一般通過シシ神転生者   作:ヤックルたんペロペロ

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進むかと思ったけどぽんぽこしてさらに進んでません。お許しを…!
感想もたくさんありがとうございます!嬉しいですモチベが上がる!


2話 揺れるふたつのタマシイ

 ▶︎吾輩は『変身術(化学)』を覚えた!

 

 

 吾輩は一般通過系シシ神である。各地を放浪しているうちに狸の里に迷い込んだ吾輩は、もののけの類かと狸たちから恐れられた。それで言ったらお前たちももののけの類だろう。

 

 なんだコイツはと騒がれている間に、吾輩は狸たちの様子を観察した。

 

 

 吾輩が興味を持ったのは彼らの使う『化学』なる変身術である。この世界はどうやら一部のジブリ作品と地続きになっているらしい。ということは、トトロや千と千尋の神隠しにも繋がっているかもしれない。夢が広がる。

 

 しかしたぬき合戦と繋がるのか……と考えると、ほたるの光が灯される可能性もあるということで。

 

 吾輩の人間部分が、「ヴッ!! ヤメチクレ…」とトラウマを掘り返されていた。まあ吾輩はシシ神ゆえ、私情で彼らは助けない。

 

「いいぞ! その調子だ!」

 

 考えているうちに族長による指導は白熱していく。

 

 指導を受けた若狸たちはうーんと、頭に葉っぱを乗せてうなる。結果はまちまちだ。中途半端に体だけ変身していたり、葉を頭に乗せたまま変わらない狸もいる。

 化学を身につけるには練習が必要で、それを維持するにも並はずれた精神力が必要になる。

 

 吾輩も試しに葉っぱを頭に────おっ、結構この葉っぱ美味いじゃん。

 

 ……いや、化ける練習をするんだった。

 

 

 格闘することしばし。何とか頭に葉っぱを乗せられた吾輩は、内心でうーんとうなった。しかしうんともすんとも言わない。練習をしていた狸たちは、遠巻きに引きつった笑みを浮かべていた。

 

(そう簡単にはいかぬか)

 

 吾輩も手ほどきを受けられたらよいのだが、会話ができぬ以上はそれもむつかしい。ゆえに奴らの練習を見て独学で学ばなければならなかった。

 

 

 そうして狸の里にお邪魔していることしばし。居座っている吾輩に痺れを切らした狸の一部は、よそに住まう高名な狸の知恵を借りにいった。吾輩を無理やり追い出そうとしないのは、奴らも本能的に自分より上位の存在だと感じ取っているからだろう。

 

 

 それから月の満ち欠けを繰り返す。

 

 夜の姿になる時は、たぬきの里から離れた場所で変化した。何せ吾輩は気配りのできるシシ神である。たぬきたちがこの姿を見てはご立派なふぐりも豆粒ほどになってしまうだろうから、驚かさぬように配慮した。

 

 ただ、吾輩のこの行動を怪しみ尾行していたぽんぽこがいたようで、翌日村に行くと、徒党を組んだぽんぽこたちに「このもののけめぇ!」と、巨大化したふぐりで襲われかけた。だからお前たちももののけだろうに!

 

 そこに待ったをかけたのは族長である。吾輩が触手を生やした巨人になったと知り、族長のぽんぽこは思い当たる節があったらしい。「いや、まさか…」と呟きつつ、穏健派のぽんぽこと協力して強硬派のぽんぽこたちを縛った。

 

 あのままでは吾輩も狸たちの命を奪わなければならなかったため、助かった。

 

 というかふぐりで圧死する可能性もあったと考えると、マジで助かった。

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 場所は香川県高松市にある屋島。

 この島にはあの屋島の戦いを生で見たという、齢500歳を超える長老狸がいた。

 

 名は太三朗禿狸(たさぶろうはげだぬき)。仏の道にも通じ、日本一の変化術の使い手と謳われる。

 

 そんな太三朗禿狸のもとに、奇妙なもののけが村に入り込んできたとの知らせが入った。

 

 曰く、体は鹿のようであるが、顔は猿のように赤い。里のたぬきが飲料にしている池の上を歩行したり、歩いた側から草花が生い茂っては枯れていくと言う。

 

 そんな奇怪なもののけは不気味な見た目ではあるが、特にたぬきに害は起こさず、ただじっとたぬきたちの様子を見つめているらしい。

 

 その顔も常に何を考えているのかわからぬので、ことさらに気味が悪かった。

 

「穏健派のたぬきは「害をもたらさぬなら」と放置の姿勢を取っております。しかし、一部の若いものどもは万が一が起こってからではまずいからと、彼のもののけを退治した方がよいと考えておるのです」

 

「それはならぬ」

 

「……ッ、やはり、あのもののけは…」

 

「うむ。そのもののけは、単なるもののけではない」

 

 遠路はるばる報告にきた狸は額の汗を拭う。やはり自分や族長──いや、それだけではない。たぬきのほとんどがそのもののけの()()に気づいている。この神性を恐れたからこそ、血の気の多い若者は退治しようなどと考えているのだ。

 

「今から数百年も前になるかの。わしのふぐりもまだまだ暴れ馬のように若々しかった頃じゃ」

 

「………」

 

 かつて、とある森の奥に「シシ神の森」と呼ばれる森があった。そこに住まっていた神こそ、『シシ神』と呼ばれる古き神。

 

「とは言うたが、わしもこの目でシシ神を見たことはない。この話を聞いたのは、鎮西(九州)の乙事主からじゃった」

 

 九州と四国。西日本で影響力を持つ者同士、乙事主と太三朗禿狸は面識があった。歳も互いに比較的近かったがゆえに。

 

 太三朗禿狸は目を細め、懐かしい記憶を思い出した。

 

「シシ神はしかし、タタリ神になりかけた乙事主の命を奪った後、人間たちの醜い争いに巻き込まれ亡くなったと聞いておったが……」

 

「太三郎様からうかがった情報に照らしますと、彼の者はシシ神様に相違ないかと存じます」

 

「……なるほど。シシ神は生と死を司る神じゃ。生き返っておったのじゃろう」

 

 数百年の時を経て森が減った今、シシ神にとってこの世は生きにくくなったに違いない。それは太三朗禿狸自身も感じている。

 特に猪はその最たる例だろう。乙事主や多くの同胞を失った鎮西の猪たちの没落ぶりは、見るに耐えないものだった。

 

「わしたちもいずれは、人の世に呑まれる時が来る…」

 

 救いはやはり仏の道しかないのかもしれない。太三朗禿狸は数珠を鳴らし、念仏を唱えた。

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 彼の名高きシシ神に会いにきたと、はるばる四国から太三朗禿狸、そして隠神刑部(いぬがみぎょうぶ)が訪れた。隠神刑部は太三郎禿狸からの遣いで事を知った。隠神刑部もまた古狸で、シシ神の名を知っていた。

 

 また彼は強力な神通力の持ち主でもあったため、力を使い瞬間移動で太三郎禿狸を連れてシシ神のいるたぬきの里に訪れた。

 

 この両狸は、里にいたたぬきたちにとってはシシ神よりも偉い存在である。そんなお偉いさんから「この鹿さんの方がえらいですよ」と言われたので、一同騒然とした。

 

 遠目から見られていたシシ神は、「照れちゃうなぁ」と思いながら、前脚で地面を掘り、角をブンブンと振りまわす。それに過激派のたぬきたちは、慈悲を乞うて地に頭をつけた。

 

「「「どうか、お命だけは勘弁してください!!」」」

 

 シシ神が近づくと、たぬきが開けてたぬきの道ができる。その間をひょこひょことシシ神は進み、太三郎禿狸と隠神刑部の前に立った。冷静な太三郎禿狸に対し、隠神刑部のこめかみには汗が浮かんでいる。

 

「わしは鎮西の乙事主の盟友たる、太三郎禿狸と申す。そちらは、かの名高きシシ神様と拝察いたす」

 

 シシ神は微笑んでいるようにも見える顔で、じっと太三郎禿狸を見つめた。

 

「恐れながら申し上げまする。乙事主殿が最期の時に獣の王たる誇りを失わずに済んだのは、ひとえに貴殿の御心ゆえ。盟友として、その大いなる理に深く感謝いたします」

 

 深々と下げられた太三郎禿狸の頭に、周囲は息を飲んだ。

 

 

 シシ神はさらに一歩足を近づけ、太三郎禿狸の目前で止まる。隣にいた隠神刑部は、とっさに「太三郎殿!」と叫んだ。

 

 シシ神の口が、太三郎禿狸の鼻に触れる。シシ神の力を聞いていた者たちは「ああっ!!」と悲鳴に似た声をあげた。

 

 一方の太三郎禿狸は、シシ神が自分に何をもたらすのか──それが死であれ生であれ、受け入れる所存でいた。

 

 世は諸行無常。仏門の道をたどる彼は、命のはかなさをいっとう理解していた。

 

 

「……太三郎殿?」

 

 

 隠神刑部が身じろぎ一つしない太三郎禿狸に手を伸ばす。

 場が静まり返る中、唯一シシ神だけが背を向け、歩き出した。

 

「……ッ、貴様ァ!! 貴様よくも太三郎様を!!」

 

 過激派の一匹が目尻に涙を浮かべ、シシ神を睨めつける。怒りと殺意はたちまち広がり、過激派でないたぬきまでも、感謝を述べた太三郎様になんたる仕打ちだと、激しく怒り始めた。

 

 四方八方でふぐりが巨大化し出す。この受けた恨みを晴らすべく、狸たちが暴れ出そうとしたその瞬間。空気を割くような一喝が入った。

 

 

「やめんか!!!」

 

 

 発した主は微動だにしなかった太三郎禿狸だった。「生きておいででしたか!」と叫んだ隠神刑部に、太三郎禿狸は「勝手にわしを殺生するでない」と返す。

 

 たぬきたちはホッと安堵の息を吐く。ふぐりもプシュウと萎んでいった。

 

「────え?」

 

 いや、違う。一つのふぐりだけ萎えていない。それどころかどんどん巨大化していく。女子たちは思わず両手で顔を覆い、その隙間からデカふぐりを見つめた。なんてご立派なの!? ──と。

 

 

「………太三郎殿、その、失礼ですが、大きくなっているような」

 

「はて? わしのふぐりは元々このくらいの暴れ馬じゃったがのう」

 

「……そ、そうですか」

 

 

 隠神刑部はそれ以上何も言えなかった。

 

 それと同時に、ちょっと羨ましい気持ちもあった。

 

 

 

 その日からもしばしば、シシ神はたぬきの里に訪れた。

 

 シシ神は変わらず変化の術を学ぼうと、村に滞在している太三郎禿狸や隠神刑部の様子を茂みの中から観察していた。

 

 太三郎禿狸は村にいる間、若かりし頃の勢いを取り戻したふぐりで、メスたちをメロメロにさせた。その余波を、隠神刑部は「隠神刑部様ってぇ……結構()()()()()()わよねぇ」と陰で囁かれることで食らうことになる。

 

 村のオスたちは自分のふぐりもデカふぐりにしてもらえないだろうかと、シシ神に熱い視線を送っては、やっぱり圧だけで怖いのでまったく近づけなかった。

 

 

(ようやく吾輩もできた!)

 

 

 そして、上質な変化術の使い手を観察したこともあり、シシ神はどうにか独学で変化を身につけることができたのだった。

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