貞操逆転世界のヒロアカー序ー   作:あかんヤー

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ova Training of The Dead編です

今回勇学園の生徒として原作でも人気のあるあの子が登場します。

あと藤見のキャラが若干悪いです(個人的にはこんな事するかしないかならする奴という印象なので)


第48話:激ヤバ!ギスギスサバイバル訓練・前編

 期末実技試験が終わって二日経った金曜日の午後。

 雄英高校ヒーロー科一年A組とB組は、合同でヒーロー基礎学の授業──サバイバル訓練を行う予定だった。

 

 早速演習場へ移動しようとした界離たちは大教室に集められる。

 そこへ相澤先生が入ってきて、いつもの眠たげな声で告げた。

 

「今回のサバイバル訓練だが、急遽勇学園ヒーロー科の生徒五名を参加させる合同訓練となった。入れ」

 

 ざわつく雄英ヒーロー科四十一名。

 視線が一斉に扉へ向く。

 その瞬間、界離は『あっ』と心の中で思い出した。

 

(・・・そういえばスレの皆が言ってたな。原作にないこの時期のOVA・・・たしか、『Training of the Dead』だったっけ?)

 

 OVAのタイトルを思い出した界離は悟った。

 

(・・・これ絶対面倒な展開になるやつだ)

 

 勇学園の生徒が入ってくる。

 女子が二人、また女子が一人・・・そして──

 

「男子が・・・いる・・・?」

 

 雄英の皆が、井戸端会議中のおばちゃんみたいな反応を揃って見せた。

 

「え、男子って・・・本当にいたんだ・・・」

「都市伝説じゃなかったのね」

「雄英以外のヒーロー科には男子がいるって噂・・・マジだったんだ・・・」

 

 雄英も含めてヒーロー科に男子が入学することは()()()ある。

 だが──女子の好奇の視線と興奮に晒される環境に耐えられず、半年以内に自主退学するのがほとんど。

 

 雄英の場合は訓練の厳しさも加わり、三ヶ月で辞めるケースが多い。

 ──界離だけが、現在唯一の例外だった。

 

 相澤先生に促され、勇学園の生徒が前に出る。

 

「赤外可視子です。よろしくお願いします」

 

 眼鏡をクイッと上げて、丁寧にお辞儀する。

 知的で落ち着いた雰囲気の少女だ。

 

「た、多弾玉子です・・・よ、よろしくお願いします・・・!」

 

 汗っかきで、少しふくよかな少女。

 緊張で汗が滝のように流れている。

 

 三人目の男子が前に出る。

 周囲にガン飛ばしながら舌打ちをして。

 

「・・・藤見」

 

 相澤先生が眉をひそめる。

 

「フルネーム」

「・・・藤見露召呂だよ。文句あんのか」

 

 目つきが悪い。

 態度も悪い。

 だが、妙に存在感がある。

 

 雄英側の女子たちがざわつく。

 

「うわ・・・怖い・・・」

「でもちょっとカッコ・・・いや怖いわ」

「結城君と違って完全に不良だね・・・」

 

「あと二人は?」

 

 相澤先生が問いかけたその時、赤外が後ろを振り返り、小声で促す。

 

「ほら、羽生子ちゃん。自己紹介・・・」

 

 赤外の背中に隠れていた少女が、おずおずと前に出る。

 首から上が──完全に蛇。

 

「ま、万偶数(まんぐうす)羽生子(はぶこ)です・・・よろしく・・・」

(異形型・・・に見せかけて、実は発動型個性の子か。常闇さんと似てるな)

 

「・・・羽生子ちゃん?」

「・・・梅雨ちゃん?」

 

 界離がスレ仲間から聞いていた情報を照らし合わせた次の瞬間、梅雨ちゃんが椅子を蹴って立ち上がり、羽生子に飛びついた。

 

「梅雨ちゃんっ!!」

「羽生子ちゃんっ!!」

 

 二人は熱い抱擁を交わす。

 

(そういえば・・・羽生子ちゃんって新しい友達が出来たって、梅雨ちゃん嬉しそうに言ってたっけ)

 

 当時、梅雨ちゃんは妹二人の面倒と受験勉強で忙しく、地元の中学に友達がほとんどいなかった。

 唯一の友達が、この羽生子だったのだ。

 

「・・・大丈夫かな、あれ」

「・・・食べられたりしないよね?」

 

 緑谷と麗日は、蛇と蛙の抱擁に冷や冷やしていた。

 

「最後の一人は・・・?」

 

 ヤオモモが首を傾げたその時。

 

 界離の視界が突然真っ暗になった。

 誰かに後ろから目を塞がれたのだ。

 

「だ〜れだ?」

 

 男の声。

 

 

 しかも──

 

(・・・俺の声?)

 

 界離は素直に答える。

 

「分からない」

 

 目を離され、振り返る。

 そこにいたのは──小学校五年生くらいの“界離”だった。

 

「びっくりした? びっくりした?」

 

 いたずらが成功した子供のように笑う“ミニ界離”。

 周囲は騒然。

 

「えっ・・・結城君が二人・・・?」

「幻覚? 個性? クローン?」

「ちっちゃい結城君かわ・・・いや、なんだこれ!?」

 

 界離(本物)は困惑しながら問いかける。

 

「君は・・・一体・・・?」

 

 その瞬間──ミニ界離の身体が、蝋のようにドロドロと溶け始めた。

 

 溶け落ちた肉の中から現れたのは──

 

 鋭い犬歯。

 ツインお団子ヘア。

 悪戯っぽい笑みを浮かべた少女。

 

「──私だよ」

 

 


 

 

 

 蝋のように溶けた“ミニ界離”の身体から現れた少女は、鋭い犬歯を覗かせながら、まるで旧友に会ったかのように微笑んだ。

 

「――私だよ。界離君」

 

 その声音は、()()()()()()()()()()()と確信している者の声だった。

 大教室の空気が一瞬で凍りつく。

 

 雄英ヒーロー科四十名の視線が、一斉に界離へ突き刺さる。

 特に、梅雨ちゃんの視線の圧がすごい。

 

(ちょ・・・梅雨ちゃん、そんな目で見ないで・・・!? てか皆からの圧もすごい!)

 

界離は内心で悲鳴を上げた。

 

 少女は期待に満ちた瞳で界離を見つめている。

 その目は「覚えてるよね?」と訴えていた。

 

 だが──界離には、まったく身に覚えがない。

 

「ごめん・・・誰?」

 

 その瞬間。

 

 少女の表情が、世界の終わりに直面したみたいに崩れ落ちた。

 

「・・・・・・え?」

 

 へたり込む少女。

 肩が震え、目には大粒の涙が溜まり、今にも零れ落ちそうだ。

 

「うそ・・・覚えてない? 私のこと・・・」

 

(やばい、なんか泣かせた!? ていうかこの子、俺が知ってる前提で来てる・・・!?)

 

 界離が焦ったその時──

 

「渡我さん、落ち着いてください! まずは自己紹介を!」

 

 赤外が慌てて少女の肩を支える。

 少女は嗚咽まじりに、震える声で名乗った。

 

「・・・渡我・・・被身子です・・・」

 

 声が震え、涙がぽろぽろ落ちる。

 

 その名前を聞いた瞬間、界離の脳裏に小学五年生の秋の出来事がフラッシュバックした。

 

「まさか君は・・・あの時の吸血少女ちゃん!?」

 

 界離が思わず声を上げると──

 

 渡我被身子の目から溢れていた涙が、悲しみから喜びに変わった。

 

「はいっ・・・! そうです!! 界離君、覚えててくれたんだぁ・・・!」

 

 次の瞬間、彼女は勢いよく界離に抱きついた。

 

 

ぎゅううううう

 

「界離君・・・ずっと会いたかった・・・!」

 

 大教室の空気が再び凍りつく。

 視線が、またも界離へ集中する。

 

 梅雨ちゃんの視線も、先ほどと同じく鋭い。

 

 麗日も、耳郎も、八百万も、

 

「・・・界離さん?」

「・・・説明してくれる?」

 

 という顔をしている。

 界離は凍り付いた空気を何とかしようと口を開く。

 

「彼女は──」

 

 だが、その言葉は遮られた。

 

「おい羽生子、渡我! 雄英生なんかとつるんでんじゃねえ!」

 

 藤見露召呂が、露骨に不機嫌な顔で吐き捨てた。

 渡我は界離の腕にしがみついたまま、嫌いなものを見る目で藤見を睨み返す。

 

「藤見君には関係ないでしょ」

「・・・あァ?」

 

 そして爆豪の眉も跳ね上がった。

 

「おい今のはどういうつもりだ。誰が誰とつるんでようが、そいつの勝手だろうが」

 

 藤見が睨み返す。

 

「テメェには関係ねえだろ」

「関係あるに決まってんだろクソが。てめぇのその言い方が気に食わねえんだよ」

 

 二人の間に火花が散る。

 A組の面々が慌てて止めに入る。

 

「か、かっちゃん落ち着いて!」

「藤見君もやめようよ!」

「ここ教室だよ!?」

 

 界離はその光景を見て、思わず微笑んだ。

 

(爆豪が()()()()()()()()のを見るのは悪くないな)

 

 その時、界離は見た。

 相澤先生のこめかみがピクピクしだしていたのを。

 

(やばい・・・相澤先生、完全に爆発寸前だ! このままだと全員まとめて捕縛布で吊られる・・・!)

 

 界離は慌てて前に出る。

 

「はいはい! とりあえず今は喧嘩してる場合じゃないよ!時間も押してるし、まずは着替えて演習場に向かおう!」

 

 界離が声を張ると、

 爆豪も藤見も渋々ながら視線をそらす。

 

「・・・チッ」

「・・・フン」

 

 相澤先生は深くため息をついた。

 

「・・・全員、着替えて集合しろ。遅れたら減点だ」

 

 その声には、“これ以上揉めたら本気で怒る”という圧がこもっていた。

 

 勇学園の五人も、雄英の四十一名も一斉に背筋を伸ばす。

 

 こうして、勇学園との合同サバイバル訓練は波乱の幕開けとなった。

 


 

 雄英ヒーロー科一年四十名と、勇学園ヒーロー科一年の女子四名。計四十四名が女子更衣室で着替えていた。

 

 だが、いつもの賑やかさはない。

 空気は妙に張りつめている。

 

 原因は──渡我被身子(とがひみこ)と界離の関係。

 

 芦戸三奈は、スポーツブラのホックを止めながらずっとそわそわしていた。

 

(聞きたい・・・結城君とどんな関係なのか。“吸血少女”ってどういう意味なのか・・・)

 

 だが、聞けない。

 

(誰か聞いてくれ!)

 

 芦戸は心の中で祈った。

 その祈りに応えるように──

 

「界離ちゃんと随分親しいようだけど、あなた彼とどんな関係なの?」

 

 蛙吹梅雨が、真顔でズバッと切り込んだ。

 更衣室の空気が一瞬で凍る。

 

 渡我被身子は、梅雨ちゃんを見てぱっと表情を明るくした。

 

「あなたが梅雨ちゃんですね! 界離君から聞きました!」

「・・・そう。で、関係は?」

 

 梅雨ちゃんの声は穏やかだが、目は笑っていない。

 

 被身子は少しだけ息を吸い、語り始めた。

 

「私、小さい頃から・・・かわいいものの血が好きだったんです。特に“かわいいもの”の血液が」

 

 更衣室の空気が変わる。

 

「ある日、血まみれのスズメを見つけて・・・助けたくて・・・でも、どうしていいか分からなくて・・・口をつけて吸っちゃったんです」

「それを見た両親に、“異常者”って罵られて・・・話も聞いてもらえなくて・・・カウンセラーのところに通わされて“矯正”される日々でした」

 

 芦戸が息を呑む。

 

「界離君に会う前なんて・・・“人間じゃない子産んじゃった”って言われたこともあります」

 

 更衣室の空気が重く沈む。

 

「そんな時・・・小六の秋に、界離君に会いました」

 

 被身子の声が少し柔らかくなる。

 

「私、隠れて血を吸ってたんです。そしたら界離君に見られて・・・“また両親に告げ口される”って思って・・・怖くて震えて・・・」

「でも界離君は、私を否定しなかった。“どうしたの?”って、ちゃんと話を聞いてくれたんです」

 

 更衣室のあちこちから、小さな息が漏れる。

 

「それから・・・好きなもの、好きなこと・・・いっぱい話して・・・すぐ仲良くなって・・・」

 

 被身子は、少し照れたように笑った。

 

「意を決して言ったんです。“君の血が飲みたい”って」

「そしたら界離君・・・二つ返事で“いいよ”って言って、腕を差し出してくれたんです」

 

 更衣室がざわつく。

 

「嬉しくて・・・思いっきり噛んじゃって・・・飲みすぎちゃって・・・界離君を病院送りにしちゃいました」

「幸い輸血が間に合って・・・界離君は無事でした」

「病室に行ったら、お姉さんの狼愛さんと、妹の愛狸ちゃんがいて・・・二人とも、私を拒絶しなかった」

 

 葉隠がぽつりと言う。

 

「・・・そういえば狼愛さんの友達に、個性の関係で流動食しか受け付けない子がいたって言ってたっけ」

 

 被身子は続ける。

 

「私・・・聞いたんです。“私が悍ましくないの?”って」

「そしたら三人とも、“なんで?”って首を傾げて・・・」

「笑顔が気持ち悪いとか・・・血を飲むなんて異常だとか・・・両親やカウンセラーに言われてたのに・・・」

 

 被身子の声が震える。

 

「そしたら愛狸ちゃんが・・・“ひどいよそんなの。だって、こんなに可愛い笑顔が出来るのに”って・・・私の顔写真を見せてくれたんです」

「界離君の無事を確認した直後の・・・私の笑顔でした」

 

 更衣室のあちこちで、すすり泣きが聞こえ始める。

 

「明日一緒に遊ぼうって約束したんです。でも・・・界離君を病院送りにしたことがバレて・・・ひっぱたかれて・・・そのまま夜逃げみたいに引っ越して・・・」

「車の中で・・・個性が目覚めて・・・一瞬だけ界離君に変身したんです」

「血を飲んだからだって分かって・・・“界離君はここにいる”って思うと安心できて。また会いたいって思いながら、血を飲みたい衝動を我慢して・・・両親の言う“普通”を演じて・・・でも少しだけ本心を出して、そうやって過ごして・・・」

「去年雄英を受けたけど落ちて・・・また一年勉強して勇学園に入って。体育祭で界離君を見て・・・すぐ会いに行きたかったけど・・・その後のバラエティで・・・界離君の壮絶な過去を知って・・・どう接すればいいか分からなくて・・・」

「だから・・・今日になっちゃいました」

 

 勇学園の女子たちは、涙を拭いながら被身子を抱きしめた。

 雄英の女子たちは、結城君らしいなとしみじみ思った。

 

 

 被身子は涙を拭い、真っ直ぐに言った。

 

「私は──界離君が好きです」

 

 更衣室が凍りつく。

 

「わ、私の夫だよ──」

「やめろや!!」

 

 爆豪の爆破が麗日を吹き飛ばす。

 

「ボクのご主人様だよ──」

「黙れ!!」

 

 耳郎のイヤホンジャックの心音攻撃が口田を沈める。

 耳郎はため息をついた。

 

「・・・他校の生徒の前で変なこと言うな」

 

 女子更衣室が混乱の渦に包まれている中、峰田が出久の袖を引っ張った。

 

「おい緑谷・・・見ろよ!」

 

 壁の一角を指差す。

 そこには──小さなのぞき穴が開いていた。

 

「・・・え?」

「先輩たちの努力の結晶・・・無駄にするわけにはいかん!」

 

 峰田はのぞき穴に顔を近づける。

 

「峰田君!? やめなさい!!」

「不健全です!!」

「止まれぇぇぇ!!」

 

 飯田たちが止めるが――

 

「おいらのリトル峰田はもうグチュグチュだ・・・止まれるかよ・・・!」

「やめろぉぉぉ!!」

 

 だが峰田は覗き込んだ。そして、固まった。

 

「・・・・・・」

「え? 何? どうしたの?」

 

 峰田は震える声で言った。

 

「耳郎・・・イヤホンジャックで聞いてみろ・・・」

「い、いきなり振らないでよ・・・!」

「早くしろ!!」

 

 いつにもなく真剣な様子の峰田に気圧された耳郎はイヤホンジャックを壁に差し込み、男子更衣室の音を拾った。

 そして、顔を顰めた。

 

「・・・最悪・・・」

「何が起きてるんだ!?」

「結城君たち、どうしたの!?」

 

 耳郎は深く息を吸い、皆に向き直った。

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

 男子更衣室の空気は最悪に等しかった。

 界離は藤見とコミュニケーションを取ろうと好きなヒーローや好きな食べ物について聞いてみたが、返って来たのは舌打ちと睨みだけだった。

 

(彼の心の壁は想像以上に難攻不落のようだな・・・)

 

 時間もあまりないため急いで着替え始めた界離がシャツを脱ぎ、ウルトラマンメビウスに登場した防衛組織の制服をモチーフにしたコスチュームのインナーを取り出す。

 その背後に、藤見露召呂が無言で立っていた。

 

「・・・何か用?」

 

 視線に気づいた界離が振り返ると同時に──

 

「テメェみたいな“女に媚び売るだけの種馬”がヒーロー気取ってんじゃねえよ!」

 

 藤見は一歩近づき、界離の胸ぐらを掴んだ。

 

「・・・何の話だ?」

「とぼけんなよ。お前みたいな“女に囲まれてチヤホヤされてるだけのガキ”が女と体育祭で殴り合いして勝った? 笑わせんなよ、どうせ裏で話つけてたんだろ」

 

 藤見は鼻で笑いながら言った。

 

「勘違いしてるようだな。あの日、あの場所に居た全員・・・ヒーロー科も普通かもサポート科も関係なく全員が持てる全てを出し切っていた。君の言う八百長ができる余裕なんて一欠けらも――」

「黙れって言ってんだよ!!」

 

ドスッ

 

 藤見の拳が界離の頬を打った。

 界離はよろめき、ロッカーに背中をぶつける。

 

「お前と戦った雄英の連中も同罪だ。あんな茶番を“本気の戦い”とか言ってんじゃねえよ。ヒーロー科の看板に泥塗ってんだよ、全員な」

「・・・なんだと」

 

 界離の声が低く落ち、拳が震え始めるが藤見は意に介さず続ける。

 

「それに、お前の姉貴と妹も気持ち悪いんだよ」

 

 界離の目が細くなる。

 

「・・・今、なんて言った?」

 

 藤見はニヤリと笑う。

 

「狼みたいな顔した姉貴も、媚びた声の妹も、どいつもこいつも“界離界離”って・・・気持ち悪ぃんだよ。家族ぐるみでお前を甘やかしてんじゃねえよ」

 

 界離の額に青筋が浮かぶ。

 

 その時、藤見の視線が床に落ちている物に向いた。

 白地にうさぎのような刺繍が施されたハンカチ。

 

「なんだよこれ、下手くそな刺繍だな。ガキが作ったのか? こんな小汚いハンカチ、大事にしてんの? ダッセェな」

 

 界離の物だと察した藤見はそれをつま先で踏もうとした。

 その瞬間──界離の結界が発動し、ハンカチがふわりと界離の手元へ戻った。

 

 藤見は踏み外し、転びかける。

 界離は静かに言った。

 

「・・・お前、自分が何してるのか分かってるのか?」

 

 藤見は鼻で笑う。

 

「は? そんな汚ねぇハンカチが大事なのかよ。ほんとダセェな」

 

 界離の中で、何かがプツンと切れた。

 

「・・・そこまで言うなら」

 

 界離はゆっくりと藤見に向き直る。

 

「どっちがヒーローに相応しいか──サバイバル訓練でタイマン張るか?」

 

 藤見の目がギラリと光る。

 

「いいぜ。俺の方が上だって証明するチャンスだ」

 

 界離はハンカチを握りしめたまま、静かに言った。

 

「・・・後悔するなよ」

 

 

 

◇◇◇◇

 

 耳郎は男子更衣室の音を聞き終え、イヤホンジャックを引き抜いた。

 顔は怒りで真っ赤だった。

 

「・・・最低」

 

「耳郎ちゃん、何が?」

「結城君・・・大丈夫なの?」

「藤見君、何て言ってたの・・・?」

 

 耳郎は震える声で言った。

 

「・・・結城だけじゃない。結城の姉妹も、壊理ちゃんまで・・・全部侮辱してた」

 

 更衣室が一瞬で静まり返る。

 

 勇学園の女子四人が知るのは少し先のことだが、あのハンカチは壊理ちゃんが家庭科の授業で縫ったハンカチであり、界離だけでなくミルコとレディ・ナガン用のも作られていた。

 壊理ちゃんから受け取った界離はすぐ二人に送り、クラスの皆にも見せびらかしていた。

 

 藤見がそれを侮辱した。それが皆が完全に理解した次の瞬間──

 

「「「はァ!?!?」」」

 

 怒号が響いた。

 

 芦戸の角がピキッと音を立て、八百万はロッカーに拳を叩き込み、麗日は爆豪に吹き飛ばされた痛みも忘れて立ち上がり、梅雨ちゃんは珍しく表情を険しくした。

 

 そして渡我被身子は静かに、しかし確実に怒りを燃やしていた。

 

「・・・界離君に、そんなこと言ったの・・・?」

 

 彼女の声は震えていたが、その瞳は氷のように冷たかった。

 

「許さない」

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