一般通過シシ神転生者   作:ヤックルたんペロペロ

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続きました。進むどころかバックしてます。主人公はやっぱ男の娘にしたい。


1話 再出発

 前回のあらすじ。

 

 アシタカとサンのバルスを食らった吾輩は、「目が! 目がァァ!!」と叫びながら死んでいった。

 

 

 とまぁ冗談はさておき、死んだはずの吾輩は何の因果か、『テンセイシャ』の記憶であった前世の記憶を残したまま再びシシ神として蘇った。

 

 普通にあのまま成仏すると思った吾輩はたいそう驚いた。水面を覗き込むと、シカの体にサルの如き顔をつけたようなぷりてぃな吾輩が見える。

 

 ハァ、と吾輩はため息を吐いた。せっかく蘇るならネットがある現代社会にして欲しかった。すでに草を食む生活にも慣れたが、やはりテンセイシャの記憶のある吾輩は現代社会の利便性を恋しく思っている。

 

 

 それからひとまず、吾輩は現状を確認した。

 

 どうやら吾輩が死んでから数百年は時が経っているらしい。あわよくばアシタカやサン、タタラ場のその後を拝もうと思っていたが、これはできなかった。吾輩はしばらく落ち込み、そのショックで角が取れてしまった。(すぐにまた生えたが)

 

 人間が生活圏を広げているのに対し、森はさらに減っていた。獣たちも小さく、馬鹿になってしまった。乙事主が言っていたように、まさに人間の肉として狩られる存在だった。

 

(………)

 

 これからもさらに森は減り、獣たちは棲家を奪われる。吾輩もまた神であれ、獣だ。森で暮らすにも限界が来る日がそう遠くない未来に訪れるであろう。

 

 改めて生まれ変わった今、吾輩は身の振り方を考えなければならなかった。

 

 しかしシシ神である以上、吾輩は己の役割を果たさなければならぬ。

 

 命を与え、命を奪う。

 

 

 

 

 

 ────カラカラカラカラ。

 

 

 夜を歩けば、久しくコダマたちのヘッドバンギングを見ることになった。ボルテージマックスのコダマたちは相変わらず楽しそうだった。

 

 この夜の姿もこの上なく目立つ。人目につけばおのずとまた吾輩を狙う輩が出てくる。死の恐れはない。ただ、首を奪われた挙句に、暴走した自身の力が数多の命を吸い取ることは避けねばならない。

 

 吾輩の感覚的に、あの無差別殺害(テロ)はこの世の理というものに引っかかるものだった。

 

 理を乱すのはいただけない。「人を呪わば穴二つ」のように因果応報で当事者に死がもたらされるならまだしも、第三者を巻き込むのは基本えぬじーである。

 

 

 それからしばらく、吾輩はなるべく人目を避けて歩いた。コダマ情報を頼りに、山犬の者たちがいるという場所へ向かって。

 あっちあっちと小さな手で指を差す彼らはせっかちだった。吾輩は水の上を歩けれども、山犬のように疾くは走れぬし、猪のように岩を打ち砕く立派な牙もない。

 

 トコトコ、あるいはのっしのっしと闊歩する。

 

 山犬のもとへ向かったのは、もしかしたらモロの息子たちが生きているかもしれないと思ったからだ。実際にモロは約300年、乙事主は約500年生きている。正確な時の流れはわからなくとも、彼の山犬たちが生きている可能性は十分にあった。

 

 彼らであれば、もしかしたらアシタカたちの子孫が生きている場所を知っているかもしれない。仮に生きていてシシ神である吾輩が現れれば、目玉をこぼさんばかりに見開いて驚くだろう。…いや、片方はヤックルたんに「あいつ食べてもいい?」と宣っている。もっと心の臓が止まるような登場の仕方でもいいかもしれない。

 

 ……いや、そもそももっと根本的な問題で、吾輩と奴らって会話が通じないんだった。

 

 モロや乙事主とてあれは実際に話していたのではなく、念話によるものだった。

 

 吾輩もまた念話で話しかけるが、コダマたちには伝わっても獣たちには伝わらない。吾輩と彼らとで格が違うからだろうか? これが逆であれば、彼らの言葉を理解することはできる。

 

 まあ、どのみち会わない選択肢はなかった。

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 その日は空気が違う──と、うろの中で丸くなる山犬は思った。

 

 一族の長でもある彼。生まれてから数百年の時を生きている。

 

 かつては光に当たれば美しく輝いていたその毛並みも今ではゴワゴワとし、パサついていた。

 群れを率いる若い者たちは立派に育ち、小さき同胞たちを教育している。

 群れの中では一番の巨体である彼も、母に比べれば小さかった。

 

 フゥー、とひとつ息を吐く。ひんやりとした空気の冷たさが、幼き頃に慣れ親しんだ空気とひどく似ていると感じた。

 

 すでに視界は暗く、ものを見ることができない。遠くの獲物の足音を一切逃さなかった耳も衰え、あまり聞こえなくなった。唯一、その鼻だけは若かりし頃と変わらなかった。

 

 この身ではもう狩も満足にできぬ。若い者が肉を持ってくるがそれも断り、彼は静かに終わりを待った。

 

 

(懐かしい)

 

 

 母に教えられ、はじめて獣を狩った記憶。口の中に広がる血の味は、彼に獣としての悦びを与えた。それから兄弟と競い合うように狩りに熱中した。

 人に捨てられたサン(きょうだい)のことや、森を奪うエボシたちとの戦いも思い出す。

 サン。人間でありながら、彼女は山犬だった。母のように高潔で、その器用な手脚を使って獣を狩ってみせた。

 そんなサンと共に森を守ろうとした日々。すべてが懐かしい。

 

(……?)

 

 夢と現実の間にいる彼の中で、蹄が見えた。遠くから一歩一歩、その脚が近づいてくる。

 

 一歩踏み出すごとにその脚のまわりに命が生まれ、離れたその瞬間に枯れていく。

 

 彼はすでに目は見えないはずだった。ならば今見ているこれは夢なのだろうか? だが、妙に現実味がある。

 

 

「…………シシ神、さま?」

 

 

 彼の目前に咲いた一本の花。それに口づけるようにその者の鼻先が触れる。

 

 鹿の如き体に、サルのような赤い顔。ああそうか、と彼は気づいた。

 

 この冷たく、肌を撫でるような風は、シシ神の森のものだ。

 

 彼の故郷でもある場所。なつかしい、と彼はつぶやく。

 

 

(嗚呼、なんと、穏やかな心地なのか────)

 

 

 死ぬ間際だった母も、最期はこのような気持ちだったのだろうか?

 そこまで考え、彼は内心で首を振る。最期に首だけになってまでエボシの命を奪おうとした母は、もっと苛烈で、気高き獣だったに違いない。

 

 自分は家族に恵まれ、そして長い時を生きたことで、その牙も丸くなってしまったようだ。

 

 だからこそこのように、死の間際で安らかにいれるのだ。

 

 

 鼻先にシシ神の口づけがなされる。

 

 彼は微笑み、眠るように今生の別れを告げた。

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 息を引き取った山犬の長の姿を見届けたシシ神は、ひょこひょこと後ろに下がった。

 

 山犬は乙事主のように脚を後ろへ下げなかった。母のようにその死を受け入れ、眠りについた。

 

 死を前にする生き物の反応はそれぞれであった。

 

 逃げるか、受け入れるか。中には手を広げて喜ぶ変わり者もいる。

 

 三者三様。モロの最期を思い出したシシ神は、高潔な彼らの魂に礼をするように角を下げた。

 

 それからブルブルと毛を膨らませ、ヒョコヒョコと歩き出す。

 

 アシタカたちの子孫がいるかもしれない場所を知ることはできなかった。

 ただ、きっと彼らはこの山犬のように、シシ神が死んだ後でそれぞれの人生をたどり、亡くなったのだ。

 中にはこの山犬のように穏やかなものではなく、苦痛に満ちた者もいたかもしれない。

 

 その上で、死は平等に訪れる。死なない者はいない。シシ神とて死ぬ。死んでそうして、しれっと生き返る。

 

 シシ神は鹿のように脚をたたんで座り込み、これからの自分の生き方を考えた。

 

 もう、『もののけ姫(物語)』は終わった。

 

 そんな中で、自分というイレギュラーは相変わらず生きている。

 

 フン、とシシ神は鼻を鳴らす。その鼻息で顔の近くにあった草が揺れた。

 

『シシ神』として自分がまた生まれたことには何の意味があるのか。

 

 あるいはそこには自分よりももっと上位の神々による思惑だとか……または、そういった特に深い理由など一切なく、ただ自分が『シシ神』であるから再び生まれただけなのか。

 

 考えれどもわからない。

 

 シシ神にはこれからを生きる目的がなかった。

 

 どうしようかと彼は水の中に顔を突っ込み、じっと魚を見つめる。

 

 それでもやはり答えは見つかりそうになかったので、シシ神は水中から顔を離した。

 

 幸い、考える時間はたくさんあった。のんびりと自分が生きていく目的を見つければいい。

 

 そう考え、シシ神は歩き出した。

 

 

 当てもない旅路。時代が移ろえばシシ神は人間の姿に化けざるを得なくなった。デイダラボッチ(夜の姿)は言わずもがなだが、昼の姿も猿の如きツラに鹿の体な出立ち。人に見つかれば不老不死云々のまえに、もののけの類だと命を狙われる。困ったシシ神はひょんなことから狸たちと出会い、化け方を学んだ。あいにくと会話はできなかったので、盗み見ての学習だった。狸たちは無言でじっと見つめてくる生死を司る神(ヤベェやつ)に終始オドオドしていた。

 

 それから人間社会に紛れ、移ろいゆくその社会を『面白く』感じたシシ神は、余生の過ごし方を決めたのだった。

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