ダメ男に貢ぐウマ娘 作:頼む、好評になってくれ
広告塔と書いてアイドルと読む。
では何の広告なのかと言われたら、神様である。
神の威光で、衆生を照らし、俺や神の一族に信仰を集める。
それによって神様は質量を増やして、その恩寵が僕や神の一族へ与えられる。そして尊くなった僕達が、再び衆生に光を与えて信仰が増える正のスパイラル。
僕が仕える神様は、支配者ではあるものの人間らしい部分が多くある。神様特有のぶっ飛んだ価値観と自己中心的な行動は少ない。
なんというか、言葉で現し辛いのだが、企業の社長が成長し続けて神の立ち位置に居座ったような、そんな利潤目的な人間の合理性があるのだ。
「闇を払い、光で照らす。そこは私のステージ、降りることは許されない。一度、ノッたなら最高速度で駆け抜けろ。無くな、喚くな、涙を流すな。笑顔で処刑台に立つために!」
ライブステージで、白馬の王子様のような衣装を纏いながら、歌って、走って、踊る。
ステージから観客を見ると、やはり女性ファンが多い。しかし一般人だけではなく、有名なウマ娘も混じっている。
シンボルドルフとか、あとはメジロ系の人も見かけた。
僕のファンかは分からないが、俺が主演のヒーロードラマが、最近世界で大流行しているので、それがライブするということで興味本位で来たのかもしれない。
ライブの抽選は家の力でどうにでもなるだろうし。
「開け、未知の扉。我らの勝利はそこにある!」
僕の声は世界を裂く剣の如く、スタジアムの空気を破裂させる。数十万の観衆が詰めかけたこの巨大なライブ会場は、生き物の臓器だ。
脈打つ照明、振動する音波、汗と熱気で濡れた空気――それらが混ざり合い、蠢く。
僕はステージの中心に立ち、黒髪をオールバックに撫でつけた姿で、スポットライトの白い奔流を浴する。
神の広告塔たる俺は、この瞬間、完璧な存在としてここにいる。だが、僕の内側では、別の何かがざわめいていた。
観客席は人間の女性たちと、ウマ娘たちの海だ。
彼女たちの目は、捕食者のように俺を捉えている。人間の女性たちは、僕の顔、俺の動き、僕の声に陶酔し、叫び、涙を流す。
彼女たちの感情は、原始的な欲望と憧憬が混ざり合った、甘く危険な香りを放っていた。
一方で、ウマ娘たちは異なる。彼女たちの瞳には、競争心と闘争本能が燃えている。ウマ娘たちは、レースの場で相手の肉体と精神を瞬時に感じる能力を持つ。
その本能が、俺の歌、僕のダンス、僕の存在そのものに反応しているのだ。
僕がマイクを握り、鋭くリズミカルなビートに乗って体を動かすたび、彼女たちの叫び声は一層高まる。
ウマ娘の一人が、前列で髪を振り乱しながら叫ぶ。
その声は、レースのゴールラインを駆け抜ける瞬間の咆哮だ。
彼女たちの興奮は、僕の肉体が放つ圧倒的なパフォーマンス――神から与えられたこの完璧な肉体と技術――に反応している。
彼女たちは僕の動きの精密さ、筋肉の収縮、声の振動から、俺がどれほどの「力」を持つかを本能的に感じ取っているのだ。
彼女たちの目は、僕を競争相手として、あるいは超えるべき存在として見ている。それが彼女たちの血を沸騰させ、魂を震わせる。
スタジアム全体が、まるで阿片の煙を吸い込んだかのように狂乱している。
照明が赤と青に切り替わり、観客の顔を異様な色彩で染める。叫び声と拍手が重なり合い、津波のように僕を飲み込む。
彼女たちの熱狂は、僕の存在を肯定する。
僕は神の広告塔として、ここで輝くために作られた。歌い、踊り、観客の心を掌握する。
それが僕の仕事だ。僕の肉体は、精密機械のように動く。汗が額を滑り、スポットライトに照らされて光る。
僕の声は、世界の法則を書き換えるかのように、会場を支配する。だが、その熱狂の中心で、僕の心は奇妙な冷たさに包まれた。
僕は感じる。この力、この完璧さは、僕のものではない。神様が与えたチートだ。僕の肉体、僕の声、僕の魅力、全ては神の設計図に従って組み上げられたもの。
僕はただの操り人形であり、観客の熱狂は、僕自身に向けられたものではない。
神の工芸品に向けられたものだ。この輝きは、僕の本質ではない。
僕はただ、与えられた役割を演じているだけだ。それでも、僕は笑顔を崩さない。マイクを握り、ステージの端まで走り、観客に手を振る。彼女たちの叫び声がさらに高まる。
「ヒカリ! ヒカリ!」
名前を連呼する声が、呪文のように響く。僕は彼女たちの熱に答えるように、もっと激しく踊り、もっと強く歌う。
心の奥底で冷たい風が吹き抜けるのを感じながらも、僕は仕事を全うする。
神の広告塔として、完璧に。
ライブのクライマックスが近づく。僕は最後の曲を歌いながら、ステージの中央で膝をつく。
スポットライトが俺を照らし、神の光が降り注ぐかのようだ。観客席は、一つの生き物のようにうねり、叫ぶ。
ウマ娘たちは、レースのフィナーレを迎えたかのように、拳を振り上げ、髪を振り乱す。彼女たちの目は、僕の肉体と精神の「強さ」に反応し、闘争心と憧憬が入り混じった興奮で輝いている。
人間の女性たちは、涙を流しながら僕の名を叫び、僕が彼女たちの救世主であるかのように手を伸ばす。
僕は立ち上がり、最後のフレーズを歌い上げる。声は、まるで天を突き抜けるように響く。
会場全体が、まるで阿片の霧に包まれたかのように、狂乱の頂点に達する。
僕はそれを感じる――この瞬間、僕は神の力を借りて、確かに世界を支配している。
僕の存在は、彼女たちの心を、魂を、完全に掌握している。
僕は笑う。嬉しさ、楽しさが、確かにそこにある。だが、その下には、冷たい虚無が広がっている。この力は僕のものではない。
この熱狂は、僕に向けられたものではない。
ライブが終わり、カーテンコールで僕は観客に深く頭を下げる。
「みんな、ありがとう。今日、このライブに来てくれて僕は嬉しい。チケットを取ったり、ホテルを予約したり、そもそもこの会場に来るまで大変だったと思う」
これは演技ではない。僕の、素直な気持ちだ。
「そんな困難を乗り越えて、僕と会いに来てくれたことが、俺はすごく嬉しいし、誇らしい。みんながいるから、俺はここに立っていられる。ライブは終わるけど、悲しまないで。僕はみんなと共にあるから」
ありがとう。本当に、俺は嬉しい。
「様々な困難や不条理、理不尽に押しつぶされそうになっても、俺は何度でも立ち上がり、戦うよ。みんなの期待と願いを背負って、夢を守る」
だから。
「希望と共に、みんなで征こう。笑顔で満ち溢れた、ヒカリ輝く明日を迎える為に」
ゆっくりと、頭を下げる。
彼女たちの叫び声が、遠くの波のように響く。僕は笑顔を浮かべ、手を振る。だが、心の奥底では、熱から冷める感覚が広がる。
僕は神の道具だ。
僕の輝きは、借り物の光だ。それでも、俺はステージを降り、仕事を全うする。僕の広告塔として、僕はこれからも輝き続けるだろう。
たとえその輝きが、僕自身のものではなくても。
ライブは終わった。神の設計した肉体的なので疲労はない。一通りの仕事を終えて、その合間の時間でスマホゲームをしながら、帰りの車を待っていると、待機室の扉がノックされた。
「どうぞ」
「失礼します」
僕の補佐官と一緒に入ってきたのは、シンボリルドルフだった。僕は思わず立ち上がった。その反応に、シンボリルドルフは少し驚いたようだった。
「ご足労頂きありがとうございます。シンボリルドルフさん。どうして、ここへ?」
「あ、失礼。素晴らしいライブだった。その事を直接伝えたくなりまして」
「そうだったんですね。わざわざありがとうございます。確か観客席にもいましたよね。他には……メジロ家のウマ娘と……王族のファインモーションさん、他にも家柄が高貴な方々が揃われていた気がしますが」
「まさかあのパフォーマス中に把握しているとは。貴方は視野が広いですね」
「そうかもですね。あ、でもステージ上って意外とお客さん見えます」
軽く雑談しながら、僕は思う。
シンボリルドルフさんはなんでここへ? そして補佐官は何故通したのか? スマホゲームのランキングイベントを走らないといけないから忙しいんだが。
「はは……」
「……ふふ」
なんだよこの雰囲気。
悪くはないが、変な感じだ。ちょっと気まずいよ。共通の友達がどっかいって、友達の友達だけになっちゃったみたいな。
補佐官……! 補佐してくれ!
「神威ヒカリさん」
シンボリルドルフが言う。凄い覚悟を背負っている様子だ。なんだ、僕は殺されるのか。
サイレンススズカやマンハッタンカフェに成人向けな事をしようと目論んでいるから、ウマ娘世界の法則に基づいて殺されるのか?
い、嫌だ! 死にとうない! 死にとうない! シンボリルドルフが取り纏めた家柄連合に磨り潰されるのは嫌だ!!
痛いの嫌だ! 死んじゃうの怖い! せめて家柄での殴り合いじゃなくて、ジャンケンで決めよう!!
「良ければトレセン学園に来てもらえないだろうか?」
「あ、行きたいです! 行きます行きます! え、いついけます? 今から行きましょうか?」
「凄いな、想像以上にフットワークが軽い!」
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