貞操逆転世界のヒロアカー序ー   作:あかんヤー

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実技試験は今話だけで終わらせる予定でしたが、きりが良かったので前後編に分けます


第46話:キバレ!期末試験・前編

 三日間に及ぶ筆記試験を終え、全員無事に突破した一年A組の空気は、張り詰めた糸がようやく緩んだように柔らかかった。

 

「だあ~・・・なんとか突破できた! 俺マジ頑張った!!」

 

 机に突っ伏して脱力する上鳴(期末19位・平均91点)に、界離は買ってきた麦茶を差し出した。

 

「お疲れ。はい、麦茶」

「えっ、いいの!? いいの!? マジで!? 俺だけ!? 俺だけ!?」

「皆にも渡したから大丈夫だよ」

 

 上鳴は周囲を見渡し、自分だけじゃなかったことにショックを受けつつも、麦茶はしっかり味わっていた。

 

(俺が淹れたわけじゃないんだけどね・・・あれ)

 

 天然な轟と、いつも通りの爆豪と、受験戦友組を除いた皆が、パピコでも吸うかのように麦茶を味わっている光景を、界離は少し引きながら眺めていた。

 

◇◇◇◇

 

 筆記試験を突破した翌日。

 いよいよ実技試験が始まった。

 

 界離は緑谷、麗日と共にモニタールームに入り、巨大モニターに映し出される第一試合のフィールドを見つめていた。

 

『第一試合、切島鋭子・角取ポニーペア VS セメントス』

 

 機械音声の実況が響く。

 

「切島ちゃんとポニーちゃんかぁ・・・二人とも頑張ってほしいね!」

 

 お茶子が手を握りしめながら言う。

 

「うん。でも・・・相手はセメントス先生。かなり厳しい戦いになると思う」

 

 緑谷は既に“分析モード”に入っていた。界離も頷く。

 

(切島の硬化と、ポニーちゃんの角砲・・・相性は悪くない。けど、相手が悪い)

 

 都市部フィールド。

 つまり、セメントス先生にとっては“弾切れのないホームグラウンド”だ。

 

『実技試験 開始!』

 

 開始の合図と同時に、切島が拳を握りしめて叫んだ。

 

「よし! ポニー! まずはセメントス先生をぶっ倒すぞ!!」

「オーケーデース!!」

 

 ――原作同様、試験の意味をはき違えていた切島に、モニター越しに界離は額を押さえる。

 

「・・・倒す気満々だね、切島さん」

「うん・・・でも、あれは・・・」

 

 緑谷が苦い顔をする。

 セメントス先生が腕を振ると、地面からコンクリートの壁が次々と隆起した。

 

「来るぞ、ポニー!」

「任せるデース!」

 

 切島は硬化で拳を石のように固め、迫る壁を次々と粉砕していく。

 ポニーは角砲を連射し、壁の隙間を撃ち抜いて道を作る。

 瓦礫が飛び散り、粉塵が舞う。

 

「すごい・・・! 二人とも押してるよ!」

 

 お茶子が安堵の声を漏らす。

 だが、界離と緑谷は同時に首を振った。

 

「・・・このままじゃダメだ」

「うん。切島さんの硬化は持続時間が短い。スタミナ切れしたら一気に押し込まれる」

 

 緑谷が続ける。

 

「それにポニーちゃんの角砲は、攻撃力が決定打に欠ける。セメントス先生の壁を()()ことはできても、()()は難しい・・・」

 

 界離も画面を見つめながら呟く。

 

「都市部でのセメントス先生は弾切れがない。真っ向勝負じゃ絶対に勝てない。・・・でも、ポニーちゃんが気づければ、まだ勝ち目はあるはず」

 

 予想通り、切島の動きが徐々に鈍くなっていく。

 

「はぁ・・・はぁ・・・! くそっ、まだ・・・!」

 

 硬化が解けかけ、拳が赤く腫れている。

 その隙を逃さず、セメントス先生が壁を連続で生成する。

 

「さあ、どうしますか? このままでは押し潰されますよ」

 

 巨大なコンクリートの壁が迫る。

 

「切島さん・・・!」

 

 お茶子が思わず声を上げる。

 

「・・・切島サン。私、考えがありマス!」

「マジか!? どんな手だ!?」

 

 ポニーは一瞬だけもったいぶり――

 

「それは・・・」

 

 角砲を切島の脇に差し込み、勢いよく持ち上げた。

 

「逃げマス!!」

「えぇぇぇぇぇぇぇぇッ!?!?」

 

 切島を抱えたまま、ポニーは全速力でフィールド奥へ逃走を開始した。

 

「撤退しましたか・・・悪くありません」

 

 セメントス先生は淡々とコンクリートを操りながら追いかける。

 

「ですが、逃げているだけでは勝ち目はありませんよ」

 

 壁が次々と迫り、ポニーの進路を塞ぐ。

 

「くっ・・・!」

 

 残り時間は三分。

 追い詰められたポニーは、息を切らしながらも周囲を見渡した。

 

(・・・コンクリートの少ないエリアハ・・・!)

 

 彼女の目が鋭く光る。

 

「切島サン、準備はいいデスか!」

「お、おう! 何する気だ!?」

「奇襲デース!!」

 

 ポニーは角砲を連射し、迫る壁を砕きながらセメントス先生の注意を引きつける。

 セメントス先生は切島の姿が見えないことに気づき、判断する。

 

「・・・なるほど。切島さんはどこかに隠れて奇襲を狙っているわけですね。ならば先に角取さんを――」

 

 コンクリートの壁がポニーを囲むように迫る。

 だが――

 

「今デス!! 切島サン!!」

 

 ポニーが叫んだ瞬間、空中から影が落ちてきた。

 

「うおおおおおおおッ!!」

 

 切島鋭子、空中奇襲。

 

「しまっ――」

 

 セメントス先生が捕らえようと腕を伸ばすが、ポニーが砕いた角砲の欠片が視界を塞ぎ、動きを一瞬だけ止めた。

 その一瞬で十分だった。

 

「決める!!」

 

 切島がカフスをセメントス先生の腕に叩きつける。

 

 カチリと音が響いた。

 

『試合終了。勝者、切島鋭子・角取ポニーペア』

 

 モニタールームがどよめきに包まれる。

 

「すごい・・・! 二人とも・・・!」

 

 お茶子が目を輝かせる。

 

「うん。切島ちゃんの根性と、ポニーちゃんの判断力・・・見事だったね」

 

 緑谷が嬉しそうに頷く。

 界離も微笑んだ。

 

「・・・やっぱり、気づけたね。ポニーちゃん」

 

 画面の中で、切島とポニーがハイタッチを交わしていた。

 


 

 その後、第二試合、第三試合、第四試合、第五試合と進み、危なげながらも皆クリアしていく実技試験はついに第六試合――結城界離・芦戸三奈・上鳴電離ペア VS 根津校長戦を迎えた。

 

「次、結城君たちの試験だね・・・!」

「相手、校長先生だろ? どう戦うんだよ・・・」

「・・・データが無いのが一番怖いわね」

 

 A組全員がモニタールームに集まり、画面を凝視していた。

 今回の試験は特殊だ。

 

 結城界離はサポートに徹することがクリア条件。

 攻撃も決定打も禁止。

 つまり、芦戸三奈と上鳴電気の二人を支えながら勝たなければならない。

 

「界離ちゃん・・・がんばって・・・!」

 

 梅雨ちゃんが祈るように手を握る。

 

「結城さんなら・・・きっと大丈夫ですわ」

 

 八百万が落ち着いた声で言うが、指先は緊張で震えていた。

 

◇◇◇◇

 

 界離・芦戸・上鳴の三人は、工業地帯を模したステージに配置された。

 

「よーし! 作戦会議しよっか!」

 

 芦戸が明るく声を上げる。

 

「まずはさ、接敵したら俺が放電して一気に攻める!芦戸が酸で足場作って、結城は結界で俺ら守る! これで完璧!」

「うんうん! 電気でドーン! 酸でズバーン! 結城君がバリアでガード! ねっ、いい感じじゃない?」

 

 ノリノリな二人を見て、界離は内心で静かに思った。

 

(・・・この空気、緩すぎる。相手は根津校長だよ・・・ちょっと不味いかもしれない)

 

 だが、二人のやる気を削ぐわけにもいかず、界離は小さく頷いた。

 

「・・・わかった。じゃあ、接敵したらその作戦でいこう」

「任せてよ、結城君!」

「俺にビリビリさせとけって!」

(・・・嫌な予感しかしない)

 

 その時だった。

 

 ――ガラガラガラガラッ!!

 

 遠くから、巨大な建造物が連鎖的に崩れ落ちる音が響く。

 

「えっ!? なに!?」

「建物が・・・崩れてる!?」

 

 界離たちは驚いて振り返るが、その“原因”は見えていない。

 しかしステージの別角度では――根津校長が鉄球重機を操り、破壊されていくステージを見上げながら嗤っていた。

 

「さあ・・・どうします?」

 

 その笑顔は、まるでRPGの魔王のようだった。

 

◇◇◇◇

 

「ちょっ・・・校長先生!? やりすぎじゃね!?」

「え、えぐい・・・!」

「これ・・・ヒーロー科の試験だよね・・・?」

 

 A組が震え上がる中、後ろでモニターを見ていたリカバリーガールがため息をついた。

 

「・・・まあ、あれでも昔よりは随分マシになった方じゃよ」

「えっ!? 昔・・・?」

 

 緑谷が振り返る。

 リカバリーガールは、淡々と語り始めた。

 

「根津は昔・・・人間に色々弄ばれてるからね。こういう時、うっかり素が出るね」

 

 A組全員が息を呑み、静まり返るモニタールーム。

 画面の中では、根津校長が鉄球重機を操りながらまるでゲームのラスボスのように嗤っていた。

 

「・・・魔王だ・・・」

「校長先生、完全に魔王だよ・・・!」

「結城君たち・・・勝てるの・・・?」

 

◇◇◇◇

 

「どうするの!? このままじゃ道が全部塞がれちゃうよ!」

「とにかく逃げるしか――」

「ダメだよ、上鳴君」

 

 界離は二人を制した。

 

「闇雲に逃げても、校長の計算に飲まれるだけ。・・・突破口を作らないと」

「と、突破口って・・・どうやって!?」

「・・・作戦がある」

 

 界離の声は静かだったが、確信があった。

 

「え、えぇ・・・? 結城君の作戦って・・・」

「・・・マジで言ってる?」

 

 二人が青ざめる。

 

「これしかないんだ。僕はサポートに徹する。だから――二人がやるしかない」

「・・・わかった。やるよ!」

「お、おう・・・! 結城が言うなら・・・!」

 

 三人は配置についた。

 

「結城君、準備オッケー!」

「上鳴君、放電は合図と同時に!」

「わ、わかった!」

 

 界離が手を上げる。

 

「――今!!」

「放電ッ!!」

 

 上鳴の電撃が背後の爆発物に引火し、巨大な爆発が起きた。

 爆風が三人を前方へ吹き飛ばす。

 

「うわあああああああ!!」

「きゃあああああ!!」

 

 界離は結界で全身を固め、スノーボード板のように姿勢を固定した。

 

「いくぞ皆!!」

 

 芦戸が酸で地面の摩擦をゼロにし、上鳴・芦戸が界離を“板”にして二人乗りで滑り出す。

 

◇◇◇◇

 

 その瞬間、モニターを見ていたA組全員が固まった。

 

「・・・・・・・・・え?」

「・・・ちょっと待って。今の・・・結城君・・・だよね?」

「界離ちゃん・・・踏まれてる・・・!」

「いやいやいやいや!? 結城をスノボにして滑ってない!?」

「上鳴君と芦戸さん・・・二人がかりで・・・結城君を・・・?」

「絵面が・・・ひどすぎる・・・!」

 

 そこへ、リカバリーガールがぽつり。

 

「・・・まあ、あれでも根津の計算から逃げ切れたんじゃ。結城君は・・・ようやっとるよ」

 

 A組全員が、複雑な顔で頷いた。

 

◇◇◇◇

 

 滑走する三人を見て、根津校長は口元を吊り上げた。

 

「ほう・・・面白い。でも――それだけで突破できるかな!?」

 

 その声は、完全に魔王だった。

 

◇◇◇◇

 

 爆風と酸滑走の勢いのまま、三人はゴール地点へ飛び込んだ。

 

 『第六試合――結城界離・芦戸三奈・上鳴電気ペア、クリア!』

 

 モニタールームが騒然となる。

 

「結城君・・・サポートだけでここまで・・・!」

「芦戸さんと上鳴君、よくやったわ・・・!」

「いや、でも・・・あれ・・・絵面が・・・」

 

 上鳴と芦戸は、クラスメイトから袋叩きに遭う未来が確定するのだった。

 


 

 第七・第八試合と順調に進み、第九試合では原作で瀬呂が眠らされてしまった“あの悲劇”も、界離のサポートで回避された。

 

「結城・・・ありがとう! マジで助かった・・・!」

 

「瀬呂が頑張ったからだよ」

 

 そんなやり取りを横目に、モニタールームの空気は次第に張り詰めていく。

 

 いよいよ――第十試合。結城界離・緑谷出久・爆豪勝己 VS オールマイト。

 A組全員が固唾をのんで見守る中、試験前の控室で界離たち三人に通達が入った。

 

「結城、この試合に限りお前の“サポート縛り”は解除する」

 

 相澤先生が淡々と告げる。

 

「全力で挑め。相手はオールマイトだ。サポートに徹する必要はない・・・むしろ全力で戦わなければ勝機はない」

 

 界離は静かに頷いた。

 

(・・・ついに、全力で戦える)

 

 静かに燃え上がっているその横で――

 

「オールマイトをぶっ倒す!! それ以外ねぇ!!」

「無茶だよかっちゃん! 闇雲に挑んで勝てる相手じゃないよ」

 

 オールマイトを倒す気満々の爆豪と、慎重に行こうとする緑谷で揉めていた。

 

「(予想はしてたけど・・・やっぱり衝突しちゃったか。匂いから察するに原作よりはマシな衝突みたいだけど)二人とも、まずは試験会場に行こうか。あんまりグダグダしてると相澤先生に怒られちゃいますよ~」

 

 二人の間に入りながら、試験会場へ向かうバスへ乗るよう促すのだった。

 

~~~~

 

『結城・緑谷・爆豪チーム。実技試験 開始!』

 

 試験開始のアナウンスが鳴り、界離たちの顔に緊張が走る。

 同時に、爆豪が無言で前方に歩き始めた。

 

「あっちゃ~・・・かっちゃん一人でもオールマイトに挑むつもりだよ」

「無茶だよ。オールマイトと闘うにしても、作戦を練らないと」

「黙れよ」

 

 俺たちの言葉を一蹴し、聞く耳を持たない爆豪。

 緑谷が諦めず言い寄りに行くも、爆豪は緑谷を突き飛ばす。

 

「黙れつってんだよ!テメェの力なんか必要ねぇんだよ!!」

「ッ! そうやって怒鳴りつけないでよ!話が出来ないじゃないか!!」

 

 最近鳴りを潜めていた爆豪の傍若無人さに遂に緑谷も叫んだ。

 

「・・・・・・ッ!? 二人とも気を付けて、来るよ!!」

「アァッ?!」

「え?」

 

 先が思いやられそうだと思いながら二人を眺めていたら、とてつもないプレッシャーを感じ二人へ警告する。

 その直後、暴風が吹き荒れ地面が揺れる。

 砂煙が舞い、視界が白く染まる。

 

「街への被害などクソ食らえだ!!」

 

 砂煙の中から、オールマイトの声が響く。

 いつも市民を安心させる笑顔は相手を威圧し、恐怖で足を竦ませ動きを鈍らせる。

 その姿は、ヒーローではなく――まさに“(ヴィラン)”そのものだった。

 

「“試験だ”などと考えていると痛い目を見るぞ。私は(ヴィラン)だ、ヒーローよ。さあ――真心こめてかかって来い!!」

 

 オールマイトが一歩踏み出すだけで、地面が悲鳴を上げる。

 

「上等だァ!!」

 

 爆豪は左手を前に翳し、ギリギリまで引きつけたオールマイトに閃光弾(スタングレネード)を浴びせる。

 白光が炸裂し、視界が真っ白に染まる。

 

「今だ!」

 

 オールマイトが目を覆った隙を突いて爆豪が飛びかかる――が。

 

「甘い!!」

 

 オールマイトは怯むどころか、爆豪の顔を片手で鷲掴みにした。

 

「かっちゃん無茶だよ! 逃げないと!」

「黙ってろデク! 倒すんだよ!」

 

 逃走ルートを探る緑谷と、迷うことなく小爆破の連打を繰り出す爆豪。

 そして界離は――

 

「ヒノカミ神楽――陽華突!」

 

 木刀をかまえ、背後から踏み込む。しかし――

 

「ほらよ!!」

 

 オールマイトは爆豪を界離へ投げつけた。

 

「うおおおおおお!?!?」

「っ・・・!」

 

 界離は咄嗟に『幻日虹』で姿を揺らし、衝突を回避。

 しかし、木刀の軌道がずれ、オールマイトの右肩を掠めるにとどまった。

 その直後。

 

「遅い!!」

 

 オールマイトのラリアットが界離の胸に直撃した。

 

「結城君!!」

 

 緑谷が飛び込み、界離を受け止める。

 だが勢いは止まらず、そのまま二人は背後のガードレールに激突した。

 

「っ・・・く・・・!」

「結城君、大丈夫・・・!? 逃げよう!!」

「いや・・・まだ・・・!」

「テメェ!!」

 

 爆豪が榴弾砲着弾(ハウザーインパクト)を放つ。

 

「かっちゃん!!」

 

 緑谷が黒鞭でオールマイトの足を絡め取り、動きを一瞬だけ止める。その隙に爆豪の一撃が命中した。

 

「今だ!!」

 

 立ち上がった界離が、再び陽華突をオールマイトに叩き込み距離を取らせる。

 

「緑谷!! 煙を!」

「えっ!? あ、はい!!」

 

 緑谷の体から煙が噴き出し、視界が一気に悪くなる。

 

「かっちゃん、一旦下がるよ!!」

「はぁ!? なんでだよ!!」

「いいから!!」

 

 界離は爆豪を担ぎ上げ、緑谷と共に一時撤退した。

 

「離せ!! まだやれる!!」

「かっちゃん・・・今は逃げるのが正解なんだ!!」

「うるせぇ!!」

 

 三人はバラバラのままだった。

 

◇◇◇◇

 

「結城君・・・」

「界離ちゃん・・・!」

「緑谷君と爆豪君・・・完全に意見割れてる・・・!」

「爆豪の奴・・・入学したての頃の“クソを下水で煮詰めたような感じ”に戻っちまってる」

 

 A組全員が固唾をのんで見守っている中、相澤は腕を組んだまま、静かに呟く。

 

「・・・ここからが本番だ」

 

◇◇◇◇

 

 

 路地裏に鈍い音が響き、体勢を崩した界離が壁に叩きつけられる。

 爆豪を下ろした界離が殴り飛ばされたからだ。

 

「なんで邪魔しやがった!? 俺はまだやれたんだぞ!」

「ちょっと!? やめてよかっちゃん!」

 

 気が立ち、今にも界離に掴みかかろうとする爆豪とそれを抑える緑谷。

 そんな二人を見据えながら殴られた頬を拭った界離は、閉ざしていた口を開く。

 

「二人とも・・・オールマイトとの力の差も掴めただろうから、いい加減作戦を決めるよ」

「さ、作戦?」

「今のバラバラな俺たちじゃあ、倒すどころか手錠を掛ける事さえ難しい。やられないようにするだけで手一杯だ」

「襲ってくるオールマイトを迎撃しつつ、ゲートを目指す。試験である以上・・・これが最善策だ」

 

 界離の言葉に緑谷は安堵の様子を浮かべ、爆豪は不満を露わにする。

 

「・・・と言いたいところだけど、ごめん出久。俺は今回の試験――赤点になったとしても、かっちゃんと同じくオールマイトを倒す気でいる」

「ええっ!?」

「・・・どういうつもりだ?」

 

 まさかの言葉に緑谷は驚き、意図が読めない爆豪は界離を睨みつける。

 

「話す前に、かっちゃんは質問に答えて。君がオールマイトを倒すことにこだわってるのは――ナイトアイが予知したオールマイトを惨殺する(ヴィラン)から()()()()()()()()()()()なんだよな?」

 

 界離の言葉に爆豪は言葉を詰まらせ、緑谷は爆豪に顔を向ける。

 

「ナイトアイの予知を聞いたあの日から、君からずっと焦りの匂いが漂っていた。頭の良い君の事だから、俺たち四人が分断された場合を想定して訓練に励んでいたんでしょ――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 爆豪は何も答えない。だが目が正直に語っていた。

 ――なんで分かんだよ。と。

 

「君の考えてる通り、正確な日時が不明である以上・・・俺たちはどんなチャンスも逃すべきじゃないと思う。この試験も・・・そのために利用するってのは俺も賛成だ――ただし、一人でカタを付けようとしたのは感心しないな」

 

 ばつが悪そうに顔を逸らした爆豪の頬を、さっきの爆豪みたいに殴りこれでさっきのはチャラなと界離は言う。

 

「俺たちは誰一人欠ける事なく、全員生き残ってオールマイトを助ける。それでこそ()()()()()()になるんじゃないかな?少なくとも俺はそれができるヒーローでありたいと思っている――どうする?俺の提案に乗ってオールマイトに勝ちに行くか、それともこのままバラバラのまま個別に挑んで負けるか?」

 

 界離が最後の提案を口にする。

 その言葉は、薄暗い路地裏に静かに落ちた。

 緑谷と爆豪は、一瞬だけ互いを見た。

 

 緑谷の瞳には迷いと躊躇いがあった。

 爆豪の瞳には焦りと怒りがあった。

 

 だが――界離の言葉が、二人の胸の奥に深く刺さっていた。

 緑谷は拳を握りしめ、震える声で言った。

 

「・・・結城君の言う通りだ。僕は・・・何とかなるって楽観的に考えてた。でも・・・オールマイトを守るためなら・・・勝つためなら・・・! 僕も戦うよ。全力で!」

 

 爆豪は舌打ちしながらも、界離を睨みつけたまま言った。

 

「・・・チッ。言いてぇことは山ほどあるが・・・“全員で勝つ”ってのは嫌いじゃねぇ」

 

 そして、爆豪は緑谷の胸ぐらを軽く掴み、顔を近づけた。

 

「デク!逃げるって選択肢はもうねぇぞ。テメェも戦え、死ぬ気でな!」

 

「うん・・・! かっちゃんも!」

 

 界離は二人の間に入り、静かに頷いた。

 

「じゃあ――決まりだね」

 

 三人の視線が、同じ方向を向いた。

 

 瓦礫の向こう。

 煙の向こう。

 圧倒的な存在感を放ちながら、こちらへ歩いてくる“象徴”。

 

 

 オールマイト。

 

 

 界離が木刀を握り直す。

 緑谷がフルカウルを纏う。

 爆豪が掌を爆ぜさせる。

 

 三人の呼吸が、初めて揃った。

 

「行こう。――三人で、オールマイトを倒す」

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