怒れる治崎の魔の手が壊理に迫ろうとした時、界離の怒りが爆発する
「はぁ〜・・・」
ビルの屋上のフェンスに背中を預け、界離は昨日から何度目か分からないため息をついた。
「どうしたカイ。ため息ばっかついてると幸せが逃げていくぞ」
隣に腰を下ろしたミルコが、ニンジンジュースを一気に飲み干しながら声をかけてくる。
「まだ昨日のこと引きずってんのか?あれはどうしようもねえことだ」
「分かってます・・・分かってますけど」
界離がここまで落ち込んでいる理由は、昨日の死穢八斎會掃討作戦の終盤にまで遡る。
◇◇◇◇
ジェロニモンを吹き飛ばし、壊理ちゃんに迫る治崎を蹴り飛ばした界離は、彼女を庇うように抱き寄せた。
「よく頑張ったね壊理ちゃん。あとは俺に任せて」
張り詰めていた糸が切れたように、壊理ちゃんの瞳から涙がこぼれる。
界離は逃走用の結界を渡し、上にいるプロヒーローたちの元へワープさせようとした――
「ふざけやがって・・・」
その瞬間、地の底から響くような声が界離と壊理の耳を刺した。
「どいつもこいつも大局を見ようとしない!」
「俺が崩すのはこの世界!その構造そのものだ!」
「目の前の小さな正義だけの感情論だけのヒーロー気取りが・・・俺の邪魔をするなぁ!!」
怒りで顔を歪め、周囲の瓦礫を取り込み巨大化した治崎が、地響きを立てながら迫ってくる。
「Emergency!」
界離は冷静に距離を測り、Fight Rabbitへ変身。
治崎が間合いに入った瞬間、結界で空間を繋げ、蹴りを喉元へ叩き込む。
「がっ!?」
治崎が体勢を崩したところで、背後にワープした界離が
「目の前の小さな正義だけの感情論だけのヒーロー気取り……上等だよ。目の前で泣いてる子供一人笑顔にできないような奴が、ヒーローになんてなれやしないさ」
毒針羽根を放とうとした
「ぐぐ・・・貴様ぁ・・・・・・」
崩れた顔を個性で再生しながら睨みつける治崎に、界離は冷ややかに言い放つ。
「あんたが言ってた“個性は病気”って言葉・・・少しは正しいと思うよ。どいつもこいつも自分を全能だと思い上がって、犯罪に走ったり、弱い者を笑ったり・・・個性がなきゃ何もできないと嘆く奴もいる。ひどいもんさ」
界離の脳裏に、原作で見てきた
「そういう連中へのお仕置きって意味じゃ、あんたの発明も役に立つと思うよ。でも残念なのは――あんた自身もその病人の一人ってことさ。しかも重症のな」
「なにをぉ・・・」
治崎は一瞬、界離が自分に共感しているのかと錯覚したが、次の言葉でその考えを打ち砕かれる。
「壊理ちゃんに地獄のような苦しみを与え続けたり、組長の脳を勝手に弄ったり・・・普通の人間ならそんなことできない。“俺の個性さえあれば治せるから問題ない”って思い上がってるんだろ?ほんと、お前こそが一番の病人で、呪いの子だよ」
「貴様ぁ・・・黙って聞いてれば病人風情が調子に乗ってんじゃねえ!」
公安仕込みの揺さぶりと、目一杯の嫌悪を込めた界離の言葉に治崎の怒りは頂点へ達した。
分解した瓦礫が槍の形へと変わり、無数の鋭い影が界離へ向かって飛ぶ。
界離は体の軸をずらし、紙一重で槍の群れを抜ける。その勢いのまま跳躍し、飛び蹴りで治崎とジェロニモンをまとめて吹き飛ばした。
ワープゲートに叩き込まれた二人は、死穢八斎會事務所の外へと弾き出される。さらに反撃に転じられた八斎衆も次々と吹き飛ばされ、界離を追ってデクたちも集結してきた。
「おのれ・・・どいつもこいつも、個性が無くなっていたくせに!」
「言ったはずだぞ治崎廻。ここにいる奴らは皆、個性の有無なんて関係ない!目の前で助けを求めてる人がいる限り、ぶっ飛ばさなきゃならない敵がいる限り――絶対に諦めたりはしない!」
「お前たちは・・・何者だ」
治崎の問いに、界離は一瞬だけ口元を緩め、すぐに真剣な表情へ戻る。
「聞いて驚け、見て笑え! そして敵どもは慄け!我ら、雄英高校ヒーロー科一年――
「デク!」
「トーコ!」
「バクゴー(仮)!」
「いいね、その名乗り! 俺たちも――ルミリオン!」
「えっ!? あ、さ・・・サンイーター」
「キュアスイート!」
「ネジレちゃん!」
「「雄英高校ヒーロー科三年! 雄英四天王!!」」
界離の勢いに呑まれるように、デクたちも特撮ヒーローのように名乗りを上げる。
名乗りの締めに合わせるように、背後で色とりどりの爆発が花火のように弾け、その爆発を合図に、ヒーローたちと八斎衆+治崎&玄野ペアの戦いの幕が上がった。
「お金のためなんかに、あんな小さな子の命を弄ぶような悪い人たちなんかに!」
「私たちは、絶対に負けない!」
キュアスイートとネジレちゃんが、ハンザギランとシーゴラスを圧倒しながら叫ぶ。
「生きていくうえで大事なものが・・・なんなのか!」
「お前たちは、忘れちゃったんだろ!」
サンイーターは両手をあさりに変化させ、キングクラブと激突。
ルミリオンの渾身の拳は、バラバのハンマーを正面から弾き返す。
「それはな、憧れと」
「夢と」
「諦めの悪さと!」
「正義を愛する心だ!」
トーコが四次元空間を行き来するイカルスを氷で拘束し、デクが黒鞭で引き寄せたレッドキングへ膝蹴りを叩き込む。
バクゴー(仮)は爆破でゴモラの頭部と角を粉砕し、界離はジェロニモンの毒針羽根を毟り取り、治崎へ突き刺した。
そして――
「
「
「オクトパスミラージュ+スコルピウストキシン形態」
「ファントム・メナス!」
「
「
「
「
七人の必殺技が人間を越えた頑強さを備える八斎衆の怪獣の肉体を貫き、大ダメージを与える。
同時にロビンも二丁拳銃を合体させ、高エネルギー弾で玄野と治崎を吹き飛ばした。
「舐めるな病人ども! こっちにはまだ秘策がある!」
治崎は赤い薬品の入った注射ガンを自らに撃ち込み、目を血走らせながら巨大なコンクリートの手を形成。
八斎衆と玄野を貫き、粒子状に分解して取り込んでいく。
「何のつもりだ、廻!?」
「や・・・やめろ! こんなの聞いてないぞ!」
「当然だ! 言ってないからな!」
取り込まれた八斎衆の力が治崎の体を膨張させ、異形の怪物へと変貌させる。
ケンタウロスのような下半身、シーゴラスの面影を残した獰猛な顔――その額からは治崎本人が生えている。
「マジかよ・・・EXタイラントかよ。確かにあのメンツならあり得る人選もとい怪獣選だけど」
ロビンの頬を冷や汗が伝う。
USJのザ・ワン以上に危険な怪物が、そこにいた。
「一斉攻撃だ! あいつを壊理ちゃんとサーたちの元に行かせるな!」
ルミリオンの声は震えていなかった。
だがその奥にある焦りは、ロビンにもデクにも痛いほど伝わっていた。
“あれを行かせたら終わりだ”――全員が同じ確信を抱いていた。
遠距離攻撃が可能な者は技を放ち、近接組はロビンから借りた武器を握りしめる。
誰もが恐怖を押し殺し、前へ出る。
だが――
EXタイラントは、巨体に似合わぬ速度で視界から消えた。
「どこだ……!?」
ロビンの声に、僅かな焦りが混じる。
次の瞬間、視界の端から黒い影が飛び込み、全員の身体に重い衝撃が叩き込まれた。
息が詰まり、思考が一瞬白く染まる。
「素晴らしい力だ・・・これがあれば、最早オールマイトであろうと敵ではない」
治崎の声は、もはや人間のそれではなかった。
力に酔い、破壊に酔い、“自分が世界を変える”という妄信だけが残っている。
「皆・・・大丈夫か?」
ロビンは痛む身体を押し起こしながら、仲間の姿を探す。
ネジレちゃんとキュアスイートは動かない。デクとルミリオンは折れた腕と足を庇いながら、それでも二人を守るように立ち続けていた。
“まだ戦おうとしている”
その姿に、ロビンの喉が詰まる。
「ダメだ・・・ネジレちゃんとキュアスイートが重傷だ」
「こっちも・・・コスチュームの損傷が激しすぎる」
バクゴー(仮)は足が不自然な角度に曲がり、サンイーターは両腕を痛めて震えている。
トーコは必死に氷で応急処置を施し、ロビンは血で視界を曇らせながら、脱臼した腕を無理やり戻して
だが――スーツが応えない。
焦りが胸を締めつける。
“このままじゃ、誰かが死ぬ”
その恐怖が、全員の背中に重くのしかかっていた。
「諦めろ。お前たちはここで終わりd!」
EXタイラントが鉄球を振りかぶる。その軌道は、明らかに“止め”を狙っていた。
皆が歯を食いしばる。
“間に合わない”
その言葉が頭をよぎった瞬間――
「DETROIT SMASH!」
「バーストストリーム!」
二つの大技が巨体に直撃し、鉄球の軌道が逸れた。
助かった――その安堵が胸を満たすより早く、ロビンたちはその声の主を理解した。
「遅くなって済まない! だがもう大丈夫!何故って? 私が来た!!」
その声は、絶望の淵に差し込む光のようだった。デクたちの胸に、熱いものが込み上げる。
“ヒーロー”が来た――
その事実だけで、皆の心が一瞬で立ち直る。
『遅くなって申し訳ありません、ご主人様』
「オールマイト、それにハスキーさん!」
デクの声は震えていた。痛みではない。
プロヒーローたちが次々と集まり、EXタイラントへ総攻撃を開始する。
その光景は、ロビンが前世で何度も見てきた“ヒーローの総力戦”そのものだった。
『皆さん、壊理さんの手を』
フランメ*1に促され、壊理は震える手を差し出した。
怖かった。
自分の力は、ずっと“誰かを傷つけるもの”だと思っていたから。
(でも・・・お兄さんが言ってくれた。“君の力は優しい力にもなる”って)
その言葉が壊理の胸の奥でずっと光り輝き、決意を宿らせる。
“自分も戦う”
“自分も誰かを救いたい”
その想いが蛍のような光となって溢れ出す。
光がヒーローたちの身体に触れた瞬間、痛みが消え、傷が癒えていく。
「もしかして・・・“巻き戻し”?」
ロビンは息を呑む。
壊理ちゃんが、“自分の力を怖がらずに使っている”
その事実が胸を熱くした。
『ええ・・・あなたたちの力になりたいと、こっそり練習しておられたのです。ご主人、皆さん・・・必ず勝利を』
「「ああ!!」」
壊理ちゃんの光が、全員の心に“もう一度立ち上がる理由”を与えた。
「その体は・・・まさか、壊理が個性を!?」
治崎の声には、怒りだけでなく“恐れ”が混じっていた。
自分が支配していたはずの少女が、自分の想定を超えて成長している――その現実を受け入れられない。
「そうだ。力は結局、使う人間次第だ。心の持ちようで、こんなにも優しい力になる!」
ロビンの言葉は、自身の信念そのものだった。
前世で憧れたヒーローたちが教えてくれた“真実”。
治崎は叫び、鉄球を振り回して距離を取る。
その姿は、もはや“世界を変える者”ではなく、“自分の世界が崩れるのを恐れる小物”だった。
「(これ以上の会話は無意味か)指定
ロビンはベルトのホルスターから警察手帳型のサポートアイテムを展開し、罪状を読み上げる。
手帳の表示が×を示した瞬間――
「Delete・・・許可。行くぞ皆!」
「「おう!」
全員の声が重なる。
舐めるなと叫びながら、怒りで目を血走らせ突進してくるEXタイラントを見据えるロビンたちの思いは一つになる。
“ここで勝つ”
“皆で勝つんだ”と。
トーコの
「ファントム・メナス!」
「
「
「
ルミリオンの予測不能な高速移動を交えた拳、デクの連続跳び蹴り、バクゴー(仮)の爆破、ロビンの飛び蹴り――“守りたい”という想いで繋がっていた全てがEXタイラントの身体を貫いた。
「おのれ・・・病人どもがー!!」
EXタイラントは大爆発を起こし、治崎・玄野・八斎衆へと分裂して消滅した。
「これにて一件落着――メガロポリスは」
「「日本晴れ!!」」
治崎たちに手錠がかけられたのを確認し、ロビンが勝鬨を上げる。
“終わった”
その実感が、ようやく胸に落ちてきた。
その後、職場体験先のプロヒーローたちに揉みくちゃにされながら、押し寄せる疲労に界離たちは次々と倒れ込んだ。
「ここで終わってれば良かったんだけどな〜」
戦いの終盤を思い返し、界離の心は晴れるどころかさらに沈んでいく。
“勝ったはずなのに、心が晴れない”
「せっかく新しい力も手に入れて、組長も蘇生させて、治崎から個性も奪えて・・・壊理ちゃんの安全も確保できたのに。あんな結末じゃなぁ・・・」
言葉にすると、余計に胸が痛んだ。
“もっとできたんじゃないか”
“救えたはずじゃないか”
そんな後悔が、界離の心を締めつける。
「そんなに悩むことか?」
レディ・ナガンは、周囲に聞こえないよう小声で囁いた。
その声音は冷静で、どこか突き放すようで――けれど界離には、それが“彼女なりの優しさ”だと分かった。
「治崎廻はどう足掻いても死刑か、良くてタルタロスで終身刑だ。奴の知識が消えるって意味でも、壊理の安全的な意味でも、あの場で死んだのはラッキーじゃないのか」
ナガンの言葉は、事実として正しい。
界離も頭では理解している。
だが――心が追いつかない。
「たしかにあなたの言う通りですよ・・・でも、それでも助けたかった。死んだら、もう罪を数えることも、悔い改めることもできなくなるから」
界離は自分でも驚くほど素直に言葉をこぼしていた。
前世で憧れた特撮ヒーローたちの教え――“悪を倒すだけじゃなく、救う”
その在り方が、界離の中に深く根付いている。
壊理ちゃんの笑顔が、それを思い出させてくれた。
だからこそ、治崎の最期が胸に刺さる。
警察に連行される治崎を、山羊角の女が殺し、その死体にエドマフィラを寄生させられた瞬間が脳裏をよぎる。
あの光景は、界離の心に深い影を落としていた。
「罪を数える・・・か。私の罪は、数えきれるのだろうか?」
ナガンの声は、いつになく弱かった。
普段は冷静で、氷のように強い彼女が、ほんの一瞬だけ“自分の過去”に怯えているように見えた。
界離はその横顔を見て、胸が締めつけられる。
“この人はまだ、地獄を彷徨っている。俺のせいで”
罪悪感という感情が、胸をよぎる。
「一人で数えきれないなら、俺も一緒に数えますよ。・・・ところで、本当にいいんですか? 俺と一緒に雄英に行かなくて」
界離の問いには、心配が含まれていた。
今のナガンを一人にすることが、危険だと思ったから。
「ああ。公安会長が倒れた直後に私とお前が行動を共にしたら、確実に連中は私かお前を疑って監視を増やすだろう。だから今は別行動を取ったほうがいい・・・壊理の安全のためにもな」
ナガンの決意は揺るぎなかった。
界離もその判断を受け入れ、静かに頷く。
「おーいお前ら! さっさと行くぞ!」
ミルコの声が屋上に響く。
その明るさが、重くなりかけた空気を軽くしてくれた。
「今行きまーす! ミルコさん!」
界離が返事をすると――
「・・・界離。あんまりあのウサギと戯れすぎるなよ。私は、かなり嫉妬深いからな」
背中から腕を絡ませ、耳元で囁くナガン。
その声は低く、甘く、そしてどこか危うい。
界離の心臓が跳ねた。
“この人は本気で言っているのか、それとも冗談なのか”
判断がつかないほど、ナガンの瞳は真剣だった。
界離は苦笑しつつも、その言葉が少しだけ嬉しい自分に気づいてしまう。
パトロールを再開しながら、界離は思う。
“どれだけ時間がかかるかは分からないけど、この人を救ってみせる”
そんな想いを胸に灯しながら、職場体験五日目にしてようやく始まった“まともな職場体験”に界離は遅れを取り戻すために駆け出した。
道路に飛び出した子供を助け、押舞高校の不良に絡まれていた異形型個性の女性を救い――
忙しくも充実した五日目を過ごし、界離の職場体験は幕を閉じた。
職場体験編、これにて完結です