イグニス・ファトゥウスの贖罪   作:石炭の燃えさし

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 足を突き動かす衝動は、ただ只管の怒りだった。

 

「フゥーーーー…………フゥーーーー…………」

「ば、化物かよ……!」

 

 その化物を解き放ったのは誰か、そんな色を宿した目が脅えた青年を捉えた。

 

 彼らは、所謂不良グループであり半グレにも近い暴力集団であった。資金源は非合法で、自分達の欲望を満たす為ならば法を踏み躙る事にも躊躇いは無い。

 

 そのツケを今、彼らは支払う事になっていた。

 

 襲撃者は、少年だ。その目に光は無く、門番のような役割だった仲間はその脳天をスレッジハンマーでカチ割られて死んだ。

 乗り込んできた少年は、金属製のスレッジハンマーを振り回して次々に不良たちを殴殺。ハンマーを振り回す隙を突いて近付いた者たちも、腰の後ろに仕込んでいたネイルハンマーによって殴り殺された。

 

 瞬く間に彼らのアジトは、血と臓物に彩られた。うめき声の一つも聞こえず、特にリーダー格であった男は念入りに下半身が叩き潰された上で頭を殴り潰されている。

 

「な、なんだよ!何なんだよ!何が目的だ!?」

「それを……お前らが言うのか?」

 

 初めてそこで、少年が口を開いた。

 喚く青年に対して、その目は侮蔑と激しい憎悪と怒りが見える。

 

「姉貴をあそこまで弄んだ上で、まるでゴミみたいに捨てたお前らが……!」

「はあ!?な、何のはなぎゃああああああああああああああああああああああああ!?」

 

 言葉は途中で悲鳴に変わった。青年の右足に、スレッジハンマーが振り下ろされてその骨と肉を文字通り叩き潰したのだ。

 少年は、喚く青年の腹を勢い良く蹴りつける。

 

「死ね!死ね!死んじまえ!!!お前ら全員、生きてる価値もねぇだろうが!!!」

「ぶっ!ぐっ……!おっ、ガッ………!」

 

 少年の憎悪全てが暴力として吐き出される。

 

 彼には、一人の姉が居た。

 優しく、気立て良く、笑顔が素敵な少女だった。

 

 そんな少女はその整った容姿の結果、不幸な末路を辿る事になる。

 慰み者とされて、最後はゴミ捨て場で冷たくなって雨に打たれる姿で少年が見つける事になる。

 

 両親を早くに亡くしてたった一人の肉親だった相手の無惨なその姿は、少年の箍を外すには十分すぎるモノだった。

 

 結果、今に繋がる。

 

 彼らは知らなかった。暴力で搾取してきたからこそ、暴力に晒される側の恐ろしさというものを。

 

 最後の一人がミンチになって、少年の肩に籠っていた力が抜ける。

 手からずり落ちるスレッジハンマー。金属音を立てて落ちたソレを一瞥してから、少年は徐に入口へと戻った。

 何やら作業をしてから、再び建物内へ。その手に持っているのはポリタンクだ。

 血と脳梁、臓物で彩られた惨劇の中で、彼はポリタンクの中身をまき散らす。

 独特な刺激臭。タンクの中身は、ガソリン。

 程々に気化した所で、少年はタンクを放り捨ててポケットからマッチの箱を取り出した。

 一本摘まみ取って、着火。そして何のためらいもなく床に広がるガソリンへと放り投げれば勢いよく炎が燃え上がった。

 その炎の中へと、少年は足を進め最も燃え盛った場所で立ち止まる。

 

「…………ごめんな、姉ちゃん」

 

 口を突いて出たのは、謝罪の言葉。

 彼とて分かっているのだ。こんな事をしても意味がない、と。

 だが、止められなかった。憎悪と赫怒がどうやっても抑えられなかった。

 だからこそ、今この場で終わらせる。既に、天涯孤独の身の上なのだ。何より、この世界に既に未練など無いのだから。

 ズボンの裾が燃え始め、皮膚が焼ける。

 今すぐにでも逃げろと本能が叫ぶが、ソレを無理矢理に押さえつけて少年はその場に座り込むと大の字に燃える床へと転がった。

 燃え尽きる事に後悔は無く。焼け死ぬ事への恐怖も無い。

 

 この日、町外れのとある廃ビルが全焼する火事が起きた。

 焼け跡からは複数の死体が発見されており、生存者はいない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カラリ、骰子が揺れる

 

 ここは、神々の遊技場

 

 《幻想》と《真実》の神が、ゲーム盤を見つめ互いの手番を待っています

 

 周囲には様々な神々が、骰子の出目に一喜一憂

 

 そんな折に、一柱の神が新たな駒をゲーム盤へと置いたのです

 

 《死灰神》と呼ばれる超存在は、ニヤリと笑い今回は《祈るもの(プレイヤー)》を追加すると言い出したではありませんか

 

 置かれた駒は、奇妙なもの

 

 人、正確には男性であり体の前で互い違いの槌を交差させている造形です

 

 ですが、最も特徴的なのはその顔の部分

 

 半分は人の形を保っているというのに、もう半分は炎に呑まれたような意匠となっていたのです

 

 注目を集める駒に満足そうにうなずいて、《死灰神》は駒の生い立ち(プロフィール)を声高々に語り始めました

 

 語られる中身は、救いのないもの

 

 優しい性格の《幻想》は涙目となり

 

 正反対の性格の《真実》は眉をしかめ

 

 癒しを主とする《地母神》はどうにか自分の元へと庇護されに来てほしいと骰子に願い

 

 秩序側を返り討ちにする《豊穣》すらその触手を萎びさせています

 

 そして、神々は新たな駒の参加を認めるのでした

 

 カラリコロリと骰子が振られる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目を覚ます。浮上した意識に引っ張られるようにして、少年は目を覚ました。

 霞んだ視界が時間を重ねるごとに鮮明になっていく。

 同時に、他の五感も働き始めていた。

 鼻が、嗅ぎ慣れない自然のニオイを。耳が、風に揺れる梢を。肌が、吹き抜ける風の感触を。舌が、濃密な血の味を。

 

「ぐっ…………ここは…………」

 

 どうにかこうにか身を起こした少年は周囲を見渡した。

 森。生い茂った木々が視界を遮り、先を見渡せない森が周囲には広がっている。

 少年が転がっていたのは、森の中でもギャップと呼称される枯れた木々などの結果出来上がる空白地帯だった。

 呆然、という言葉が正しいか。そもそもの話、彼にしてみればこうして再び目を覚ます事の方がおかしいのだ。

 

「…………死んで、ないのか」

 

 その言葉に含まれるのは、絶望か。

 座り込んだまま見下ろした両手。細かな傷こそあれども、それでも真面な手がそこにはある。

 だが、やはりおかしい。少年の最後の記憶は、自らを焼き焦がしていく炎に包まれた激痛と熱の記憶であったのだから。

 地獄と呼ぶには、余りにも穏やか。

 とりあえず、その場に座り続けている訳にもいかず少年は立ち上がった。同時に、彼の近くに転がっていた二つの物にも気が付く。

 

「…………本当に、何なんだ」

 

 スレッジハンマーとネイルハンマー。

 どちらも近くのホームセンターで購入し、間違った使い方をしてしまった代物だ。

 只管に頑丈である事、振るえば何かしらの致命傷を与える事が出来るもの。この二点を突き詰めた結果、この得物へと行きついた。

 試しに拾い上げれば、どちらも土の汚れなどはあるが煤や血肉に汚れた様子はない。

 拾い上げたスレッジハンマーを軽く片手で振るい、少年はとある疑問を覚える。

 

「こんなに、軽かったか?」

 

 柄が金属製で、持ちて部分を滑り止めのゴムで覆われたスレッジハンマーは先端の重量も合わせて十キロには届いていない程度の重さだろう。それでも、重心が先端にある分振り回せば体が持っていかれる事も珍しくない。

 だが、今の少年はまるで棒切れでも振り回す様に風を切ってハンマーを振り回す事が出来た。

 気になる事はある、しかし同時にそれは考え続けても答えなどでない問いでもあった。

 とりあえず、スレッジハンマーを肩に担ぎ、ネイルハンマーを腰の後ろ、ベルトの隙間にねじ込むようにして差し当ても無く歩き出す。

 不思議な気分だった。夢見心地と言っても良いだろう。それほどまでに、少年には現実味というものを感じられなかったのだ。

 自己満足の果てに、憎悪と赫怒の向かうままに突き進んで果てた。その筈だった。

 

「生きてる、のか…………それとも、死んでるのか」

 

 胸に手を当てれば、力強い心臓の鼓動が感じられた。しかし、ソレがイコール生きている事の証明、とはならない。この辺りは、哲学の領域に足を踏み入れる事になるだろう。

 思考を打ち切った少年は、内から外へとその意識の矛先を変えた。

 幸いと言うべきか、彼はそれほど時間を掛けずに道に出る事が出来た。

 彼が良く知るアスファルトの舗装がされたものではなく、均されただけの下生えが取り除かれた土の道。

 少年には、二つの行き先が出来た。

 右に行くか、左に行くか。少年には聞こえない骰子の音が転がる。

 

「こっちに行くか」

 

 選んだのは、彼から見て右。理由は特に無い(神々の骰子の結果)

 土を踏みしめ、時々空を見上げて少年は道を行く。

 空は快晴。雲はあれども真っ白の千切れたものばかりで、雨の心配はない。日もまだ高く夜闇に脅えて過ごす必要も無いだろう。

 何より、少年の視線の先には小さくだが人の手が入っている建造物が見え始めていた。

 

「…………ん?」

 

 空に立ち昇る黒煙と共に。

 少しの逡巡を挟んで、少年は駆けだした。

 小走りから、徐々に加速。やがて土埃を巻き上げる速度となって、その様は宛ら一筋の黒い線。

 

 そして、少年は地獄と相対する。

 

「ッ…………」

 

 酷いモノだった。

 壊された石材と木材を組み合わせた家々。頭を潰されて、内臓を貪られたであろう空っぽになった胴体の穴を晒して横たわる家畜の死骸。

 粗末な矢を射かけられてうつ伏せに倒れた男性。揺り椅子に腰かけて絶望に顔を歪めてその胸部をボロボロの剣に刺し貫かれ絶命した老婆。

 そして、

 

「GYAGYA!」

「う…………あ…………」

 

 凌辱される女性たち。

 年齢は、十代前半の少女から、その母親であろう年代まで。

 彼女らを穢すのは、緑色の子供ほどの身長の醜悪な容姿をした小鬼たち。

 

「…………」

 

 少年の心臓が、大きく拍動する。血行が加速し、髪が揺らめき逆立つ。

 そのまま無言で、彼は足を前へと進めた。

 ただならぬ気配を纏って近づいてくる少年に、小鬼たちは気が付いた。

 だが、だからといって彼らに危機感は無い。

 数の上では上回り。オマケに相手は真面な鎧も着ていない様な平服の只人(ヒューム)。得物も持ち合わせているが、それでも自分達の優位は揺らがない。

 その判断は、直後に裏切られる事となった。

 

「GIBE!?」

 

 ゆっくりと歩いていたかと思われた少年は、次の瞬間大股で三歩はあった距離を一瞬で詰めると小鬼の醜悪な顔面に向けて右手に握ったスレッジハンマーを薙ぎ払うようにして叩きつけていた。

 遠心力と怒りの相乗効果か、叩きつけられたハンマーの頭部分は容易く小鬼の皮膚、肉、骨、歯を粉砕し撃ち砕くと一切の抵抗を許す事無くその頭部を弾けさせ、勢いで胴体を凪飛ばした。

 まさかの光景に、小鬼たちの動きは止まる。だが、処刑人は止まらない。

 

「お前らは、皆殺しだ。必ず、殺す……!」

 

 少年にとっての逆鱗を踏み躙った小鬼たちに、一切の慈悲は与えられない。

 薙ぎ払い、叩き潰し、蹴り殺す。逃げようと背を向けた小鬼に対しては、腰に差したネイルハンマーを抜いて投擲し後頭部を叩き割った。

 一方的な蹂躙劇。その姿に、どうにか生き残っていた村の住人達は胸のすく、或いは恐怖にも似た感情を抱いていた。

 程なくして、周囲の小鬼は一掃された。逃げ出そうとした者も、先のネイルハンマーの投擲やその他折れた槍や石などを逃げる背中に投げつけられて全滅。

 そして、

 

「Grrrrr…………」

 

 現れる、巨体。

 先の小鬼と近縁種なのだろう特徴を有しながら、圧倒的に違う体格。

 少年が見上げるほどの巨躯に加えて、その身体にはミッチリと肉が詰まっている。

 

 彼らはこう呼ばれる、小鬼英雄(ゴブリンチャンピオン)と。

 

 単純戦闘能力は、最早通常の小鬼(ゴブリン)の比ではない。場合によっては小型の竜種を撃退するであろう剛力を有する。

 正に、暴力の化身。

 今回、少年が相対するこの小鬼英雄はまだ年若い個体でもある。

 暴力と略奪の味に酔いしれており、何より己を邪魔する全てを叩き潰すという狂暴性を有していた。

 

 小鬼英雄は、己の得物である巨大な棍棒を右手で振り上げ薙ぎ払う様に一歩前へと出つつ横薙ぎ。

 対して、少年の選択は回避ではなく、迎撃。

 鏡写しのような構えから、スレッジハンマーを右手で思いっきり横薙ぎに振り切った。

 明らかな無謀の結末は、直ぐに訪れる。

 

「GIHI……」

 

 下卑た笑みを浮かべる、小鬼英雄。

 撃ち負けたのは、少年。スレッジハンマーは弾かれて近くの家の外壁を突き破って消えた。

 何より酷いのが右腕の現状。

 端的に言って、指の骨骨折、右肘の脱臼、靱帯損傷、右肩脱臼。その他、骨折や骨の罅など、右腕が千切れ跳んでいないのが不思議な満身創痍。

 チラリと一瞬だけ、少年は己の垂れ下がった右腕を一瞥。

 明らかに、冷静ではなかった。自身の地雷を真正面から踏み抜かれた結果、怒りと憎しみで全てが破壊へと繋がってしまっていた。

 結果、この様だ。右腕の使用不能と武器の喪失。ここからは、素手で自身より体格に優れた相手を打倒せねばならない。

 絶望的な状況を前に――――少年の内に火が起こる。

 

「何を、嗤ってやがる………!」

 

 怒り。それこそが、少年の原動力であり力の源。

 怒りのままに、彼は数十人規模のグループを皆殺しにした。強い感情がそのままに少年に力を齎す。

 

 それは、今回もそうだった。

 

「?」

 

 小鬼英雄が気付いたのは、細い煙だった。

 出所は、目の前の今まさに叩き潰すだけで済む只人の少年。

 ぐちゃぐちゃになり、辛うじて人の腕の形を残した右腕から立ち昇る幾つもの細い煙。

 同時に、周囲の温度が急激に上がり始めていた。

 

「お前らみたいな下種が、食い物にしていいモノなんざ、何処にも無いッッッ!!!!」

 

 激昂と共に、青い光がその場を焼いた。

 発生源は、潰れた少年の右腕。

 

 燃えていた。青白い不気味な炎が、彼の右腕を芯材にするようにして燃え上がっていた。

 

「GOBU!?」

 

 何が起きたのか分からない小鬼英雄は、咄嗟に後方へと飛び下がっていた。

 この間にも、少年の体には変化が起きている。

 右腕に熾っていた鬼火は、全身へ。更に、()()()()()()()()()()スレッジハンマーとネイルハンマーが独りでに飛んでくるとソレを少年は見もせずに左手と()()()受け止めた。

 そう、右腕だ。千切れていないだけでも最早用を成さなかった筈の右腕が青い炎を傷を負った箇所から噴き出しながら元の機能を果たしているのではないか。

 左手にネイルハンマー。右手にスレッジハンマー。異形の二刀流に加えて、不気味な青白い炎を纏ったその姿。

 

「ッ……!」

 

 恐怖。今日この瞬間に至るまで暴力の信奉者であった小鬼英雄は、弱かった頃のような怖気を抱き自然とその足を一歩後ろに下がらせていた。

 

「逃げるなよ、クズが」

 

 そこを見咎め、少年が前へと歩を進め乍ら挑発を投げる。

 逃がさない。相手は、臆病な気質を持ちながらも同時に傲慢なまでに自身の暴力性に自信を持っている。であるのなら逃げに転じようとする体を押し留めるのは言葉で十分だった。

 案の定、小鬼英雄の頭に血が昇る。完全に言葉を理解できずとも、その態度と雰囲気から会い得ての言わんとしている事を九分九厘理解できたからだ。

 更に、十分に近づいた所で、少年は右手のスレッジハンマーを振り被った。

 コレも、誘い。先ほどの光景の焼き回し。

 小鬼英雄は逃げない。ついさっき、勝った勝負であったからだ。

 互いに振るわれる、ハンマーと棍棒。

 

 激突、そして()()

 

「!?」

 

 今回打ち負けたのは、小鬼英雄の棍棒だった。

 何が起きたのか。棍棒とハンマーヘッドが衝突した瞬間、鬼火が勢いよく爆ぜたのだ。

 単純な馬力では、小鬼英雄が勝っていた。だが、だからといって両者に隔絶した力の差があったかと問われれば、否。

 確かに、少年は右腕を壊され得物を吹き飛ばされた。だが、それでも小鬼英雄と比べれば10:7程度の力の差だった。

 この残りの3を埋めて、そして踏み越えたのが青い炎の炸裂にある。

 インパクトの瞬間、圧縮された鬼火が炸裂する事によって対象を焼き焦がしながら、且つ破砕する。

 辛うじて棍棒を手放す事は無かったが、小鬼英雄の体は大きく揺らいだ。

 そこに迫るのは、右腕を振った反動を利用し溜を作った左腕。

 殴打部ではなく、釘抜きの方を利用した打撃刺突。

 

 ワスプナイフ、というものがある。切っ先近くに小さな穴が開いており、柄の中に小型の炭酸ガスボンベを仕込んだ代物だ。

 このナイフを対象に刺し、柄にある機構を作用させると刃の内部を伝って炭酸ガスが刺した対象へと注入されて破壊されるというもの。

 扱いの難しい代物だが、本来は対人ではなく海や山での対猛獣を想定して開発されたものだった。特に、鮫。

 

「GIッ………!」

 

 打ち込まれたネイルハンマーに、小鬼英雄の巨躯が彼から見て左側へと押し込まれて曲がる。釘抜きは、容易くその強靭な筋肉の鎧を突き破って突き刺さっていた。

 恐るべきは、この直後。

 

「!?GAAAAAAAAAAA!?」

 

 ネイルハンマーの一撃により、鬼火は()()()()()()()

 代わりに、その釘抜き部分を注射針として突き刺さった小鬼英雄の体内へと猛烈な勢いで炎を注入していったのだ。

 文字通り、体内から焼かれた小鬼英雄は絶叫を上げた。そして、痛みのままに振り払おうと動くが、一手遅い。

 

「GAGYAAAAAAAA!?」

 

 体内を焼かれた時以上の、絶叫。一際強く送り込まれた鬼火に、小鬼英雄の胴体が耐えきれなかったせいだ。

 皮膚が内側から赤熱し、一瞬大きく膨張したかと思えば直後に爆発。焼け焦げた臓物と、熱されて煙を上げるどす黒い血をまき散らして辺りを汚した。

 当然、間近で爆発を受けた少年も血みどろだが、その目瞬きの一つもすることなく右手を持ち上げる。

 腹に空いた大穴を抑えて前のめりに蹲る小鬼英雄の無防備な脳天。

 そこに一切の躊躇なく、少年はスレッジハンマーを振り下ろす。

 炸裂。皮膚が焼け飛び、頭蓋が砕ける。炸裂。砕けた骨が更に細かくなり、能力が燃え散った。炸裂。僅かに残った頭部パーツが更に炎と共に四散、燃えて弾ける。炸裂。首が焼き潰された。

 炸裂。炸裂。炸裂。炸裂。炸裂。炸裂。炸裂――――

 

「――――ハァァァァ…………」

 

 どれ程の時間が経ったか、少年は前傾になっていた体を起こした。

 彼の足元では、最早原型も分からない焼き潰された炭の塊が転がっているばかり。

 現況を潰し、少年は周囲を見渡した。

 

「…………まだ、居るな」

 

 その先は森の中。本来は見通せない筈のその先を、少年は確かに見通していた。

 鬼火を纏い、歩く姿は宛ら亡者の様。

 そして、この場に未だ生き残る小鬼にとっての死神だった。

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