一般通過シシ神転生者 作:ヤックルたんペロペロ
吾輩は一般通過系シシ神テンセイシャである。
ある時吾輩は思った。具体的に言うと、ぽんぽこたちと遭遇した後に思った。
この世界って、もしかしたらハウルの城やラピュタがあるんじゃね? ──と。
もののけ姫単一の世界かと思ったが、この世は平成狸合戦ぽんぽこにも通じていた。ということはつまり、他のジブリ作品とも世界が重なっているかもしれない。
ただ現実的な問題で、この世の世界観と合わないものは
例えば将来この世界が『第二次世界大戦を体験する世界』だと仮定する。そうすると、『第二次世界大戦を経験しなかった世界』である魔女の宅急便はこの世の世界観とそぐわなくなる。
(湯屋は絶対にあれよ……)
同じ『神』繋がりだろう? 吾輩はいつか湯屋に行って、絶対にリンちゃんに体を流してもらうんだ……!
もちろんやましい心などない。そもそも湯女とは、元々銭湯で垢すりや髪すきのサーヴィスを提供していた。しかしそこから性的な方面に転がったことで、一般的には禁止になったのだ。
吾輩はこの、「元々の」サーヴィスを受けるぞ! という気持ちで鼻息を荒くしているだけだ。決してリンちゃんに「きったねぇなぁ!」とか言われながらモップで乱雑にゴシゴシされる展開を期待しているわけじゃない。本当だよ?
話を戻し、この世にラピュタやハウルの城がもしかしたらあるかもしれないと考えた吾輩は、早速行動に移した。
ちなみに、この時の吾輩は「バルス!!」に目がくらんで二者の時代背景などすっかり忘れてしまっていた。どちらも近代の話である。
(ラピュタはどこかにあるのだ!!)
まずは形から入ろうということで、吾輩はコダマ
そいつを加工して、雫型にしたらそれっぽい模様を描く。あとは紐を通して角にかければ完成だ。
石から青い光は当然出るわけがないので、デイダラボッチの青白い光で無理やりそれっぽいことをした。コダマたちが終始「何やってんだこいつ?」みたいな雰囲気だった。
それから自分で発光→歩く、を繰り返すことしばし。吾輩は海に出た。
潮風のにおいが肺胞の奥まで行き渡る。
そういや、と思った。
(海……なんて、久しぶりだ)
シシ神として転生して、それ以来ずっと森で暮らしていた。
それから蘇って第二のシシ神生をはじめてからも海には来ていなかった。
ということは……本当にいったいいつぶりだ?
地平線からは朝日が覗いていた。その光が
地平線まで続く海も光を反射させ絶え間なく煌めいていて、ついと蹄を水の中に入れた。
砂浜は脚が沈むため歩きにくい。チャプチャプ、その感覚を味わうように歩いた。
自然とはすごいもので、シシ神の森のような一度見れば圧巻する景色を見慣れてしまっても、ふとこの吾輩でさえ目が離せなくなる時がある。
この煌めきは自分からはひどく遠くに感じるのだ。脚を伸ばしてみれども、触れてみるとそれは宝石などではなくただの石で、じゃあ吾輩がついさっきまで感じていたあの煌めきに抱いた想いだとか、そういったものはどこに行ってしまったんだろうかと不思議になる。
多分、吾輩がテンセイシャの記憶もないただのシシ神様だったら、この煌めきに何の感情も抱くこともないのだろう。
『生と死』を司るからこそ、その権能を持つ存在は何者にも左右されるべきではなく、ゆえにロボットのようにただ
まあ、吾輩は無機質な
◇
(誰か助けてええええ!!!)
現在、だだっ広い海の中で一匹の鹿もどきが溺れていた。
幼稚園児さながらの真似事でラピュタに向かい始めたシシ神は、海の上を歩いていた途中で疲れ、その結果溺れていた。
そもそもが特殊な体の作りである。泳ぐのに適した体ではない。
そんな状態でも一生懸命に四肢をバタつかせ、前へ前へと泳いでいた。
(せやかて、もう無理やで工藤…)
とうとうシシ神の体は沈み出す。本
(こうなったら、デイダラボッチになるのを待つか…)
諦めたシシ神は抵抗をやめ、海の底へと沈んでいく。
どんどん太陽の光が届かなくなり、あたりは暗闇に包まれていった。海の中は静かで、時折魚がシシ神の横を通り過ぎていく。
やがてシシ神の脚は海の底に着いた。
完全な暗闇の世界は、思ったよりも心地がいい。
シシ神は四肢を投げ出し、夜が訪れるまで待つことにした。
それからはたして何時間経ったのか。
彼は唐突にまぶたの裏を貫くほどの光を感じ、目を開いた。
遠くから、さながらトンネルから出てくる列車のように光を放つ物体がやってくる。
米粒ほどだったその光はどんどん大きくなっていく。
(………何だぁ?)
慣れてきた暗闇にその眩しさは目の毒で、シシ神は堪らず瞳を閉じた。
静寂だった世界に大きな水の動きが生じる。
その巨大な光はやがて、彼の頭上で止まった。
『こんなところでどうなさったの?』
艶めかしさのある女性の声が上から降ってきた。
シシ神は目を閉じたまま溺れてしまったことを告げる。
『溺れてしまった? 先ほどは海の上を歩いていたのに?』
“疲れてしまったのだ”
シシ神が正直にそう言うと、相手はツボに入ったのか、ふふふと笑った。通りすがりのカニが寝転んでいるシシ神の上を通り過ぎていく。
『海は命のスープでもあるの。あまりあなたに浸かられていると、困ってしまうわ』
“海の生態系が壊れてしまうというわけか…”
『ええ。まあ、少しくらいなら問題はないでしょう』
シシ神とこの者が指すその「少し」とは、きっと人間単位で考えればひとの寿命が生まれて終わってしまうほどの長さに違いない。
眩しさに慣れてきたシシ神は、そこでようやく瞳を開ける。頭上には光だけがある。光はゆらゆらと蠢いている。
『いったいどんな姿にしようかしら』
光はシシ神を前にして、どう変わるか考えあぐねている様子だった。
候補としては、人間か鹿である。
光は結局、ひとの姿に変わった。人と言っても巨大な────女性の姿である。
シシ神の瞳がわずかに大きく開く。その姿を、彼は見たことがあった。
(グラン、マンマーレ……!!?)
海の女神たる存在が、シシ神の目の前にいた。