ドラゴンボール×Re.ゼロから始める異世界生活   作:オレタチ青い人

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おはようございます!
前回はレムと子供達に呪いをかけた犯人が発覚し、魔獣、ウルガルムとの戦いが始まりました。
今回ではどうなるのか、ぜひ、見ていってください!!


ウルガルム討伐戦

 

 

 

     

 

 

 

 

 「はああぁぁあ!!!」

 

 

 全身の気を高め、濃縮させる。迫り来る黒き獣へ掌を向け、気突槍を飛ばす。

それが魔獣の眉間を貫き、尾まで穴が空く。

背には青髪の少女を背負い、走り続ける。

 

 一体何度これを繰り返したことだろう。何十もの魔獣を貫き、その肉を抉ってきた。

だがその度に魔獣の傷は癒え、何度も立ち上がってくる。

 

 気円斬で肉を断ち、体を真っ二つに裂いても、肉が断面からぴたりとくっつく。

気功波で肉体を焼いても、新しい肉や皮膚が生成される。

 

 どんな方法で獣を殺そうとしても、恐怖すら感じる驚異的な再生能力を見せつけられる。

その度に悟空の精神がすり減り、同時に体内の気が失われていく。

荒い呼吸が、静かな森へ白く漏れる。

 

 

「くっ!こんなんじゃ埒が明かねぇぞ…!」

 

 

 悟空は地面を蹴り、横から飛びかかってきた魔獣の牙を紙一重で躱す。

そのまま回し蹴りを叩き込み、魔獣の頭部を木へめり込ませ、グヂョッ!!と潰れる音が森にこだまする。

 

 だが───

 

 グジュ……グジュジュ……。

 

 嫌な音を立てながら、悟空の足と木の間で、潰れた頭部が元の形へ戻ろうとしていく。

 

 

「げっ!?おっかねぇ!!」

 

 

 その未知の感触に悪寒が走り、思わず再生途中の魔獣から足を離し、距離を取る。

地に足がついた今でも、先ほどの感触が足裏へまとわりついていた。少し鳥肌が立つ。

 

 

「なんちゅう再生力だ……!ブウみてぇだなおめぇら……!」

 

 

 吐き捨てるように言いながら、悟空は背中の少女を落とさぬよう抱え直す。

 

 少女は未だ意識を失ったままだが、すうすうと息をしているのは確かだ。

見た感じ、''糸''があるようには見えない。噛まれてはいないようだ。

 

 と、安心している暇は無い。

現に今も森の暗闇の中から、数多の赤い瞳が悟空を睨みつけている。

今はあの''犬''を倒す方法を考えなければ。絶対に助けると心に決めたのなら、最後までやり遂げてやる。

 

 

「んじゃあ…」

 

 

 先ほどと同じで、構えるように腰を落とす。

 

 

「こいつはどうだ!!」

 

 

 そう叫びながら、両掌を額へ持ってくる。

同時に、悟空の体から凄まじい光が、溢れるように放たれる。

 その光は魔獣の目をくらませ、視界を奪う。

 

 突然の事で魔獣は錯乱状態になり、先程までの統率されていた動きとは打って変わって暴れまわっていた。

犬の囲むように佇んでいた周りの獣達が、それぞれ勝手な行動をし始める。

混乱し動き回ったり、虚無の空間を噛んだり、何も無いところに向かって吠えたりなど、犬を囲む布陣が崩れている。

 

 出来た隙を見逃しはしない、悟空はすぐさま犬へ向かって駆ける。

そのまま大きく拳を振り上げ───

 

 

「界王拳、四倍だぁ!!」

 

 

 瞬間、悟空の体を赤白いオーラが包み、辺りに熱風が吹き荒れた。

修行により知ることができた()()()()()()()

今の自分が出せる全力、それが界王拳四倍だ。

 

 盗品蔵で出会った強敵の言葉を思い出す。

 

 

『まずは、自身の限界を知ったほうがいいわね』    

 

 

 そう、限界。

今の自分の限界は、界王拳四倍なのだ。

フリーザと戦った時の二十倍よりも、出力が四分の一以下になってしまっている。改めて自分の減衰ぶりに驚く。

だが、これが今の精一杯の力なのだと思うと、仕方ないなとも思ってしまう。

 

 せっかく出来た隙なんだ、自分が持てる限りの全ての力を使って、あの''犬''を倒す。

あっという間に犬を目前まで捉え、悟空は大きく拳を振り上げ、力を一点に凝縮させる。

 

 

「だぁっ!!!」

 

 

 犬へ向かって拳を振り下ろす────

 

 

 ─────が…

 

 

「──ッ!!?」

 

 

 …突然、悟空と犬の間に、魔獣が飛び込んでくる。

拳はその魔獣の胴体へ直撃し、ゴパァン!!と大きな音を立て、その肉体が弾け飛ぶ。

 

 

「くっ!!」

 

 

 血を含んだその肉片が顔面にかかり、悟空は反射的に目を閉じる。

目の前が暗闇に染まり、一旦その場から距離を取り顔面を拭う。

 

 鉄のような生臭い匂いが鼻腔を突き、肉片のべちゃべちゃとした感触に思わず顔を顰める。

しかし驚いた。まさか捨て身で自分の群れのリーダーを庇うとは。

いくら何度でも再生できるからと言って、あまりにもそれは…………

 

 ふと、先程顔面を拭った手を見る。

……再生していない。

肉片は変わらず中身に残った血を出し、生暖かい感触があるが、一向に再生しようとする兆候は見られない。

 

 

「…原型がなくなるまでぐちゃぐちゃにすりゃあいいって事か…?」

 

 

 つまりはそういう事だろう。

何かわからなくなるまで、跡形もなく粉々にすれば、再生できない。

 

 

「だからと言って、戦況が変わるわけじゃねぇよなぁ…」

 

 

 魔獣の再生にも限界があると分かったが、そんな一匹一匹、丁寧に潰している時間はない。

しかも界王拳四倍を維持したままでは、自分の身体の方が先に悲鳴を上げる。

 

 

「だったら……まとめて消し飛ばすしかねぇか?」

 

 

 そう思考を巡らせていた時、後ろで低く唸る魔獣の声がした。

ガルルル……と、それはまるで獲物の位置を捉えたかのような唸り声だった。

 

 嫌な、予感がした。

咄嗟に後ろを振り返る。

 

 

「っ!!ぐっ!?」

 

 

 振り向いた頃にはもう、すでに眼前に魔獣の開かれた口が迫っていた。

避ける暇はなかった。そのまま左肩が魔獣に噛まれ、深々と牙が食い込む。

 

 

「ぐああぁあっ!!?」   

 

 

 鋭い痛みが悟空を襲う。

何故だ?太陽拳で視界を奪ったはず。自分の姿を捉える方法なんて…

 

 そんな疑問が痛みとともに脳を駆ける。

悟空は肩を噛んでいる魔獣の身体を掴み、振り払おうとした。

が、魔獣は鼻息を荒くし、牙を離そうとしない。

 

 

「…!!ッ…匂いか…!!」

 

 

 魔獣と言っても、獣は獣。視界を奪われても、獣には鋭い嗅覚がある。

 

体を覆う血の匂い。

流れる汗の匂い。

 

 それを辿れば、自分の位置など簡単に分かってしまうのだろう。

どんなに強い力で引っ張っても、一向に噛み付く牙を離そうとしない。さらに深く牙が食い込み、熱い痛みが肩から全身へ走り、悟空の表情が歪む。

 

 まずい…このままじゃ大きなダメージは免れないだろう。

たとえ今肩を噛んでいる獣を振り払うことができても、また次の魔獣が来る。

 

 埒なんて明いたもんじゃ無い。

肩が抉れたボロボロの状態で、この状況を切り抜けることは難しいだろう。

さらに肩に牙が食い込み、魔獣を振り払おうとする手が緩む。

 

 くそっ…!!一体どうすれば…!!?

 

 

「フーラ!!」

 

 

 その危機的状況を切り裂くように、瞬間、''風''が飛んできた。

風は悟空の肩を噛む魔獣の体を上下真っ二つに裂き、血と臓物を垂らしながら魔獣の下半身が地面に落ちる。

同時に噛む顎の力が緩み、それを感じた悟空は魔獣の上半身を掴み牙を抜かせ、勢いよく投げ飛ばす。

 

 投げ飛ばされた魔獣の上半身は、木へと激突し幹に体を貫かれた後、ビクビクと痙攣しながらも切断面を蠢かせ、再生しようとしていた。

だが、その再生よりも先に────

 

 

「エル・フーラ!!」

 

 

 十字形の風の刃が、その木ごと魔獣を断った。

ドシン…と音をたて、木が倒れ舞い上がった土煙の中に、魔獣の姿が沈む。

悟空は噛まれた肩を抑えながら、その風を放った主を見る。

 

 

「ラム…!!…スバルも!!」

 

「急にすっげえ光が見えたかと思ったら、やっぱり悟空だったか!」

 

 

 木々を掻き分けるように現れたのは、桃色の髪を揺らす少女──ラムと、肩で息をするスバルだった。

 

 スバルの額には汗が滲み、服には枝葉が擦れた跡がいくつもある。

ここまで全力で駆けて来たのだろう。

 

 だが、その顔は安堵どころではない。

悟空の肩から流れる血を見た瞬間、表情が凍りついた。

 

 

「お、おい……大丈夫なのかそれ!?」

 

「へへ……まぁ、なんとかな。そういやラム、レムやチビ達はどうしたんだ?」

 

 

 そう言って笑おうとするが、肩へ走る激痛に顔が引き攣る。

噛まれた部分からは未だ血が流れ、肉が抉れているのが分かった。だが、まだ動く程度には大丈夫だ。

ラムはその傷を一瞥すると、鋭い視線を周囲へ向けながら悟空の質問に答える。

 

 

「レムや子供達はエミリア様に任せてます。ちなみに、森の中で迷子になっていたバルスをラムがここまで連れてきたわ。はぁ、だから足手纏いになると言ったのに…」

 

「その『ちなみに情報』今要らなくね!?ま、まぁ道中の魔獣から守ってくれたのはマジで感謝してるよ」

 

 

 道中での魔獣、ということは、スバル達も魔獣と敵対していたという事か?

なら話は早い、この魔獣の能力については知っているだろう。

悟空は周囲を警戒しながら、僅かに眉を寄せた。

スバルは息を整えつつ、忌々しげに森の奥を睨む。

 

 

「ラム、スバル。レムやチビ達に呪いをかけたのは、奥にいるあの可愛いカオした''犬''だ」

 

「…!!アイツが…!?」

 

 

 悟空が指差した先を見たスバルは、何か心当たりがあるのだろう。目を見開き、顔面を蒼白にさせる。

ラムはというと、その犬の姿を見ると、表情に少し怒りを見せた。

が、すぐに瞼を閉じて心を落ち着かせ、目を開けると杖を構える。

 

 

「主犯がわかっているなら話が早いわ。お客様…いいえ、いちいちそう呼ぶのも面倒くさくなってきたわ。名乗りなさい」

 

「孫 悟空だ!レムにはゴクウって呼ばれてるぞ!」

 

「そう、ならラムはソンと呼ぶことにするわ」

 

「そこは姉妹揃ってゴクウでよくないか?」

 

 

 今この状況では上も下もお客様も関係ない。誰かを救うために動いている者同士。敬語や遜譲など不要だ。

今はたった一つ。どうやってあの犬を倒す事に専念しなければ。

 

 

「この有様を見る限り、状況はかなり悪いと見えるわ。何か考えはあるの?」

 

「ああ…あるにはあるんだけどよ。そのためにはおめぇらの協力が必要だ!力、借りても良いか?」

 

「当たり前だ!壁役は俺に任せとけ!」

 

 

 頼りにならない言葉を口にしながら、親指を自分に指すスバル。

悟空は背負っていた青紫髪の少女を地面に下ろしながら、苦笑する。

 

 

「身の程を弁えているようで何よりよ。で、ソン。その考えというのはどういう物なの?」

 

「ん?そりゃあもちろん…」

 

 

 作戦の内容をラム達に説明しようとした直後…

 

 ガァァァァッ!!

 

 唸り声と共に、黒い影が木々の間から飛び出してきた。

それは一匹ではない。二匹、三匹……五匹ほどの魔獣が、一斉に牙を剥きながら襲いかかってくる。

 

 

「ちっ!話し合う暇はねぇか!」

 

 

 悟空は舌打ちしながら地を蹴った。

界王拳の赤い残光を引き、最前列の魔獣の懐へ潜り込む。

 

 

「だぁっ!!」

 

 

 拳が突き刺さった瞬間、魔獣の胴体が爆ぜる。

さらに振り抜いた蹴りが横合いの獣の頭蓋を砕き、肉片と血飛沫が舞った。

 

 だが、背後から次々と新たな魔獣が飛び込んでくる。

 

 

「エル・フーラ!!」

 

 

 魔獣達を風の刃で一斉に両断し、悟空の背後でボトッボトッと、見事に真っ二つになった数匹の魔獣の体が落ちる。

その音で悟空は今、ラムに助けられたことを知る。彼女のサポートがなければ噛まれていたかもしれない。

 

 

「サンキュー!ラム!」

 

「焦るのはいいけれど、周りをよく見なさい、ソン。足元をすくわれるわよ」

 

 

 息をついたのも束の間、魔獣達の再生が始まる。

グジュ…グジュ…と耳障りな音を立て、再生する姿はまさしく魔の獣と呼ぶに相応しい。

 

 上下に引き裂かれた肉体が、まるで意志を持っているかのように蠢く。

ずる、ずる、と地を這いずりながら元の姿に戻ろうと、断面同士が引き寄せられていく。

 

 

「うげっ!?気持ち悪っ!?もしかしなくても、再生しようとしてんのか……!?」

 

「えっ?お、おめぇら、コイツらが再生するって知らなかったのか?」

 

「見たこともないわ。ソンと会うまでラムが屠った魔獣は、ちゃんと再生せず死んでいたもの」

 

 

 ……なるほど、大体わかった。悟空は少しの困惑と同時に、一つのことに気づく。

おそらく、ある一定の範囲内の仲間しか、群れのリーダーは回復できないのだろう。

だからと言って、戦況を大きく変えるものでは無いが、益な情報だ。

 

 悟空はそのまま、奥の''犬''を見つめる。

その犬は、動かずじっと悟空達を見ていた。

木の隙間、闇の中心で、赤黒い瞳だけが、じっとこちらを観察していた。

 

 

「──って、うわぁ!!?」

 

 

 直後、背後でスバルの驚嘆の声が聞こえてくる。

すぐさま振り返ると、スバルの見つめる先に十数体の魔獣の群れが出来ていた。

 

 いつの間に、これほどまでの魔獣が…!?その疑問を抱きながら、スバルの方向へと走り出す。

しかし、再生が終了し、割り込んできた魔獣達に行手を阻まれる。

 

 ラムはスバルを襲う魔獣の対処で精一杯の様子だ。

 

 

「くっ…!なんだってこんな急に…!?」

 

 

 なぜこれほどまでに、魔獣が集まってきている?しかも、先ほどまでの統率された動きとは打って変わり、各々が正気を失ったようにスバルへと襲いかかっている。とっくに太陽拳の効果は切れているはずのため、錯乱する理由はないはずだ。

 

 目の前の襲い来る魔獣の攻撃を交わし、反撃の気突槍を繰り出す。

だが、瞬時に魔獣はその傷を回復し、再生させる。トドメを刺す暇もなく、次の魔獣が悟空へと飛びかかる。

回避、攻撃、再生。回避、攻撃、再生。回避、攻撃、再生。──────それの繰り返し。

 

 回避のたびに、スバルとラムの姿が遠ざかっていく。まるで、()()()()()()()()()()()()みたいに。

 

 そろそろ界王拳の使用にも限界が見えてくる。手足が少しずつ痺れてきて、じんわりとした痛みが全身を覆う。

早々にケリをつけなければ、こちらの方が先に力尽きてしまう。

それにこのままだと、スバル達と完全に分断されてしまうのも時間の問題。

ここは一か八か、強引にでも───

 

 

「スバル!!何か、この魔獣の気を逸らす方法はねぇか!!?」

 

 

 大声で、スバルへ向かってそう叫ぶ。

 

 

「えぁっ!?そ、そんなの急に言われたって…」

 

 

 青紫髪の少女を抱えながら、スバルはしっかりと悟空のその言葉を聞いていた。

目の前で迫り来る魔獣をラムが切り裂いている中で、スバルは頭を回す。

 

 ──何か。

何か、この化け物共の気を引けるもの。

 

 悟空の言う通り、このままではジリ貧だ。

再生する魔獣に囲まれ続ければ、いくら悟空でも、それにラムだって限界が来る。

 

 考えろ。

自分は弱い。

だからこそ、考えるしかない。

 

 だが、考えれば考えるほど、こんな自分に出来ることなんて何もない…超人的なパワーやスピードなんて無いし、魔法だって使えない。

こんな自分に、出来ることなんて────

 

───────魔法……?

 

 ……それなら、魔法ならもう、使えるじゃないか。

 

 

「何か考えがあるようね、バルス」

 

「あれ、俺そんな顔に出てた?んまぁとにかく…あるぜ、魔獣でもあっ!と驚くだろうモンがよ…!」

 

 

 顔をふにふにと触ってみると、少し口角が上がっていた。

自分にも出来ることが見つかって、嬉しくなってしまったようだ。

 

 

「悟空ーっ!!今から''魔法''を使う!その隙にあの犬をぶっ飛ばしてくれぇ!」

 

「魔法!?おめぇ魔法なんて使えたんか!?」

 

「最近覚えたんだ!まぁ成功するかどうかは大博打だけど!」

 

 

 大丈夫なやつかそれ?と、悟空は思う。

だが、そんな心配今は必要ない。この状況を打破するためには、やるしかない。

 

 暴発したらどうする?

 失敗したら俺はどうなる?

 そもそも、本当に発動するのか?

 

 うるさいほどに、スバルの心臓は脈打っていた。

そんな不安を取っ払い、やるしかないという現実に目を向ける。

 

 だが、あまりの責任感の重さにスバルは躊躇っている。魔法を叫ぶためのその口は動かずにいた。

───くそ、動けよ!俺の体!!

 

 

「やるなら、さっさとやりなさい。バルス」

 

「ッ……!!」

 

 

 ラムの言葉が飛んでくる。同時に、彼女の魔法が迫り来る魔獣の首を切断する。その体は僅かに汗を流し始め、荒い息を整えようと肩を上下させている。

その姿を見て、スバルは奥歯を噛み締める。

 

 そうだ。怖いのは、自分だけじゃない。

 

 悟空は肩を食い破られながらも戦っている。

ラムだって限界寸前まで魔法を使っている。

 

 なら、自分だけが立ち止まるわけにはいかない。

 

 

「っ……ぅおおおおお!!」

 

 

 覚悟を決めたように、胸元をギュッと掴み…

 

…今、叫ぶ──!!

 

 

「シャマァクッ!!!」

 

 

 その叫びが森に響いた瞬間…

 

…ボンッ!!

 

 という炸裂音とともに、スバルの体内から溢れるように、黒い煙が現れた。

黒煙は急速に拡大し、魔獣だけでなく、木々や地面に転がる石すらも見境なく一気に呑み込んでいく。

 

 それは、悟空達も例外ではなかった。

悟空達の姿はあっという間に黒煙に飲み込まれ、

 

 

「うおっ!?なんだこりゃあ!?」

 

 

 その悟空の声が、黒煙の中に姿と共に完全に消えていった。

だが、そんな状況の中でも、冷静に状況を見据えるものが一人…いや、一匹。

 

「グルル…」と唸り声を上げながら、黒煙に飲み込まれ続ける仲間の姿を一歩下がり見ていた。

一匹、また一匹と、拡大し続けるその黒煙に全てが呑まれ続ける。その様子を、焦りを抱きながらも見ていた。見境なく全てを飲み込むそれを見つめることしかできなかった。

 

 やがてその犬すらもそれに飲み込まれた。

 

 犬は低く唸りながら、辺りを睨み続けていた。

視界が利かない。

臭いも散っている。

 

 森を満たしていた血臭も、汗の臭いも、土の匂いさえも、黒煙の中では曖昧になっていた。

本来ならば、獣にとって視界など補助に過ぎない。鼻で追えばいい。音を拾えばいい。

 

 だが、この黒煙は違う。

 

 臭いが掴めない。

音の位置も狂う。

 

 

「グルル…ワンッ!!ワンッ!!」

 

 

 五感全てが曖昧なその中で犬はただ辺りを睨み、吠え続けるしかなかった。

突然の完全な孤独。その恐怖を紛らわすように、吠え続けるしかない。

だが次の瞬間、はっきりと耳元で、

 

 バキャッ!!

 

 と、何かが壊れる音がした。

その方向へと目を向ける。だが、何もいない。

 

 次に、背後でゴキャッ!!と、また何かが壊れる音が鳴った。

その次は右で、その次は左で、何かが壊れ、潰れ、飛び散る音が鳴っていた。

 

 ゴキャッ!!グシャッ!!ゴッ!!

 

 絶え間なく鳴り続けるそれは、さらにその犬の焦燥感を募らせ、本能的な恐怖を植え付ける。

…すると、ピタリとそれが突然鳴り止んだかと思うと、

 

 

「!!??」

 

 ゾワッ!!と、獣としての第六感が反応する。

と同時に、背後から聞こえてきたのは…

 

 

「やっと、見つけたぞ…!」

 

 

 あの''男''の声が聞こえてくる。

犬はその声の元に振り向く──前に、

 

 

「だりゃぁ!!!」

 

「ギャウッ!?」

 

 

 赤白いオーラを纏った足が、犬の横腹を蹴る。その小さな体が勢い良く地面に転がる。

犬はすぐさま自分の体の傷を回復させ、再び四肢を地面につかせ、構える。

見つめる。その''男''の姿を。赤白いオーラと血を全身に纏いながら、自身を打ち倒すために歩みを進めるその姿を、犬は見つめ続ける。

 

 

「ギャ…ギャオォン!!」

 

 

 …すると、犬は踵を返して逃げ始めた。

単純な恐怖によるものだった。

 

 犬は黒煙の中を駆ける。

 

 木々を飛び越え、湿った地面を蹴り、ただ本能のままに逃走する。

だが、黒煙はなお視界を奪い続けていた。

 

 臭いは分からない。

仲間の位置も分からない。

自分がどこへ向かっているのかすら曖昧だった。

 

 それでも走る。

あの“男”から離れるために。

 

 少し走ったところで、突如黒煙が晴れた。

助かった─そう思った直後。

 

 

「エルフーラ!!」

 

 

 風の刃が黒煙の中から飛んでくる。

後ろなんて見てる暇ない。鮮明になった聴覚を頼りに、それを横に飛んで避ける。

なんとか避け切れたようで、風の刃はすぐ横を通り、木々を薙ぎ倒しながら進んでいった。

 

 安心した。安心してしまった────

 

 

────すぐ横で、黒煙の中から出てきた赤白いオーラを纏った男が、拳を振り翳しているとも知らずに…

 

 

 

「はあっ!!!」

 

 

 悟空はその犬の頭目掛けて、拳を振り下ろす。

グチャァ!!という音と共に、大きなクレーターができ、その中に犬の顔面がめり込む。

だが悟空は、追撃をやめない。

 

 

「でりゃりゃりゃりゃりゃりや!!!」

 

 

 地面に片膝をつき、何度も拳を翳し、犬へ向かって振り下ろし続ける。

その犬は再生を続けていた。何度も続けようとしていた。

だが再生させた部位は、すぐさま振り下ろされた拳によって打ち砕かれ、肉片となって飛び散る。

何度も、何度も、何度も、何度も────

 

 悟空は殴る手を辞めない、その犬が粉々になるまで、再生できなくなるまで拳を振り下ろすのを辞めない。

 

 界王拳四倍。

今の身体では長時間維持できない力。

 

 筋肉が悲鳴を上げていた。

血管が焼けるように熱い。

肩の傷口から流れ続ける血が、腕を伝って滴っている。

 

 だが、止まるわけにはいかなかった。

 

 ここで逃がせば、また誰かが呪われる。

レムや村の子供達のように。

 

 

「グォアァッ!!!」

 

 

 その悟空の体を、黒煙の中から這い出てきた魔獣が噛む。

 鋭い牙が、悟空の脇腹へ食い込んだ。

肉を裂かれる鈍い感触と共に、熱い激痛が全身を駆け抜ける。

 

 だが、悟空の拳は止まらない。止まることを知らない。

次に肩、腰、腕と、幾度も数匹の魔獣によって悟空の体が傷つけられていく。

──それでも、悟空は止まらなかった。

 

 

「はあぁぁぁぁっ!!!」

 

 

 振り下ろされた拳が、ついに犬の頭蓋を完全に叩き割る。

 

 ベチャァッ!!と、水袋を潰したような音が響き、飛び散った肉片と骨片がクレーターの周囲へ撒き散らされた。

 

 だが──まだ終わらない。

 

 蠢く。

 

 肉片が、生き物のように震えていた。

 地面へ飛び散った赤黒い肉が、ぞわぞわと集まり始める。

まるで“元に戻らなければならない”という意思だけで動いているかのように。

 

 

「これで、終わりだ…!!」

 

 

 悟空は拳を振り翳し、一気に力を入れる。

 

 

「界王拳…五倍だあっ!」

 

 

 叫ぶと、辺りに熱風が吹き荒れる。

 それにより、悟空の体を噛んでいた魔獣達が吹き飛び、それぞれ木々や地面にぶつかった。

 

 そして、悟空の拳が、その胴体以外が粉々になった犬へと振り下ろされ────

 

 

ドオォッンッ!!!!

 

 

 その音と共に、犬の体は完全に粉々に砕け散った。それと同時に、''糸''がぷつりと、切れた。

再生が止まる。蠢いていた犬の肉が、意思を無くしたようにぴくりとも動かなくなった。

 

 

「はぁ…はぁ…」

 

 

 体に限界が押し寄せてくる。

 界王拳五倍。

今の悟空には、本来なら踏み込んではいけない領域だった。

 

 全身の血管が焼けるように熱い。

筋肉は裂ける寸前まで悲鳴を上げ、肺はまともに酸素を取り込めない。

立っているだけで、骨が軋むような感覚があった。

 

 それでも悟空は、拳を構えたまま周囲を睨み続ける。

 

 まだだ。

まだ終わったとは限らない。

 

 黒煙の向こうで、魔獣達の唸り声が響いている。

だが、その声には先程までの統率が無かった。

 

 ガルル…

 クゥン…

 ギャウッ…

 

困惑。

焦燥。

そして怯え。

 

 それが混ざったような鳴き声だった。

 

 すると、一匹の魔獣が悟空へ飛びかかってくる。

 だが───

 

「フーラ!!」

 

 その魔獣は、突如横から飛んできた風の刃によって上下に裂かれた。

だが今までとは違い、その魔獣の断面が蠢くことはなく、再生しなかった。

 

 

「ソン!!」

 

「悟空!!」

 

 

 黒煙の中から、スバルと、青髪の少女を背負ったラムが駆け寄ってくる。

 シャマクの黒煙も、少しずつ薄れていた。

木々の隙間から月光が差し込み、荒れ果てた森を照らし始める。

 

彼らの姿を見て、安心した──

──その瞬間だった。

 

 ズキンッ!!と、全身へ激痛が走る。

 

 

「がっ……!!」

 

 

 界王拳の反動。

 

 限界を超えた負荷に、悟空の膝が崩れる。

ドサッ、と両膝を地面につき、肩で荒く呼吸する。

 

 視界が揺れる。

指先に力が入らない。

 

 五倍界王拳を無理やり使った代償は、あまりにも大きかった。

 

 

「お、おい…悟空っ!!」

 

 

 ボロボロの悟空に、スバルが肩を貸す。

周りには、畏怖の混じった赤い瞳を輝かせながら、小さく吠える魔獣達。

 

 肩は抉れ、脇腹は血で染まり、全身に牙傷が走っている。

服は裂け、肌には赤黒い血がべっとりと張り付いていた。

 

 

「はは…すまねぇ、ちっと体が…ぐっ!?」

 

「無理に動くんじゃねぇ…!悟空はもう十分頑張ってくれた!だから、あとは俺達に任せとけ!」

 

 

 その言葉と共に、スバルは悟空を背負う。

 

 

「おっ?意外と軽いんだな…ってのはともかく!帰るぞ、村に!」

 

「どうやら、群れの核を潰したことで、魔獣達は再生能力も失っているようね。それなら後はただの獣だわ」

 

「ただの獣って言うには怖すぎるけどな!?」

 

 

 いつものように茶番を繰り広げる二人を見て、悟空はどこか安心感を覚えた。

この二人なら大丈夫だろうと、そう思えた。

 

 これで、レムや子供達は救えたはずだ。

後は、この二人に任せるとしよう。

 

 

「すまねぇスバル…ラム、後は任せていいか?」

 

 

 力無くそうスバルへ問いかけると、彼らはニッと笑った後に、

 

 

「おう、任せとけ!」

 

「当然よ。ソンこそ、少し黙って休みなさい。見ているだけで痛々しいわ」

 

 

 ラムはそう言いながらも、杖を構えたまま周囲を睨み続ける。

魔獣達は未だ森の闇に潜み、赤い瞳をぎらつかせていた。

 

 だが、その動きは明らかに鈍っていた。

 

 統率はない。

先ほどまでのような不気味な連携もない。

 

 

「へへ、じゃあ、頼んだ…ぞ……」

 

 

 瞼が重い、意識が遠くなる。

だが、死にはしないだろう。死ぬわけにはいかない。ただ少し、眠るだけだ。

遠のく意識の中で、悟空は最後にもう一度だけ森の音を聞いた。

 

風の音と、その風に揺れる木々の音。

その中に、ほんの微かに――子供達の声が、聞こえた気がした。

 

 そして、そのまま意識は闇へ沈んでいった。

 

 

 

──────次回へ続く。

 




リゼロのアニメ、ついに第六章が本番に入ってきましたよね。詳しくはネタバレになるので言えませんが、とてもリゼロらしさが出てた良い回だと思いました!
なぜウルガルムが再生能力を持っているのか、という疑問については次回触れたいと思います。ですが、自分の妄想99%なので、寛大な目で次回も読んでくれると嬉しいです!!

見ているもの

  • リゼロだけ
  • ドラゴンボールだけ
  • どっちも見てる
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