一般通過シシ神転生者 作:ヤックルたんペロペロ
冬といえばクリスマス。
クリスマスといえばサンタ。
サンタといえばトナカイ。
トナカイといえば────そう、
厳密にいえばトナカイと鹿は違いがあるのだが、どちらも同じ『シカ科』に分類される。
よって、「冬」から始まった連想ゲームで吾輩にたどり着くのは何ら不思議なことではない。
だから吾輩が赤い帽子をかぶり、でっぷりと白いひげを蓄えたおじいさんが乗るソリを引いていても、何らおかしなことではないのである。
遡ること少し前、吾輩は秋の実りを頬張っていた。四季の中でも秋は特にグルメの季節だ。吾輩のお腹まわりもこの頃になると随分とわがままボディになってしまう。
美味しい味覚が『ある』のがいけない…!! 『ある』のがいけない…!!!
そうして食べるのに夢中になっていたところで、吾輩はサンタのおじいさんと遭遇した。初っ端は赤い帽子をかぶっていなかったので、ただの不審者かと思った。
どうもこの世界は
あと吾輩と意思疎通ができるのは、鹿とやり取りできないと仕事に支障を来たすがゆえの特権があるかららしい。
そこもやけに生々しかった。
じゃぱにーずサンタは日本で働く上で、馬力のある鹿を探している最中だった。
ちょうどそこででっぷりと肥えた鹿を発見したと、サンタは語る。周囲を見渡してもこの場にいるのはこのメタボな老人と吾輩だけ。
……ハッ! なるほど。このサンタはすでに耄碌していて、自分をメタボな鹿と信じてやまないサンタということか。
────むにっ。
このサンタじじいッ、吾輩の肉をつまむでない!! これはメタボではない!!! 世間一般では「ぽっちゃり」と言うのだ!!!
そもそも吾輩は筋肉質な体なのだ。多分、おそらくセルジオ・オリバくらいはある。エボシ御前が放った銃弾が首ではなく胴体に当たっていたら、筋肉の防御でガードできていたかもしれない。
………。
ま、まあ、最近つい食べ過ぎてしまったのは事実だ。決して、断じてメタボというわけではないが、吾輩の魅力的な腰のくびれが無くなっている。
食後の運動はね、シシ神の吾輩でも大切だと思うわけですよ。それにサンタがどうしても吾輩に手伝って欲しいと言うものだから、吾輩も仕方なくッ、ひと肌脱ぐ気持ちで
──何? 嫌なら手伝わなくていいって?
べっ、別に嫌とは言ってないし………吾輩はただ食後の運動も兼ねようと思っただけだし…。
サンタの仕事を間近で見れるトナカイの仕事にきょっ、興味があるわけじゃないし……。
だからその、まるで大人がぶつくさと文句を言う幼児に向けるような視線をやめるのだ。もしくはドラえもんがのび太くんに「生温かい目」と称して向ける視線だ。
結果として、吾輩は期間限定で働くことになった。
…え、なぜ普通のトナカイっぽい姿になっているかって?
サンタよ、吾輩は夜の時分に昼の姿ではいられないルールみたいなものがあるのだ。ゆえにわざわざトナカイの姿に化けている。
(あっ、やべっ)
うっかりうっかり。配送中にプレゼントじゃなく、プレゼントを配るひとの方を落としてしまった。
………どうしよう。もしかしてコレ、吾輩が代わりに残業してでも配らないといけない感じ?
サンタ、お前どこに落ちちまったんだ…。
◇
窓からのぞく木々の葉っぱがすっかり落ちてしまい、息を吐くと真っ白な呼気が雲のように浮かび上がる。
少女はまたホォと息を吐いて、白い雲を浮かべた。
「あら、何してはるの?」
ガラリと戸が開いた。部屋の中に入ってきた看護師は、洗面器を片手に小首をかしげる。
少女は「雲を作ってんねん」と答えた。
「……さっ、体を綺麗にしましょ」
「ここにも雲があるで!」
洗面器からもうもうと立ち込める煙を指さして少女が答える。洗面器には半分ほどのお湯が張られていた。看護婦はそれにタオルを浸して、水分を搾りとる。その間に上着を脱いだ少女の背中に押し当てた。ゴシゴシとしっかり垢を落とすようにこする。
少女の肌は白く、雪のようだった。
「あったかいなあ」
「ええ、気持ちいでしょうね」
「ホンマは肩まで湯船に浸かりたいけど」
少女は目を細めながら窓へと視線を戻した。
外はあいにくの曇り空。見ているだけで思わず背筋がブルリと震える色をしている。鳥肌が立ったことに気づかれて、看護婦がくすりと笑う。
「何見てはったの?」
「窓の外にな、見えるやろ? 通天閣の先っちょ。戦後の復興のシンボルやって、みんな熱狂しとる」
「そりゃあそうですよ」
「戦後今年で12年やで? うちとほぼ同い年。お姉さんは30やっけ?」
「……まだ20代ですけど」
「あっ…か、堪忍な。別にそんなオバチャンに見えたわけじゃないで?」
「………ハァ。はい、終わりましたよ」
看護婦はタオルを洗面器に入れ、少女に服を着せた。
背中を手で軽く叩いて終わりの合図を出す。
「…いつもありがとうな、ホンマに」
少女は看護師を見てそう言う。
彼女の鼻からつうと血が流れて、それがシーツの上に垂れた。
寒い冬が去って、春が来て、夏が来る。
夏が来たら秋。秋が来たら冬。
窓の外の世界は眺めているうちに一周してしまった。また吐く息が白い。
ベッドに身を預ける少女は、天井を見つめながら雲を作る遊びをした。
今日もまたあの洗面器を持った看護婦が部屋に入ってくる。少女は目だけそちらへ向けて、ゆるりと笑った。
看護婦はじっと白い雲を見つめると、手でそれをはらいのける。
ポタポタと水滴の落ちる音がした。
看護婦は少女の上体を起こさせ、自分に寄りかかるようにさせながら体を清めていく。
少女の体は力が入っていないようにぐったりしていた。
「看護婦さんは…怖くないん?」
「何がです?」
「ビョーキ……親戚のひとはみんな怖がって、会いに来ぉへんのに」
「うつるから、怖いって? だったらとっくの昔に私にもうつってますよ」
「お姉さんはホンマ、やさしいわあ」
クスクスと吐息をこぼすように少女は笑った。
病に蝕まれた体は骨と皮だけになっている。きっともう、その命がもうすぐ儚くなることは、誰が見ても思うだろう。
看護婦は体を拭き終わったあと、タオルを置いて少女の頭に触れた。
一回、二回、やさしく撫でる。
「…何か、やりたいことはない?」
「やりたいこと?」
「何か、私でも手伝えるようなこと」
「……ないなあ。お姉さんにできそうなことは」
「………そう」
看護婦はそれから笑顔を作って、声をかけてから病室を去った。
少女は窓の外を見つめる。
「うちの、やりたいこと……」
1コだけ、少女はやりたいことがあった。
それはしかし、叶わぬ願いであるとわかっていた。自分の命の残量を、彼女自身が一番理解しているがゆえに。
「……見たかったわあ。一目でもいいから」
東京では、通天閣よりも大きなタワーを作っていて、それがもうすぐ完成する。
ドスンと、まるでゴジラのようにそれは東京の街に佇んでいるのだろうか? どのくらいそれは大きいのだろうか? てっぺんから見たその景色は、きっとものすごいんだろうか?
考えて、その思考の分だけ無駄だった。
そして、クリスマスから数日経ったある晩のこと。
命の灯火が消えかけた少女の病室の窓から、赤い帽子をかぶったそれはやってきた。首輪についた鈴をリンゴンリンゴンとやかましく揺らしながら。
少女は────そして。
眼下には地平線に沿って街の姿がある。太陽の日は少しずつ少しずつその姿を見せ始める。じわじわと、ゆっくりと、薄暗かった街が陽に照らされていく。
彼女の頬にも、その暖かな光が当たった。
「…ありがとう、トナカイさん」
トナカイを今できる、渾身の力で抱きしめた少女はゆっくりと瞼を閉じる。
不思議ともう、苦しみ続けてきた病の痛みはなかった。
・サンタ(日本支部勤め)
サンタっぽいことができる。人なのか否か。シシ神のことは普通の鹿ではないことは分かっているが、化け狸とかそこらと同列の類だろうと思っている。琵琶湖に落ちた。
・シシ神
メタボ。
・少女
白血病患者。
・看護婦
10代の頃に家族をある理由で亡くしている。雲が嫌い。
お久しぶりぶり大根ですわ!(2回目)
純粋にジブリ路線で進めた方が設定もごちゃつかず、綺麗にまとまると考え、改めてジブリ単体ものとして書く方針にしました。
それにつき、クロスオーバー枠は別途で用意しました。いくつかの話を移しております。これ→ https://syosetu.org/novel/396564/
またプロローグもジブリ単体で読めるよう少し削ってあります。(クロスオーバーの伏線として書いていた話も同様にいくつか削りました)
最初この作品を書きはじめる前に「エンデヴァー曇らせが見てぇよぉ……」という不純な動機がありまして、ヒロアカ世界に何かのキャラを絡める路線を考えておりました。
そこに唐突に金ローで見たシシ神様が現れ、エンデヴァーを曇らせるにはあまりにもむつかしい土台ができあがりました。結果として、「エンデヴァー曇らせたい」VS「ジブリ探訪するシシ神おもろいな!」の戦いが(私の中で)生まれました。
要素が多いな…というのは読み手側も薄々と感じられていたと思います。
改めて、ジブリ✖︎ヒロアカ要素を楽しみにしていただいた方々には申し訳ないです。最初の段階でエンデヴァーを曇らせるか、シシ神様をジブリ探訪させるかで選択して書くべきでした。
あくまで個人の趣味で書いているものですが、今度とももし読んでいただける場合はよろしくお願いいたします。
そしてお気に入りや評価、感想等もありがとナス!(感想はいつも舐めるように見てます)