無事潜入し、順調に進んでいたと思われていた作戦。
しかしまさかの事態が発生し、更に壊理ちゃんに迫る魔の手が――
時は少し遡り、界離がレディ・ナガンから死穢八斎會壊滅作戦への参加を却下されていた頃。
とあるテレビ局の会議室にて、重要な会議が行われていた。
「単刀直入に聞こう。次の結城界離氏をメインにした特番の内容・・・アイディアがある者はいるか?」
サングラスをかけたプロデューサーの発言に、手を挙げる者はいない。それもそのはず、何故なら――
「無茶言わないでくださいよプロデューサー・・・まだ前回の特番から一月くらいしか経ってないのに新しいネタなんて出る訳ないでしょう!」
「ましてや貴重な男性・・・簡単に情報なんて手に入りませんよ。そもそも、私たちが特番組めたのもあの時ディレクターが雄英に飛び込まないことを選んだからなんですから」
カメラマンとレポーターが無理難題を求めるプロデューサーに反論し、会議は再び袋小路に入る。
「いっそのこと、結城界離君と彼の推しヒーローのトークショーでもどうです?」
結局会議が纏まる事は無く、ディレクターの仮案で話が進むことになった。
ゲストのヒーローが、Mt.レディ*1、ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ*2、リューキュウ*3、ファットガム*4、インゲニウム*5、ミルコ*6、セルキー*7、ミッドナイト*8の十一人とかなりの大所帯であるため実現したらかなり盛り上がるだろう。
え?何故十一人もいるのかって?
結城界離は基本ヒーローは皆推してるが、さすがに全員同時に応援し続けるのは難しいため一年ごとに一人(一組)を全力で応援するスタイルを取っているのだ(by結城愛狸)
深夜の某所――パソコンの画面から漏れ出る光とスクリーンに投影された映像が光源の暗い部屋で、二人の人間が会合していた。
「明日の突入作戦が好機だ。出来るだけ乱戦にし、事故を装って目標を始末しろ」
「この少女もオーバーホールも、個性消失弾の実物もデータも全て闇に葬り去るんだ」
眼鏡をかけたお年を召した女が、感情を感じさせない淡々とした物言いで目の前の青年に命令する。
「了解・・・と、言いたいところですがやっぱり分かりませんね。オーバーホールはともかく、この少女は鍛えればこれ以上ない有能な駒になると思われます。この子の処遇だけでも再考していただくわけにはいきませんか?」
青年が女にスクリーンに映る少女、壊理の助命を嘆願する。
「ダメだ。未完成とはいえ既に個性消失弾の実物が完成した以上、この少女も生かしておくわけにはいかん」
「先人たちが築き上げた希望を、社会の安寧を維持するため・・・ですか?私見ですが、この子のように
「・・・分かっていると思うが、仕事を放りだすというなら」
「放り出すつもりはありませんよ。ただ、一つ聞いても良いですか?」
言外に反論は許さないと態度で表す公安委員長に、予想通り全く聞き入れられなかった事に落胆する暇もなく界離は問いかける。
「あなたの考える一番の悪って何ですか?」
「?・・・社会の安寧を乱す者だ」
「そうでしたか・・・では失礼します」
退出した界離は、周りに誰もいないのを気配と結界でしっかりと把握した後ハイライトの消えた目で公安会長を見下ろす。
「俺の考える一番の悪は、
頭を押さえつつ体を痙攣させて倒れた会長の姿を眺めてほくそ笑む界離は、部下に運ばれていく会長をざまあみろと見下しつつ後戻りできない場所に来てしまった己を自嘲するのだった。
職場体験四日目の早朝。
結界で壊理に変身した界離が計画通り治崎に捕まり、死穢八斎會の事務所に連れていかれる。
『こちらロビン。予定通りオーバーホールに捕まりました。壊理ちゃんは?』
『了解した・・・壊理ちゃんはミッドナイトたちと共にリニアに乗って静岡に向かっている。順調にいけばこちらの突入予定の八時半には君の寮に到着しているだろう』
『了解。こちらは死穢八斎會事務所のスキャンを続ける』
結界で作った通信機でナイトアイと連絡を取り、別動隊の動きを把握した界離は治崎に引っ張られるまま原作通り地下施設に連れて来られる。
(原作通り地下はあるか・・・組長はあそこで、個性消失弾のデータはあそこか)
結界で事務所内と地下施設をスキャンし、ナイトアイの元に転送した界離は時間を確認する。
「(動くにはちょうどいいか)ねえ・・・あなたは、個性を消して何がしたいの?」
壊理ちゃんのふりをしながら分かり切っている事をあえて聞く界離。
「何度も言ってるだろ、個性なんてものは病気だ。そんなものがあるから自分が何者かになる・なれると本気で思いあがれる・・・嘆かわしい事だ。だかr」
「それはちがうよ、治崎廻」
いつもと様子が異なる壊理の様子を訝しみつつも、持論を悠々と語る治崎に我慢できなくなった界離は遮るように反論を述べる。
「人は誰でもなりたい自分を持っている。それに近づくために、常に走り続けているんだ!」
「その想いに、個性の有無は関係ない。俺もあんたも、皆同じだ!」
雄英のクラスメイトやこれまで出会った人たちの姿を脳裏に思い浮かべながら、治崎の顔をまっすぐ見つめる。
「あんたもそうだったんじゃないのか!?誰かの力になりたい。あの人の役に立ちたいと思って必死に頑張った事があったんじゃないか?それこそ、
界離の言葉で治崎の脳裏に個性で植物状態にした組長の姿が浮かび、瞳が動揺で揺れる。
「お前壊理じゃないな・・・何者だ?」
「俺は・・・来たか」
あれだけ啖呵きった以上もう誤魔化せないと諦め正体を明かそうとした矢先天井から振動と大きな音がし、A班が突入開始したのを感じ取る。
『若頭!ヒーローと警察が』
「ちぃッ!もう来たか。玄野、実物とデータを集めてdッ」
「逃がさんッ!三連釘パンチ!お前もだ!」
構成員の報告を受けた治崎が玄野に命令し逃げ出す準備を始めようとしたが、注意が逸れたのを逃す界離ではなくすかさず釘パンチを治崎は顔に、玄野は腹に、それぞれ叩きこむ。
壁に叩きつけた二人が落とした通信機を踏んで壊した界離は、玄野の個性発動に必要な髪をカットし警官から(無断で)拝借した手錠を手足にかける。
「くろ」
「おっと、動かねえほうがいいぜ。まあ動いてくれたほうがコッチは楽だがな」
個性でダメージを無効化した治崎が立とうとしたが、小さな爆発を連発させた手を爆豪に突き付けられ動きを封じられる。
周囲には爆豪だけでなく他のヒーローたちも集結しており玄野は連行されている。
「お前・・・三日前のあの男だな」
「正解。気づくのが少し遅かったね」
ようやく目の前の壊理が偽物だと気づいた治崎を見下ろしながら変身を解いた界離が
「どうする?俺としてはここで降参してくれたら有難いんだけど・・・ああ、個性を使おうって考えても無駄だよ。相澤先生がいる以上個性は使えないよ」
無駄だと分かる相手ではあるが、建て前上一応聞いてみる界離。その問いに、治崎は嗤う。
「降参?・・・勝った気でいるのか。病人どもが」
「ああッ!今なんつった!?」
挑発に切れる爆豪に怯むことなく、治崎は界離たちを嘲笑う。
何故そんなに余裕でいられるのか?
考えを巡らす界離に突如、
「今の感覚・・・まさか!?」
「そうさ!貴様らが来ると情報提供があったからな!この地下全体に散布させてもらったよ」
他の皆も同じ感覚に襲われたのか、個性を使おうと試してみて使えなくなっている事を正しく理解する。
「ハッ!だからなんだ。どうせ完成品じゃねえし、個性使えなくなっているのはこいつらも同じだ。先にぶちのめす!」
教師陣を除いて真っ先に冷静さを取り戻した爆豪の啖呵に、轟と緑谷も冷静さを取り戻す。
「それはどうかな?」
治崎のではない声が界離たちの耳に届くと同時に、鋭い物が刺さった感覚が襲いかかる。
痛みを訴える箇所には赤青黄色とカラフルな羽毛が刺さっており、毒が塗られてるのか痺れが出始める。
「どうなってんだ・・・個性は使えないはずだろ?」
「俺も詳しくは知らんが、どうやら個性じゃないらしい」
黒く太い尻尾でスナイプ先生を、口から吐いたガスでエクトプラズム先生を片付けた玄野が血清を撃ちこみ治崎の個性を回復させる。
「あの姿・・・もしかしてUSJの時の!?」
「お前・・・それをどこで」
変貌した玄野の見覚えのある姿に驚く緑谷と轟を他所に、個性を取り戻した治崎は床を変形させて相澤先生たちをどこかに飛ばし代わりに(女になってる)八斎衆を連れてくる。
「取引相手がお前たちを生かしたまま連れて来いと言っていたのでな、少し痛い目に遭ってもらうぞ」
「そいつはどうかな?こちとら鍛えてますし、個性使えなくても簡単に負ける気はないぞ」
ルミリオン、サンイーター、バクゴー(仮)、トーコ、デク、そして自分を生け捕りにしろと依頼した取引相手について頭の片隅で考えつつ、この場を切り抜ける方法を考える。
ステゴロでも戦えるルミリオンと自分を主力に、波紋が使える緑谷と爆豪がサンイーターとトーコを守りながら脱出し組長を保護するかと作戦を立てたところで、八斎衆のメンバー全員が注射用ガンを取り出し薬品を自身に打ち込む。
「シーゴラスにイカルス星人にベムスター。バラバにハンザギランとレッドキング、キングクラブにゴモラ。そして玄野はジェロニモンそんなのありかよ」
八斎衆と玄野の九人が薬品で怪獣(一部超獣)に変身したことを嘆きつつ、襲い来る八斎衆を迎え撃つ界離たち。
だが数的不利に加え、
「冥途の土産に教えといてやろう・・・外で暴れている
「「何だと!?」
治崎の計画に界離たちは驚かされると同時に、何故相澤先生たちを地上に送り出したのか理解する。
彼らなら、生徒たちが凶悪
(壊理ちゃんを手にかける前なら、組長と組の安全を対価に公安に引き込めたかもしれないのに)
「サー!応答してくださいサー!」
ルミリオンがナイトアイト連絡を取ろうとしたが、繋がらずノイズが響く。
「無駄だ・・・通信は遮断している。お前たちはここで終わりだ」
治崎の合図に合わせて雷、アロー光線、ベムスタービーム、スネークヘルサンダー、爆発性の高い岩石、クラブ光線、超振動波の一斉掃射を始める八斎衆。
狭いうえに隙間がほとんどない攻撃に晒された界離たちは必死の回避も空しく喰らってしまい、ダメージを負ってしまう。
一方地上の死穢八斎會事務所では、追い出された相澤先生たちから状況を聞いたプロヒーローたちが一刻も早く地下に突入しようとペースを上げていた。
ヒーローたちが地下に突入するまで残された時間は――十五分。
「こらー!待ちなさーい!!」
一方その頃の雄英では、波動ねじれと甘露寺蜜璃が壊理を攫った闘牛のような角を生やした赤い髪の女と白髪の褐色肌で一本の角を生やした女を追いかけていた。
不安そうにしている壊理ちゃんを励まそうと、パンケーキを作りに食堂へ二人が行ってる間に侵入した二人組によってミッドナイトを始めとした他の護衛メンバー全員がやられてしまったのだ。
「ねえ蜜璃、あの人たちが昔ロビンを襲った相手の共犯?」
「そうだよ!片方の人は初対面だけど」
「オッケイ。じゃあ、
波動ねじれの個性で放たれる衝撃波は何故かねじれるためスピードはあまりないが、槍のように細く尖らせたこの技は例外的にスピードに優れている。
背中に直撃した赤い髪の女はバランスを崩して壊理ちゃんを手放し、空中に放り出された壊理ちゃんを甘露寺が褐色肌の女を蹴飛ばしつつ抱きとめて距離を取る。
「あなたたち、死穢八斎會のメンバーなの!?ナイトアイさんの資料には、あなたたちの情報なんて一切無かったんだけど」
「我々はただ手を貸しているだけだ。我々の目的のためにも、結城界離が必要なのでな」
「なんで結城君が必要なの?男子だから?不思議」
「答える気はないよぉ~」
壊理ちゃんを庇いながら、正体不明の二人組
「一つだけ訂正が必要だな。必要なのは結城界離だけじゃなくお前たち雄英四天王とデク、バクゴー、トーコもだ」
背後からの声に二人が振り返ると同時に、山羊角の女の大鎌での一振りで吹き飛ばされる。
「さて・・・壊理だったな。私たちと来てもらうよ・・・断っても良いけど、その場合君の大好きな界離くんたちの命は保証できないね」
「ッ!?」
「させないよ!初恋のわななき!」
「チャージ満タン三十%
悪どい笑みを浮かべながら壊理の恐怖心を煽る山羊角の女たちにそうはさせまいと、キュアスイートとネジレちゃんが各々必殺技を放ちながら壊理を取り返さんと駆け出した――瞬間、二人の身体が一時停止した録画映像のように止まる。
何が起こったのか理解できず首を傾げる壊理を抱えながら悠然と二人の背後に回った山羊角の女が指を鳴らすと、止まっていた二人の身体が再び動き出す。
「えッ!?消えた!」
「後ろだよ」
山羊角の女の声を聴いた二人が振り返ると同時に、山羊角の女と赤髪の女が振るう大鎌とトンファーが直撃し吹き飛ばされる二人。
「さて壊理ちゃん・・・大人しく私たちに付いて来てくれるね」
吹き飛ばされた先に先回りした一本角の女がワープゲートを展開し、二人をどこかへと転送し終えたのを確認した山羊角の女が壊理に微笑みながら問いかける。
その姿に治崎廻の姿が重なり、数日ぶりに蘇った恐怖心に逆らう気力を折られた壊理ちゃんは素直に従い連行されていく。
果たして結城界離たちは、絶体絶命の状況を切り抜けられるのか!?
キュアスイートとネジレちゃんはどこへ転送されてしまったにか!?
プロヒーローたちは、治崎廻の罠に嵌って全滅してしまうのか!?
残された時間は――あと十分