〈上層に行くんだろう? 案内しようじゃないか。
この「灰かぶり」のカーラがね〉
特に苦労することはなく、スマートクリーナーは轟沈した。
違いとすれば、今までの周回時と比べて外傷が多かったことぐらいだろう。もしや、と思いカーラに聞いてみる。
「なんだ、もしかしてもう知ってたのかい? あいつなら、あんたが来るちょっと前にうちの商品を買いに来たよ」
予想通りだったようだ。つくづく余計なことを繰り返すものだ。奴のことだ、何か仕組んでいてもおかしくない。更に問いただすものの、それ以上は顧客情報のため答えられないときた。
正直、あまり面白くない。こちらにはこちらの用意しているチャートがあるのだ。
「レイヴン」
頭の中から声が聞こえる。エアだ。
「あなたが詮索している独立傭兵……ヴォルフ・シアンについて情報を集めました。
どうやら彼は、あなたのルビコンでの活動が明るみに出た頃に活動を開始したようです」
奴のプロフィールとアリーナランクがモニターに表示される。今までの周回では知らなかった人物なのに、いつの間にかアリーナにも掲載されている。腕はあるらしい。その割には、情けない戦績ばかりではないか?
「レイヴン、あなたと彼に……何か関係があるのですか?」
いいや、奴とはしょっちゅうミッション内で出くわすだけで、別に友達でもなんでもない、と話す。
エアは納得しきれないような、だがとりあえず理解できたように相槌を打つ。
「それは所謂、『戦友』のようなものでしょうか? あなたと彼の間には、単なる傭兵同士とは違うように思えるのですが……」
……。
ううむ、吹き出すところだった。
まず奴を戦友と呼ぶには、あまりにもこちらの知る
だから、そうだな……要注意人物だ、と答える。
するとエアはかなり納得できたようで、
「成程……。レイヴン、よければヴォルフ・シアンについての情報を常に収集しておきましょうか? 情報は力、と言います」
それは心強い、けれども逐一情報を流されてもパンクしてしまうから、重要な情報だけ頼むよ。
「ありがとうございます。それでレイヴン、本題に入りたいのですが……」
べリウス地方。
まだ北西ベイエリアが消失したばかりで、解放戦線は勿論、企業も大抵の傭兵も、発生した状況を整理することに精一杯な様子だった。
しかし一部の傭兵は違った。彼らはコーラルと企業の向かう先を予想し、足早に中央氷原に向かおうとしていた。ルビコン内で活動している傭兵の為のSNSで、先行して中央氷原に向かう者を募集している連中がいたので、早速接触することにしたのだ。
そしてあっという間に出発が決まり、合流地点のアーレア海沿岸部に足を運んだのだった。
海だー! ちなみに山派なので、特別嬉しくはない。河童に攫われるのは嫌だ。勿論天狗も嫌だ。そういう連中は東方だけでいい。
周りには同じように、中央氷原に向かう予定の傭兵がちらほらいる。ACのコックピットでゆっくりしている者、ヘリに寄りかかっている者、すぐにでもこちらに銃を向けて来そうな者。思っているより数が多い。いつどうなるか把握できないので、できれば主催者の近くで状況を見たいのだが、どこにいるのだろうか?
「いいですかぁ!? ここでの戦闘は御法度ですからねぇ!! 皆仲良くするようにぃ!!」
うぉっ! スゲェデカい音!
AC用の大型スピーカーだ。生身で聴くものじゃない。まるでスタングレネードだ。まだ頭がキンキンする。
だがお陰で主催者らしき人物は分かった。ちょっと近付いて傍観させていただこう。
「今回の集団海越えについての情報はぁ!! 専用回線で連絡させていただきますぅ!! くれぐれも口外しないようにぃ!!」
……ダメだ、先に耳がやられる。ACのコックピットで待機しよう。
専用回線を使用するということだったので、チューニングを合わせると、海越え開始までのカウントダウンが表示される。あと10分は待つことになるようだ。ゆっくりしていよう。
「主催者はいるか!?」
「なんですか? こっちは今ちょっと忙しくて……」
「そろそろどうやって海越えするつもりなのか、教えてくれたっていいんじゃないのか!?」
「今その話をしてますんで! 大人しくしててください」
「まさか、用意してないワケないよな……!?」
「勿論用意はしています、……数が足りないだけで」
「オォイ!! 今なんつったぁ!!」
「だから!! 大人しくしてろっつってんだルルォ!? それともなんだ、お前が試作カタパルトの記念すべき一人目の有人飛行者にでもなるかオォン!?!?」
「えっ、なにそれは……(困惑)」
嫌な単語が聞こえてきた。
海越え開始の予定時間になった。ドデカい船が4隻、ドデカいヘリが3機。よく用意したものだ。専用回線から主催者の声が聞こえてくる。
「さて、これで海越えをするわけですが……予定よりも遥かに多くの方がご参加くださった為、全員を乗せることができません」
オープンボイスチャットが一気に騒がしくなる。
「そこで! BAWSの方々に協力を煽り、こちらのAC用試作カタパルトをご用意しました」
大型の専用車両が6台現れる。後部車両には巨大なカタパルト。
「カタパルトのマニュアルを渡しておきます。船に乗れるのは16機、ヘリは6機です。じゃんけんででも決めてください」
んな雑な。ボイスチャットから罵詈雑言が飛んでくる。皆が一通り言いたいことを言い終わり、チャットが落ち着いた頃、いよいよどうやって順番を決めるかの話し合いが始まった。
この大人数でじゃんけんなんて、どう考えても決着がつかない。そこで傭兵の一人がこう言った。
「おい! この中でシミュレーションルームを貸し出せる奴はいるか! 俺達は傭兵だろう、傭兵なら勝ち取らなきゃならんだろう!」
この案に血気盛んな傭兵達は大盛り上がり。誰が言い出したわけでもないのに、いつの間にかトーナメント表が張り出され、アーレア海沿岸部は突如、大会会場と化したのだった。
戦うのは好きだが、大会なんて堅苦しいのはちょっとやる気になれない。だが全員の名前が漏れなくトーナメント表に書かれているので、やらざるを得ない。そこで、ちょっとしたことを思い付く。丁度先日、カーラから正に「笑える」物を頂いたところだ。
一回戦目、相手はいかにもランクBといったへんてこなアセン。きっとバズーカが好きなんだろう。やる気十分のようで、しきりにこちらの名前を呼んでは、「怖気付いたか! さっさと出て来い!」と騒がしくする。お陰で周りからの視線が痛い。分かった分かった、今行ってるから待っててくれ。
シミュレーションルームの模擬コックピットに座る……のは俺ではない。この球体だ。
見た目はハロ……いや、サザビーの脱出ポッドによく似ている。
「あぁん? なんなんだぁ、そいつは?」「お前がヴォルフ・シアンだろう、お前が戦うんじゃねぇのかよ!」「代行かぁ~~?」
「まぁ落ち着いてくれ。俺の今回の海越えの目的は、こいつを中央氷原に連れていくことだ。よって、こいつが戦い、船やヘリに乗せてもらえる権利を勝ち取ることは、間違ってはいないはずだ」
そう言うと、騒ぎは少し落ち着いたように見えた。
対面のランクBも、
「へっ! この時代に無人機だとよ! 面白い、そのボール野郎が人間様に勝てるってのなら、見せてみな!」
とやる気だ。ならば誰も止める必要はないだろう。試合開始だ。
≪U1 オペレーションを開始します≫
こちらの機体は所謂カニ軽四。ネビュラに太陽守、150ジェネとオーロラの組み合わせ。テンプレ外のアセンを完封するには丁度いいだろう。実際、ぼーっとしてたらいつの間にかノーダメでストレート勝ちしていた。
「こいつ、強すぎる……。いや違う、機体の相性で負けたんだ!」
「だが負けは負けだ」
「分かってんだよそんなのは! お前のそれ、本当に無人機かよ……!?」
「こいつについては企業秘密だ。申し訳ないが、何も話せない」
予想通り、UNACのブラックボックスを詰め込んだこの球体は、破竹の勢いでトーナメントを上り詰め、あっという間に決勝戦まで勝ち上がった。この球体の中身は、カーラに預けたUNACの中身の複製だ。解析が進み、複製を作れるようになったので、その複製を入れるための殻をガラクタの山から見繕い、こうしてこちらの元まで届けてくれたのだ。しかもこれは、ACのコックピットに接続することで、従来のUNACのように機能する。持ち運び可能なOS、といったところだろう。
受け取る際にチャティから聞いた話では、このUNACは成長するらしい。その為、こうやって大勢と戦わせるのは好都合だったのだ。成長するOS……まるでガンダムだ。まさか、サザビーの脱出ポッドに入れたのは、そういう……?
しかしさっきから歓声が凄い。決勝戦は大盛り上がりだ。さて、戦況は……こちらが不利……!?
相手はお手本のような中二重ショ。よく見ると、盾の扱いがかなり正確だ。ネビュラを避け太陽守の直撃を避け、じわじわと距離を詰めてきている。これはかなりの手練だ。動きをよく見ていると、ABの挙動が少しおかしい。こちらの機体に向かって真っすぐ飛んできているのではなく、引いているエリアの先に向かって飛んでいるように見える。成程、ソフロAB*1か。
只者ではないぞ……。こういった、所謂上位勢が普通に知る実践的な技術を用いてくる奴は、この世界ではおそらく初めてだ。勿論、621はイレギュラーだから置いておく。
レレレをしているものの、重ショを食らって、少しずつカニ軽四のAPが削れていく。UNACのポッドに耳を傾けると、かなりの爆音でファンが回っている。こいつも限界らしい。そしていよいよENが切れ、自由落下の無防備な状態になったところを、片手の重ショのクリーンヒットを受けてスタッガーしてしまう。うーんこいつは勝てないな、と画面から興味が失せかけた瞬間、相手が重ショを放り投げ、空いた拳を握りしめてきた。
パンチコンだと!?
パンチと重ショを交互に使い、スタッガーを延長させながらダメージを与えていく。カニ軽四は中二などと比べればやはり脆く、有利状態で接近できれば勝ったも同然だ、と考えている。だから、ここまで入念に勝ちを取りに行くこの対戦相手は、余程の上位勢なのだろう。勝利をより確実なものとするために、迷いなくパンチコンを選択できるのだ。UNACはPAを張る余裕もなく、程なくしてAPが0になり、敗北。
こんな奴が独立傭兵ということはつまり、いつ実戦で敵として現れてもおかしくない。せめて名前を覚えておこう、とプロフィールを覗く……!?
馬鹿な!?
なんでnuさんが!?
それは、本来の現実だった元の世界で、かなり世話になった男の名前だった。
こうなるといよいよ、この世界では元の世界で活動していたプレイヤー達が、全く同じ名前と機体で、元の世界と同じように活動している可能性が確実なものになってきた。
問題は、こちらの見知った実力とかけ離れている、ということだ。記憶が正しければ、nuという名のプレイヤーは、それなりの実力で、だが研鑽と謙遜を怠らない男である。だが今戦った者の動きは、まるでドミナントだ。訳が分からない。
目の前の情報と頭の中の混乱を、なんとか整理しようと固まっている間に、nuさんはいなくなってしまった。また会えるだろうか。いや、きっと次に会う時は敵だろう。
大会は終わり、上位の傭兵達が次々と船やヘリに乗り込んでいく。
下位の傭兵達はがやがやざわめきながら、カタパルトの順番待ちを始めた。
自分のヘリを、UNACのポッドと一緒に船に積み込む。最後にUNACをスタッフに渡し、自分も乗り込もうとした時。スタッフが手のひらを正面に突き出し、ストップサインを出してきた。
なんだ? 淫夢バッジなら持ってないぞ、と言おうとしたが、スタッフが先に口を開いた。
「あなたは対戦放棄したので乗り込めません」
ん?
「ちょっと待ってくれ、どういう意味なのかいまいち……」
「戦ったのはあくまで、今受け取ったポッドです。あなたが戦ったわけではないので、乗れません」
「えっ」
「あなたはあっちですよ。安心してください、順番なら取ってあります」
と言って、カタパルトを指さしながら、順番待ちのチケットを渡す。
「噓だろ……」
チケットには、「1」の数字が、でかでかと書かれている。
「カタパルトの使用経験は?」
「ないです」
「では私が言うことを覚えてください。
必ずコックピットには深く座り、決して動かないように」
機体がカタパルトに固定されていく。
せめてもの対抗策としてPBTにしているが、あまり意味はなさそうだ。むしろ、重たい機体を確実に中央氷原に届ける為、追加のブースターキットを増設している。
≪機体固定終わりました。ブースターも問題ありません≫
≪パイロット、聞こえるか。こいつはあくまでも試作だ。精々神に祈っててくれ≫
「GO is GOD」
≪あぁ? まぁいい、カウントダウン開始≫
ブースターが点火し、振動が伝わってくる。
≪3≫
早くなぁい? 3からスタートとか、レースゲームか何か?
≪2≫
ちょ、ちょ、ちょっと待って下さい!
≪1≫
待って! 助けて! 待って下さい! お願いします!
≪0≫
ワアアアアアアアア!!!!!
抑圧されていたブースタの推力と共に、カタパルトが勢い良く射出される。その速度や、およそ2000km/h。目の前の景色がみるみる変わっていく。あまりの速度に、機体の姿勢制御が負け始めている。意識が途切れ始めた。
これをしたくなかったから、RaDに行った時に海越えしなかったんだぞ。ギリギリの意識でそんなことをぼやき、あとは覚えていない。
「レイヴン、独立傭兵ヴォルフ・シアンについての情報が入りました。
どうやら彼は、BAWS製のカタパルトでアーレア海を横断し、一足先に中央氷原入りしたようです」
……あいつは何をやっているんだ? カタパルトで海越えなんて、正気の沙汰ではない。カーゴランチャーのほうがずっと良いだろうに。
nu
ルビコンにて活動している独立傭兵
地道な努力を続け 今の実力を手に入れている
独立傭兵のプロモーション活動にも携わっており
たまに戦闘映像を投稿しては 高評価を得ている
https://matteosal.github.io/ac6-advanced-garage/?build=68-68-4-83-128-130-159-178-192-209-217-228