台所にいると、一歌と穂波がやってきた。
「お、穂波。よく来たな」
「はい。お邪魔してます、夏夜さん」
「飲み物取りに来たんだけど……何かある?」
「ああ、ぶどうとオレンジジュースあるから持っていっていい。りんごジュースは飲むなよ。俺のだから」
「分かってるって……。ありがとう、お兄ちゃん」
基本的に我が家の飲み物事情は誰が買ってきても自由に飲んでいい(というかどこの家でもそうだろう)のだが、唯一りんごジュースだけは完全に俺の私物となっている。わざわざテープで「私物」と書いたメモを留めているくらいだ。
どうも俺は、果汁100%のりんごジュースでないと飲む気分にならないのだ。ぶどうとかみかんは別に100%でなくてもいいのだが。
「咲希が誰かの家に泊まるってイベントに飛びつくのは分かってたからな。年末年始は親がいないからうちでやるんじゃないかって、薄々思ってたんだ」
「すごい……。よくわかりましたね」
「当たり前だ。何年お前らのこと見てきたと思ってる」
これはほぼ確信に近い憶測だ。咲希は基本的に誰かと一緒に居たいタイプだし。俺が読み切れなかったことと言えば、そのお泊り会を提案したのが一歌だったということだろう。
「そうだお兄ちゃん、これから咲希たちと一緒にトランプ大会やるんだけど、どうかな?」
「いいのか?」
「はい。夏夜さんなら大歓迎ですよ」
「なら、お言葉に甘えるとするか」
というわけで、俺も交えた5人でトランプ大会が始まった。
「うそー!? また負けたぁ! ほなちゃん、七並べ強すぎるよ~!」
「七並べは穂波の独壇場だな」
「あはは、たまたま運がよかっただけだよ……」
「もう少しで勝てたと思うんだけどな……。すぐ9出しておけばよかった」
七並べで穂波が無双したり……。
「4カード、俺の勝ちだ」
「2ペア。ま、また負けた……」
「お兄ちゃん、昔からポーカー強いもんね……」
「次アタシね! 今度こそ負けないよ~!」
ポーカーで俺が連戦連勝したりなど、年明けまでの時間を楽しんだ。
思えば、こうして5人で遊ぶのは久しぶりだな。こうして遊んでいると、昔に戻ったような気分になる。
そんな楽しい時間の中、ふと時計を見ると、もう大晦日も終わりに近づいてきていた。
「……もうすぐ0時だよ」
「ほんとだ! みんなでいると、時間経つのあっという間だね」
「じゃあそろそろ、ってそうだった。夏夜さんいるんだった……。夏夜さん、少しの間……」
志歩がそう言った次の瞬間、穂波と一歌のスマホが同時に光り出した。
「──ってあれ? スマホが光ってる……!?」
「あ、私のも……」
「これって……まさか」
『みんな、お待たせ。お泊まり会、楽しんでるかしら?』
俺が呟いたその時、スマホにルカのホログラムが投影された。瞬間、一歌たちが凍り付く。
(この服装は……教室のセカイのルカだな)
……さて、ここで1つ問題だ。
今俺たちの目の前には、スマホから投影されたルカがいる。そして俺は自分のセカイを持っているし、一歌たちが自分たちのセカイを持っていることも知っている。
しかし、一歌たち4人は俺がセカイを持っていることを知らないし、俺は一歌たちがセカイを持っていることを知らないと思っている。当然、バーチャル・シンガーのホログラムを投影するなんて立派な機能がスマホについているはずもない。
そんな状況で、スマホから突然バーチャル・シンガーのホログラムが投影されたらどうなるか?
「わわっ……! ルカさん……!?」
「ちょ、ちょっと、お兄ちゃん外で待ってて……!!」
「あ、あの夏夜さん! とりあえず何が起きてるかは後で説明するので……!」
正解は、「俺ではなくなぜか一歌たちの方が取り乱しまくるカオスがものの数秒で出来上がる」。
何が起きたか一瞬で理解できた俺とは真逆に、スマホを持ったままおろおろする一歌と穂波を筆頭に部屋の中は混沌とし始めた。
すると、ルカの透き通った声が響く。
『あら、大丈夫よ』
「え?」
俺はルカのその声を合図に、ルカに声を掛けることにした。
「久しぶりだな、ルカ」
『ええ、あの日以来ね。夏夜』
『私もいるよ』
「ミクもか。一歌たちが世話になってるな」
ごくごく普通の会話を繰り広げる俺とミクたちを前に、一歌たちはまたフリーズしていた。十数秒経過してようやく凍結から脱したらしい一歌が、おずおずと声を掛けてくる。
「え、お兄ちゃん……知ってるの?」
「知ってるも何も……」
『会ったことあるし……』
「「「「ええーっ!?」」」」
一歌の問いに対する答えに、4人はすごく驚いていた。これじゃ、「新年初笑い」じゃなくて「新年初驚き」だな。まだ新年迎えてないけどさ。
まもなく、俺はルカ、ミクも交えて4人にこれまでの経緯を説明した。その最中で、俺もセカイを持っていると言うとすごく驚かれた。ま、そうだろうな。
「隠してて悪かったな」
「いえ。セカイを持っていることを隠していたのはお互い様ですし。……まさか、夏夜さんが私たちのセカイに行ったことがあるって言うのは驚きでしたけど」
そう言えば、行ったことはあっても会ったことはなかったな。
そんな俺の考えをよそに、穂波が手を叩いて話題を切り替える。
「とっ、とにかく。全員揃ったし、そろそろ出かけよっか!」
「どこか行くのか?」
「はい! これからみんなで、初詣がてら初日の出を見に行くんです!」
現在時刻は午後11時48分。近所の神社までは多少急げば間に合う時間だ。
「なるほど。気を付けてな」
「え、お兄ちゃん来ないの?」
「逆に俺がついて行っていいのか? そっちに任せるが……」
「私たちは大丈夫です。夏夜さんも来てくれると……嬉しいです」
「なら、そうしよう」
穂波が真っ先に賛成の意を示し、続くように全員が首肯する。多数決で決定されたので、俺もついていくことに決めた。
さて、外はまあまあ冷えるし……しっかりと着込んでいかなくちゃな。
【神社】
日付が変わる数分前。俺たちは神社の拝殿に到着した。やはりというべきか、すごい人だかりだ。よく入れたなと思う。
「……あ、今、日付変わったね」
どこからか、除夜の鐘が鳴り響いた気がした。神社に鐘はないから、本当に気がするだけだ。でも実際、たった今俺たちは日を跨いで新年に入ったわけだ。
「あけましておめでとう、みんな」
「あけましておめでと~!!」
「おめでとう、みんな。今年もよろしく」
「ああ。俺からも言わせてくれ。よろしくな」
「うん、よろしく。……それにしても、すごい人だね」
「お参りするだけでも、結構時間かかっちゃいそうだね。じゃあ並んでる間に、何をお願いするか考えとこうっと♪」
正直、咲希の願い事に関しては想定がつく。
というか、みんな一緒な気さえする。ルカとミクは何かを話しているようだったが、その時俺は4人から少し離れていたため何を言っているかまではよく分からなかった。
「願いごと、か……」
「一歌は、何をお願いするんだ?」
「うーん……。もっと演奏が上手くなりますように、とかかな?」
「まあ、いいんじゃないか? 願いごとは自分次第だ」
そんな話をしている間にも、列はどんどん進んでいた。列の進みはそれなりに早い。
「意外と、列が進むのが早いね。これならすぐ順番来るかも」
「そうだね。お賽銭の準備しておこうかな」
「あ、アタシ、5円玉いっぱい用意してきたよ!」
咲希は財布を開ける。中にあったのは、少なくとも十数枚はある5円玉。
「……おい咲希、そんな量の5円玉を賽銭箱に投げ入れる気か?」
「投げるのは1回だけなんだから、そんなに用意しても意味ないでしょ」
「えっ!? そんなぁ~!?」
「フフッ──みんな、楽しそうだね」
そうしてわちゃもちゃしているうちに、俺たちの初詣は終わった。
その後は咲希の提案で拝殿を回ってみることにしたのだが、どうにも咲希がハイテンションだ。志歩曰く、昨日の練習が終わってから同じことばっかり言っているらしい。折角4人、いや5人で行ける久しぶりの初詣でテンションが上がるのは分からなくもない。
「あ、ねえねえ! あっちに屋台がいっぱい出てるよ!」
「本当だ。わたあめに、チョコバナナに……。まるでお祭りみたい」
見ると神社の敷地内に結構な数の屋台が出ており、穂波の言う通り季節外れの祭りのような賑わいを見せていた。
「咲希、何か買うのか? 1個くらいなら奢るぞ」
「わーい! じゃあアタシ、あの焼きそばが食べたい!」
「こら咲希、はしゃぎすぎ」
「まあまあ、今日くらい許してやろう。咲希の分のついでに、みんなのも買ってくる」
「ありがとう、お兄ちゃん」
「夏夜さん、ありがとうございます。それじゃあ、いってらっしゃい」
「ああ、行ってくる」
穂波の言葉を背に、屋台へと駆け出す。
多少の行列こそあったが、特に時間もかけずに焼きそば4個を買い終え、一歌たちの下へと戻ることができた。一歌たちはどうやらミクやルカと話していたようだった。
「ほら、焼きそば4個。毎度あり」
「わ~! すっごく美味しそう~!」
「でも食べるなら、座って食べないとね」
そうして焼きそばを食べ進めていくと、穂波があるものに気づいた。
「あ。ミクちゃんにルカさん、あっちにおみくじがありますよ」
『本当だ。……幸運御籤って書いてある』
……おみくじか。最後に引いたのはいつの話だろうか。それこそ、中学生時代に咲希が入院してからは1回も引いてないんじゃないか。小さい頃はみんなで仲良くおみくじを引いて、結果に一喜一憂してたものだが。
「引いてみる?」
『引いてみたいけど……。でも、どうやって引けばいいのかしら?』
「う~ん……。あっ、そうだ! アタシたちがミクちゃんたちの分も引けばいいんじゃない!?」
「いいね。そうしよっか」
どうやら4人の間では「引く」という方向で話がまとまったらしく、さらには咲希たちがルカとミクの分までおみくじを引くことも決まったようだ。
「じゃあ……わたしが代わりにルカさんの分を引きますね」
『あら、いいの? それじゃあお願いしようかしら』
「なら、ミクの分は私が引くね」
『うーん……分かった。一歌、お願い』
「……私も引いてみようかな」
「志歩も引くのか? なら俺も、新春の運試しと行くか」
まずは咲希が引くことになった。結果は吉。咲希曰く、「身体に気を付けて過ごすと良し」とあったらしい。――咲希は無理をして熱を出した前科があるからな。どうやらおみくじにすら釘を刺されてしまったようだ。
次に一歌。一歌は小吉。くじの内容を見せてもらうと、今年1年の運勢の欄に「勇気を持つことが大事」と書かれている。俺としては昔みたいに、勇気溢れる一歌をまた見てみたいものだ。だがそれはそれとして、一歌には今年勇気を出さなければならない試練の時が訪れるのかもしれない。
(……意外とこのおみくじ、的確だな)
ちなみに直後に一歌がミクの分も引いたのだが、なんと大吉であった。ミクが「今年分の運を使い切っちゃった!」と動揺していたが、そこは姉御肌のルカ、綺麗に収めていた。
──しかし穂波の順番になった時、事件は起こった。
穂波が意気揚々とルカの分を引いたのだが、そのおみくじの結果を見た穂波の顔が、見る見るうちに真っ青になっていく。
(……あ、そういえば)
こっそり覗き見てみると──やっぱり大凶だった。
……穂波はおみくじに嫌われているのか何なのか分からないのだが、生まれてこの方、俺の知っている限りでは一度も大吉を出した事がないのだ。
それどころかだいたいが凶。今年こそはと思ってたが、まさかよりにもよって大凶を引き当ててしまうとは。逆についてるのか、本当についてないのか……。
『あら……』
「大凶なんて初めて見た……」
「ご、ごめんなさい……! わたしのせいで、ルカさんの今年の運勢が……っ!」
『大丈夫だよ、穂波。おみくじなんだし、そこまで気にしなくてもいいって』
『ミクの言う通りよ。それに、ほら。“努力すれば報われる”ってちゃんと書いてあるもの。きっと今年もいつも通り、私にやれることをやっていけばいいってことだと思うの。だから、大丈夫よ』
「ルカさん……」
ミクとルカの励ましで、穂波の顔色が少しずつ戻っていく。咲希と志歩も、それに乗じた。
「そうだよほなちゃん! おみくじなんだし、気にしない気にしない!」
「今年がどうなるかなんて、自分たち次第だと思うよ」
「2人とも……。──でも、やっぱりこんなのダメ!」
「「「『え?』」」」
その場にいた穂波以外ほぼ全員の声がハモった。
「今のはわたしの分ってことにして、もう一度引いてみます!」
「うーん……。それなら、ルカの分は俺が引くが」
「いえ、夏夜さん! これは、わたしの問題なんです!」
「お、おお……?」
謎の気迫を感じ、引き下がる。
ここまで穂波が自分を貫き通すのは珍しい。……いや、どっちかというと「ルカに迷惑をかけた」っていう罪の意識からくるものなんだろうが。
しかし大丈夫か? 今穂波がもう一度引き直しても嫌な予感しかしないんだが。
(そもそも、別にそこまで背負う必要ないと思うんだがな……)
「えいっ!」
思いっきりおみくじを取り出した穂波。だが……
「こ、今度は凶!?」
「穂波……」
(ダメだこりゃ)
なお、穂波はその後3度目の正直でようやく「吉」を引き当てることができ、子供みたいに喜んでいた。
そんな穂波を後目に、志歩の番となる。志歩は咲希と同じで、吉。「ま、こんなものだよね」とのことだ。
(志歩……それは
最後は俺だった。適当なものを1枚選び、取る。
結果は──
「小吉、か」
「お兄ちゃんも小吉? 私とお揃いだね」
「ああ。兄妹そろって小吉とはな」
一歌と同じ、小吉だった。
見ると、「仕事」の欄には「思わぬひらめきあり」とあった。……今後の曲作りに何かあるのだろうか。頭の隅っこにでも入れておこう。
しかしそれ以上に俺は、他の欄に書かれていることが気になった。
(『待人……近くにいる』。『願事……努力次第で叶う』。これはまだわかるが……。『恋愛……
好きな相手。
……いるとすれば、一歌か。もちろん恋愛的な意味ではなく、妹としてだ。咲希や穂波、志歩のことも好きではあるが、恋愛というより親愛だろう。
というか、そんな感情を持ったらあの妹大好き2人組に消し飛ばされかねない。司はともかくとして、雫は志歩から「好きな人ができた」などと言われようものならまず間違いなく意識が飛ぶだろう。
(ま、おみくじだし……気にしなくていいか)
「お兄ちゃーん、もうすぐ初日の出だよ!」
「ああ。今行く」
「向こうで甘酒配ってたの! 美味しいしみんなも飲もうよ!」
「私はいい。甘いのそんな好きじゃないし」
「え~! 美味しいのに~!」
一歌に咲希、穂波と志歩。今はそこに、ミクとルカがいる。
俺を入れた7人の初詣は、あっという間に終わりが近づいていた。時刻はすでに初日の出の15分前を回っている。一歌たちが4人で談笑するのを一歩引いた目線で見ていた、その時だった。
『あら、夏夜は混ざらなくてもいいの?』
「ル、ルカ!? 何だって俺のスマホから……!?」
『夏夜は一歌たちと想いを共有してるから、特別。私たちも出てこれるよ』
「ミクも……」
突如、俺のスマホからミクとルカが飛び出してきた。普通の人なら腰を抜かすかもしれないが、俺は多少驚く程度で済んだ。
……俺もいよいよセカイに慣れてきたってことなんだろうか。
(というか、他のセカイのミクたちも俺のスマホから出てこれるとは。新年初発見だったな)
俺のスマホから飛び出してきたミクとルカは、俺と同じように一歌たちを優しい目で眺めていた。
『あの子たち、凄く楽しそうね』
「ああ。一歌の兄として、こんなに嬉しいことはない」
『ふふっ。いいお兄ちゃんなんだね』
「そうか? ……そうなのかもな」
正直ちゃんと兄らしいことができているかは分からないが、「いいお兄ちゃん」と言われて悪い気はしない。
『そうだよ。一歌ってたまに夏夜の話をするしね』
「俺の話?」
『ええ。自慢の兄だって、言ってたわよ』
「そうか……。一歌が……」
自慢の兄、か。そう言われて、珍しく顔が熱くなる。あまり一歌に面と向かって自分の印象を言われたことはないから、嬉しいものだ。
「……しかし、嬉しいもんだな」
『? 何が?』
「いや、一度はバラバラになったあいつらが、今こうして一緒にいる。そう考えると、なんだか感慨深くてな」
これはかねてからずっと思っていたことだ。
バラバラになった4つの星の欠片はすれ違いを乗り越え、本当の想いを見つけ、今ではバンドという新たなつながりを得て、また1つになった。
……司の時も思ったが、これだけで1つの物語になりそうだな。
『本当ね。今年もきっといろいろあるだろうけど──4人なら、どんな困難も乗り越えられる。私はそう思うわ』
「そうだな。──ミク、ルカ。これからもあいつらを頼む」
『ええ。任せてちょうだい』
『私たちも、一歌たちを一緒に応援していくよ』
「ありがとう」
『たまにはセカイにいらっしゃい。また一緒に演奏したいわ』
「ああ。いつか必ず」
ふと、東の空が淡く光っていることに気づいた。
──夜明けだ。
「お兄ちゃーん! 朝日昇るよー!」
「……ああ、今行く!」
一歌が俺を呼んでいる。俺は一歌たちのいる方へと駆け出していく。
(今年は……どんなことが待っているんだろうな)
これから俺に、一歌たちに何が待っているのかなんて、誰にも分からない。
けど──きっと上手くいく。
少なくとも今の俺には、そんな気がしていた。
ストックがついに切れたので、以降の更新はかなり不定期になります。
可能な限り2週間に1回の投稿を目指しますが、遅れる可能性が高いです。
感想や評価等で応援していただけると、幸いです。
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