一般通過シシ神転生者   作:ヤックルたんペロペロ

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区切りの関係で今回は短め。次回はジブリ✖︎ヒロアカの閑話です。テイストが変わります。
(追記)
原作表記の変更に伴い、要所要所を修正しました。(まだ揺れてるので改めて落ち着いたら検討し直すかもしれません。すみませぬ…)


8話 鹿クッキーと朝の紅茶

 思えば自らの蹄で……ああいや、自らの手で野菜を植えるのは前世を含めてもはじめてだった。

 

 銭婆にこき使われながら畑の準備をして、苗を植える。吾輩が泥んこになっている横で、コダマたちも銭婆に言われ働かされていた。

 

 小さな体で協力して苗を転がし、穴まで運んだらそこに落として土をかける。

 

 一連の様子を微笑ましく見つめていたら、「サボってるんじゃないよ!」と尻を叩かれた。思わずしっぽが飛び出て、頭から生えた角が麦わら帽子を天高く突き上げる。

 

 

 昼飯の時間は吾輩たちが畑作業をしている間に銭婆が作っていた料理を食べた。(肉魚を食べないのは聞かれた時に伝えてある)

 

(────うまい! うまい! うまい!)

 

 吾輩には彦◯呂のようなぼきゃぶらりぃはない。ひたすら「うまいうまい!」と言っていたらコダマたちも真似し出し、銭婆に「静かに食べな」と注意された。子は親に似るんだから、とも言われる。

 厳密に言えばコダマたちの親は樹木であり、吾輩ではないのだが…。

 

 まあ、かく言う銭婆の口元は笑っていたので、気分を害したわけではないのだろう。

 

 

 その後は残っていた畑作業を片づけ、クッキー作りに参加した。

 

 吾輩はどデカいヤックルたんのクッキーを作った。銭婆のは丸や四角などふつうのクッキーで、コダマたちのは自分の顔を模したクッキーである。

 

(………)

 

 作っておいてなんだが、ヤックルたんのお顔をバリムシャできるわけがなかった。ただこのままにしておいても腐ってしまう。シシ神エキスという名の防腐剤でも仕込んで一生腐らないようにしてしまおうか。

 

「仕方がないねぇ」

 

 悩んでいたら、銭婆がクッキーをいくつか分けてくれた。コダマたちも自分のカケラを差し出す。彼らにも個性があり、大きな破片をくれるものもいれば、ほんの少しだけ差し出すものもいる。

 

 クッキーはほんのり甘くて美味しい。

 

 胃がモゾモゾする。そのままモゾモゾは吾輩の足から外へ飛び出して、草花を咲かせる。銭婆にはここは室内だと叱られたが、モゾモゾは収まらなかった。

 

 

 そして夜になる。首が伸び始めたところで外に出て、一度デイダラボッチの姿になる。平家を押し潰さないようにしながら変身を終えて、そこからまた人間の姿に変化した。

 

 夜もまた飯を食べつつ、家の中でできる細かな作業を手伝った。

 

 その合間に銭婆はいくつかの案を出した。

 その中でも一番『理』に抵触しないのは──。

 

「お前さんが使える変化の術を利用するのが手っ取り早い」

 

 魔法の力を吾輩に使うのは難しいと銭婆は言う。それは吾輩の神格が影響しているかららしい。ゆえに、魔法は使わない方向で進める。

 

 

「人から人へ変身するんだよ」

 

 

 通常、吾輩は『理』によって昼から夜に、夜から昼になる時に姿が変わる。

 この間に人間に変身している場合は、人間の姿から昼、または夜の姿に変わる。

 

「この世のルール()はアンタが人間に化けることを許している。なら、それを利用すればいいのさ。

 もちろん、人から人へ変身できなきゃこの方法は使えないし、移行する時の弱点が消えるわけじゃない。人から人に変わっている時も、首を落とされたらお前さんの力は暴走するだろう。

 それでも、異形の姿に変わるよりは人間に狙われるリスクは格段に減る」

 

 吾輩は整理していた本を見つめ、棚に入れた。

 そして銭婆の方へ向き直る。頷いた吾輩に、彼女は「腹は決まったようだね」と言った。

 

 

 

 朝がきた。吾輩の背中に乗ったコダマたちは玄関に立つ銭婆に手を振る。寝巻きの彼女は瞼が閉じており、髪もボサボサだった。

 それもそうだろう。まだ陽が地平線から出たばかりの時間である。

 

「アンタ…夜にコソコソしていたみたいだが、寝なくても平気なのかい」

 

 ああ、吾輩に睡眠は必要ない。24時間365日、健康体でいられるのがシシ神ボディである。

 

 世話になった彼女に角を下げ、朝霧の中に紛れる。

 じゃあね、と後ろから声が聞こえた。

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 客神(きゃくじん)がいなくなった室内は、やけにしんみりとしていた。

 中に入った銭婆はフンと鼻を鳴らし、温かい紅茶でも飲もうかとカップに手を伸ばす。

 その時、テーブルに置かれた包みを見つけた。見てくれの悪い包み方に、誰が包んだものなのか思いいたる。

 中には昨日、あの神が焼いた鹿のクッキーが入っていた。

 銭婆は包みの下にあった手紙にも目を通す。

 そこには少々ミミズ腫れのような文字だったが、こう書かれていた。

 

 

『ありが と う』

 

 

 銭婆はフッと笑い、手紙を置いて紅茶の用意を始めた。

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