一般通過シシ神転生者   作:ヤックルたんペロペロ

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10話 生命バブル

 吾輩は一般通過系シシ神テンセイシャである。

 

 吾輩は最近、菜穂子殿のもとへお邪魔することが増えていた。いや別に人妻に手を出そうとかそういうんじゃないから。吾輩の最推しは今でもヤックルたんだから。そこんとこ勘違いしないでよねっ!

 

 

 お目汚しすまない。

 

 お邪魔していると言っても、すでに彼女は亡くなっている。菜穂子殿は二郎が天寿をまっとうするまで気長…いや、首長に待つそうだ。(首長と言えば、トウキョウリベンヂャアなる作品のキャラも首が長かったな……)

 

「鹿さんは食欲旺盛ね」

 

 菜穂子殿がまた何か描いているようなので見に行くと、吾輩を描いていた。

 

 ……ちょっと、ここのお腹のところの肉が多すぎない? 吾輩はもうちょっとスレンダーだよ?

 

「食べるのはいいけど、ここら一帯の草を食べ尽くさないでね?」

 

 菜穂子殿!! 絵の吾輩にどんどん肉をつけ足さないでくれ!!

 

 

 

 そうして交流しているうちに吾輩は絵を描くのに興味が湧き出し、筆を咥えて落書きするようになった。

 

 見栄えは象が描いたような画伯具合だ。「力強い絵ね」と菜穂子殿に言われる。

 

 人間の手足ならもう少し上手い絵が描けるだろうか?

 いかんせん、四足歩行をうん千…あるいはうん万年続けているせいで、手を使う作業が苦手になってしまった。

 

 ここら辺は人間として活動している時に慣らしていくしかない。

 

 今日のところは帰るとして、吾輩は頭を下げて「ヒュン! ヒョイ!」をした。

 

 

 

 

 

 …………。

 

 火垂るの光が灯ってしまった…。

 

 

 

 戦時はそこかしこで人が死ぬため、吾輩はぶくぶくと肥えていた。

 

 吸い取った分を発散させるのがむつかしく、現状は溜まる一方。少し前だったら、人目も気にせずデイダラボッチの姿で花咲か爺さんになれたのだが…。

 

(何か上手い方法はないものか…)

 

 悩んだ吾輩は、一つの方法を思いついた。

 

 

 人目につかず、命を分け与える方法。

 

(人の夢の中に入り込んで、生命の譲渡を行えばよいではないか…!!)

 

 本来なら誰にでも生命を与えるわけではないが、今回は例外とする。

 

 もののけ姫のラストで、シシ神様が行っていた無差別の回復と同じだと思ってもらえればいい。

 

 マジで電車に乗っている時の限界な腹痛レベルで命が飽和してきている。このままだと爆発落ちになって吾輩は終わり(死に)、漫画の最終回にありがちな「☆ヤックルたんペロペロ先生の次回作にご期待ください────!!」となるだろう。

 

 

 無論、特異な力も目立たないように使う必要がある。『不思議』な力が珍しくも当たり前だったのは、今は昔の時代だ。

 

 傷や病気を一気に治す“治癒”は不可。

 

 ならば自然治癒能力が高まるように生命力を吹き込んでしまえばいい。吾輩が治すのではなく、強化された自らの治癒力で治ってもらう。

 

 試しに「オラ! 吾輩のキッスを食らうんだよ!」を実施した。

 

 

 その結果は上々である。順序としては「ヒュン! ヒョイ!(夢の中に侵入)」→キッス→お前のような勘のいいガキは嫌いだよ…(記憶消去)→別の夢に移動し、これを繰り返す。

 

 時折吾輩の記憶を消し忘れたままヒュン! ヒョイをしてしまうが………まぁ、大丈夫だろう。多分。神だって人間が会話中に()()()しまうことがあるように、うっかり神まみ(ドジっ)ちゃうことはある。

 

 

 しばらくは通り魔キッスを続けた。

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 時は平成の時代。

 

 社会における環境破壊や経済格差、さまざまな問題が挙げられる中で、人口減少も昨今の問題となっている。

 

 某テレビ局の昼のワイドショーでも、この人口減少の問題が取り上げられていた。

 女性キャスターが「お次の問題は…」と述べた後で、VTRが流れる。

 

 それを見たコメンテーターたちの反応はさまざまだ。

 

「政府も少子化対策として経済的支援の拡大や子育て支援の充実、それに働き改革を銘打っちゃあおりますが──」

 

「待機児童を減らすために保育園を増やすのもいいけど、保育園の無償化も進めて欲しいわよねぇ」

 

「そう言えば、最近は『イクメン』という言葉も流行っていましたね。育児に積極的に参加する男性のことだとか」

 

「俺『イクメン』って、最初の頃は「イケメンな父親が子育てをする」のことかと思うてたんですわ。そないしたら、俺がパパになったら『()()メン』なんか!? ──って」

 

 ワハハ、と客席から笑い声が上がる。

 

 ただイクメンを嫌うコメンテーターもおり、「私その言葉嫌いなんですよ」と発言したことで議論は白熱していった。

 

 そこから一旦コマーシャルに入る。

 

 

 

 画面が八の字型に並べられたテーブルの間にアップになった。

 

 中央には女性キャスターがおり、ボードのグラフを指差す。

 

「最初のVTRでもありました通り、人口減少をたどっている日本の現状。ここでご覧いただきたいのはこちらのグラフです」

 

 グラフは人口ピラミッドの図で、年代別の人口の推移が描かれている。

 

 女性キャスターが強調したのは上の部分。戦後間もない年代だ。

 

「現在だと第一次ベビーブーム、すなわち団塊世代と呼ばれるこの年代です」

 

 団塊世代の部分はそこだけ数値が跳ね上がっていた。

 

「出生数が多い理由は徴兵されていた兵士の帰還や戦後の平和、そして中絶に関する法整備が整う前だったこともありますが……」

 

 コメンテーターたちが真摯に話を聞く中、女性キャスターが次のテロップをめくる。

 

「この団塊世代の人口増加について、××大学の澤村教授にお伺いしたところ、このような意見をいただきました」

 

 めくられたテロップの内容は要約されて書かれており、重要な部分は赤い文字になっていた。そこだけ読むと以下のとおりになる。

 

 

『統計学的にはあり得ない数値』

 

『多胎率の増加や不妊の解消』

 

『男性の精力も異常』

 

 

 女性キャスターは続ける。

 

「専門家の間では、団塊世代の出生数が増加した裏には人間の生命力が働いた結果ではないかと指摘する声もあります」

 

 実際、当時の医療記録では戦後にかけて結核から快癒する者が増加するなど、「奇跡」とまで呼ばれる治療記録が医療現場の多方面で散見された。

 

 この治癒力に目を付けたアメリカが、日本人には何か特別な身体的、または内面的特徴があるのではないかと調べた経緯もある。

 

 この生命力が覚醒したファクターは何だったのか、今でも詳しくは明らかになっていない。

 

 

 ただし、裏ではこの要因ではないかと考えられる、とある都市伝説が存在する。

 

 

 

 曰くそれは、異形であったと。

 

 曰くそれは、鹿の如き体にサルのような赤い(ツラ)であったと。

 

 異形の者は人の夢に現れ、口づけをなす。

 

 曰く彼の存在は、『沈みゆく日』を憂いた神が遣わした天使────あるいは、神そのものであったと。

 

 

 一部で崇められたこの異形は、「神鹿(しんろく)」や「夢見鹿(ゆめみじか)」と呼ばれた。

 

 

 

 

 

 いやあしかし、と芸人のコメンテーターは笑う。ちょっと()()()が元気すぎますよねぇと、下ネタのボーダーラインを攻め続ける彼は、日本が体験した別のバブルになぞらえて団塊世代をこう評した。

 

 

「まさに『生命のバブル』世代ですわ」

 

 




鹿さん「アレ?俺なんかやっちゃいました?」
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