時系列的には職場体験終了~期末試験開始の間です
職場体験を終え、期末試験に向けて勉強と訓練に励む雄英高校ヒーロー科一年。
そんなある平日の昼時――蛙吹梅雨、葉隠透、角取ポニー、八百万百の四人は、中庭の芝生で無防備に昼寝している界離を眺めていた。
「Oh・・・結城サン、ぐっすりsleepちゅうですネ」
「無理もありませんわ。ヒーロー科の授業に加えて、大型自動二輪免許に自家用操縦士技能証明、航空無線通信士・・・。資格取得の勉強までされていますもの」
八百万の口からさらりと出てくる“高校生とは思えない単語”だが、ここは国立雄英高校。
敷地内には自動車学校をはじめ、ヒーロー活動に必要な資格を取得できる施設が揃っている。
ヒーロー科生徒なら格安で講習も受けられるのだ。
「ケロ・・・たしか“陸海空対応多目的ビークル”の操縦資格を取るためって言ってたわね」
「I・アイランドの最新技術が盛り込まれてるからね~。サポートアイテムの中でも難易度高いって聞いたよ」
界離の資格勉強の話をしながら、梅雨ちゃんと透は、無防備に眠る幼馴染みの頬をつつく。
その光景を羨ましそうに見ていたポニーが「私もやりたいデ~ス!」と参戦し、界離の頬はぷにぷにと引き伸ばされていく。
「ずっと気になっていましたが・・・蛙吹さんと葉隠さんは、どのように知り合ったのですか?」
界離から“仲良くなったのは小五の夏”と聞いていた八百万だが、出会いのきっかけは知らなかった。
「あら、そういえば話したことなかったわね」
梅雨ちゃんは人差し指を口元に当て、少し照れたように呟く。
透も頷き、二人は“あの日”のことを語り始めた。
――小四の春。
翌月に小五へ進級する三月の出来事。
そして何より、蛙吹梅雨が“結城界離を絶対に手放さない”と決意を新たにした日のこと。
小四の終業式を一週間後に控えた土曜日。
蛙吹家は久しぶりに家族五人で遊園地に来ていた。
朝一で出発し、開園と同時に入園し、夕方眠くなるまで遊び尽くす。
出張が多い両親と過ごせる貴重な一日。
梅雨ちゃんにとっては、胸に刻まれるほど楽しい時間だった。
「ん?・・・あれは誰だ?」
父・頑馬の声に前を見ると、つばの長い帽子を深くかぶり、マスクで顔を隠した不審人物が塀にもたれて座っていた。
やがて相手はこちらに気づき、駆け寄ってくる。
父に近い背丈の人物に、家族全員が警戒した。
「や。久しぶり梅雨ちゃん」
「あなた・・・誰かしら?」
声はマスク越しでくぐもっており、性別も分からない。
梅雨ちゃんは舌を伸ばす準備をしながら睨みつけた。
「えっ!?・・・あ、そうか! これじゃ分からないか!」
相手は慌ててマスクと帽子を外す。
現れたのは――赤みがかった黒髪と瞳。
絵本に出てくる“日の精霊”にそっくりな少年。
「もしかして・・・界離ちゃん?」
「・・・・・・正解ッ!!」
特大の笑顔で両腕を丸く広げる界離。
梅雨ちゃんは呆れ半分、嬉しさ半分で問いかけた。
「界離ちゃん・・・どうしてここに?」
「それはね~・・・じゃじゃーん! 十歳の誕生日プレゼントでゲットしちゃいました!」
胸ポケットから最新型スマホを取り出す界離。
「これ、俺のメールとHineのアドレス。前の手紙で“もうスマホ持ってる”って言ってたから、渡しに来たんだ」
「・・・そんな事のためにわざわざ来たの?」
「うん。“スマホを手に入れたら真っ先に梅雨ちゃんとアドレス交換する”って約束したじゃん。ようやく果たせるって思ったら、居ても立ってもいられなくてさ」
界離の笑顔は、梅雨ちゃんの胸にまっすぐ刺さった。
(・・・変わってない。どれだけ時間が経っても、私が大好きな界離ちゃんのまま)
胸の奥で固まっていた氷が、音を立てて溶けていく。
「どうしたの梅雨ちゃん? 煙出てるけど熱でもあるの!?」
「そ、そんな事ないわ・・・今は私を見ないで・・・」
梅雨ちゃんが赤面している間、界離は父・頑馬に「娘は渡さん!」と追いかけ回されていたが、本人は気づいていなかった。
「ん?・・・やべ! 姉ちゃんからだ」
界離がスマホを取り出すと、狼愛からの着信。
顔が青ざめる。
「出ないんですか界離さん?」
「あっ!? 五月雨ちゃん待って!」
五月雨が通話ボタンを押してしまい、狼愛の怒声が響く。
『カイ!! あんた今どこにいるのよ!?』
「姉ちゃん・・・いや、今目当てのお菓子手に入れたから帰るところで・・・」
「ケロ・・・界離ちゃん、もしかして狼愛さんたちに何も言わないで来たの?」
『今の声・・・梅雨ちゃん!? カイ、今すぐビデオ通話にして!』
観念した界離はビデオ通話に切り替える。
画面には狼愛と愛狸、そして葉隠透の姿。
『呆れた・・・あんた本当に一人で愛知まで行ったの』
「だって早く梅雨ちゃんとアドレス交換したかったもん・・・」
『“したかったもん”じゃないよバカ弟!!』
その後、三十分の説教が続き――その日、界離は蛙吹家に泊まることになった。
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「あの日界離ちゃんが作ってくれた麻婆豆腐、美味しかったわ」
「いいな~・・・私遊びに行ったのに会えなかったし。誕生日に“一番にアドレス交換したい”って言ったら『梅雨ちゃんが一番先』って断られたんだよ?」
透がむくれながら言うと、梅雨ちゃんの胸に温かくも仄暗い感情が満ちていく。
(私が一番・・・界離ちゃんも同じ気持ち。やっぱり私たちは運命の赤い糸で結ばれてるのね)
幼い頃から熟成され続けた独占欲が、甘い未来を想像させる。
「でもあの時の頑馬さん、めっちゃ怖かったんだよな~。『よく俺の娘を誑かしてくれたな・・・よくもよくもぉおおお!!』って包丁振り回して追いかけてきてさ」
「Oh・・・まさに日本のOld Animationに出てくる“頑固親父”ですネ~」
いつの間にか目を覚ましていた界離が会話に混ざるが、誰も驚かない。
「皆さん、そろそろ昼休みも終わりますし教室に戻りましょう」
八百万の声で、四人と一人は立ち上がる。
成りたい自分になるために。
果たすべき使命のために。
今日も彼らは――
その精神で歩み続けるのだった。
鬼滅の刃で好きなシーンはと聞かれたら、炭治郎と鋼鐵塚さんの追いかけっこ(特に那田蜘蛛山戦後の)な作者です