表現と自由の国娯楽街エンドレスト。
そこは街の至る所に劇場やアトリエが立ち並び、視界に入る全てに誰かの精魂込めたアート作品や大道芸や弾き語り、前衛芸術をその身で体言せんと身体を張るなど様々なパフォーマンスをする者が映り込む場所。
誰も彼もが魂を燃やし、歳月を溶かし込み作品へと昇華していく。
ありとあらゆる表現と創作が入り混じるこの街は今日も賑やかに喧騒を魅せている。
そんなエンドレストには居酒屋やBARが多く存在するのも特徴の一つである。
太陽の昇るうちは己の解釈を曝け出し、太陽の沈む頃には、己が夢を朝まで友と語り合う。そんな毎日を繰り返す夢追い人達の為の語り場だ。
ダイダロス中央通りを進んだ突き当たりの大きな居酒屋『天手古舞』。大きな扇子が目印のこの酒場は、冒険者ギルドの直ぐそばにある事から、この街の冒険者達の憩いの場となっていた。あちこちに修理痕の残る木製張りの店内には、パーティーで机を囲む者達も居れば、一人でカウンターに座り管を巻く者など様々だ。
そんなカウンター席の一角に一人の冒険者がジョッキに手を掛けていた。
「うぅ〜ん……やっぱり一人で荷運びの依頼はちょっと無理があったなぁ……もう腕がパンパンだよぉ……」
全身に溜まった疲れを洗い流さんとばかりに、ジョッキの中身を飲み干し、唇に泡をつけてフニャフニャと力無くカウンターで尽きているのは、ユキノ・コルテッコ。猫
彼女の本日の依頼は馬車に積まれた積荷を店まで運ぶ運搬依頼。143cmの小柄な彼女には、中身の詰まった木箱はいささか重すぎたようだった。
「いくら報酬が良いとしてもこういう依頼はエンバー君とかムラサキちゃんに声をかけるべきだったなぁ……次からはそうしよう、うん」
注文した焼き魚をちまちまとつつきながら決意を固めたコルテッコ。
故郷であるダイモンの
故に故郷を離れ、自由気ままな放浪旅の末に、この街である劇団と運命の出会いを果たす。
勢いで入団した彼女は劇団員として稽古の日々を送っていたのだが、生きる為には金を稼がねばならぬという事で冒険者になったというなんともマイペースな少女である。
「まぁ、忙しい仕事だったけどお陰様でお金は貰えたし、これでしばらくは稽古の方に専念できそうかなぁ〜……ちょいとご褒美にお買い物しちゃおう!」
財布の中で確かに重みを増す銀貨を見てニヤニヤと今後の予定に夢を馳せていると突如としてそれは起こった。
「ああーー!!!!!!!見つけたーーーっっ!!!!!」
賑やかな酒場の喧騒を薙ぎ倒すような大声が響き渡る。小さなざわめきと共に海を割るかの如くごった返す人波がかき分けられていく。
入口からこの席までかなり距離があるのだが、それでも声の震源地が簡単に分かるほどそのシルエットは大きかった。
(……あれ?なんかこっちに来てない?え?嘘でしょ?っていうかすんごい大きくない!?!?)
コルテッコがどうか気のせいでありますようにと願った想いはズンズンと此方へ真っ直ぐに向かって来る姿を見て儚くも砕け散った。
彼女の脳内を様々な可能性が駆け巡る。
トラブル?いちゃもん?何処かで粗相でもした?幾度も思考を巡らせども答えは出ず、人影はみるみるうちに此方へ迫っていた。
コルテッコのカウンターの前まで来るとピタリとその巨大な人物は動きを止め、小柄なコルテッコが見上げても大きすぎて顔が見えない程の大きさのその人物は、此方をじっと見ているようであった。
「あぁっ……あのぉぉ……何か私にご用事が……??」
恐怖でほぼ泣きながらプルプルと震え、か細い小さな声で質問をしたコルテッコは突如として空へと飛び上がった。否、突然両脇を掴まれて持ち上げられたのだ。
「うえぇぇっ!?!?!?何!?!?なんですか!?ごめんなさい!?!?えぇっすご過ぎっ!?高っ!!!」
突如1m強持ち上げられたコルテッコは大パニックになりながらもその人物を見ると持ち上げられた事によって視線が揃い目があう。その人は彼女もよく知る人だった。
「ラッ……ラブリーハリケーンのカトリーナさん……???」
「あなたがスランバーボブテイルのテッコちゃんよね?」
「……えっ!?!?!?はい!!そうです…けど?」
「なら良かった!!!お願いがあるの!!!」
「はい?」
「あーしもパーティーに入れてちょうだい!!!」
「…………えぇ???」
「貴女のパーティーに入れてほしいの!!!」
「えええええええええ!?!?!?」
彼女の名はニダリーナ・カトリーナ・スノーホワイト。
先月金等級へ昇格を果たした稀代の
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電脳妄冒険譚 第二話『愛の暴風』
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冒険者ギルドエンドレスト支部の地下一階、黒を基調とした石造りの個室が立ち並ぶそこは上位の冒険者にのみ使用を許された俗に言うVIPルームである。
防音加工が施されたその快適な一室は、食事を楽しむも良し、依頼主と交渉の場に使うも良し、休憩したり談話するのも良し、と至れり尽くせりのサービスが搭載されている。
そんな中の一室にて二人は食事をとっていた。
方や先程よりも震え具合が増しているコルテッコ。注文された料理を口に運ぼうと必死に手を動かすも、料理はポロポロと皿に落ちてしまい意味を成していなかった。
その原因である向かいの彼女はテーブルいっぱいに提供された料理をひょいと口に運んでは、美味しそうに舌鼓を打っている。
ニダリーナ・カトリーナ・スノーホワイト。
馬
そのネオンピンクのツインテールとピンと立てられた馬の耳、そして身長230cmの巨躯を支える鋼鉄の城壁の様なキラキラにデコレーションされた可愛らしい重鎧が何処に居ても存在感を放ち、このエンドレストで知らぬ者は存在せぬと言わんばかりの有名人である。
「……それでね!最近ザルース劇場のとこのヴァエリ君が新しい公演で役貰ったんだけどそれがチョー本当にメロくて!!!マジ憑依レベルなんてもんじゃないのよ!!もう役がヴァエリ君になる為に産まれてきたと言っても良いぐらいにピッタリだし本当に神で……」
かれこれ1時間程ニダリーナの『推しトーク』を聞かされ続けて混乱を続けているコルテッコ、緊張をほぐす為の軽い小話のつもりが盛大に道が逸れてしまったようだ。
「あっ……あのぉぉぉ…………」
「それで新しいグッズがマジでヤバかったんだけどぉ……ん?どうしたのテッコちゃん?」
「いやっ……パーティーの話ってどっ……どういったことでそんなことになったんでしょうか???」
「あぁ!!ゴメンゴメン!!話逸れちゃったね!パーティーの話はね、ザリーク君と依頼受けた時に聞いたの!」
「ザリーク……」
コルテッコがリーダーを務めるパーティー『スランバーボブテイル』には現在自身を含めて4人のメンバーが在籍している。
リーダーであるユキノ・コルテッコ。忍で銅Ⅱ級。
孤児院を経営しているカイリ・エンバー。罠師の銅Ⅲ級。
蝶の
最後に、犬の
普段は基本的にこの四人でパーティーを組んで活動しているのだ。
『のんびりと自分のペースでお金を稼ぐ』をモットーに結成されたパーティーで、互いに依頼を持ち寄ったり、得意分野で助け合ったりしながら少しずつ依頼をこなしているパーティーな為、個人で依頼を受ける事も多々ある様な状況だ。
マニルダ・ザリークはパーティーの中でも1番戦闘センスがあり、敬遠されがちな遠征依頼や、冒険者の好まない派手では無い依頼を積極的に受ける事から非常にギルドからの評価が高く、誰とでも仲良くなれる好青年だ。
故に、ソロで他の冒険者と仮パーティーを結成したり、他所のパーティーにお邪魔する事も多いのだが、ニダリーナはそこでザリークと意気投合したのだと言う。
「……それでね、ザリーク君が『うちのパーティーはめちゃ面白いからね〜』って言ってたから気になって来てみたって訳なの!」
「なっ……なるほどぉ……」
「だから一緒に冒険に行けたら楽しそうだな!って思って突撃したの!」
「そうなんですねぇ……」
いくらなんでも有言実行過ぎるんじゃなかろうかという言葉を喉奥で飲み込んだコルテッコ。
しかし、パーティーに入るとなると話は変わってくる。なんだかんだ長い事この4人でやってきたリーダーとしては、さあようこそ!と簡単に迎え入れる訳にもいかず、銅級冒険者にもそれなりのこだわりとかがあるんだ!と意を決して発言しようと声を振り絞ろうとした。
「でっ……ですが、こちらにも」
「だからね!一回!一回試しにあーしと依頼受けてみない?」
「一回……ですか?」
「そう!勢いでパーティーに入れて!って言っちゃったけど、別にパーティーに入れて貰わないでも依頼は出来るでしょ?だからお試しみたいな感じで!」
「なるほど?」
「それであーしの事を一緒に依頼受けても良いなって思ってくれたら、それ以降も遊ぼうよ!」
「そういうことですか……」
思ったよりも理性的で建設的な提案に少し狼狽えつつも、それならばと首をこくこくと縦に振った。
軽い討伐任務に行って、ちょっとずつ知っていこう。きっとこんな派手な人だけど良い人なんだろう。コルテッコは金等級という未知の存在への歩み寄りを決意した。
注文した料理を楽しげに食べるニダリーナを眺めながらいそいそと食べ終わり、外に出てみれば既に日は暮れていた。
「それじゃあテッコちゃん!明日!」
「はい!」
「ダンジョンで!!!!」
「はい!…………はいぃ?」
「ダンジョンよ!」
「討伐依頼とかではなく?」
「ダンジョンよ!!!!」
「…………あのぉ、やっぱりまたの機会n「迎えに行くからね!!!!」「アッ、ハイ……」
じゃあねー!!と大きな声で手を振りながら去っていくニダリーナを見ながら途方に暮れるコルテッコ。
「……ダンジョン?????」
やっぱり金等級の人って怖い人たちかもしれない。そう考えて一人立ち尽くすコルテッコであった。
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『血濡れの街道』。
推定難易度は銀級。一本道の石畳の街道が遠くまで続くシンプルなダンジョンだ。左右は定期的に配置された街灯に照らされ、街道の両脇は背丈を優に超えるような大木の雑木林に囲まれており、冒険者たちの侵入を拒んでいる。
雑木林から敵が定期的に出現し、街道の最奥にいるボスを撃破するのがこのダンジョンの目標だ。
しかし、問題点は2つある。
1つは、このダンジョンの敵は種類が多く、一度に出現する数も多いため、多様且つ瞬時に判断が求められる事、そして2つ目は、敵が定期的に『無限に』湧き出る点である。
敵の出現から一定時間が経過すると再び雑木林から補充されるのだが、それは今まで倒した地点からも湧き直す。つまり、戦闘後の休憩を取ると後ろから襲われるという事なのだ。
撃破に時間をかけ過ぎると増援が湧く、倒したとしても休憩をしているとまた湧き直す。体勢を立て直す時間も、作戦を立てる時間も、身体を休める時間も足りず、解決策はとにかく足を止めずに敵を倒して先に進むのみ。
進むも地獄、止まるも地獄、引き返すのも地獄の強行進行。これがこのダンジョンの恐ろしい点である。
「にぎゃああああああ!!!!!!」
「ほら!!テッコちゃん!!!行くよ!!!」
「無理ですぅぅぅ!!!銀級ダンジョンなんて!!!」
「大丈夫大丈夫!!全然怖くないから!!」
「怖いとか以前に命が保たないですぅぅ!!」
ギルド内ダンジョン転移室、転送魔法陣の前でコルテッコは最後の抵抗を測っていた。
昨晩はダンジョンに連れて行かれると判明した後すぐに、他のパーティーメンバーに一緒に来てもらうようお願いを全力でしたのだが、
「僕はガキどもの面倒見る日だから無理だねー」
「私は演奏の予約があるので……」
とやんわり断られた。
事の元凶でもあるザリークに魔導通信で必死に連絡を入れるも、帰って来た返事は
「テッコちゃんならいける!ファイト!!!^_^b」
と非常に適当な返事であった。
「みんなの薄情者ぉぉぉぉ!!!!」
ニダリーナに脇に抱え込むように持ち上げられたコルテッコはジタバタと涙を流しながら愚かな抵抗を繰り返す。
230cmのニダリーナに対して、コルテッコは143cm。
到底抵抗出来るはずもなく、虚しく転移魔法陣へと放り込まれた。
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『血濡れの街道』スタート地点。夕暮れが街道を照らし、鬱蒼と茂る雑木林からは木々の擦れるさざめきに紛れて、嘲り笑うような魔物の鳴き声が聞こえてくる。
「うわぁああああん!!!死にたくないぃぃ!!!」
「テッコちゃん、落ち着いて?」
「ダンジョンで魔物に喰われて死ぬのなんて嫌だぁあああ!!!」
「テッコちゃん」
その一言で音が止む。先程までのニダリーナの声ではない、その声は強く、魂を揺さぶるような強者の声であった。
地面に転がっていたコルテッコは両脇を抱え込まれ、ニダリーナの顔と同じ高さまで持ち上げられる。
分厚い鎧に阻まれて見えていなかったニダリーナの顔と目が合う。化粧で整えられたキラキラ輝く綺麗な肌、上下整えられバッチリと花開く長いまつ毛、美しい曲線を描くアイライン、煌めくようなアイシャドウ、彼女を表すような可愛らしいグロス、目元のラインストーンがキラリと光る。
顔だけ見れば、年頃のバッチリとおめかしした可愛らしい女性である。しかし、そのキラキラの目の奥には、揺るぎない強者としての自信と、燃え上がるような決意が揺らめいていた。
「テッコちゃん」
「……はい」
「あーしは誰?」
「……ニダリーナさんです」
「長いから今度からニダリーちゃんって呼んで」
「……いやっでm「呼んでね?」アッハイ…」
「あーしが魔物に負けると思う?」
「……分かんないです」
「それじゃあ冒険者の先輩として1つアドバイスしてあげるわ!」
「?」
「金等級って結構強いのよ!!あーしのカッコいい姿、よーく覚えといてね?」
そう言ってお茶目にウィンクする彼女は、
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金等級。それは冒険者の中では最上位に位置する存在である。
銅等級への昇格試験の条件はダンジョンの踏破。
銀等級への昇格試験の条件は遠征依頼の完了。
では金等級への昇格条件はというと、明確な試験は存在していない。
『誰が観ても金等級に相応しい実力があると分かる実績を作る』
コレが単純にして1番難易度の高いと言われる昇格条件だ。それではニダリーナが昇格した際に何をおこなったのか、それはシンプルな回答である。
『1日で8つのダンジョンの連続単独踏破』
これが彼女を金等級へと昇格させた
風が鳴る。豪風が吹き乱れ、雑木林が大きく揺れる。
木々の騒めく音を掻き消すように鳴り渡るのは破壊音であった。
木が割れる音、金属が歪み凹む音、骨がひしゃげる音、内臓が破裂する音、血液の粘ついた飛散音。
それらの発生源は街道の中央に陣取っていた。
「どっ…せぇぇええええい!!!!!」
明るい掛け声と共に、ニダリーナの得物が振るわれる。
コルテッコの身長を優に越す大きさの巨大な鉄鎚を片手で軽々と振るう。
普通の成人男性が5人がかりで持ち上げられるかどうかの重さを誇る鋼鉄の塊が彼女の前にいる
高速の鉄鎚は軌道上の猟犬の分厚い毛皮も、ゴブリンの防御姿勢として構えたナイフも、存在しないかのように速度を落とさずに振り抜かれ、勢いそのままに抉り取って過ぎていった。
身体の大部分をくり抜かれた魔物たちは、その後すぐに振った風圧によって四肢を散りじりに弾け飛ばしながら飛散していった。突風に巻き込まれる落ち葉の如く飛んだそれら肉塊は、すぐさま灰となり消えていった。
この間僅か3秒程、瞬間の決着である。
「ふぃ〜!テッコちゃん!!次湧くのどれくらい?」
「はい!えーっと……10分後です!」
「了解!じゃあドロップ品拾ってちょっとゆっくり行こー!」
血濡れの街道の折り返し地点。ニダリーナとコルテッコはのんびりとした足取りで次の湧き地点まで進んでいた。
コルテッコの背負った魔法のバッグには既に大量のドロップ品と魔石が詰められている。
「本当にあっという間にここまで来ましたね……」
「テッコちゃん?」
「はい?」
「もう友達だから敬語はダメ!もっと気軽に話しましょ!」
「はい……あー、うん。分かったよニダリーちゃん」
「よろしい♪」
鼻歌まじりにご機嫌な様子でスキップで歩いていくニダリーナの後ろ姿を観ながら、コルテッコは一人考え込んでいた。
(ニダリーナちゃんがあまりにも強過ぎる……これが金等級の実力っ……!!)
此処まで来るのにかかった時間は推定40分ほど、彼女が1人で討伐した魔物の数は2桁の後半へと差し掛かかっている。
あまりにも隙がないのだ。大群を相手にする際も、片手に持った大楯で相手の攻撃を防ぎ、魔物の行動を誘導しながら流れるように撃破していく。
自分たちのパーティーでこの動きが出来るだろうか?思考を巡らせてみても、浮かぶ想定は時間切れか、火力不足を示していた。
これが金等級の実力。圧倒的な実力。
コルテッコはその大きな背中にほんの僅かな恐怖と、それを裕に凌駕する憧憬と見惚れる様な美しさを覚えた。
かっこいい。あんな風に戦えたらもっと冒険は楽しくなるのかもしれない。そして何よりも目を惹くのは楽しそうな笑顔である。
元々劇団活動の資金稼ぎでなりゆきで始めた冒険者業、なんとなくで続いてはいるものの、
「テッコちゃ〜ん!」
「もう少しで接敵!多分5体!前衛3、後衛2!!」
「りょうか〜い!!!」
後ろから見るだけでも学べる事は沢山ある。コルテッコは額の鉢巻を締め直すと、ニダリーナの後ろへと駆けて行った。
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そこからもニダリーナの無双の快進撃は続いた。
頑強な殻を持つ
飛んでくるゴブリンメイジの
打撃の効かないスライム系には武器を振り回し風圧で攻撃をしたり、
あらゆる敵を大鎚でドンドンと薙ぎ倒していく。殴り、突き飛ばし、振り抜き、抑えて、突き上げる。その動作に隙は無く、流れる様に敵が灰と化していく。
気がつけば長い長い街道も終点、円形状の大広間へと辿り着いた。ぐるりと街灯が囲むその空間には、大型の魔物が居た。
その体躯は捻れ、折り重なった屍骸で出来ている。幾重にも伸びた手脚の集合体は羽となり、腐乱臭の酷い肉体を覆っていた。垂れ下がる様に伸びた先の頭蓋骨には、鋭いクチバシと、ぼとぼとと沸き出る蛆を垂れ流す空虚な穴が此方をじっと見据えている。
不恰好な芸術品の様に、不釣り合いな死体の集合体。
ボスである
「にゃっ!?ボスだよ!!どうしようニダリーちゃん!!」
「どーするもなにも、全部気合いでぶっ潰すだけっしょ!!」
「でも!!すっごい恐ろしい感じだよ!?!?」
「だいじょーぶ☆!さぁさぁ来るよー!!下がって!!」
大鴉が雄叫びを上げて一心不乱に突進を始める。ニダリーナでも見上げる程の巨体が地響きを鳴らしながら此方へと向かってくる中、ニダリーナは動かず、大楯を構えて迎え撃った。
鈍く大きな衝突音が振動と共に響き渡る。あまりの衝撃にコルテッコは転がりそうになるも踏ん張って耐えることが出来た。
土煙の立ちこめる中、ゴウンッと一際大きく鈍い音が鳴り、土煙が晴れていく。大楯を大きく振りかぶり大鴉を弾き飛ばしたのだ。
仰け反り体制を崩す大鴉、ガラ空きになった胴体にニダリーナの大鎚が突き刺さる。死体が潰れる不快な音に混じって鈍い破壊音が響く。肉片と砕けた骨を撒き散らしながら大きく悶える大鴉。盛大に内臓や死体を撒き散らしている胸部にはぽっかりと大きな空洞が出来上がっていた。
「正面から……一撃で……」
コルテッコも思わず息を呑み込む程の凄まじい一撃。
ニダリーナは大鎚をブンブンと振り抜き、次の攻撃に備えている。
大鴉は金切り声を上げると屍骸で出来た羽をバサバサと動かし、空へと飛び上がった。そしてそのまま上空からひたすらに
まさに魔法の雨、降り注ぐ闇の連弾の中、ニダリーナとコルテッコは大楯を上に掲げ、雨を凌いでいた。
「ありゃ、思ったより速かったね第二形態」
「ニダリーちゃん!!このままだと一生打たれ続けっぱなしだよ!!!大鴉は高い所だし!!!」
「まぁまぁそう慌てなさんなって!このカトリーナにはしっかりと策がございますのよウフフ……」
そう不敵な笑みを浮かべるとニダリーナは大楯を地面に深く斜めに突き刺して自立する様に設置し、自分だけ闇の雨の中へと飛び出した。
「ニダリーちゃん!!!!!」
突然の暴挙に叫び手を伸ばすコルテッコ。
だがしかし、ニダリーナは少し顔をしかめながらも魔法を凄まじく受けながらも平然と立っていた。
「イチチ……ちょっとピリピリするなぁ……さっさと終わらせましょ!!」
そう言いながらニダリーナが腰のポーチから取り出したのは、ジャラジャラと鈍重な音を鳴らす頑強な鎖であった。コルテッコの腕よりも太いその鎖は、ポーチからズルズルと引っ張られ続けている。
幾許かの時が経過し、鎖の終点が遂に見えた時、ニダリーナは自身の大鎚に鎖を装着した。
「完成〜!!対空ハンマー!!」
両腕で自慢げにこちらに完成品を見せて来る。コルテッコはハラハラと見守っているしかなかった。
ちなみに現在進行形で彼女は魔法攻撃を受け続けている。正気の沙汰とは到底思えない。
「そしたらぁ〜これを〜!!!こうッ!!!!」
鎖を持ち、ぐるぐると振り回し大鎚が空を描く。ブオンッブオンッと轟音が空を切る。その勢いのまま大鴉目掛けて放たれた。凄まじい速さで空を裂く鉄塊は、猛烈な量の闇魔法を浴びても速度を落とす事なく、大鴉の頭蓋骨を正面から粉砕した。
「イエーイ!!ストライク!!!」
「とんでもない威力……」
頭部を粉砕された大鴉は、力なく地面へと墜落した。
魔法は止み、辺りが静寂に包まれている。中央に残された死体の山と2人だけが存在する状況だ。
コルテッコはニダリーナに駆け寄り、興奮気味に腕をブンブンと振りながら声を掛けた。
「凄いよニダリーちゃん!!!ガーンッてぶつかって!!一撃で!!!」
「へへん☆凄いでしょ〜!……テッコちゃん♪」
「ん?何?」
「ちょっとお願いがあるんだけど良い?」
「ドロップ品拾い?全然先にやっておくけど……」
「ううん、これをハンマーに巻いて欲しいのよね」
そう言ってポーチから取り出されたのは、ピンク色の可愛らしい布であった。不思議な柄をしているそれは、リボンというには太く頑丈で、帯や縄という表現の方が適切な物だった。
「何これ?リボン?」
「後で教えたげる。そろそろだろうしねぇ……」
そう言いながらニダリーナの視線は死体の山へと移る。
その時、小さな音が聞こえた。
カタカタと音が鳴る。砕かれたクチバシが小刻みに震える。開くはずのない口が開いた。其処から生み出されたのは鳴き声であった。
酷く悲しく、掠れるような耳障りの悪いその音は、途切れ途切れのレコードの様に永遠と垂れ流されている。
「なに……これ……」
コルテッコは思わず作業する手を止めてしまった。その視線の先は広場を取り囲む雑木林の中であった。
枝にはカラスが止まっていた。よく目を凝らせば、そこにも、向こうにも、後ろにも、あそこにも。
気がつけばこの広場は、夥しい量のカラスに囲まれていたのだ。木々を埋め尽くす大量のカラスはじっと、死体の山を見つめていた。
刹那、ガラスを引っ掻くような不快な音が鳴り響く。
砕いた筈のクチバシが宙を舞い、止まっていたカラス達が一斉に中央へと殺到する。凄まじい数の黒い群れが渦を巻き、カラス達は群れを個とする様に大きな巨人の姿を模った。黒き羽の大巨人。腐れ大鴉の最後の抵抗である。
「コレが最終形態。往生際悪いねぇホント、しつこいのはレディーに嫌われるんだぞ!」
「まっ……まさか……!?」
「そう……来るよー!!!」
その瞬間、雪崩の様にカラス達が捨て身の体当たりを2人めがけて繰り出してきた。
弾丸の様に射出されたカラス達がとめどなくニダリーナに向かってクチバシを突き立てんと突進を行って来る。
ニダリーナは両手で大楯を持ち、その黒い濁流を正面から受け止めた。凄まじい衝突音と、飛び散る黒い羽。
ニダリーナも流石に腰を深く落として本気で盾を構えている。
「大丈夫よ!テッコちゃんには爪一本も触れさせないから!」
「……急ぐねっ!!」
コルテッコは急いで布を大鎚に巻き続ける。
ジリジリと、僅かにニダリーナの脚が後退していく。盾の向こうでは1秒とかからずに自身を簡単に殺害しかねない怒涛の攻撃が行われてるのにも関わらず、コルテッコは何故か恐怖は無かった。
「……ニダリーちゃん」
「なぁぁにぃ!!!!」
「まだ、ニダリーちゃんとは少ししか話してないし、まだまだ分からない事だらけだけど、ちょっと分かってきた事があるの」
「……?」
「ニダリーちゃんなら……きっとこんな奴に負けるわけないなって!!!!」
「大正解っ!!!ニダリーちゃんに……まっかせなさぁあああい!!!!!」
「受け取って!!!」
「よし来たぁ!!!!!!」
コルテッコが鎖の端をニダリーナに投げつける。ニダリーナは構えていた大楯を片足で正面に蹴り出し、強引に猶予を作りだす。そして掴んだ鎖を勢いそのままに、身体ごと回転し始めた。
グルグルとニダリーナが鎖の先のハンマーごと回転を続ける。回転数を上げるごとに、どんどんと、どんどんと風が強まっていく、気がつけば数回転のうちにニダリーナを中心とした暴風が生み出されていた。
勢いが猛烈に強くなっていく、突撃していたカラス達が巻き込まれ、風に呑み込まれていく。
「これが…………ニダリーナスーパーハリケーンだぁあああああああああ!!!!!!」
カラスを、木々を、巨人を、全てを巻き込んだ台風は、天高く伸び上がり、荒れ狂う風はカラス達を灰へと変えていく。
暴風にしなる木に飛ばされまいと必死にしがみつくコルテッコ。暫くの時が経ったのだろうか、やっとの思いで足が地面へと着いた時広場を見る。宙を舞うカラス達の灰がキラキラと光を受け反射していた。
暗闇を照らす街灯達が広場の中央へとスポットライトのように光を届かせる。
中央には今回の
「ニダリーちゃん!!!」
「テッコちゃーん!!あーし大勝利〜!!!」
コルテッコは足をもつらせながらも駆け寄る。勢いのままに転がりそうになる程であったが、ニダリーナは両手を広げてがっしりと受け止めた。
「ニダリーちゃんってとにかく何というか……可愛いけど、かっこいいね!」
「超嬉しいこと言ってくれるじゃん!あーしは最強だからねー!」
目をキラキラと輝かせ抱きつくコルテッコをニコニコで持ち上げるニダリーナ。側から見れば年の離れた姉妹の様な微笑ましい光景だが、未だダンジョンの中である。
「テッコちゃん」
「なに?」
「あーし、こんな感じだけどこれからも友達として
「……まだニダリーちゃんのこと知らない事だらけだし、ちょっぴりパワフルすぎて怖いけど、なろう。お友達に!」
「本当ッ!?!?やったああああああ!!!!!」
「うわっ!?!?、ちょっ!!高すぎぃいいいいいいいい!!!!!!」
「あ、やべやべッ!!……今キャッチするからねー!!」
喜びのあまりコルテッコを天高く放り投げるニダリーナ。夕闇の空に泣き叫ぶ彼女のシルエットが浮かび上がる。これ以降、スランバーボブテイルに助っ人として時折彼女の姿が見える様になったのはそれからの事である。
今にして思えばコルテッコ達に巻き起こる騒動の数々は、ここから始まったと言えるのかも知れない。その話が語られるのは、また別のお話である。
第二話 『愛の暴風』 完
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・人物紹介
ユキノ・コルテッコ
種族:猫獣人とドワーフのハーフ
クラス:忍者
使用武器:短刀
等級:銅Ⅱ級
所属:パーティー『スランバーボブテイル』リーダー
活動拠点:娯楽街エンドレスト
異名:『宵目のテッコ』
マイペースだが、割と振り回されがちな苦労人の忍者見習い。暫く高い所が怖くなった。
特技は猫と会話が出来ること。
名前:ニダリーナ・カトリーナ・スノーホワイト
種族:馬獣人とヒューマンのハーフ 女
クラス:ジャガーノート
使用武器:大槌、大楯
等級:銀Ⅲ級 金Ⅰ級
所属:なし
活動拠点:娯楽街エンドレスト
異名:『ラブリーハリケーン』
猪突猛進ラブリーガール。冒険者になった理由は推し活の資金稼ぎ。推しを巡るトラブルで5軒ほど劇場を破壊している問題児。雨が降っても傘はささないタイプ。
名前:カイリ・エンバー
種族:ヒューマン 男
クラス:トラッパー
使用武器:ワイヤーキット
等級:銅Ⅲ級
所属:パーティー『スランバーボブテイル』
活動拠点:娯楽街エンドレスト
異名:『鉄蜘のカイリ』
パーティーの参謀役。孤児院を経営しており、子供達をガキ共と呼ぶ。銀等級昇格試験を打診されたが、遠征試験が面倒で受けていない。
名前: ムラサキ・アレキサンドラ
種族:半蟲人(蝶)
クラス:吟遊詩人
使用武器:白樺のリュート
等級:銅Ⅱ級
所属:パーティー『スランバーボブテイル』
活動拠点:娯楽街エンドレスト
異名:『鱗粉舞のムラサキ』
パーティーの支援兼回復担当。非常におっとりとした性格。コルテッコとは同じ劇団に所属しており、過去にコルテッコに救われた経験を持つが、向こうは自覚が無いらしい。
名前:マニルダ・ザリーク
種族:犬人 男
クラス:ガードナー
使用武器:大楯
等級:銀Ⅰ級
所属:パーティー『スランバーボブテイル』
活動拠点:娯楽街エンドレスト
異名:『忠犬リーク』
パーティーの前衛担当。非常に優秀な好青年。ニダリーナとは秒で意気投合した。完璧な人物だと思われがちだが、趣味は女性に勝手に従うことである。ニダリーナの手入れ後の蹄を貰おうとしてビンタされた。
感想、コメント等頂けると励みになります。