今回は夏夜パートは入りません。その代わり、全編穂波パートで進行します。
そして穂波の様子が……?
【星空のセカイ】
「わぁ……!」
「どうだ? このセカイの星空は。お前たちのセカイと負けないくらいの星空だろ?」
「はい! とても綺麗です!」
あの時夏夜さんに手を掴まれたかと思ったら、セカイに入るときと同じ光が見えて、目の前が真っ白になって──次に目を開けたら、わたし達のセカイにはないログハウスの中にいた。ログハウスの中でIAさんに「セカイにようこそ、穂波さん」って言われた時には、少し驚いたけど。
でもログハウスから一歩外に出てみれば、そこには満天の星空が広がっていた。その満天の星空に、わたしは一瞬で虜になってしまった。こんな星空を見たのは、あの日数年ぶりにみんなで集まってしし座流星群を見た時以来だ。
……そういえば、あの後一歌ちゃんが、しし座流星群を見ようって言い出したのは夏夜さんだって教えてくれたっけ。
「こうやって星空を見るのが、穂波は昔から好きだったもんな」
「はい。その、ありがとうございます」
「気にするな。俺が連れてきたくて連れてきたんだからな」
その言葉に、わたしの頬が緩む。
夏夜さんのセカイの夜空には幾つもの星が瞬いていて、今までに見た星空で一番綺麗だった。多分、凄く空気が澄んでるんだと思う。それにこのセカイには周囲に森があるくらいで、星空を遮るものは何もない。
(ええと、確か『星空保護区ゴールドティア』だったっけ)
それは、世界で最も星空が綺麗だと言われている場所。何回かそこの写真を見たことがあるけど、このセカイの星空はその写真で見た星空にも負けないくらい綺麗だ。数えきれないくらいの星々がわたしを照らしているみたいで、明かりなんてなくても星の光だけで周囲は明るく見えた。まるで、それは天然のプラネタリウムみたいで。
「夏夜さん。わたし、ここに来て良かったです」
「そうか。──ここでのことは、2人だけの秘密な?」
「秘密……。はい」
夏夜さんが口に人差し指を当てて、そう言った。
──これは、この景色は、
それが、どうしても嬉しくて。
この星空は、わたしの心の中に仕舞っておこうと決めた。
「また来たいときは、俺に言ってくれ。俺はいつでも待ってるからな」
夏夜さんの向けてくれたその瞳が、凄く安心できて。
その瞳を前にして、わたしは
「はい。また来たいです」
──でも、今はそれを口に出せる勇気なんてわたしにはない。だから今は、これだけにしておく。
すると夏夜さんが、不意にこんな提案をしてきた。
「なあ、穂波。一曲、俺と一緒に演奏していかないか?」
「え? 夏夜さんと一緒に演奏できるのは嬉しいですけど……。どこでやるんですか?」
「ちょっと待ってろ。──ルカ! いるかー!?」
夏夜さんが突然、声を張り上げてルカさんを呼び出す。あ、わたしたちのセカイのルカさんとは違うからさん付けはおかしいかも?
そんなことを考えているうちに、夏夜さんの声に応えたのかルカさんがやってきた。……わたしたちのセカイのルカさんとすごくそっくりだ。同じルカさんだから当たり前なのかもしれないけど。
「夏夜が私を呼ぶなんて、珍しいわね。……あら? 今日はお客さんも一緒なのね」
「は、はじめまして。わたしは──」
「分かってるわ。望月穂波ちゃん──でしょ?」
「え? あ、はい。そう、ですけど……」
「
ルカさんの微笑みに、わたしは無意識にぺこりと頭を下げていた。
──だって見れば見るほど、わたしたちのセカイのルカさんにそっくりだったから。「セカイの数だけ私たちはいる」って前にミクちゃんから聞いたことはあったけど、正直目の前にいるルカさんは同一人物としか思えなかった。
「一曲弾きたい。ベース、お願いできるか?」
「任せて。今日はお客さんもいるし、張り切っちゃうわ」
「よし、そうと決まれば行くか。穂波、ついて来い」
「ど、どこに行くんですか……?」
まもなくわたし達は、最初にやってきたログハウスにやってきた。
内部を見回してみると、入口の近くのスペースが広く取られていて、バンドで使う楽器一式が置いてあった。なるほど。ここで演奏できるってことなんだ。
中で待っていたIAさんに、夏夜さんがてきぱきと指示を出す。同時に夏夜さんが、立て掛けられていたギターを手に持った。
「IA、キーボード弾けるか?」
「もちろんです。すぐに準備します」
「え、ええと……? 今から何をするんですか……?」
「しっかりしろよ、穂波。キーボード、ベース、ギターときたら……
その言葉でわたしは、はっと気づかされる。
「穂波、ドラム行けるか?」
「は、はい!」
近くにあったドラムの前に座り、スティックを持つ。
(……なんでだろう。すごく、手に馴染む。まるで、いつも使ってるみたいに)
楽器の状態は調整もまだしてないはずなのに完璧で、今すぐにも演奏できる状態だった。不思議に思ってルカさんに聞いてみると、ここの楽器は「いつ、どんな人が弾いても必ず演奏者にあったチューニングに
……セカイってところ自体が不思議な場所だなあとは思っていたけど、ここはわたし達のセカイよりも、ずっと不思議だ。その時、ログハウスの扉が開いてミクちゃんが入ってくる。ルカさんはあんまり変わらないけど、このセカイのミクちゃんは教室のセカイのミクちゃんとはだいぶ違っていた。
「あ、面白そう。私も入れてよ」
「このセカイの、ミクちゃん?」
「そうだよ。ここでは初めましてかな? ええと、お名前は?」
「わたしは望月穂波。よろしくね、ミクちゃん」
「ふふっ。よろしく、穂波」
ミクちゃんも入れて、夏夜さんがギター、ルカさんがベース、IAさんがキーボード、そして私がドラム。
あっという間に、いつも私たちがやるような4人バンドの基本形が完成した。そしてミクちゃんもどこからともなくギターをもってきて、ギターが2人になる。
「そういえば夏夜。何を演奏するか決めてるの?」
「そうだな、ミクに穂波がいるし……。『ウミユリ海底譚』なんてどうだ?」
「『ウミユリ海底譚』……!」
ウミユリ海底譚。
その曲の名前が出た時、わたしはすぐに声を上げた。
「わたし、演奏してみたいです!」
「やれるのか?」
「はい。たまに志歩ちゃんたちと合わせることがあるので」
「よし、ならそれで決まりだな。ミク、ボーカル頼む」
「うん。任せてよ」
そうしてミクちゃんのボーカルで、ウミユリ海底譚を演奏することが決まった。
ウミユリ海底譚は、一歌ちゃんが大好きなボカロPの「三日月夜」さんが作った曲だ。そして、わたしが夏夜さんと公園で話した少し後に投稿されて、一歌ちゃんに紹介された曲。この曲全体の雰囲気が、わたしは大好きだ。なんだか、歌に励まされているような気がして。まるで、
──だから、歌ってみたい。強くそう思った。だから次の瞬間には、わたしは声を張り上げていた。
「よし、行くぞ!」
「あ、あの!」
「穂波? どうしたんだ?」
「わたしも、この曲歌ってみたいんです! ダメ、ですか?」
「フッ……。ダメなわけないだろ? 穂波の心からの歌、聴かせてくれよ」
「……! はい!」
「よし、改めて──行くぞ。穂波、ドラム頼む!」
「はい!」
この曲は、最初に私のドラムから入る。つまり、わたしのタイミングで始められる。夏夜さんやミクちゃんたちはすでに準備万端みたいだ。
すぅ、と深呼吸。──よし。
「行きます!」
「いいぜ、いつでも来い!」
ドラムスティックのリズムから、ドラムをたたき始める。最初の歌声が、ミクちゃんと合わさる。それだけで、どんどんと歌いたくなる。
そのまま曲の始めに入って、夏夜さん達のギター、ベース、キーボードとわたしのドラムが1つになる。もうすぐ、一番の歌詞だ。ミクちゃんの声と一緒に、わたしは歌いだす。それだけで、わたしの心は高揚していた。
声を出すたび、どんどん私の気分は高揚していく。
──ああ、やっぱり歌うのって、楽しいんだ。今は一歌ちゃんたちと歌っているわけじゃないけれど、それでも夏夜さんのギターが、ルカさんのベースが、IAさんのキーボードが、わたしのドラムと1つになって、まるで海の底にいるような雰囲気を奏でている。
1番のサビを終えて間奏に入ると、夏夜さんがこっちを向いた。
(……! 笑ってる)
そっか、夏夜さんも楽しいんだ。そう思った瞬間、身体に力がみなぎってきた。そうだ、前に夏夜さんが言ってたんだ。「曲ってのは、演奏するってのは楽しむものなんだ」って。
──そういうことだったんだ。
(夏夜さん、わたしも──今、すごく楽しいです!)
上手く笑えてるか分からないけど、熱のままに笑みを返す。すると、夏夜さんが満足そうに綻んで、視線を戻した。その表情に、身体が一層熱くなるのを感じた。
そこからはあっという間で、気付いたころにはもう曲の終わりごろまで来ていた。
「「──最終列車と泣き止んだ あの空に溺れていく」」
最後のフレーズをミクちゃんと2人、歌い切る。
そして歌が終わってドラムを叩き終えた時、わたしの心には今までにない満足感があった。もしかしたら、今までで一番いい演奏ができたかもしれない。
そんな風に思う私に、夏夜さんが近づいてきた。
「穂波。──今の演奏、最高だったぞ」
「夏夜さん……! はい! わたし、すごく楽しかったです!」
「ああ。俺も、楽しかった」
それからすぐにわたしの側にミクちゃんたちも駆け寄ってきて、わたしと夏夜さんは皆に囲まれることになった。
「穂波、すごかったよ」
「ええ。今までで一番楽しい演奏になったわ」
「こうして皆さんと喜びを分かち合えるのは……嬉しいですね」
「ミクちゃん、ルカさん、IAさん……!」
そっか。みんなと演奏できるって、こんなにも楽しいことなんだ。わたしはもう、1人じゃないんだ。そう思ったら、わたしの目から一粒の涙がこぼれる。嬉し涙だ。
それに、今の演奏であの笑顔を見て──改めて再確認した。
やっぱり、わたしは夏夜さんのことが──
「あ、やべ。もうこんな時間だ」
「マスター?」
「穂波、そろそろ家に帰らないと親御さんが心配するぞ?」
「あ……。そうですね。演奏に夢中で忘れてました」
夏夜さんが見せてくれたスマホの画面には、「18:48」と表示されていた。
今日は学校からセカイに行ったわけじゃないから最終下校時間を過ぎる心配はないけれど、確かにそろそろ帰らないと両親に心配されそうだ。
「えっと……。どうやって帰ればいいんですか?」
「ああ、ほら」
そう言って夏夜さんは手を差し出した。
……えっ!?
「えっ!?」
「……え? 俺、なんかおかしいことしたのか?」
「ああ、あの、違うんです! そういうことじゃなくて……!」
考えていたことが声に漏れてしまう。
だって、今しがた演奏を終えたのと自分の想いを再確認したばかりで顔も身体も熱くなっているのに、そこに手を握るなんて……。
「どうした?」
「ああ、えっと……。ちょっとびっくりしただけです! なんでもありませんから!」
「そ、そうか……? ほら、帰るぞ」
「は、はい……」
夏夜さんの手を掴む。うう、なんだかすごく恥ずかしい……。
でも、そんなことは知らない夏夜さんはミクちゃんたちに何かを話しかけた後、スマホの画面をタップする。すると、わたしの周りにセカイに出入りするときに見る光の粒子が立ち上り、わたしと夏夜さんは現実の世界に戻ってきていた。
その後、夏夜さんの「送ってく」という言葉を断り切れなかったわたしは、夏夜さんと一緒にしばらく歩いて、分かれ道にやってきた。
わたしはその分かれ道の1つに進み、夏夜さんの方を振り返る。
「っと? ……ここまで来れば、大丈夫か」
「はい。あの、ありがとうございました!」
「いいって。穂波の力になれたなら、何よりだ」
「──わたし、前に進みたいです。だから、今日家に帰って、もう一度よく考えてみます。今のわたしにとっての一番の優しさの形って、何なのかを」
今なら、きっとわかる気がする。
わたしはどうすればいいのか、わたしに何ができるのか。わたしは、どうみんなに向き合えばいいのか。
そんなわたしに、夏夜さんはエールを投げかけてくれる。
「穂波ならきっとできるさ。いや、出来る。俺が断言する」
「ふふっ。でも、嬉しいです。信じてくれる人がいるって、こんなにも嬉しいんですね」
「ああ。人の信頼ほど、温かいものはないからな」
その言葉に、ひとつ頷く。
「そろそろ、帰りますね。さようなら!」
「ああ。またな。あのセカイに行きたくなったら、いつでも声を掛けてくれ」
「はい!」
手を振ってわたしを見送る夏夜さんに手を振り返し、わたしは家までの一本道を帰っていく。
……今日は、わたしにとってすごくいい一日だった。明日はきっと、もっといい一日になる。その為にも、勇気を出して前に進まないと。
(……夏夜さん、見ていてくださいね。わたし、前に進みますから。だから、ありがとうございます。わたしに──踏み出す勇気をくれて)
ただ霽れを待つよりも、自分から一歩前に進む。決意を新たにして、わたしは家への道のりを走っていくのだった。
もちろん次の日、勇気を出して自分の意見を伝え、クラス全体をまとめることができたのは言うまでもない。
筆が乗ったので一気に更新できましたが、正直これ以降はここまで早く更新されることはないと思われます。
感想等頂けると、創作するにあたってたいへん力になります。
また、プロフィールにて夏夜のイメージ画像を公開しました。あくまで「イメージ」なので、深く考えず参考までにご覧ください。
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