報告したいことが多々ありますので、少々長い前書きになることをお許しください。
まず第一に、
2か月以上本編を更新していませんでした。
更新が極めて遅れたことを皆さまにお詫びします。
そして、大変長らくお待たせいたしました。下書き消滅という絶望をどうにか乗り越えましたので、投稿させていただきます。
連載中のもう1つの作品でも目標を掲げましたが、当作品の今年の目標は、「『ワンダーマジカルショウタイム!』に当たるストーリーまで書き上げる」ことを目標とさせていただきます。感想や評価等による応援をよろしくお願いします。
またパラレル作品に関しては「シリーズ化希望」の声が圧倒的に多かったため、シリーズ化を決定いたします。
それに伴い、アンケートを新設いたしました。是非、皆さまの意見をお聞かせいただければと思います。
ここまで長文、失礼いたしました。
それでは、本編をご覧ください。
【ステージのセカイ】
『どうされましたか、マス──』
『すまない、話はあとだ!』
IAの言葉を一蹴し、星空のセカイにあるログハウスへと慌ただしく入ると、迷いも躊躇いもなく緑の扉を開け、ステージのセカイへと突撃する。
まだこのセカイで雫と会ったことはないし、そもそもこのセカイが誰のものかもわかっていないというのに、俺にはどういうわけかこのセカイに雫がいるという確信があった。理屈は分からない。だが、雫が逃げ込めるセカイと言ったらここしかないだろう。アイドルという肩書き。明らかに意識されたステージ。そして何より、彼女のイメージを投影したかのような、ステージのセカイのルカの存在。匂わせとまではいかずとも、たどり着けるためのヒントはいくつもある。
そしてその確信を経て、ようやく俺は初めて緑の扉の前に立った時に感じた「懐かしい雰囲気」の正体に辿り着くことができた。
(──あれは、雫だったんだ。それも、
しかし、今の雫からはそれが失われようとしている。現実と理想の境界で、本来の自分と他人からのイメージの乖離で、雫は潰れかけている。
ならば、誰かが道を示さなければならない。
「雫! ……何やってんだ?」
「夏夜くん?」
──だが。その肝心の雫は何がどういう事情でそうなったのかさっぱり分からないが、ルカの頬を引っ張っていた。おかげでルカの顔が雫の手によって変顔に変えられている。
「わはしのほっへたっへやはらはいはら、さわらへてあげへはほよ」
「……『私のほっぺたって柔らかいから、触らせてあげてたのよ?』」
「ええ。よくわかったわね」
これでも人並みに耳はいいのだ、多少発音が悪くとも聞き取れる自信はある。ルカの言い分的にも、雫の反応的にも、このセカイのルカの頬は相当柔らかいようだがそこは一旦置いておこう。重要なことはそこではない。
「夏夜くん! ルカちゃんって、とってもお茶目さんなのよ」
「……お、おう?」
真面目モードの俺とは対極に、雫はマイペースを貫いている。
──少なくとも、表面上は。
どこか明るく語る雫の表情から、俺があの時見た憂いの表情は一応消えていた。しかし、声的にはまだ様々なものが渦巻いているのがバレバレだ。雫は表面を取り繕うのは得意だ。実際今まで清廉潔白なアイドル像を保てていたのは、雫のその能力の高さに起因しているというのは言うまでもない。
だが、ひとたび暴かれた内面を取り繕うことは大して上手くない。それこそ、暴かれてしまえば人の心情に比較的疎い志歩にすら簡単に気付かれるレベルだ。まあ、雫と志歩は姉妹だから気付かれるのはある意味当然かもしれないが。現に雫は一方的に志歩の心の内を(都合よく)読む能力がついてるし。
電話越しならもともかくこうして直接面と向かって会話している以上、俺から逃れることはできない。それでも向こうが話を逸らすというのなら、こっちから切り込むしかない。
「……それで誤魔化せると思うのか?」
「──そうよね」
雫の偽りの表情がはがれ、その下にあった不安や恐怖といった様々な負の感情が露わになる。「Cheerful*Days」を辞めたと聞いた時も、「MORE MORE JUMP!」としての再出発が上手く行っていないと聞いた時も、ここまで暗い表情を見せたことはなかった。
その事実からも、今日1日で雫がどれだけ苦しむことになったのかは想像に難くない。改めて心無い言葉を吐き捨てるだけ吐き捨てていった信者共に怒りを覚えるが、今そんな相手に怒りを募らせてもどうしようもないと自分を律する。
「改めて、私にも話を聞かせてくれるかしら?」
「ルカはそう言ってるが……どうする? 雫」
「──分かったわ。ルカちゃん。夏夜くんも、聞いてくれる?」
「いくらでも」
程なくしてルカ同席のもと、今日1日に起きた出来事の再整理がなされた。
ファンの目の前で、「アイドルとしての日野森雫」のイメージ像を崩してしまったこと。「アイドルとしての日野森雫」しか見ようとしないファンたちが、雫に心ない言葉を浴びせ続けたこと。結果として追い詰められた雫は、ただ逃げることしかできなかったこと。そして、俺に見つかってしまったことも。
話を聞き終えた時、最初に口を開いたのはルカの方だった。
「そんなことがあったのね……」
「ああ。まったく……。ふざけた話だ」
「私これから、どうすればいいかわからないの。『MORE MORE JUMP!』としてファンのみんなに希望を届けたいのに、私のせいで活動がしにくくなっちゃいそうで……。でも私は、もうファンのみんなを、がっかりさせたくないの……」
雫の声は、どんどん尻すぼみになっていく。
結局のところ、雫を蝕んでいる二律背反はそれなのだ。
──「アイドルとしての日野森雫」を選べば、確かにファンは喜ぶだろう。今ならまだ、「気が抜けていた」でどうにかなる範疇だ。雫のことを「雫様」とかいうふざけた呼び方で崇めるほどに雫に心酔しきっている信者共が、それくらいのことで雫のファンを辞めるとは到底思えない。反面、当事者である雫の心には行き場のない苦しみが蓄積され続けることになる。そうなれば、雫の存在がいつ炸裂してもおかしくない爆弾になりかねない。
ついでに言えば、この道は確実にモモジャンの活動に悪影響を及ぼす。そもそもチアデ時代の雫が「アイドルとしての日野森雫」としての像を確立し、維持できていたのは、その周囲の人間が死ぬ気でイメージ保全のために頑張ってきたからに他ならない。雫の天然度合いは測定不能な領域だ。確かにファンからのイメージ低下は抑止できるかもしれないが、マネージャーもなければ事務所のバックアップもない今のモモジャンが、雫の底抜けの天然ぶりをカバーできるとは到底考えられない。というか、絶対無理だ。
かといって「本来の日野森雫」を取れば、今度はファンからの心証をどうしようもないくらいに損ねる。一切言葉を選ばず述べるとするなら、日野森雫という少女の正体は「ビジュアルにステータスを全部吸われたポンコツアイドル」なのだ。確かに見た目だけならクールでミステリアスかもしれないが、その内面を知れば知るほど、皆の知る完璧なアイドルとしての雫からは遠ざかってしまう。
代わりに、モモジャンとしては多少なりともやりやすくなる。雫の天然さを隠す必要がないのだから、比較的自由にのびのび活動できるようになる。他のメンバーも、無理に雫を気に掛けることがなくなるだろう。ただし、その場合は「
俺が思考を回す中で、雫の語りはなおも続く。
「夏夜くんは分かると思うんだけど……。私っていつもぼんやりしてるから、知らないうちに、他の人をがっかりさせちゃうの。『美人なのにもったいない』って、いろんな人から言われたわ……」
「──それは」
……雫から、何度も聞いたことがある話だ。小学校の高学年あたりから、雫は急激に浮世離れした美人へと育っていった。しかし、昔からの抜けた性格が変わることはなかった。
だからこそ、雫にはある評価が下された。
──「
かねてからもう何度もふれてきたし、雫本人も自覚していることだが、少なくとも俺はそれを口に出したことはない。だが雫を取り巻く周囲の人間はそうではない。そうではなかったのだ。
外野は、雫に才色兼備を求めた。しかし、その度に雫の精神は摩耗していった。当然だろう。雫に特別な「色」はあれど、特別な「才」はない。雫自身から放たれる圧倒的な存在感に、見る者を魅了するビジュアルに、人間としての成長速度が全く追い付いていないのだ。
別に、雫が成長していないわけではない。ただ、雫はどちらかというと1歩1歩積み重ねて成長するタイプだ。間違っても俺のように“一瞬で流れを掴んでものにできる”タイプではないし、かといって“コツを掴むのが遅いが、理解した瞬間爆発的な成長を遂げる”ようなタイプでもない。
だというのに、周りの人間は雫に「完璧であれ」と求めた。すでに完成されている外側に、無理矢理中身を追いつかせようとした。それが出来ないと分かれば、今度はあの手この手で取り繕おうとした。
──その結果が、これだ。
反吐が出るとは、この事を言うのだろう。
「だからアイドルになって一生懸命頑張れば、誰かの期待にこたえられると思ってたけど……やっぱり、ダメね。ファンのみんなの期待に、応えられなかった」
「……それは、違う」
確かに、雫の言い分にも一理ある。雫を追い込んでいるのは、その考え方だ。自分の在り方が、ファンからの期待を裏切ってしまったというのは間違いないだろう。
だが、それに当てはまらない人間が──ここにいる。
「お前は、確かに期待に応えてたさ」
「……誰の、期待に?」
雫はキョトンとした様子で、こちらを見据えてくる。その表情は儚く、何処までも不安げだ。だからこそ、俺は自らを高らかに示す。
「ここにいるだろ。お前にアイドルとしての基礎を叩きこんだ人間が。誰の期待にも応えられてないなんてことは、絶対にない」
普段はただの幼馴染だが、今は違う。今だけは、この瞬間だけは、誰よりも日野森雫を身近で見てきた、誰よりも日野森雫を身近で知ってきた、「日野森雫の最初のファン」でありたい。
「俺は、”ありのままの雫”と“アイドルとしての雫”の両方を知ってる。だから、どっちかだけを否定するなんてさせない。雫が、誰の期待にも応えられてないなんて思わない」
「でも私は、1人じゃ皆の期待に応えることなんてできない……。ファンのみんなが求めてるのは、完璧な私なの。ありのままの私は望まれてないわ……!」
「……」
雫は別に、完璧を演じるのが嫌だったわけではない。事実として「ファンの期待に応えること」というのは確かに雫の原動力になっていたし、雫にとってファンからの応援は何物にも代えがたいものだった。それは分かる。そうじゃなきゃ、理想と真実の境界で苦しむこともなかっただろう。
──モモジャンに迷惑はかけたくない。でも、ファンの期待を裏切りたくない。そんな雫の考えが、今の俺には見え透いて分かるようだった。
だからこそ、雫に伝えるべき言葉は決まっていた。
「『
「えっ……?」
「その言葉……」
そう。かつてのルカが、俺の零した疑問に示した答えそのものだ。
そしてきっとこれが、今の雫に俺ができる最大のアンサーになる。
「完璧を求めるのはいい。だがもし完璧でい続けたとして。そうなった時、雫は胸を張って『希望を届けてる』って言い切れるか? 自信をもって、『自分がアイドルだ』と誇れるか? 」
「……わからないわ」
「なら、俺なりの答えを教える」
雫が固唾をのむのが分かった。そして俺は、俺なりの答えを雫に示す。
「──誇れるわけがない」
これは、俺にとって譲れない答えだった。
それがどんなに残酷であろうと、この答えは覆らない自信があった。俺の提示した答えに対し、雫は口をただ開閉することしかできていない。おおかた、飲みこめていないのだろう。だが雫がアイドルたらんとするのなら、雫は俺の言葉を聞く意味がある。
「完璧を求めるんなら、機械にでもやらせておけばいい。そっちの方が建設的だ。なんせ、命令さえすれば正確に動いてくれるんだからな。その上で言わせてもらう。『期待に応える』のと、『希望を届ける』のは似てるようで、まったく違う。期待に応えるのは、心がなくてもできる。ただ求められた以上の結果を出せばいいだけだ。でも──」
そこで一拍挟むと、俺は答えの根幹となる一言を口にする。
「
「……っ!」
雫の瞳が、ハッキリと揺れたのが分かった。
「機械に、希望なんてものは分からない。希望ってものを理解して、それを形に出来るのは、人間だけだ。そしてそれを届ける力を、雫は持ってる。今までのお前が、そうしてきただろ」
「でも……!」
「それでも怖いなら、言ってやる」
俺は一息、呼吸をする。ルカは気を利かせたのか、いつの間にかいなくなっていた。それなら、遠慮なんてものはいらないだろう。
雫の目を真っすぐ見据え、その言葉を紡いだ。
「俺はありのままのお前に、希望ってやつを見たんだ」
今まで雫を見てきた。今まで雫を知ってきた。今まで雫を支えてきた。
──その積み重ねはきっと、これを伝えるためだった。
【宮益坂】
それから程なくして。俺たちはセカイから退出し、家に帰ることにした。
俺があの言葉を伝えた後。雫はどういうわけか、泣き出した。子供の頃に戻ったかのようにぽろぽろと涙を流し続ける雫をどうにかこうにか落ち着かせた後、時間も時間ということでいったん解散ということで話がまとまったのだ。
すっかり夜の帳が降り、人もまばらになった宮益坂を、俺たちは並んで歩いていた。雫を注目する人間がほとんどいない時間になっていたのは偶然だとはいえ、今の雫の顔を見せないためにはちょうどよかったかもしれない。今の雫の顔は、泣き腫らしたせいでところどころ赤くなっているのだから。
「夏夜くん」
「……なんだ?」
「ありがとう」
雫の口から出たのは、短い言葉だった。
「礼を言われるようなことは、してないさ」
「ううん。夏夜くんの言葉に、私は希望を貰えたから」
「そうか」
その時俺は、不意に昔の記憶を思い出した。
今から数年前、突然雫から「私、アイドルになるわ」と言われた日のことだ。あの日の衝撃は、今でも思い出せる。本当に唐突に告げられたせいで、持っていたりんごジュースの缶を地面に堕とすほどの驚きが俺を襲ったから。
「……お前がアイドルになるって、初めて俺に言った日のことを覚えてるか?」
「ええ。夏夜くん、すごく驚いてたわよね」
「実を言うとな。雫がアイドルになるって聞いた時──『ぜっっったい無理だ』って思ったんだ」
「えっ」
俺からもたらされた衝撃のカミングアウトに、雫はひょうきんな声をあげた後に硬直した。
知ってるはずもないだろう。この事は雫はもちろん、今まで誰にも喋ったことがない。本来なら墓まで持っていくつもりだったレベルの話だ。
「だってそうだろ? お前の残念美人ぶりを、こっちはいやというほど知ってたからな」
「……そう、だったの」
「そもそも俺だって、雫に大したことを教えたわけじゃない。歌い方の基礎とか、ダンスの基本とかは教えたけど、それくらいだったろ」
「……だいぶ進んだことも教えてもらった気がするのだけれど」
「それは気のせいだ」
だいぶ心ないことを言っている自覚はあるが、仕方ない。もう耳にタコができるほど述べたが、雫は自他ともに認める残念美人だ。そして言わずもがな俺は、その被害者筆頭だ。ああ考えてしまうのも無理はないと思いたい。
それに、俺は雫に大したことは教えていない。確かに「よく通る声を出す方法」や「声だけで雰囲気を表現する方法」は教えたし、そこそこ難易度の高いダンスのステップとかを教え込んだり、チアデ時代の雫のダンスの練習に何度か付き合ったことはあるが、せいぜいそれくらいで大したことはしていない。
ないったら、ない。
「とにかく。俺は基本を教えただけだ。それをものにしたのは、紛れもなく雫の努力だ」
「……うん」
「その姿に、俺は希望を見たんだ。──自分の理想を求めて、泥臭い努力を続ける“ありのままの雫”の姿に、さ」
「夏夜くん……」
そのまま数分も経たないうちに、分かれ道に差し掛かる。日野森家と星乃家はそれぞれ反対の分かれ道の先にあるので、ここで別れることになる。
俺は最後に、伝えたいことをはっきり口にすることにした。
「雫。どんなお前でも、信じてくれるファンが絶対いるってことを忘れるな。俺以外にも、必ずそういう人間はいるはずだ」
「そうね。……ありがとう、夏夜くん。私は、ありのままの私で、皆に希望を届けることを選ぶわ」
「それなら、雫なりの言葉でその答えを見せてくれ。俺に希望を見せてくれた、『アイドル・日野森雫』の答えを」
「ええ。でも、少しだけ時間をちょうだい。私が自分の言葉で伝えることに、意味があると思うから」
「待ってるさ。俺も、モモジャンの仲間だって、きっと待ってる」
そうして俺たちは、別々の道を歩いていく。
もう、雫が迷うことはないだろう。
執筆中に矛盾点が生じているかもしれませんので、気になる場面があった際には遠慮なくご意見を頂ければと思います。
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