最推しの羽川翼と付き合いたい 作:羽川翼はヤベー奴
011.蝸牛の幼馴染み
彼女と初めて会った時、俺は開口一番にこう言われた。
「あなたの事が嫌いです」
「あなたの事が嫌いです」
「それ何百回目?NPCの村人か何かなの?」
俺はリュックサックを背負ったツインテールの少女、八九寺真宵と話していた。
「(それにしても、今日は別に家出したい気分じゃないのにどうして見えるんだ?確か、家出したい時にしか見えないんだよな?)」
それが何故か普通に見えていた。
「(迷い牛……自分を永遠に迷わせる怪異)」
原作キャラである。
そして、この人生で見捨てた人でもある。
だから、嫌われるのはある意味で当たり前の事だった。
「まあ、実は言うとあなたの事が嫌いと言うのは全部嘘なんですけどね」
「うん?」
おっと、流れが変わったぞ。
「今さら、この様な事を言うのは烏滸がましいことこの上ないですが、──今まで失礼な事を言ってすみませんでした」
「なん……だと……っ!?」
そうして、ペコリと頭を下げる八九寺に驚愕する。
そんな馬鹿な……ありえない!?
「
そう、何とこの八九寺真宵とは10年の長い長い付き合いである。
もはや第二の幼馴染みとも言える関係性だ。
「私としてもここまで長い間関係を持つ人が現れるとは思いませんでしたよ。私がどれだけ『あなたの事が嫌いです』と言っても、『うーん、今日は75点かなー?』とか言って平気な顔をして話し掛けてきましたからね、あなた」
「まあ、最初は迷子の女の子かと思ってたけど、流石に5年目には幽霊だって事は分かったよ。だって、姿変わらないし。それに気がついた時は1分だけ怯えて『まあ、いっか』ってなったんだよなぁ*1。懐かしいよ」
「いや、早すぎるでしょう。何なんですか?その順応力。普通、幽霊相手に『お勤めご苦労様でーす』とか言いながら、手土産のドーナツとかお菓子とか持ってきませんよ?私に怯えていた純真な
「その俺は1分で死んだよ」
「そんな殺生な!?」
「幽霊にそう言われたらおしまいだよ」
大体、いつもこんな感じの会話をしている。
生産性なんて欠片もない。
駄弁って話して帰るを暇な時に繰り返していただけ。
「で?真宵の
「あの……その姐さんって止めてくれません?私達の見た目で姐さんは無いでしょう。私の方が明らかに年下じゃないですか」
「いやいや、出会った時は俺よりも年上だったんだから、姐さんは姐さんでしょうよ」
年齢が上の人に敬称を付けるのは当たり前の事。
敬語?流石に幼女に敬語は絵面がヤバ過ぎる。
「まあ、ぶっちゃけると二階級特進で地縛霊になったので、家に帰りたくないと思わない人でも見えるようになったという訳です。まあ、それも『怪異と縁のある人には』といつ注釈がありますからね」
あー、なるほど。
つまり、阿良々木が助けたあとって事か。
そして、ガハラさんは I love you をしたと。
まあ、羽川と阿良々木が付き合わなかったのは良いことだけど、別にそれで俺に振り向くって話しでもないんだよなー。
クソッ……阿良々木がリア充になっただけじゃねーか!
「(それにしても、『怪異と縁のある人には』にはねぇ。この迷い牛と出会っちゃった訳だし、そりゃあその一人には入ってるか)」
何だかんだ長い付き合いだ。
それも仕方ない。
「それにしても、一ヶ月に7回も家に帰りたくない人なんてそうはいないと思いますけれど、もしかして只之さんは家族の立ち位置が良くなかったりしてるんですか?」
「うん?いや、小さい頃は趣味でイジメとかしてる奴に、決定的な証拠を掴んだ上で全員殴り飛ばしに行っててね。それで父さんと師匠にめっちゃ叱られるから家に帰りたくなくなるでしょ?あとは、鍛練で逆立ちしながら町を一周した日とか母さんに叱られるから家に帰りたくなくなるし、義妹の数学パズル解けなくて拗ねると家に帰りたくなくなる……まあ、そんなこんなで帰りたくなくなる時は多かったかな」
「うーん、何なんでしょうねー。阿良々木さんとは違ったタイプのお人好しで変人ですよね、只之さんって。いや、どっちかと言うと変人要素が強くありません?」
ドン引きしてくる幽霊幼女。
ちょっとイラっとくるけど、世界を救っちゃうんだからスゲーぜ、真宵姐さん。
……いや、どう考えても気分で世界を滅ぼす吸血鬼の方がヤバいか。
「中学生になってからは月2回程度に減ったでしょ?それこそ、真宵姐さんに会うのは義妹に数学パズルで情けない姿を見せて、無様を晒した時くらいだよ」
「どっちかと言うと、今の方がだいぶ格好悪い気がしますけどね」
気分が良いからしていた鉄拳制裁も羽川に言われてスッパリ止めたし、外聞を気にするようにも言われた鍛練も止めた。
それで父さんにも母さんににも怒られなくなったから、やっぱり羽川の言うことは正しい。
まあ、格闘技やってて調子乗ってたってのが大きいけど。
強くなったらやっぱりヒーローごっこしたいよな。
え?原作の阿良々木は暴走族を1人で潰した?
ははっ、あれと一緒にされましても。
「それじゃあ、また今度適当に迷子しようね」
「『迷子しようね』って、自分から迷子になりたい人なんてあなた以外に居ませんよ」
そういう怪異でしょうよ、あなた。
「迷子の女の子を道案内していたら、家に帰るのが遅れたって正当な言い訳ができるからね。義妹を納得させるにはもってこいなんだよ」
「私を都合良く利用する気満々じゃないですか!?何でそんなに爽やかな体育会系の正統派イケメンみたいな立ち振舞いをしているのに、性根がそんなに大雑把で利己的なんですか!チグハグで気持ち悪いです、この人ぉ!?」
気持ち悪いは言い過ぎじゃない?
でも、爽やかな体育会系の正統派イケメンかぁ。
エロくない神原と暑苦しくない火憐をフュージョンさせた感じか?
うわ、すげぇ!
そいつは超イケメンだな!
……羽川には見向きもされないゴミだけど。
「はぁ……まあ、その辺りはどれだけ自分を変えようと変えられない性分なのでしょうね。昔のあなたは今以上にはっちゃけていましたし」
「いやいや、普通でしょ。どこにでもいる普通の男子だったよ。思い出補正付きすぎだと思うな」
「いいえ、違います!……っていうか、どの口が言うんですか!私は覚えていますよ!私のこの自慢のツインテールを解いて、『めんま、見つかっちゃった……』とかいう、謎フレーズを言わせた事を!なんですかメンマって!私の事をラーメンのトッピングか何かと思ってるんですか!?やらせるなら、せめてテレビから出てくる貞子とかでしょう!?」
そう言えば、そんな事もあったなー。
「あと、私の前で例の曲を歌った事も私は許しませんからね。幽霊を目の前にして『よみがーえーれー♪』は喧嘩を売っていますよね!?」
「でも、良い曲でしょ?」
「曲は良いですけどね!何だったら私は全部歌えるようになりましたよ!」
気に入ってるじゃん。
「というか、あなたがこの公園で熱唱するから軽いコンサートみたいになりましたよね!?飛び入りで入ってきた高校生の方々が、あなたのバックで演奏までして盛り上がった時は、一体何が起きているのかと目を白黒とさせてしまいましたよ!」
「いやー、あれは良かったよね。またやりたくなってきた」
「ここら辺に住んでいた当時の子供達は、みんなあの曲歌えるようになりましたからね」
子供時代*2を思い出して話題に花を咲かせた。
昔は色々と好き勝手やっていたからか、当時の自分を思い出してやたらと怒る人とやたらと褒める人の二極化になる。
ちなみに、それぞれの筆頭が真宵姐さんと義妹の
それから、少しだけ話すと時計を見て予定を思い出す。
「それじゃあ、そろそろ行くよ。これから、また
「おっと、それは引き留めてしまって失礼しました。また、お会いしましょう。今度会う時こそは100点の『あなたの事が嫌いです』を言ってみせます!」
へー、それは楽しみだ。
最初から嫌われるのは当たり前の精神で、そこに楽しみを見いだそうとする変人。
阿良々木が誰でも自分で助けようとする男なら、只之は誰でも自分に巻き込む男。