2Pスキンのスカウティングの衣装説明から、妄想膨らませて書いてみました。
はい…いつも通り設定捏造のオンパレード…。
オリキャラも居るので苦手な方はブラウザバックでお願いします。
合わせてキャラエミュレート低め。堪忍な!
それではどうぞ。
「ハッハッ、ハッハッ」
肌寒さの残る早朝は、ランニングに丁度いい。
走りながら、時計を確認する。
ちょうどいい時間だ。切り上げよう。
クールダウンのペースに切り替え、残りのコースを走り、大きな学舎が奥に見える門をくぐった。
朝は走る。
今は兵士でないと言うのに、猟兵団にいた頃の
そう思いながら、学校…その敷地内に建てられている学生寮に戻る。
自分の部屋に着く頃には、汗が冷えかけていた。シャワーを浴びたい。
鍵を開け、部屋に入る。
軍の宿舎から移ってからだいぶ経ち、ようやく見慣れてきた部屋だ。
シンプルながら高級品とわかる勉強机、ベッドなどの家具。
…それらが2セット。
自分のベッドは、既にベッドメイクを済ませてある。
もうひとつの方は、未だにこんもりと山ができている。
…起こしてあげるか。
「ルー。おはよう」
「んむぅ」
着替えとタオルを取り出しながらルームメイトに声をかけると、掛布団の山から返事とも言えない声がする。
「起きて。そろそろ起きないと朝食に間に合わない」
そう続ければ、亜麻色の髪に包まれた顔をモゾモゾと布団から出したルームメイトが、挨拶を返してきた。
「…おはよう。タズィ」
「おはよう」
私がこの学校に来た時、最初に知り合った…同年だ。
くぁと欠伸をかきながらベッドから起き上がったのを見て、私はバスルームに入った。
シャワーのノブを捻り、汗を流していく。
するとすぐにカーテンの向こうで、歯を磨く音が聞こえ始めた。
最初の頃は、タズィがシャワーしてる横で歯を磨くなんてできない…破廉恥!と言っていたのに、随分慣れたものだ。
タズィ…ここではそう名乗っている。
ボルゾイはコードネームであり、本名ではない。
そしてここで通している名前も、また本名ではない。
名を捨てたつもりは無いが、コードネームも本名も、何故だか使う気になれなかっただけ。
カーテンの向こうの気配がなくなったのを確認して、バスタブから出て体を拭き、洗面所でドライヤーを使い髪を乾かす。
伸びてきたな…。
鏡に映る自分の淡い空色の髪を見て、そう思った。
少し前に散髪に行こうとしたら、ルーに止められた。
綺麗な髪なんだから、伸ばしてオシャレしようよ!との事だった。
猟兵として戦うことのない今、不都合はない。
なので、今はそのままにしている。
持ち込んだ服に着替えてバスルームを出れば、ルーも着替えて椅子に座り、スマホを弄っていた。
こちらに気付くと立ち上がって、近寄ってくる。
「行こう」
「うん!」
彼女やこの学校からは、硝煙と炎の匂いがしない。
【ふつう】の香りがした。
〜〜〜〜〜〜
学年もクラスも同じ私とルーは、授業を終えて放課後、一緒に寮へと戻ってきた。
部屋に入るなり、ルーは制服から着替えずにベッドへダイブした。
「はぁ〜疲れたぁ〜」
「こら」
はしたないとか、ベッドが乱れるとか、制服がシワになるとか、諸々含めて短く叱る。
まったく、私より長くこの寮に居るはずなのに…。
ルーは特に意に介さず、ベッドの上でゴロゴロと転がり、涅槃になって私のほうを見た。
「今日の体育、りくじょーきょーぎだったじゃん?ヘトヘトだよ〜」
「…そう?」
「タズィのクールな表情が信じられない…。みんなの倍は速くて、倍は長く走ってたのに…。みんなが褒めても、ニコっとだけ…クール過ぎるでしょ!?」
「…」
ルーのテンションがおかしいことはさておき、猟兵団じゃあれくらい普通…と言ってしまいそうになって、止めた。
学友達には、素性を明かしてない。
このガルザで、黒い猟兵団は英雄視と同時に畏怖視されている。
話を聞くに、幾らかのクラスメイトは「悪いことすると猟兵団がくるよ!」と躾られた事があるそうな。
古巣を明かして変に持ち上げられたり、怯えさせるのは面倒だと考えている。
最も、こんな半端者が事実を言っても、信じて貰えるとは思っていないが…。
「…はいはい、着替えますよ〜。あ、お先にシャワー使ってもいい?」
「どうぞ」
少し目を見ながら考え込んでいたからか、ルーは勝手に観念して、バスルームに歩いていった。
ルーの後に、私もシャワーで汗を落とす。
バスルームから出ると、香気がふわりと部屋に広がっていた。
柑橘の様な鋭い感じではなく、果物の甘さもなく…。
「ごめん。香水苦手だった?」
「…匂いが強いのは…」
鼻をスンスンと鳴らしていたら、部屋着のルーが気遣いをかけてくる。
リラックスの為に少し振ったようだ。
優しい香りだ。
「でも、この香りは好きだ」
「よかった!」
私の言葉にパッと明るい表情を見せるルー。
すぐ近くの香水瓶を手に取りながら説明してくれた。
「ママと調香師のところに行って、頼んだのが納品されたみたいで…送ってくれたの!」
「そう」
親…か。
肉親は、私にはもう居ない。死別している。
「そうそう、今度の休みに出かけようって連絡もあって…タズィもどう?」
「…いつも誘ってもらって悪いけど、私は行かない」
「うーん、フられちゃった!…遠慮はさせないって、ママも言ってるのに…」
「…」
「気が変わったら、いつでも言ってよね?」
「…うん」
両親の話をせず、休みに帰省すらしない私の事情を察したのか、ルーはいつも気にかけてくれている。
私には勿体ないルームメイト…いや、家族だ。
…勝手にだが、そう思っている。
〜〜〜〜〜〜
ルーのいない週末は、だからといって、何も変わらない。
朝起きれば、ランニングをして、ご飯を食べて、宿題を終わらせる。
一通りやるべきことを終わらせるたら、ドアがノックされて、寮で暇してる同学年達に遊びへと連れ出される。
…無愛想な私を誘うなんて、どう考えてもルーの差し金にしか思えないけど。
歌って笑って、駆けて笑って。
そうして、みんな遊び疲れて来たら、自然に部屋へ戻る。
木陰で昼寝している子がいれば、置いていかないように背負い部屋まで届ける。
周りはスゴいとか、羨ましいとか、言う。
泥酔したスノーウォルをベッドに叩き込んだのと比べれば、大変なことはない。
…どこが羨ましいんだろう?よく分からない。
部屋に届け終われば、そのままお開きになる。
その後は、シャワーを浴びて、ご飯を食べた。
翌日の準備まで済ませて、自室のベッドに倒れる。
ルーが居らず、静かな室内でぽつりと呟く。
「"ふつう"…」
黒い猟兵団の団員達が、私の未来を願い、"ふつう" の子供として育つように、この学校へ送り出した。
今は、多少は普通に成れただろうか?
それなら、ルーや、クラスメイト達のおかげだと、言い切れる。
編入?転入?…ともかく、みんなと違うタイミングでこの学校に来た私は、カルチャーショックの連続だった。
色々なギャップがあって迷惑もかけたけど、ハブられることもなく、学校生活を謳歌できているのだから。
「はふ…」
静かに考え事をしていたら、眠くなってきた。
昼寝には遅いし、就寝には早いけど、寝よう。
明日は、学校だ。
この夜。ルーは帰ってこなかった。
〜〜〜〜〜〜
「ルーさんは、しばらくお休みされるみたいです。」
朝のホームルームで担任の先生がそう言った。
命に関わらない程度の感染性の病気に罹り、隔離治療中だそうだ。
「大丈夫かな…」
クラスメイトの1人がそう呟く。
お見舞いも連絡もできない場所と説明がされ、クラスメイト達はとても心配そうにしている。
先生は暗い話題を塗り替えるように笑顔を浮かべて、授業を始めた。
私は、違和感を感じていた。
ルーは、両親と出かけている間、逐一写真付きで連絡をくれた。
昨日までは、確かに元気だった。
他、登校前、寮母さんに確認していた。
「昨日連絡があって、予定が変わったみたい」
と笑顔を浮かべて、そう答えてくれた。
答えてくれたが…その時は酷く緊張していたようにも感じられた。
予定が変わった事を、ルーが何故連絡しなかったのか。
その時から不穏なものを感じたが、追求せずに登校すれば、先生は"病欠"と言った。
元気だった。予定が変わった。連絡がなかった。病気だった。
筋が通っていない。
「…タズィちゃん。何か知らない?」
隣の席から小さく声をかけられた。
ルーと同室だから、聞かれるのは当然か。
「…昨日から咳が酷いって」
嘘をついた。
知らないとも言わず、先生の説明に合わせる。この違和感を伝えても、みんな何もできない。
イタズラに心配…混乱させるだけだ。
「みんなを心配させたくなくて、グループチャットで言わなかったらしい」
「そっか。ルーちゃんらしいね」
その子は私の嘘で、ルーが誰にも連絡していないことに納得したようだ。
「…早く良くなるといいね」
「…うん」
そう答えた後は、静かに授業を受けた。
チリつく焦りを、抑えたまま。
私は今、猟兵ではない。
──何かをするべきでは…ない。
~~~~~~
そのまま放課後になり、通いのクラスメイト達は学外に下校する。
クラスはちょっと浮ついていた。
迎えが来る。という連絡が大半だったからだ。
そんな中一人だけ、親の連絡を見ていないか、家がなまじ近いために、徒歩で帰ろうとしている子がいた。
その子の家は、最寄り駅への直通送迎バスを使うには不便で、車を出す程ではない距離だったと思う。
「…ついて行っていい?」
「どーしてー?」
思わず、声をかけた。
ちょっとのんびりしたクラスメイトだ。
「ルーがいないし…ちょっと下校気分を味わいたくて…」
「ふぅーん?」
少し苦しい言い訳だったか…?
「そっかーさみしーのかー」
「いや…暇なだけ」
寮には他の友達も…いる。
「ほーん?…いーよ。いっしょにかえろ」
「ああ、頼む」
「ふふ。たのむって、なんかへんなのー」
「…」
そう笑うと自由に進み出した。
続いて教室を出る前、担任の先生をちらと見れば、複雑な表情の中に安堵が見て取れた。
先生は、私の素性を知っている。
〜〜〜〜〜〜
クラスメイトを送る途中、何も起こらなかった。
その子の家には、車の鍵を持ち、少し焦った様子の母親がいた。
前触れなく現れた娘に驚きつつも家に入れた。
送り届けた私にも驚いた様だった。
子供二人だけで帰ってくるとは、思わなかかったのだろう。
それも、先生から頼まれたと伝えれば、少し納得してお礼を言ってくれた。
おやつを食べていくか。と聞かれたが、今はそんな気分じゃない。断った。
家まで送るとも言われたが、心配は無用だ。断った。
子供らしくない謙虚さに、また驚いていた。
そして、なにかお礼をしなければ気が済まないようで、冷えたジュースを強引に押し付けてきた。
これは流石に断らず、受け取る。
安心したように笑顔を浮かべ、「気をつけて帰ってね」と見送られた。
その後、まっすぐ寮には戻らなかった。ジュース片手にふらふらと歩き回った。
そうしていると駅の近く…繁華街まで歩いていた。
何も、ルーを探そうとしている訳では無い。
手がかりがない状態で探ったとして、何かの拍子に騒ぎになれば警察組織を混乱させるだけ。
同じ国家を守る者として、手を煩わせるつもりはない。
歩いている理由なんて、気持ちが落ち着かなかったから、でしかない。
…ルーのいない部屋に戻るのが、ただ嫌なだけなのかもしれない。
宛もない行き先へ、人とすれ違いながら歩いている時、不意に匂った。
これは…ルーの香水だ。
思わず、振り返りそうになるのを堪えた。
すれ違った人達は、いずれも男性。
調香師に頼んだという香水が香ったことに、違和感を覚えたからだ。
すぐに近くのショーケースに近づき、眺める振りをしながら周囲を探る。
すれ違った男の1人が、私を見ていた。
歩き出してみれば…男は付けてきた。偵察役で間違いないだろう。
付けながら、どこかに連絡を取っているようだ。
星導使にとって、1度相手を注目してしまえば、背後を視野にするなど簡単だ。
人気の無い方に進めば、距離を詰めてくる。
すぐに、バン車両が姿を見せた。
手に持った空のボトルを少し振り、ゴミ箱を探す。
足を止める。という、フリだ。
自販機の光が前方に見える。
私はゆっくりと歩きながら近付き、備え付けのゴミ箱に捨てたところで──バンに押し込まれた。
星導使としての力は抜いたまま、それなりに暴れていると、男は慣れた手つきでテープ、結束バンドで目と口、手を塞いできた。
車内は、香水の匂いが強くした。
どうやら、ルーは嫌がらせとばかりに香水をぶちまけたらしい。
この車を使う以上、着替えてもこの匂いが偵察役に付いてしまった様だ。
首にはヒヤリとした金属の感触。怯えるフリをすれば、男はケラケラと笑っている。
しかし、少し前…ルーに反撃を貰っているせいかナイフを下げる素振りを見せない。
まぁ、そんな粗末なナイフと力では、私を傷付けられやしない。どうでもいいので演技を続けてやる。
この程度の状況、別にどうってことない。
結束バンド程度、無傷でちぎれる。
視界を塞がれても、星導使なら車内の様子はわかる。
バンの中には、ナイフ男と運転手の2名だけ。
いつだって、制圧できる。
バンはこの間も走り続け、郊外に向かっているようだった。
私は、警察組織の手を煩わせるつもりはない…。
それでも、自分の身に降り掛かった災いを振り払い、身の安全ついでにルーを助けるくらい、大目に見て欲しいものだ。
〜〜〜〜〜〜
数十分後、バンは建物としては大きい廃工場に入り込んだ。
半開きの大きな搬入扉から建屋内部に進み、止まる。
エンジンが切られた。
──今だ。
即座に結束バンドを引きちぎり、ナイフ男の顎を打撃。
脳震盪を起こして崩れ落ちた。
運転手は気づいたようだが、遅い。
座席へ押さえ付けるように、シートベルトを使って絞首する。
レバーを引き、座席を倒して抵抗してきたが、足掻いても無駄。
体重なんかで揺らがない。
静かになってきたが、確実に、気絶するまで、時間をかける。
運転手の気絶を確認して、手早く二人の目口を塞ぎ、動けないように縛り上げた。
武器の類も回収して、星導技能で格納する。
…殺すのは後でもいい。
「はぁ」
口を塞いでいたテープを剥がす。
目元も──
「ちっ」
髪にも巻き付いたテープが取れない。
自前のナイフを召喚した。
…仕方ないか…。
「…ごめん」
伸ばしていた髪ごと、テープを切り取る。
ぽとりとテープと髪の塊が落ちた。
ナイフに続けて、擲弾銃を召喚して、車内から周りを観察する。
降りてこない事を不審に思い、確認に誰か近づいて来てもおかしくはない程には、時間がかかっていたはずだ。
…誰も来ないな…。
お楽しみ中だとでも思われたか?
ゆっくりと、音を立てないように助手席のドアから降りる。
…おかしい…静かだ…。
強姦が目的の変態二人なら、場所を選ぶ必要が無い。
わざわざ廃工場まで運んだ理由が、組織的誘拐だとして、ここに人を集めているからだと考えたが…。
人が多くいるような感じは、しなかった。
ルーとは、関係なかった…?
いや、組織的な犯行の場合、何かに紐づくかもしれない。
手がかりが見つかれば、早く彼女を救いだせるかもしれない。
そう思い、私は廃工場を捜索しようとして──
「大したものだ。」
カツン──とブーツの音が響いた。
声と音のした方向に擲弾銃を向け、ナイフを構える
「幼いながら、大人二人を片付けるとは。」
「…」
声をかけられるまで、気配がしなかった…!
視線の先には、赤い髪を一纏めに、眼帯をつけた女がいた。
今は無手だが、ブーツナイフ、ベルトに手榴弾…。
見てくれから脅威度を測っていると、一歩近付こうとしてきた。
声を張り上げる。
「動くな!手を上げろ!」
「おやおや…」
女は思いのほか聞き分けよく手を上げたが、表情は余裕そうだった。
その目線が、私の銃とナイフに向く。
「その武器…お前、星導使か?」
「…!」
「帝国軍の正式採用だな…それにその構え。黒い猟兵──」
「誰だ!お前は!?ここで何をしている!?」
武器と構えから、所属まで語られ、それを遮るように声を出す。
女は肩を呆れたように竦めた。
「しがない傭兵…。とでも、言っておこうか。まぁ、仕事だ」
「…」
余裕を崩さない女傭兵の筋を外した回答に、イラつきが立つ。
傭兵…この誘拐を多数働いている輩どもが雇った用心棒か…?
そう警戒して、得物を握る手に力が入る。
「それで?学生服を着た猟兵様は、オレをどうする気だ?」
「…お前を拘束する」
「ククッ…!」
そう言った私の何が面白いのか、女は喉奥で笑う。
「貴様にできるか?…
「…その手には乗らない」
随分と古典的なブラフだ。油断なく目を合わせ近づく。
「クハッ!そうか!知ってるか!」
何かが堪えきれなくなったのか肩を震わせ、顔を背けながら、嬉しそうに笑っている。
「なら、──これはどうだ?」
顔がこちらに戻される瞬間、女の上げられていた手が素早く動き、眼帯がめくられた。
女の目が光り──体が硬直する。
「ッ!?」
「そぉら」
女は瞬時に近付き、銃を構え伸びていた私の手を掴み、それを軸に投げ飛ばしてきた。
「くっ!?」
投げられている最中に硬直が解け、何とか受身を取る。
──と、同時にナイフを投げた。
カキンッ
「おっと」
女はいつの間にかブーツナイフを抜いており、投げナイフを弾いた。
「いい対応だ」
侮られている訳ではなさそうだが…女はナイフを回しながら、そう言ってくる。
擲弾銃は投げられた時に、何処かへ行ってしまった。
星導核に格納していたナイフを両手に召喚し、逆手に構える。
「…星導技能も完璧か…ただの少女兵というわけではなさそうだ。」
女も腰を落としナイフを構えると──これまで薄かった星導の気配がはっきりと濃くなった。
さっきの妙な技といい…コイツも星導使か…!
「さぁ──
急接近からの刺突…!
咄嗟に避ければ、追撃で逆手に持ち替え、刺突してくる。
体重の乗ったそれをクロスさせたナイフで受けた。
「ガッアァ!」
身体のバネを使って押し返し、上向いた胴目掛けてナイフを振るう。
初撃は避けられた。──が、双短刀は手数だ。
相手はナイフ1つ。二撃、三撃とナイフを振るう。
「よく動く」
しかし、その全てが弾かれ、避けられ、相手に刃が届かない。
体格の差はあれど、片目に、小ぶりなナイフ1本で凌ぎきるこの女…!
何者なんだ…!?
そのわずかな疑問を頭に浮かべたのが、良くなかった。
「アマい!」
隙となり、ナイフを持つ手が大きく逸らされる
そこから流れるように、ソバットが放たれた。
「ぐ」
体重差のある蹴りが胴に刺さり、大きく後ろにトんだ。
反射的に地面を蹴り、後ろに跳んだことでダメージを減らしていたが、少し遅れた。
「よく反応したな?…獲ったと思ったが、それほど手応えがなかったぞ」
女は足を下ろし、感心を口にしながら、自然体に立っている。
さっきから煽るように評価してくるのはなんなんだ…。
早く、ルーを助けなければならない。
ここで、この妙な女と戦い続ける暇はない…!
「ハッ!」
空いた距離を保つ様に、連続でナイフを投げる。
不意を突くわけでも無しに投げ込んだナイフを、女は弾かずに避け続ける。
「…」
隙ができそうな、必死な様子は、無い。
隙が、無い。─無いなら、作る!
複数のナイフを召喚し、扇状に投げる。
その扇の隙間を埋めるように、少しディレイを挟んでナイフを投げた。
「!」
広がるナイフで避けさせず、直撃コースのナイフを弾かせ、足を止めさせる…!
今だ。
即座に間合いへ入り、ナイフを振るう──狙うのは、女の得物だ!
ナイフを投げたところに必ず、それを防いだ得物がある。
足と手が止まっているなら、狙える!
「ほぉ!」
ガキュン。と、女のナイフが飛んでいく。
感心した女の声を無視して、すかさず、鳩尾めがけてナイフを突き出し──
その刺突は、空を切っていた。
空振りだけでなく、女が瞬時に召喚した大剣の柄とハンドガードの輪の中に腕が入っていた。
「なっ」
「オラァッ!」
驚く間もなく、女は強引に大剣を振るった。
輪が捻られ、絡められた腕が伸び、関節がキマる。
何も抵抗できず、地面に叩きつけられ、頭を打った。
「ぎっ」
視界がキラつく中、大剣の切っ先を突きつけられた。
逃れようとも身体は動かず、視界が暗転して行く。
ごめん…ルー…助けられなくて…。
赤髪の眼帯女は呟いた。
「いいセンスだ。仔犬。…お前は優れた猟犬になれる」
この呟きを聞いて、私は意識を失った。
~~~~~~
強い揺れを感じて、目を覚ました。
「う…」
ここは…車の中…?
私は…生きている?
痛む頭を擦っていると、横から声がかけられた。
「おはようさん」
「…」
眼帯女が運転している。
辺りは、平らな土地を走る田舎道だった。
女へ警戒はするが、即座に噛み付く──なんてことはしない。
誘拐犯の一味だったら、手も視界も塞ぐだろうし、助手席になんて座らせないからだ。
何より、私を生かしている。
何か、目的があって私を車に乗せているのだろう。
黙っていると、女の方から声をかけられた。
「俺はローランド。お前は?」
「タズィ」
女は名前を尋ねてきたので答えてやる。
「猟兵団では?」
黒い猟兵団員に与えられるコードネームまで知っているか…。
「…ボルゾイ」
「よろしく、ボルゾイ」
戦った後の、だいぶ遅い自己紹介になった。
私は何がどうなって、この女…ローランドと車に乗っているのか…。
考えても、何も分からない。
少し黙っていると、向こうが先に口を開いた。
「何から話そうか…ああ、まずは、俺の仕事のことから話そう」
ローランドの口から、傭兵として受けた依頼の内容が語られた。
ガルザ各地で起こっていた誘拐事件…これはニュースで報道されていて、私も知っている。
動きの鈍い警察組織に、痺れを切らした被害者家族から、依頼があったとの事だ。
ローランドはその依頼を受け、傭兵稼業で築いたツテを使い、独自捜査をしている最中で、あの廃工場にたどり着いたのだと言う。
当然、公的機関など通されていない。
自力救済は禁止──
…。
私も大して変わらないことを、実行しようとしていた。
それは、つつかずにおくとしよう。
「…二人はどうしたの?」
「放置して通報。今頃、豚箱だ」
まだ、疑問が残る。
ローランドは廃工場に一人でいた。
私と相対した時点で制圧しており、依頼を達成したのであれば、私も放置しておけば良い。しかし今、私はローランドに連れられている。
つまり、廃工場だけで事件が解決した訳ではないことを表していた。
「俺が廃工場に着いた時点で、既にもぬけの殻だった」
「じゃあ、アイツらは尻尾切り?」
「だろうな。複数人の監禁。あと、世話役指示役が住んでいた痕跡があった」
どうやら、誘拐は組織だって行われていたようだ。
そして、コトが大きくなる予感…ルーの誘拐を起点として、あの廃工場を捨てる選択をしたようだ。
ルー。というか、あの学園の生徒は、殆ど中流家庭より上だ。
素性が知れなくても、それを誘拐したのだから、鈍かった警察の捜査が強まるのが予見できる。
やらかした末端のバカに、今日も行ってこい。と送って切り捨て、指示役達は逃げ果せたワケだ。
「情報は持ってなかった?」
「鼻からそんなものは必要ない」
「…どういう事?」
「言っただろう?ツテを使った。と…まぁ、碌でもないツテだ」
ツテの内容を説明された。
敵の敵は味方。
派手にやってる犯罪組織を、一番煙たく思ってるのは、また、犯罪組織だった。
任侠気質の組織に茶を飲みに行っただけで、ご丁寧に目星をつけてくれたらしい。
規模は思いの外、大きいものだが、場所さえ分かれば、後はシラミ潰し。
そして最初に選んだのが、私とローランドが戦った、あの廃工場だったわけだ。
「それで、なんで私は車に載せられている?誘拐組織に鞍替え?」
「ハッ、猟兵団でジョークも教わったか?」
ローランドは喉奥で笑った後、すましつけた。
「…お前の服と鬼気迫った目…友達か誰か、攫われたのだろう?…お前を載せたのは、自身を餌にしてまで釣ったヤツを
着ている制服の胸元をつまむ。
所属を示す制服は、釣りにも、仲立ちにも有効だったようだ。
でも…
「…気付いていたのなら、味方だと言って欲しかった…」
「あぁ、それはすまん。悪ノリした。」
「…」
「まぁ、そう腐すな。使用試験と考えてくれ。足手まといなら、置いていっただろうよ。」
ローランドの…眼帯と黒づくめの服装に赤髪…悪役然とした風貌に、私は冷静に対応できた、とは言えないが…。
いけずな女傭兵だ。
「…それで結局どうする?付き合うか?」
「無論」
即答した。
ロクな情報を持ち合わせていない私にとって、ローランドが唯一のルーを救い出す手立てだ。
「オーケー、よろしくな。ボルゾイ」
「よろしく」
行き当たりばったり感はあるものの、共同戦線を張ると決めた。
「聞かせて欲しいことがある。…貴女も、元猟兵だったの?」
未だに田舎道を走らせている中、この謎の女と手を組んだ決め手の1つを尋ねた。
それが、黒い猟兵団に何かのルーツがある事。
ローランドも私にそれがあったから、協力を持ちかけたのだと考えていた。
ローランドは、フッと息を抜いて答えた。
「ああ。数年前までいたぞ。だから…懐かしくなってな。つい腕試しがしたくなった。」
「…つい」
「思いの外やるもんだって感心したぞ?ああ、そうだ。俺も聞きたいことがあった」
右眼がちらりと、こちらを見た。
「…スノーウォルの奴は、禁酒できたか?」
「両手で数えられないくらい」
「クハッ!相変わらずか…!」
スノーウォルの禁酒宣言はごく短い時間で成功している…。
つまり、禁酒に失敗し続けていることを知ったローランドは、堪えられないとハンドルを軽く叩いて、ハハハと笑っている。
このリアクションで、彼女は本当に猟兵団に所属していて…私と入れ替わるように退団したのがわかる。
「カタリナとタチアナはどうしてる?お前の技、体捌きを見るに…学んでいただろ?」
「…」
笑いが引くと、別の猟兵団員について聞いてきた。
これは、正直、答えにくい人物についてだった。
「どうした?」
「…もう猟兵団じゃない」
「ほう?」
ローランドは興味深そうに目を細めていた。
「アイツらは…、ガルザにすら居ない。」
「私を…裏切ったんだ」
答えにくいはずなのに…人物を知ってるからか、現在の猟兵団と関わりない相手だからか、次から次へと口からしまい込んでいた言葉が出ていく。
「…私を学校に入れた直後に猟兵を辞めて、BABELに移った。らしい」
「アイツ…カタリナは、私が猟兵団に…戦場に居ることを否定した」
「最初は、学校に通う気なんてなかった。」
「だけど、団員達の、自分の子供の頃と同じように学校へ通って欲しい。その思いは分かった。」
「…いつでも戻って来いって、送り出してくれたから…だから、通った。」
「…でも、アイツだけは、そうじゃなかった」
「本当の思惑は、黒い猟兵団から私を遠避けることだったんだ。…拾い上げて、育てて、戦う術を教えたくせに…」
カタリナが最初に猟兵団の技能を教えてくれたのは、出来心だったんだろう。
遊びや、体力作りの代わりとして。
…それが基礎以下の軽いものでも、私は星導使としての才能を開花させた。
驚いた様子だったけど、褒めてくれたし、それからも惜しげなく技能を伝授してくれた。
カタリナの様子が変わったのは、私が天使級の戦争機械を、辛くも倒した後だった。
安全な任務中の不意の遭遇での戦闘だった。
元々の危険度から、周りの団員にはスノーウォル以上の星導使がいなかった。
だから、最も
ボロボロになりながらも、家族を護りきった。
見舞いに来てくれたみんなは、泣いていても、褒め称えてくれた。
嬉しかった。
けれど、カタリナだけが叱りつけてきた。
困惑した。
家族を護る為に、最善を尽くした事を咎められた。
子供が、子供が、子供が──
子供、という言葉をつけて、私の行動を…酷く否定した。
団員は軍属なのだから、何処かで命を落とすのは覚悟している。私だってそうだ。
しかし、可能な限り全員を生かす。それが絶対のはずだ。
それでも、救えるのに見捨てて生き残れと言うのは、私にもう一度、理不尽に家族を失え。と言ってるのと同じだった。
その時に覚えた怒りは、怪我で弱っていたこともあって爆発はしなかった。
カタリナも団員達と同じように、泣いていたからかもしれない。
怪我が全部治って、また訓練や任務に励んでいたら、いつの間にか、カタリナ主導で途中入学手続きが進められていた。
最初に、理由は様々と説明を受けた。
その段階では学校へ通うことに、納得はできた。
だけど、カタリナの本音は隠されたままだった。
そんなことを知らず、私は悩んだ。
家族と離れ離れになるからだ。
その悩みを他の団員に相談して、何時でも帰って来い。と背中を押されたことで、通学を決めた。
手続きの為にカタリナと学校へ向かい、手続きを全て終わらせて学生寮に着いたところで、アイツは身勝手な願いをぶつけてきた。
「学校を卒業しても、猟兵団にはもう戻るなと宣った!」
お前は家族ではない。そう言われたのに等しい。
衝撃だった。
団員の中で特に親しく、目を掛けてもらった相手からの言葉を、受け入れられなかった。
唖然としている間に、アイツは去ってしまった。
なぜ、そんな酷いことを言ったか聞けなかった。
落ち着いた頃に黒い猟兵団へ連絡をしたら、カタリナは既に、タチアナと共にBABELの所属となっていた。
理由は、誰も知らないらしい。
プライベートな連絡先にも連絡を試みたが、返事はない。
これで確実なのは、二人は猟兵団と縁を切った。ということだ。
カタリナのことを家族だと思っていたのは、一方的だったことに、虚しさを感じた。
カタリナは、私を…家族を裏切った。裏切り者だ。
「…猟兵の皆が…私の家族なのに…!」
「カタリナが裏切り者…ねぇ?」
ローランドはここまで、黙って聞いてくれていた。
…長々と吐ききってしまった…。
少しして、ローランドが口を開いた。
「…ユナイテッドシティに行った時だったなぁ、アレは」
「…?」
「お前くらいの歳でも、天使相手に突っ込んでくやつはいる。星導使に年は関係ないってところ、カタリナは世間知らずだったわけだ。」
世間知らず…。タチアナがポロッとカタリナのことをお嬢様だとか言っていたっけ?
「ま、自分がいなくなるから、人一倍心配してたのかもしれん。」
「あまり思い込むのは危険だな。」とローランドは区切りをつけた。
「…変わらないな…猟兵団の温かさは…」
「そう思うの…?団を抜けたのに?」
「理由は団に嫌気が刺したから、じゃない。もっと上の方だ。」
そういうと、眼帯を摩った。
「コレは、ガルザの
「…遠慮する。聞いて、家族を失うくらいなら知らない方がいい」
今のローランドの様に、家族と離れるハメになるなら、断固拒否だ。
「軍人らしく、Need to Knowを守るか。…正しく忠犬だ。ボルゾイ」
「皮肉ってる?」
「いや、本心だ。一匹狼の今、それが眩しく思える。」
また、こちらを見たローランドの瞳は、柔らかかった。
「さて、アイスブレイクは済んだな?仕事の話をしよう。」
聞きたいことが聞けたのか、そう言って目元を少しキリとさせた。
「連中、規模が思ったよりでかい。壊滅に1ヶ月…は、かからんだろうが、泊まり掛けになる。」
「構わない。服、装備は星導核にしまってある。それと、ルーを助けた後も手伝う。」
「頼もしいよ…ついでだ。お前には稽古をつけてやろう」
願ってもない申し出だった。
私は、ローランドに負けた。自分より強い相手は貴重だ。
「ありがとう」
「随分素直だな…」
「私は…まだ弱い。強くならないと、家族を守れない。」
「いい気概だ。猟犬。」
本来、
〜〜〜〜〜〜
二人は、誘拐組織の拠点を次々と潰して行った。
逃走者を出さず、規則的にならないよう、襲撃を繰り返した。
各拠点から連絡途絶したことで、防衛体制を固めたものの、天使すら退ける実力者二人に対して、それは焼け石に水。
ローランドが陽動、そのまま正面から打ち破る。
ボルゾイが潜行、虜囚の安全確保をする。
そして、恥ずかしげも無く、落ち延びようとした痴れ者を始末する。
囚われた人々を解放して回る度、組織の版図は急速に縮小。
崩壊は目前となった。
〜〜〜〜〜〜
「クソッ…!」
港湾近くの倉庫が並ぶ埠頭。
本来人気のない時間に、1台の車が岸で止まり、1人の男が悪態をつきながら降りてくる。
聞くに絶えない暴言を吐き続けながら、後部座席のドアを開け、拳銃を中に向けて怒鳴る。
「おいっ!さっさとでろ!」
「…」
強引に腕を引かれ、無言のまま車内から出てきたのは、手枷をつけられた亜麻色の髪の少女。
ルーだ。
男は、そのまま船に向かって進んでいく。
埠頭につけられた簡易桟橋まで来ると、足運びが少し緩んだ。
「そこまでだ」
私は倉庫屋上から降り立ち、声を張り上げた。
「…タズィ!?」
ルーは、私の声に振り向き、驚いた声を上げる。
すぐに、男──誘拐組織の頭目──の手を振り払ってこちらに駆けようとするも、男はルーを掴み直して桟橋に引き戻した。
銃をこちらに向けている。
「て、てめぇが、ウチの組をやったって言うのか!?こんな、ガキが!?」
「その子を離せ」
唾を飛ばして怒鳴っている。
質問には答えず、人質の解放を要求し、一歩近づく。
「クッソがぁ!」
「…いっ」
拳銃に怯まない私、ではなく、ルーに銃を突きつけた。
すぐさま男の喉笛を切り裂きたい衝動に駆られるが、こらえる。
船の中にいた構成員は、騒ぎに気付きこちらへ銃を向けている。
拳銃弾程度、十発食らっても傷付きはしないが…足を止めてやる。
「おい!このガキを──」
足を止めた私を見て、男がルーを移すように構成員へ指示した時。
銃口がルーから離れた。
ピウン。と音を立て私の近くを弾丸が通って行った。
「ヲァ…?」
男の頭に暗い穴が空く。
続けて、構成員の数だけ音が通り過ぎ、船の上で全員が崩れ落ちていく。
「きゃぁ─」
桟橋に駆け上がり、男ごと海に落ちそうになったルーを抱き留めた。
ドボン
海に落ちた頭目の事なんて、もうどうでもいい。
「助けるのが遅くなって…ごめん」
ルーの顔を見つめてそう言った。そのまま、深く抱き込んだ。
呼吸で鼻を通った空気は、いつもより、少しだけ濃い匂いだ。
「タズィ!?な、何を──」
耳の横で上擦ったルーの声が聞こえる。
鼓動が早まってる。きっと、怖かったろうな。
「動かないで」
「─っ」
身動ぎして落ち着かない様子に、耳元で一声かける。
私の言葉に身体を固めてくれる。
ルーの後ろに回した手で、大人しくなった身体を探る。
──少し、体温が上がった?
「ね、ねぇ─」
ブツリ。と音がしてルーの言葉を遮った。
ルーを後ろ手に縛っていたロープを、ナイフで切り取った。
パッと、ルーから身体を離す。
「あっ…」
「これで大丈夫…どうしたの?」
「べ、別に!?」
ルーの顔がなんだか赤い。
「怪我とか病気とか、してない?」
「そ、そうね。ヘンなこともされなかったわ」
「無事でよかった」
自然と微笑むことができたと思う。
そんな私の顔をキョトンと見つめたあと、ルーは抱きついてきた。
「タズィ…なんで
「うん…」
「あ!髪も短くなってる!?」
「それは…」
ルーは、わざと捕まった時、切り取ってしまって短くなった髪に気付いた。
最後に会った時より、寂しくなった頭を撫でられる。
「…ずっと、アタシを助ける為に戦ってくれたんだよね?大変だったよね?」
ぎゅ、と力が込められる。
「最初は本当に怖かった。…けどね?…アイツら、次第に焦りを隠さなくなっていったの!」
ルーは、捕まってからのことを話してくれた。
苦し紛れに香水をぶち撒けてやった事。
廃工場から移動させられて、すぐにまた移送。
その繰り返しだったらしい。
移動が多いとその分、会話が耳に入る。犯罪組織の状況を知れたそうだ。
連絡が途絶えた。
襲撃を受けた。
あの区は全滅だ。
襲撃者は複数だ?単独だ?警察か?軍か?
蜂の巣をつついたような騒ぎなのに、しかし、自分がなんでタライ回しにされているか、分からなかったらしい。
──おそらく、誘拐組織は彼女が誰の娘か、分かったのだろう。
その要人度合いから、交渉の最後の切り札的人質として選ばれてしまっていた──
自分が最後まで囚われていた理由は分からないが、誰かが、捕まった人達の為に戦ってくれているのは、伝わっていた。
それに勇気づけられたし、犯罪組織の焦りようが酷いもので、逆に冷静になれた。
なんの根拠もなくとも、漠然と助けが来る確信があったとのことだ。
「助けに来たのが…まさか、タズィだったなんて!」
「…黙っててごめん…」
黒い猟兵だったこと。出会った時から、既に手は血塗れだったこと…。
隠し事は本当に多い。
「何を謝るの?同い年の友達が星導使だったなんて!素敵じゃない!」
「…」
ルーは、そこのところ気にしないようだ。
「タズィ!本当にありがとう!」
「うん。助けられてよかった…帰ろう。みんなのところに。」
今は、後暗い事は無しにして、再会を喜ぼうと思う。
〜〜〜〜〜〜
再会を喜ぶ小さな二人の姿を、車内から見守る二人がいた。
「微笑ましいわね〜」
「…そうだな」
仕事は終わった。とばかりに、スキットルからアクアビットを呷るのは、先程の連続狙撃を成功させたスノーウォルだ。
ぷは、と口を離し、ちゃぷりと瓶を鳴らし、中身の量を確認した。
「ボルゾイから連絡を貰った時は、何事かと思ったけど…」
「連中、とんでもなく往生際が悪くてなぁ。バックアップが欲しくなったのさ」
「なるほどね。」
貴女も飲む?とローランドへ寄越してくるが、ドライバーだ。とハンドルを叩いた。
そう?と分かりきった答えを聞いて、また一口呷る。
「…ラストは私が貰っちゃって良かったのかしら?ああいうの、自分の手で救い出すのが良いんじゃない?」
「映画の見すぎだ。俺とボルゾイじゃぁ、スプラッタ映画にしかならん。血濡れ姿に惚れるヒロインは、現実いない。適材適所だ。」
「都合よく使ってくれちゃってぇ。私は高いわよ?」
「…現金を渡したっていいが、お前はこっちの方がいいだろ?」
文句の割に楽しそうなスノーウォルの顔は、ローランドが後部座席から取り出したモノで、さらに口角を上げた。
「それは!?幻のガルザンウイスキー!」
「お気に召したようで何より。」
「うふふ。ありがと。いただくわ。…マフィアっていいお酒飲むのねぇ。今度狩ろうかしら…?」
「酒の為に狙われるのは、流石に不憫だな」
我が子のように酒瓶を抱くスノーウォルを横目に、ローランドは二人を迎えようと車を出した。
~~~~~~
私とルーは、学園へと戻ってきた。
その前に、ルーに
再会の情景は、涙溢れるものとなった。
いつも明るいルーも、この時ばかりは、号泣していた。
スノーウォルとローランドは、私とルーを届けた後、早々と去っていった。
私は何日かルーの家で休養し、ついに2人とも病欠空けとして、学業に復帰した。
久々に顔を合わせたクラスメイト達に、もみくちゃにされた。
元気になってよかった。心配してた。渡せなかったお見舞い。回復祝い…とても暖かった。
感極まって泣き出してしまう子もいた…。
嬉し泣きだ。
そんなみんなの…悲しみに暮れた顔を見ることにならなくて…
ルーを助けに行ってよかった。心からそう思えた。
さて、
今日からまた、"ふつう"のタズィを謳歌する。
──そのはずだった。
私とローランドで暴れた一件が、尾を引いた。
誘拐組織の壊滅は、様々な圧力により国営新聞のみ、しばらくしてから小さく報道された。
…にもかかわらず、ある記者がこの件を独自に追っていたようだ。開放された被害者にインタビューを行い、記事を公開した。
被害者に隠し撮られた、私が写る写真と共に。
クラスを初めとした友達は、一時騒然としたものの、実の被害者であるルーの説明もあって、すぐに受け入れてくれた。
問題は、噂を聞いただけの私をよく知らない学園生徒と、その親達が騒ぎ出した事だ。
人殺しと一緒に勉強なんかできない。
大体はこんな内容だ。
この国を守り、繁栄を支えているのは誰なのか、理解しようとしない、偏った主観による主張。
教師陣は反論したと聞いた。
しかし、それでも一部のヒステリックな連中は、収まらなかった。
暇で仕方ないのか、厚顔無恥にも抗議を続けている。
誹謗中傷の抗議程度に耐えられないほど、私は弱くない。
だけど、クラスメイトや友達はそうじゃないはずだ。
常軌を逸っした人間は、何をしてくるか分からない。
抗議が通じないとわかると、手を変えて来るとしか思えなかった。
かけがえのない家族に、何かが起こる。
ならばその前に、原因が去れば良い。
私は、学校を辞めることを決めた。
〜〜〜〜〜〜
「タズィ…」
「…」
最後の日。2人部屋の寮で、ルーが話しかけてきた。
「…ごめん」
「…」
家族との別れは、別に初めてじゃない。
怪我や戦死による別れの方が、取り返しがつかないはずなのに、今が酷く重苦しい。
「別に、君が悪いわけじゃないだろう?」
「でも…!」
悪いのは誘拐犯と、平和ボケしている抗議者だ。
「いいんだ。ここでの生活は…楽しかった、充実していた。…大切にしたい。」
「けれど…、私が今できることを、みんなを護る為に猟兵団へ戻るのも、大切だと思ったんだ。」
「だから、みんなが、ルーが、無事に過ごしてくれるのが、一番嬉しい。」
ルーの手を両手で包み、目を見つめる。
暖かい…。この手が冷たくならないようにするのが、私の務めだ。
「わかった…わ…。」
「また、会おう。」
「…うん。絶対に!」
────黒い猟兵団:拠点
少し懐かしい顔触れが並んでいる。
黒い軍服を着た家族が、若い自分に敬礼で迎えてくれた。
私は答礼を返す。
「ただいま、みんな。」
はい、お読み下さりありがとうございます。
原作の時系列が不明ですので、当作品においての状況を説明します。
ローランド退団→ボルゾイ入団→カタリナ・タチアナ退団:ボルゾイ入学→ボルゾイ再入団→シグナス入団
上記の時系列としてます。
カタリナさんにヘイト向いてるのは、星導使の会話室ボルゾイ編の反応から。
同じく退団してるローランドと比べて何が違うんだ…。
という部分から、当作品の流れが起こったとしました。
ボルゾイの偽名(?)のタズィはステップ・ハウンドで調べていただけると面白いかも…。
それにしても…なんでボルゾイを題材にするとビターになるんですかね…。
わからん…。
はい。後書きまでお読みくださり、ありがとうございました。
また、なにか書けましたら投稿いたします。
それでは。