一般通過シシ神転生者 作:ヤックルたんペロペロ
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人から人への変化の術を用いた変身は骨が折れたが、どうにかものにできた。
変化の術をうんびゃく年も練度を上げていた甲斐があった。ぽんぽこたちや銭婆には感謝である。応援してくれたコダマたちにも礼を言った。
時代は近代化が進んでいる。仮にもし連綿とした繋がりがあるのなら、このあとは風立ちぬと火垂るの墓が来る。
火垂るの墓は日本人だったら一度は見るべき作品だろう。
対して、風立ちぬは……これは吾輩の個
ラピュタや千と千尋の神隠しのように大人でも童心に帰れる作品とはまた違う。
風立ちぬは紅の豚の部類だ。大人向けで、子どもでは感じることのできない深みがある。
(………ハァ)
吾輩は最後に菜穂子が二郎へ向けた「生きて」がダメだったのだ。その「生きて」に映画のすべてが詰まっているようで、前世の吾輩は思春期の男子高生かってくらいゴミ箱をティッシュの山にした。
(あっ、そういえば二郎の声って……)
連鎖した繋がりが、吾輩のとある記憶を呼び覚ます。
知っているだろうか? 当時もののけ姫の公開から少しして公開された、あの映画を。
「生きろ。」と「だからみんな死んでしまえばいいのに…」のキャッチフレーズが並んだ光景。
生と死でコンビを組んで、まるでシシ神みたいだ。
(うわあああっ!!)
人間の吾輩のトラウマがッ、ピンポイントでえぐりに来ている…。菜穂子の槍で
せめてもの救いは、火垂るの光の後にトトロがあること。
「誰このひと…」みたいな感じで吾輩を見た小トトロがデカトトロの後ろに隠れていたのが記憶に新しい。親戚の子どもに怖がられるおじさんの気分だった。どんぐりで釣ったらすぐ懐いたからチョロかったけど。
……あれ? もしかして吾輩のあのムーブ、完全に子どもをさらう不審者だったんじゃ…。
いやしかし、二郎さんと菜穂子はまだしも、清太と節子は救いようがない。特に死んだ後が。シシ神になった今ならわかる、映画のラストで高層ビルの夜景を眺めていた二人はずっと煉獄の中にいる。自分たちが選んだ『選択』と、それによって招いた死を延々と見続けているのだ。
ああ、救いがねぇ本当に。清太オメェ14歳ならもっとしっかりしろよと責めたくなる気持ちもわからなくはないが、家が
可哀想だと思うが、吾輩には彼らの命をどうこうする気は……いや、待て?
(節子を助けてやることはできぬが、別に
例えばそう。煉獄の中で過去の自分たちを見続けている兄妹のもとに、一般通過のシシ神が現れるとか。
高層ビルを見下ろして~Fin.~するところまでは地獄を見てもらうとして(ここまでは映画でも定められている彼らの自
神が気まぐれな行動を取るのは割とある。コハクンチョスが千尋を助けたように。
ならば吾輩も気まぐれに煉獄でヒーハーしている兄妹を攫っても構わんだろう。
もし問題があったら、
(そうと決まれば、行動あるのみ)
まぁその前に、二郎の夢に忍びこんで菜穂子の「生きて」を聞きにいくぞい!
◇
────Le vent se lève! . . . Il faut tenter de vivre!
(────風が立つ! ・・・生きることを試みなければならない!)
【ポール・ヴァレリー Le Cimetière marin より】
草原の丘に穏やかな風が吹く。
その上でカンバスに筆を走らせる女性の元に、杖をつく老人が近づいた。
「これはまた、不思議な生き物だ」
「たまに遊びに来るんです」
「へぇ…」
カンバスの中の奇妙な生き物は、草を食べていた。
男は女性の隣に立つ。その姿は老人から青年の姿に変わっていた。
「随分と…待たせてしまったね、菜穂子」
「ふふ…そうですね。二郎さん」
待たされていた割には、菜穂子は嬉しそうに笑った。
二人は丘の上で穏やかな時間を過ごした。
それこそ何十年もの時を埋めるように。
それから二郎は設計図を作り、飛行機を作り始めた。二人が空へ飛んでいくためのものだ。
設計図はともかく、実際に飛行機を作るとなると苦戦した。時には真っ黒になってゲホッと煤の息を吐く二郎に、菜穂子はクスクスと笑う。
彼女はその間、二郎の姿をカンバスに描いた。
時折やってくる鹿のようなものには草をあげる。はじめてこの鹿もどきを見た時の二郎は、顎に手を当ててじっくりと観察していた。
「複数の生き物の要素が混ざっている……。この脚なんかは鳥類のつくりだ」
興味津々で触れようとする二郎に、鹿のようなものは後ろに下がって菜穂子の後ろに隠れた。
それにまた菜穂子は笑い、「怖がられてしまったみたいですね」と話す。二郎は気落ちした様子だった。
飛行機の完成までには、なかなか時間がかかった。テスト飛行も行い、問題なく飛べることを確認する。
そうして菜穂子ははじめて二郎が作った飛行機に乗ることになった。運転する二郎の横で、菜穂子は全身いっぱいに空の空気を浴びる。
高原にある、サナトリウムとはまったく違う。
まるで空気の一粒一粒が、彼女に『生』を教えてくれているようだった。
思わず涙が出る。その涙は落ちた瞬間から途切れ、雲の中に消えていった。
ともに高く高く飛び立とう。
菜穂子は二郎の手を握る。二郎もまた、菜穂子の手を握り返した。
「あれ?」
そうして空を飛んでいる時だった。二郎が眼下にある丘の上で一人の少年を発見した。
少年はあたりを見渡し、誰かを探しているようだった。
「あの子、どうしたんでしょう…」
「少し降りてみようか」
二人は丘の上に降りた後、少年のもとへ向かった。叫んでいる彼は顔じゅうを涙で濡らしている。菜穂子は不憫に思い、ポケットから取り出したハンカチを差し出した。受け取った少年は礼を言い、それで涙を拭った後、いくばくか落ち着いたようだった。
「よければ僕らに事情を教えてくれないかな?」
「せ、節……い、妹が、気づいたらおらんくなってて…」
「そうだったの…」
この少年の名は清太と言うらしい。妹の方は節子。
二郎と菜穂子も自分たちの名前を教え、妹探しを手伝うことにした。空からならば見つかる可能性も上がると、一旦菜穂子を丘の上に残して、その代わりに清太が飛行機に乗ることになった。
シートに座る清太の体はこわばっている。しかし同時に、興奮からか顔がわずかに紅潮していた。
「二郎さんは、飛行機の操縦士をしてはったんですか?」
「いや、僕は設計技師だった」
「……えっ!? ひ、飛行機の!!?」
「節子さんは見つかりそうかな?」
「はっ、あ……探します!」
捜索の合間で清太は自分の父親が海軍の人間だったことを話し、互いについて理解を深めていった。
一方で飛行機が遠くへ飛び立った後、菜穂子はカンバスに絵を描こうと画架を立てかけた。
その時、後ろからガサッと音がした。
「あら、鹿さん……と?」
鹿もどきの背の上に、子供が乗っている。頭巾をかぶった4、5歳ほどの少女は、菜穂子の方を目をパチクリとさせて見つめていた。
「おねえさん、だれ?」
「私は菜穂子って言うの。あなたはもしかして節子ちゃん?」
「うん! うちなぁ、節子っちゅーねん」
「節子ちゃんのお兄さんが、あなたのことを探していたわ」
節子はどうやら、茂みから顔をのっそりと出したこの鹿を追っていたらしい。最初は驚いて声も出せなかったが、鹿の口にサクマドロップスの缶があり、それに釣られてホイホイと付いていってしまったようだ。
菜穂子は鹿もどきと節子を叱った。
「ダメですよ、鹿さん。そのおかげで節子ちゃんがいなくなって、清太くんが困ってしまったんですから」
鹿もどきは頭を項垂れさせる。
「節子ちゃんも、見ず知らずの鹿さんについて行ったらダメよ?」
「……ごめんなさい」
節子の手の中で、サクマドロップスの缶がカランと音を立てた。
菜穂子と節子は二郎と清太が戻ってくるまで、丘のベンチに座って待つことにした。鹿もどきの方はススッと茂みの中に入り、顔だけ出している。
「うちおなかがいっぱいすいてなぁ、死んでしもたん。にいちゃんも」
「……そう。私はね、肺のお病気で亡くなったの」
「はいのおびょーき? お母ちゃんもな、しんぞうわるかったん」
「……そう、なのね」
菜穂子は節子の手を握り、頭を撫でてやった。
節子もまた飴を食べながら、菜穂子の手をギュッと握る。
「……ん」
「…えっ?」
「ん!」
「飴…くれるの?」
節子は缶を振って、菜穂子の手に飴を出した。菜穂子は「ありがとう」と言ってから飴をひと口食べる。
「あめがなくなったあとに水をいれたら、いろんなあじがしておいしいねん」
「まだ中身はたくさんあるわね」
「…うん!」
節子は目を細めて、嬉しそうに笑った。
飛行機雲ができあがる。
その下ではほたるが光り、高層ビルが建ち並ぶ街を照らしていた。