最推しの羽川翼と付き合いたい 作:羽川翼はヤベー奴
今後、感想コメントには基本的に返信しないようにするつもりです。理由としましては皆さんの疑問に答えるうちに、小説内でもその様に書いていると誤認してしまうことがあったためです。
まあ、気分で返信するかもしれませんが所詮は作者の気分ですから、特に気になさらないようにしてください。かしこ
前世を含めて見たことが無い一億円という大金を目にして気圧されていた。下手をするとこの大金を狙って人死が出かねないほどの大金だ。
しかし、その大金を自分勝手に好きに使えるわけではない。実際に使えるのはそのアタッシュケースの中にはない、机に置かれた小切手の方だろう。
「道端で急に倒れたから病院まで運んで、何とか一命を取り留めた金持ちの爺ちゃんから貰った、お金ぐらいしかちゃんと使うことはできないのが現状だけどなー。それでも五百万は充分高い。まあ、羽川の人生を背負うならこのくらいじゃ全然足らないけどさ」
その日々がフラッシュバックする。この夏休みの間はとても長く険しい道のりだった。
「……苦しい日々だった。いつ事故って終わるかもしれないあの緊張感。何度、嫌な汗を流したことか」
身震いしてしまう。本当に上手くいってよかった……!
「それでも、一割貰えれば良いと思ってたんだよな。それが
その可能性があるから怖いのだ。全てを奪われるどころかさらに最悪な事態へとなりかねない。金があることは常にリスクと隣り合わせなのだから。
取り敢えず、今はこれだけの資金が集まったということだけ理解していれば良い。ちゃんと使えるようになるのはもっと先だ。
「──でも、金は集まった。これで羽川をあの毒親から引き離せる」
暴力、罵声、無視、と部屋すら貰えない虐待の巣窟が羽川の家族だ。今は暴力は無いかもしれないが良い関係であるはずがない。どうせ俺が引き取ると言っても、あの親なら悲しまないどころか喜色満面で喜ぶ可能性だってある。そこから救い出さない選択肢なんて無いだろ?
「羽川をあの両親から救い出して幸せにする。それがこの世界に俺が転生した理由なんだ」
金の入手経路は以下省略。
面倒なこともそうだけが、下手に口に出すと呪われそうだ。今は全てが幸運だったということでいい。
「おーい!羽川~!」
「
「いや、そのさ。ちょっと、公園に寄って行かね?」
学校の終わりに一人で家に帰っていく羽川に声をかけて、公園のブランコまで連れて行く。二人でブランコに揺られるが十秒程度で話を切り出す。
「まどろっこしいのは嫌だから単刀直入に言うけど、ウチへ養子にこない?」
「え……っ!?」
羽川が戸惑った顔をしているがここさ勢いで全て言ってしまおう。
「あー、そのさ。部屋がないとか言ってたから虐待されてるんじゃないかって思ったんだ。なら、俺の家に養子に来れば全部解決だろ?母ちゃんも父ちゃんも羽川のことを気に入ってるし、説得するのだって問題はないぜ?
ああ、金の問題なら大丈夫だぜ。俺が何とかしてやるって!」
実際にはその問題は解決済みだが、わざわざ詳しく言う意味はない。いや、正確には言いたくない。褒められたものじゃないからなあの大金の山の入手方法は。
だけど、これで羽川を救うためのピースは完璧に揃った。あとは、羽川が頷くだけで今の環境から羽川を救い出すことができる──なんて、思い上がっていた。
「ごめんね。只之君。それはできないよ」
「……………………え」
その言葉に唖然となった。だって、それはあり得ない返答だったからだ。
「(羽川は原作とは違って俺の家に何度も遊びに来ていたんだ。普通の家庭がどんなものか知ってる……なら、自分の家がどれだけおかしいかもう分かっているはずなのに)」
自分から地獄に居続けたいなんて誰が思うだろうか。過ごしやすい場所より劣悪な場所を選ぶ奴なんていないのが普通だ。だが、羽川翼という少女はこの時からもう既に『正し過ぎる』人物だった。
「只之君の家に遊びに行って、只之君のご両親が優しくて子供を見てくれる人達なんだって言うのは分かったよ?でも、私は私の家で私として生きる羽川翼なんだもん。だから、只之君の家に住むのは間違ってるよ」
「い、いや、でも、虐待をされているなら離れるべき、じゃないか……?それこそ、別に母親と父親が好きなわけじゃないんなら、新しい人生を歩んだって……」
「ううん、そんな私の
それにほら言うじゃない。『ウチはウチ、外は外って』。只之君の家はそういう家で私の家はこういう家なんだよ。どれだけ仕組みが同じでも全く一緒になることなんて、普通はあり得ないんだよ只之君。どう?分かった?」
「……………………」
つまり、『そういうものだから受け入れるのは当たり前』。それだけであの劣悪な環境で居続けるというのか?その思考回路が俺には理解ができない。
「(……俺は何度も家に羽川を誘って一緒に遊んだ。その理由は好感度稼ぎだけじゃない、羽川に普通の家庭、普通の家族がどんなものなのかを分かって貰いたかったからだ。
でも、違った。測り間違えた!羽川は初めから自分の家が普通じゃないと知ってたんだっ!子供であるということと原作知識があるからって自惚れてた!
『そうするのが正しいから』。
たったそれだけの理由で苦しくて辛いことばかり待ち受けているだろう人生を、選べてしまう価値観が俺には全く分からない。
「(……いや、だけどそれが正しいんだ。『正し過ぎる』羽川こそが俺が知っている羽川翼なんだから)」
でも、納得をしてしまった。例え、理解はできなくても『羽川翼』という少女は、そういうキャラクターであると既に知っていたから。
「……それでも、勝算はあると思ったんだけどな」
それを踏まえて尚、この交渉は上手くいっていてもおかしくないものだったと、そんなことを未だに思っている自分が未練がましくて嫌だった。
俺は今までの積み重ねがまだまだ不充分であったことを、こうしてまざまざ思い知ったのだった。
「はあ~~~~、やっちまった……ガチでヘコむわ~~。マジでバッサリだった。少しは悩んでくれるかと思ったのに信頼が稼げてなかったのか?」
その二度目の敗北に俺の目は死んでいることだろう。机の上でスライムのように脱力して倒れ込んでいると、目の前に座る人物が口を開く。
「いやいや、そうなるでしょー。逆に何で分からなかったかなー?予定調和そのものだよー」
だが、目の前の女は無慈悲にそう言ってくる。どうやら血も涙もないらしい。
「それこそ、その子に嫌われて距離を取られてないだけ温情じゃないのー?」
「はあ?何でだよ。俺は虐待をする親から助け出そうとしたんだぜ?嫌われるようなことはしてないだろ?
眼鏡を掛けたデコ出し女子、
「(まさか、同じ地区に居るとは思わなかったなぁ)」
『物語シリーズ』を通して実は類似したキャラが居なかったダウナー系キャラだ。
「いや、だからさー。間違いだとか正解だとかじゃないんだよ
「虐待が問題じゃないわけないだろ」
「あー、勘違いさせちゃったかー。私が言った大した問題じゃないってのはねー?着目すべきものはそれじゃないって言ってるのー。それが分からないと前に進むどころか、このまま距離を取られて疎遠になっちゃうよー?」
「な、何だって……!?」
そこまで言われて、事態が緊迫していることを自覚する。俺は食飼の言う通りならば、とんでもないやらかしをしてしまっているらしい。目を見てよく聞く体勢になる。
「あのねー?只之ちゃん」
いつのも通り眠たげな食飼命日子は俺に向けて言った。
「告白を振った男子が、数ヵ月後に頼んでも無いのに自分を養子にしようとしてきて、合法的にいつでも顔を会わせないといけない家の中へ引き入れようとするのは、女子の立場から言えば普通に気持ち悪いよー?
それこそ、絶縁されても文句は言えないんじゃないかなー?」
「………………………………………………………………………………あっ」
予想以上にやっちまっていた。その重大な過ちに言われてようやく気付く。
「私からすればどうして気付かないのか分からないくらいだよー。例え、どうしようもない両親なのだとしても家族は家族だからねー。
愛がないから離れるべきだって言って、素直に頷いてくれるのかも分からないし、それを言い出したのが告白をされて振った相手なら、『打算や下心があるんじゃないか?』って考えるのは自然だよー。
控えめに言ってめちゃくちゃ怖いこと言ったって、只之ちゃんは自覚をするべきだと思うなー」
「あぁ、いや……そんなつもりじゃなかったのに……」
頭を抱えて突っ伏した。死んだ。これは終わった。
「只之ちゃんが振り絞った勇気でしたってことは分かるんだけど、告白さえしなければ受け入れて貰えるチャンスはあったかもねー。
どれだけ善意に基づいた行動だったとしても、告った告られたの関係でそこまで深掘りを埋められちゃったら、その辺りのことも考えちゃうのは当たり前のことだよー」
「……俺が羽川を助けたいって言っても、下心があるに決まっているって思われるか……」
「だねー。取り敢えず信頼回復に専念した方がいいんじゃないのー?」
これから何をしても下心があるって思われてしまうから、俺がどんなに金を集めても羽川は生来の『正しさ』と『警戒心』で、俺の提案に頷くことはこの先も無いだろう。
要するに、完璧な詰みだ。
メインヒロインの行動をパクったところで、モブの俺がそれを活かせるかは別の話ということなのだろう。
俺の覚悟を込めた一世一代の決断はこうして大失敗をして幕を閉じたのだった。
食飼《はむかい》命日子《めにこ》。
忍物語と扇物語で出てきた大学で暦が出会う女キャラ。アニメでも出てきた暗号好きの眼鏡ロングです。
独自設定で羽川と同じ小学校にしました。この時期に出会っていて相談相手として相応しい原作キャラが他にいないので。