作者がデートした事ないから書くのにめっちゃ苦労した。
職場体験を二日後に控えた土曜日の朝。
緑谷出久は布団の上で体育座りしながら震えていた。
「ど、どうしよう・・・どうしようどうしよう・・・! 約束の時間まであと三十分しかない・・・!」
A組で最初に界離と“デート演習”をすることになった緑谷出久は母と相談しながらデートプランを考え、ネットで「初デート 服装」「男子が喜ぶデートプラン」などを検索し、寝不足になりながら一週間を過ごしていた。
しかし――前日の夜、最も重要な事実に気づいてしまった。
「「服が・・・無い!!」」
緑谷出久の私服は、ほぼ全てが典型的なダサT。
“灰色地に黒で『勝負服』”とプリントされた例のアレを筆頭に、謎の英語Tシャツや、通販で買った“機能性重視”の服ばかり。
これでデートに行くなど、女子の名誉に関わる。
(終わった・・・僕の人生・・・)
母の服を借りようとしたがサイズが合わず、近所の店は開店まで一時間以上。
どう考えても間に合わない。
緑谷出久は床に崩れ落ちた。
「あれ、誰だろ・・・?」
恐る恐るドアを開けると――
「やっほー♪ まだ時間あるけど、来ちゃった☆」
「ゆ、ゆゆゆ結城君ッッ!!??」
界離が立っていた。
朝日を背に、爽やかな笑顔。
緑谷出久の心臓は一瞬で跳ね上がった。
「さ、ささ・・・あ、アガッテクーダサイ・・・オ、オオオトコノコガウチニ・・・!」
「オオオカ~サン、オチツイテ」
出久と引子さんは緊張のあまり片言になっていたが、界離は優しく微笑んでくれた。
「それにしても、どうしてこんな時間に?約束までまだあるはずだけど」
「実はさ・・・憧れてたんだ。デートの前に、彼女の家におじゃまするの」
「~~~~ッッ!!」
“彼女”という単語が脳に届いた瞬間、出久の顔は真っ赤を通り越して湯気が立った。
引子さんも、娘がいつの間にか男子とこんなに仲良くなっていたことに感極まって泣きそうになっている。
「そ、それじゃあ・・・お母さん、お邪魔かもしれないから・・・二人でゆっくり――」
「あ、あの・・・お義母さんも、ぜひ一緒にお話ししませんか? 彼女のお母さんと話すのも・・・憧れなんです。ダメですか?」
「は・・・はい・・・!」
引子さんは顔を真っ赤にして即答した。
その後しばらく、界離と引子さんは“緑谷の話題”で盛り上がり続けた。
「出久、学校ではどんな感じなんですか?」
「すごく頑張り屋さんですよ。授業中も、訓練中も、誰より真剣で・・・俺、尊敬してます」
「そ、そんな・・・!」
出久は恥ずかしさのあまり、顔が真っ赤を通り越して黒くなった気がした。
(や、やめて・・・死んじゃう・・・!)
「あ、もう時間だ! 行こう結城君!!」
これ以上ここにいたら心臓が止まる。
出久は界離の手を掴み、強引に外へ連れ出した。
界離は一瞬驚いたが、すぐにとびきりの笑顔を向けてくれた。
「じゃあ行こうか」
(やばい・・・心臓が・・・!)
出久は過呼吸になりかけた。
「おい!緑谷たち行ったぞ」
「よし追うぞ! あんま近づきすぎるなよ・・・バレたら終わりだ」
「君たち、付け回すのは止めたまえ! デートをする男女を付け回すなど、ヒーローを目指す者の風上にも――」
「だったら帰っていいのよ飯田ちゃん。来てるってことは気になるんでしょ?」
「あら勝巳ちゃん・・・あなたも出久が気になって?」
「まあそんなところです、引子さん」
少し離れた場所からクラスメイト+母が覗いていることに、出久は気づかなかった。
遊園地の開園時間。
緑谷たちはなぜかショッピングモールの洋服店にいた。
「ごめん出久。ちょっと寄りたいところがあって」
「う、うん・・・!」
(やっぱり・・・僕の服、ダサいよね・・・)
緑谷が落ち込んでいると――戻ってきた界離の姿を見て、思考が停止した。
界離は、緑谷が着ている“灰色地に黒で『勝負服』とプリントされたダサT”と同じものを着ていた。
「結城君・・・その服って・・・」
「へへ・・・“ペアルック”ってやつだよ。折角の初デートだからさ・・・こういうのもやってみたくて」
界離は頬を赤くして頭をかいた。
(・・・死ぬ・・・)
出久の心臓は、今日何度目か分からない悲鳴を上げた。
「てことはよぉ・・・おいらたちもダサい服着てデート行けばペアルックできるってことか!?」
「それは止めといた方がいいわ峰田ちゃん。界離ちゃん、着ない服を箪笥の肥やしにするの嫌うから」
「それにワザとらしスギデース。いくら結城サンが天然でも、二十人全員ダサかったら疑いマースよ」
「じゃあペアルックは緑谷だけの特権か〜。いいなぁ」
「どどどうしよう・・・結城さんのご家族に連絡した方が・・・」
「落ち着いてください引子さん。あいつはあれで平常運転ですから」
「麗日さん、あなた泣いてるの?」
「・・・泣いてない・・・泣いてないもん・・・」
「あらあら・・・」
出久は視界の端に彼らを捉えたが、脳がキャパオーバーで幻覚だと思い込んだ。
その後のデートは――緑谷にとって“生きている心地がしないほど幸せな時間”だった。
「ひゃあああああああ!!」
「出久、意外と声大きいんだね!」
(やめて・・・恥ずかしい・・・!)
「高いね〜」
「う、うん・・・!」
界離が隣に座っているだけで、出久の心臓は限界を迎えそうだった。
「回すよ〜!」
「ひゃあああああああ!!」
「緑谷、写真撮ろうよ」
「えっ!? あ、うん・・・!」
界離が自然に肩を寄せてくるたび、出久は寿命が縮んだ。
遊園地のフードコート。
甘い匂いが漂う中、緑谷はメニュー表を見つめながら震えていた。
(ど、どうしよう・・・! お昼・・・何食べるか・・・私が決めるの・・・!? え、え、え・・・!)
界離はそんな出久の様子を見て、優しく微笑んだ。
「出久、食べたいものある?」
「えっ!? あ、あの・・・えっと・・・」
出久は必死に脳を回転させた。
しかし、緊張でまともな思考ができない。
(な、何か・・・何か言わなきゃ・・・! デートっぽい・・・可愛い・・・やつ・・・!)
そして――出久の口から飛び出したのは、自分でも理解不能なナード発言 だった。
「く、クレープ・・・半分こ・・・とか・・・どうかな・・・? ほ、ほら・・・半分にすれば・・・割り勘にできるし・・・カロリーも・・・し、幸せも・・・半分こ・・・できるし・・・」
(言ったぁぁぁぁぁぁぁ!!? なにそれ!?なにそれ!? ナードすぎる!! 死ぬ!!)
出久は顔を覆いたくなった。
しかし――
「・・・いいね、それ!」
「えっ?」
界離は、本当に嬉しそうに笑った。
「半分こってさ・・・なんか“デートしてる”って感じするよね。出久がそういうの言ってくれるの、嬉しいよ」
「~~~~ッッ!!」
出久の心臓は今日一番の悲鳴を上げた。
界離は続ける。
「それに・・・緑谷のそういうところ、好きだよ。
真面目で、考えすぎで、でも一生懸命で・・・
“幸せも半分こ”って発想、すごく緑谷らしい」
(し、ししししし死ぬ・・・!)
出久はテーブルに突っ伏した。
界離はそんな出久を見て、くすっと笑いながらクレープを注文した。
「じゃあ、半分こしよ。出久が選んだ味でいいよ」
「えっ!? あ、あの・・・じゃ、じゃあ・・・い、苺・・・で・・・」
「了解。じゃあ、幸せ半分こだね」
「~~~~~~!!」
出久は、クレープが来る前に寿命が尽きそうだった。
「楽しかった〜。出久はどうだった?」
「えっ!? うん、楽しかったよ!」
本当は緊張と胸キュンの連続で
何をしたかほとんど覚えていない。
ただ――界離の笑顔だけは、鮮明に焼き付いていた。
「じゃあ、また学校でな」
「うん・・・またね」
界離の姿が見えなくなると同時に、出久は母とクラスメイトたちに根掘り葉掘り質問攻めにされた。
――もちろん、界離には秘密である。
「た、ただいま・・・」
玄関の扉を閉めた瞬間、緑谷出久はその場にへたり込んだ。
足は震え、心臓はまだ暴走中。
顔は熱く、頭はぼんやりしている。
(む、無理・・・今日・・・生きて帰ってこれたの奇跡じゃない・・・?)
靴を脱ぐ気力すらなく、そのまま床に倒れ込んだ。
「出久!? だ、大丈夫!? 救急車呼ぶ!?」
「だ、だいじょうぶ・・・ただ・・・心臓が・・・限界・・・」
「限界って何!? 命の!? 恋の!?」
「こ、恋の・・・!」
「恋のなのね!!」
引子さんはなぜか嬉しそうだった。
「ほら、出久。とりあえずベッド行こ? お母さんが運んであげるから」
「う、うん・・・」
引子さんに支えられながらベッドに倒れ込む。
布団に顔を埋めた瞬間――
今日の界離の笑顔が脳内でフラッシュバックした。
(ああああああああああああああああああああ!!)
出久は布団を抱きしめ、全力で悶え転がった。
「で、出久・・・デートどうだったの?」
「・・・わかんない・・・」
「え?」
「緊張しすぎて・・・ほとんど覚えてない・・・気づいたら・・・終わってた・・・」
「出久・・・」
引子さんは娘を抱きしめた。
「でも・・・でもね・・・結城君の笑顔だけは・・・覚えてる・・・あれは・・・反則・・・」
出久は枕に顔を埋めたまま震えた。
「・・・出久。実はね・・・お母さん・・・」
「?」
「デート・・・録画しておいたの」
「・・・え?」
「ほら、あの・・・“娘の初デートを見守る母”として・・・つい!」
「ついって何!? ついって!!」
「だって心配だったんだもん!!」
引子さんはスマホを取り出し、“覗き見軍団”と共に録画した動画を再生した。
~~~~
(む、無理・・・結城君・・・優しすぎる・・・天然すぎる・・・破壊力ありすぎる・・・)
(あんなの・・・好きにならない方が無理・・・)
(ああああああああああああああああああ!!明後日からどうやって顔合わせればいいの!?)
(ていうか・・・僕・・・結城君の前で・・・あんな・・・あんな・・・!!)
出久は布団の中で足をバタバタさせた。
「出久・・・お母さんね・・・」
「な、なに・・・?」
「今日の出久・・・すっごく可愛かったよ」
「やめてぇぇぇぇぇぇぇ!!」
「結城君、絶対出久のこと・・・」
「やめてやめてやめて!!」
「好きだと思うなぁ」
「ぎゃあああああああああああああああああ!!」
緑谷出久は枕を抱きしめ、ベッドの上で転がり続けた。
その夜、出久は布団の中で悶え転がり続け、結局一睡もできなかった。
翌朝、 目の下にクマを作りながらも、どこか幸せそうな顔をしていたという。