ダメ男に貢ぐウマ娘 作:頼む、好評になってくれ
スタジオの空気が冷たく、重く、僕の肌にまとわりつく。照明が落ちて、残ったのは天井から落ちる一本の細い光だけ。
スポットライトの下で、マンハッタンカフェは静かに立っていた。
黒髪が背中を滑り落ち、金色の瞳はいつもどこか遠くをさまよっている。焦点が合っていない。まるで、彼女の意識がこの世界に半分しか留まっていないみたいだ。
僕はカメラを構えながら、彼女のそんな弱さを、ゆっくりと、丁寧に、味わっていた。
彼女の指先は、時々小さく震える。自分を抱きしめるように腕を組む仕草が、痛々しいほどに無防備で、守ってあげたくなるようなのに、同時に、その無防備さを踏みにじりたくなるような、残酷な衝動が胸の奥で蠢く。
彼女は強いフリをしていない。最初から、壊れやすいことを隠そうともしない。
ただそこにいて、僕に見られることを、ただ受け入れている。その受け入れる姿勢が、たまらなく甘美だった。
シャッターを切る。カシャリ。
彼女の体が、音に反応して小さく縮こまる。息を詰めて、僕の視線に耐えようとしているのがわかる。
肋骨が浮き出た胸が、怯えた小鳥みたいに速く上下する。鎖骨のくぼみに影が落ちて、細い首筋が白く光る。彼女は恥ずかしさよりも、ただ「見られている」という事実だけで震えている。
誰にも必要とされなかった彼女が、今、この瞬間、僕の視線に晒されている。それだけで、彼女の空っぽの心に、熱い何かが少しずつ注がれていくのがわかる。
僕は思う。
この震えは、僕が与えているものだ。彼女が僕に見られることで、初めて「存在している」と実感できる。
孤独で、嫌われて、自分しか信じられなかった彼女の精神は、穴だらけだった。
その穴の一つ一つを、僕の視線が、僕の存在が、ゆっくりと埋めていく。
乾いた土に水を注ぐみたいに。
ひび割れた地面が、じわじわと潤って、色を取り戻していく。彼女の頰がわずかに上気して、金色の瞳が揺れる。
それは恐怖じゃない。
それは、初めて誰かに「必要」とされた感覚だった。その感覚を、彼女は無意識に求めてしまっている。
僕がカメラを構え直すたび、彼女の肩がわずかに落ちる。
安心したように。
僕がここにいる限り、彼女は消えずにいられる。
僕が見ている限り、彼女はここに「いる」。
その依存が、僕の胸の奥で黒く、甘く、どろりと広がっていく。
次の衣装、白いドレス。
彼女の肌と同化して、輪郭が溶けるようにぼやける。光が透けて、彼女の体が半透明に見える瞬間、僕は息を止めた。
あまりにも儚くて、息苦しい。
こんなに薄い存在が、僕の目の前にいるなんて信じられなくて、心臓が不規則に跳ねる。
彼女が少しでも動けば、消えてしまうんじゃないか。
壊れてしまうんじゃないか。
そんな恐怖が、逆に僕を引きつける。守りたいという衝動と、壊したいという衝動が、同時に胸の中で渦を巻いていた。でも、もっと深いところで、僕は気づいていた。
彼女を壊したいのは、彼女の穴を、もっと深く、僕で埋め尽くしたいからだ。
彼女が僕なしでは立てないくらいに、脆く、弱く、依存した存在になってほしい。
僕の視線一つで震え、僕の言葉一つで涙をこぼし、僕がいなければ息もできないくらいに。
その極端な脆さが、僕の支配欲を、狂おしいほどに満たしていく。
下着姿になった彼女。
黒いレースのブラが、骨ばった胸に食い込む。薄い布一枚で隠された腰は、指を回せば折れてしまいそう。
生命の熱をほとんど感じさせない、痩せ細った体。なのに、僕は目を離せなかった。彼女の鎖骨をなぞり、肋骨の影を追い、細い首筋に視線を止めるたび、喉が渇く。
触れたら折れてしまうかもしれない。
それでも触れたい。
壊してしまいたいくらい、彼女を自分のものにしたいという欲が、胸の奥でどろりと蠢いていた。
金色の瞳が、僕と交錯する。
その瞳の奥には、怯えと、期待と、諦めが混じり合っていた。その奥底に、わずかな光が見えた。
僕が与えている光。
彼女の精神の穴を、僕が埋めている証拠。僕はカメラを下ろした。
もう、これ以上撮る必要なんてなかった。彼女はもう、僕の頭の中に、僕の心の中に、焼き付いていた。
彼女がゆっくり近づいてくる。
足音もほとんどしない。
冷たい小さな手が、僕の手の上に重なる。
「私のヒーローさん……ずっと一緒にいてほしいんです」
声が小さくて、祈るようだった。壊れそうなガラスの音みたいで、胸がずきりと痛んだ。でもその痛みさえ、甘い。
彼女が僕を必要としているという証拠だから。僕は眉を寄せて、彼女の瞳を覗き込んだ。
「カフェさんは、何があって、そして僕にどういう想いがあるのか教えて?」
穏やかに、静かに聞いた。彼女は一瞬目を伏せた。
長い睫毛が震える。
その小さな仕草一つ一つが、僕の心を掴んで離さない。
「ヒーロードラマのヒロインの一人……彼女が私と同じだった。孤独で、嫌われていて、自分しか信じられない。でも、ヒーローがいました。彼はただそこにいて、離れなくて、肯定も否定もせず、ただ……味方でいてくれた。だから、貴方は私のヒーローになってほしいんです」
言葉が耳に絡みつく。彼女の中で、現実とドラマが溶け合っている。
境界が曖昧で、彼女はもうその向こう側にいるのかもしれない。それなのに、僕を求めてここにいる。
僕を、ヒーローとして。その歪んだ純粋さが、たまらなく愛おしかった。
壊れているのに、美しい。
脆いのに、僕を捕らえて離さない。僕はゆっくり息を吐いて、言った。
「なら、君は僕に尽くしてほしい。お金も、友人も、命も。人生全てを捧げて、僕に従ってほしい。君が僕のものになるのなら、僕は君のヒーローになろう」
自分の言葉が、鏡のように内側を映している。彼女の求めるヒーローを、僕は利用しようとしている。
貪欲に、対価を取る悪魔の取引だ。
彼女の瞳が大きく見開かれた。
一瞬、恐怖がよぎった。でもすぐに、その恐怖さえ溶かされるように、頰が熱を帯びた。
金色の瞳が、濡れたように輝く。
「そう……それで構いません。貴方が私のヒーローなら、私は貴方のものになります。身も心も、全部、捧げます」
震える声で、彼女は言った。その瞬間、僕は確信した。彼女の精神の穴は、もう僕でしか埋められない。
彼女は僕に依存し、僕にすがり、僕なしでは息もできないくらいに脆くなっていく。
その脆さが、僕の支配欲を甘く、深く、狂おしいほどに満たしていく。彼女の笑顔は、壊れた人形のようだった。
美しくて、脆くて、儚い。でもその笑顔は、僕だけに向けられている。
僕だけが、彼女を「生かしている」。
僕だけが、彼女の空っぽを満たしている。
マンハッタンカフェ。
君の弱さは、もう僕のものだ。
君の心の穴を埋める快感は、もう僕だけのものだ。
君が震えるたび、僕の胸は熱くなる。君が僕を必要とするたび、僕はもっと深く、君を支配したくなる。ずっと、僕のそばで震えていてくれ。
僕が君を必要としている限り、君は消えられない。僕が君を必要としている限り、君は生きていられる。
その事実に、僕は静かに、深く、酔っていた。
君の全てを、僕が埋め尽くすまで。
永遠に。
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