独立傭兵ヴォルフ・シアン   作:何之

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やってみたいので初投稿です。


「Ⅵが目覚めた」

その日は酷く眠かった。

いや、毎日寝落ちしてるから眠くないわけがない。

 

いつもと同じことをしていただけだ。何も特別なことはしていない。

そう、いつもと同じ……同じようにNESTをしていた。

 

パイロットネーム:ヴォルフ・シアン。

機体名:TR-1 HAZEL[]。

いつもと変わらないエンブレムを付け、いつもと変わらないティターンズカラーの機体を駆り、いつものようにランクマをしていた。

 

機体構成を再確認し、チーム戦ならTA(ターミナルアーマー)をもう一度確認して、マッチング開始のボタンを押す。少し待ったらどこかの誰かとマッチして、レートを賭けてお互いの実力と機体相性のぶつかり合いが始まる。シングルなら一対一、チームなら三対三。

これがひどく面白い。楽しい理由に言葉は不要だ。システムの文句は絶えないが、それでも皆「アーマードコア」という唯一無二のゲームに心を惹かれ、遊び続ける。

傍から見れば異常者の集まりに見えることだろう。チーターを無料DLC扱いしているだの、ラグ過ぎる海外勢だの、ステーキをパンケーキと空目し飯テロを行っているだの、「ヒィ!スイヤセン!」なんて本心から謝っているのか怪しい謝罪だの。

それでも彼らは、本気で戦いに身を投じている。勝負ひとつに一喜一憂しながら、勝てないと悩み、対策し、やがて自らの定めた目標まで辿り着く。その工程を繰り返し、やがてはドミナント、更に行けばアベラント、そして最高峰のイレギュラーの称号を得る。それはとても美しく、憧れの対象なのだった。

 

無論、自分だってイレギュラーに憧れがないわけではない。

いつか自分もそんな境地に辿り着くことができれば、どんなに良いだろうか。

 

でも流石に諦めてしまった。結局自分には無理だ、そんな熱量はない。そう決め込んで、いつしか上を目指すことを諦め、今は惰性混じりにランクマを回している。

別につまらなくなったわけじゃない。むしろ、勝ちに拘らずにシングルを回すのがこんなに気楽だとは思ってなかったから、多分これからも楽しくやっている。チーム戦は話が変わるので、真面目にやるし、割と勝ち負けに拘らずとも変わらず楽しいが。

 

その日も変わらず、楽しくランクマをしていた。眠気が、体が限界だ、と教えてくれるまで。ただ、その限界が来るのが恐ろしく早かった。

いくら若者といえど、こんな生活を繰り返していればツケも回ってくるか。そんなことを考えながら、珍しくベッドに潜り込んで目を閉じた。

 


 

 

≪突入カプセル 起動≫

≪第二ブースター燃焼開始≫

≪ブースター燃焼終了 パージ≫

 

≪落下開始 着地地点計算中≫

≪着地まで 残り1000m≫

 

≪残り 800≫

 

≪残り 600≫

 

≪間もなく着地≫

 

 

 

ドォン!!!

「わああああ!!」

 

「えっえっえっ!? 何何何!?」

 

≪ISB2262 惑星ルビコン3に着陸≫

「ルビコォン!?!?!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

30分経った。

 

何も変わっていない。

変わらず、目の前にはあまりにも親しんだHUDが広がっている。

何が起きた?

 

とりあえず自分の体を見る。別人の体、というわけではないようだ。宇宙世紀で見たようなスーツに身を包んでいる以外は、特段変わりはない。

何らかのコードに繋がれている感じもない。スーツのせいで内蔵が圧迫されていて、コックピットに拘束気味になっている程度だ。

 

コックピットを見る。前方にHUDが広がり、自分の機体が三人称視点で見える。

上を見ると、おそらくコックピットから出られるであろうハッチ。下を向くと、股の位置に脱出装置。両手には操縦桿。

参った。ACはコントローラでしか動かしたことないから、これじゃ操作できない。歩くこともままならな……歩いた。

何故か、体がコイツの動かし方を知っている。試しにブーストをONにする。おお、快適だ。

QBも試してみる。とりあえず前にQBを吹かすと、機体と体がグォン、とGを感じさせながら進む。困ったな、滅茶苦茶楽しい。

 

しばらく機体を自由に動かして10分。機体の操作にも大分慣れ、コントローラで動かしていた時と変わらない動きが出来るようになってきた。と同時に、いよいよ落ち着いてきたので、状況を改めて把握してみる。

場所はグリッド135。奇しくも「密航」と全く同じ場所だ。時刻は昼。

アセンを確認する。

 

右腕 SG-027 ZIMMERMAN(重ショ)

左腕 SG-027 ZIMMERMAN(重ショ)

右肩 Vvc-700LD(レザドロ)

左肩 BML-G2/P05MLT-10(10連ミサ)

 

頭部 EL-PH-00 ALBA(アルバ頭)

コア CS-5000 MAIN DISH(メインディッシュ)

腕部 DF-AR-09 TIAN-LAO(瓦腕)

脚部 VE-42A(ドム足)

 

ブースター BST-G1/P10(P10)

FCS IA-C01F: OCELLUS(オセルス)

ジェネレーター VP-20D(20D)

コア拡張機能 PULSE ARMOR(PA)

 

PBTだ。

間違いない。昨日の夜、カスマで使っていた機体。俺を幾度もランクSに駆け上らせてくれた愛機。

カラーリングも、つい先日購入したメタルロボット魂「ヘイズル改(実戦配備カラー)」をフィードバックした、紫寄りの濃紺と黄、足に白の実戦配備カラー。目の前に――実際にはコックピットの中からだが――自分の愛機が本当に存在して、自分はそれに乗っている。テンション上がるなぁ……

 

身分証を確認してみる。

 

パイロットネーム:ヴォルフ・シアン

ランク:07/A

機体名:TR-1 HAZEL[PB]

 

おお。これはおおだろ。おまけに、エンブレムまでそのままだ。

間違いない。今俺は、あのAC6の世界に、独立傭兵ヴォルフ・シアンとして降り立っている。感激だ。

……ところで、どうしてそんな中途半端なランクなんだろう?オールマインドのことだし、どこぞのサーフ系ボディビルダーのように、ガバガバどころかスカスカなのかもしれない。まぁいいや。

 

状況は整理できた。ひとまずここから出て、外の世界を見に行こう。

ABを吹かし、斜めを向いて連続で、残EN容量に気を付けながらAQBを吹かす。

ガードメカがいたはずだが、残骸しか残っていない。そのどれもが新しく見えた。このマップを重量機で行くのは初めてだからか、それともストーリーミッションを久しくやっていないからか、目的のカタパルトまでが遠く感じる。

 

EN切れを起こさないよう気を付けつつ、やっとカタパルトまで辿り着いた。

カタパルトにアクセスすると、機体がカタパルトに固定されていく。着地地点を確認し終わると、操作権限がコックピットに移る。

大きく深呼吸をする。はやる気持ちを抑えて、機体を前傾姿勢にする。よし。

「シアン、出るぞ!」

思い切りブーストを吹かす。カタパルトがそれに応え、機体を高速で射出させる。

冬を感じさせる白景色が広がる。どこを見ても、雪の白か山肌やグリッドの黒。

 

ゲーム内でハンドラー・ウォルターに言われたことを思い出す。

 

――…この惑星でコーラルを手にすれば

お前のような…脳を焼かれた独立傭兵でも

人生を買い戻すだけの大金を得られるはずだ――

 

機体とコードで繋がれていないし、コーラルで脳を焼かれた記憶も勿論無い。

大金も、身分証を確認した時に所持金を見たが、貧乏に喘ぐようなはした金でも無い。

このまま行けばこれから傭兵生活をするわけだが、よく考えたら目的が無い。ふと、ラスティの台詞を思い出す。

 

――理由なき強さほど 危ういものはないぞ――

 

戦う理由。俺にとってはなんだろうか?

楽しいから、だけでは足りないだろうか。

多分ダメなんだろう。ラスティとフロイトは仲良くはないだろう。

これから始まる傭兵生活の中で、何か見出せるだろうか。

 

 

 

 

 

目的地である、汚染市街に到着する。

よく考えたら、ライセンスを探す必要が無い。完全に無駄だ。

無駄だとは思いつつ、「密航」時と同じように機体残骸を漁ってみる。どれを見ても、既に抜き取られた後だった。ルビコプターの巡回も無い。

真レイヴンの機体残骸のある汚染A*1に向かってみようと、垂直カタパルトをカメラに捉えたその時。

同時に、爆発音が聞こえてきた。見上げると、ルビコプターが撃墜されている。

何が起きたのか見に行きたいが、如何せんこの機体では遅すぎる。やっとのことで汚染Aまで辿り着いた頃には、ルビコプターの残骸の熱も冷め、ルビコプターを撃墜したであろう張本人はどこかに去ってしまった。もしもその張本人がC4-621だったなら、一目見たかったものだ。

 

本来であれば、これからガレージに戻り、オールマインドからユーザー権限復旧の手続きを行い、次の仕事に備えるわけだが……どこに帰ればいいのだ。

621ならウォルターがヘリで迎えに来てくれるのだろう。だがこちらにはそういった者はいない。

ランク圏内だから、元々ガレージを所持しているとは思うが、ガレージに向かう為のヘリの呼び方が分からない。これは困ったと周りをキョロキョロしていると、丁度真レイヴンを輸送していたであろう輸送ヘリが転がっていたので、中を拝見してみる。残骸ばかりしか見られなかったが、幸運にも信号用フレアグレネードを発見した。おまけに識別を変更できたので、自分のパイロット情報を入力して使ってみる。

やがて向かいのヘリが来た。ヘリ内に機体を固定させ、自分のガレージに向かうよう経路を設定。後は飛行機と同じだ。

ガレージに到着するまでそれなりに時間がかかるとのことなので、HUDとモニターの明るさ調整を落として仮眠を取る。これからの傭兵生活に心を躍らせながら、眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目が覚めると、そこにはACのコックピット……ではなく、自分の家の天井だった。

……あれ?

夢だった、ってこと?

 

ひどく楽しい夢だった。まるで現実のようだった。

今でも操縦桿とGの感覚が残っている。というか、目が覚めているはずなのに、夢を見ているような感覚になっている。まるで、今いるこの世界の方が夢である気がする。

 

試しにPCを立ち上げて、Twitter(X)を覗いてみる。確かにツイートが流れているのだが、いまいち文字が読めない。

AC6を立ち上げて、ランクマをしてみる。初っ端から一桁の番号付きとマッチした。

普段ならまず勝ち目のない試合を繰り広げるはずなのに、気付いたら既に、二本先取してストレート勝ちしていた。おかしい。

チムランをしてみる。敵は全員イレギュラー持ちあるいはアベラント持ちで、こっちは訳の分からないアセンをしたアンランク二人。まずナムフン呼ばわりされる格差マッチで、勝てるわけがない。ない筈なのに、気付いたら圧勝していた。おかしい。

ずっとサボっている動画編集をしてみる。気付いたら動画が出来ていて、投稿した途端とんでもない再生数とコメント数を叩き出していた。ここまで行くともう怖い。

 

あまりにも自分に都合が良すぎる世界が、なんだかひどく不気味で、恐ろしくなってくる。世界が自分を中心に回っているんじゃないか、と思うのも仕方なくなってくる。こんなところにずっといたら、廃人になってしまう。いや、廃人になったとしても、全てが都合よく回ってしまうのだろう。

あまりの恐ろしさに、あるいは闘争を求めて、再び布団に潜り込んだ。夢の中で寝たらどうなるのだろう、二度と戻ってこれなかったりするのだろうか、と思いながら目を閉じた。

*1
NESTでのマップ名。一番狭いマップで、パイプが嫌われている




・ヴォルフ・シアン

アリーナ説明文

独立傭兵レイヴンの活躍が明るみに出た頃
同時期に名が売れ出した独立傭兵

彼が通常の依頼を好んで受けることは稀であり
AC同士の戦いを好んで引き受けている

常に戦いを求める彼には怠け者の一面もあり
今のランクは彼の腕に見合っていない

独立傭兵。アリーナランクは07/A。ナイルの上、スネイルの下。
いつものようにNESTと寝落ちを繰り返していたある日、AC6の世界に転移(転生?)してしまった。
NESTではシングル・チーム共にランクS。シングルの最高レートは1863(104位)、チームの最高レートは1674(16位)。
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